《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》29 同行者
「――と、いうことなの」
一通り芙が話し終えると、顔を乗り出して聞きっていた咲が、「運命だよ、それは」と歓聲を上げた。
修司を除いた大人三人が目を丸くして驚きの表を広げる。
「今のお母さんと町子はその時まで面識がなかったんだろ? 大芙の家は名古屋じゃないか。お母さん、こっちの生まれなのかい?」
「ううん、両親とも東京生まれのはずだよ。本當にそうだったら嬉しいけど……」
「善利なんて苗字、そうそうないよ。良かったね、って言葉が正しいのかどうかは分からないけど、悪いことじゃないよね」
期待いっぱいに名古屋へと勇んで、もし違かったらという不安はあった。
「心配なら、俺がついていこうか?」
一瞬細められた薫の視線に気付くことなく弘人が提案するが、キッパリと咲が否定した。
「アンタが行ってどうすんのよ。両親に會うんでしょ? オッサン連れてってどう説明するつもり?」
「俺が行く」
靜かだった修司が突然名乗り出るが、それも咲は即卻下する。
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「同じ歳の男なんて、お父さん発狂しちゃうでしょ!」
確かに咲の意見が正しい気がする。
寮生活で和弘が一番心配していたことなのだから。
「だから、私が行くよ」
咲の心強い提案だった。彼なら安心して連れて行くことができる。
「もし杖が手にったら、戦闘が起きるかもしれないしね」
「そう……だよね。ありがとう、咲ちゃん。本當にいいの?」
力を手にれて魔法使いになるということは、戦闘をけれるという事だ。
名古屋行きの詳細を決めて、それからは他のない昔話をした。
皆どこか魔法の話を避け、二人の死の真相にもれることはなかった。良い思い出だけを上辺だけさらったような都合の良い會話を不自然にじたが、芙はそれを口にすることができなかった。
夜になって店を後にし、咲に寮へと送ってもらう。夕食時間より遅くなったせいでミナが二人を玄関先で迎えたが、咎められることはなかった。
階段での別れ際、芙が修司に頭を下げる。
「修司、今日はごめんね。みんなに會いたくないって言ってたのに、巻き込んじゃったね」
「気にしなくていいよ。お前のせいじゃない」
僅かに緩んだ表に、芙はホッと安堵する。
「それより、弘人に注意しとけよ」
「えっ――どういう意味?」
突然の言葉。
修司はその答えをはっきりと言わず、「わかったな」とだけ念を押して、そそくさと階段を上って行ってしまった。
しかし、彼の不安が的中してか、寮の門限近くになって芙のスマートフォンが鳴った。
パジャマ姿でベッドの上に橫になる。消燈時間まではまだ大分あるが、午後の騒のせいで既にウトウトと目が閉じかかっていた。
靜まり返った部屋に突然響いた著信音に芙は慌てて飛び起きて、相手を確認する間もなく通話ボタンを押した。
「俺だけど」
返事する間もなく耳元で囁かれたその聲に、が締め付けられる。名前を聞かなくても、それが弘人だとわかった。
「う、うん。さっきは、どうも」
機で相変わらずの小説に沒頭中のメグが、チラとこちらに向いたが、だけでにっこり笑んで、再び本に視線を戻した。
「今から外出れるか? 近くまで來てるんだけど。話がある」
「えっ……と。私、寮に住んで。門限が九時なの」
壁の時計は既に八時半を過ぎている。
今出たら施錠に間に合わないことは明確だ。
「……ごめん」
「出れない?」
困する芙だが、半ば強引に弘人が強く尋ねた。
彼は仲間だ。きっと、魔法や杖の話だろう。
ただそれだけのことなのに、二人きりかもしれないシチュエーションを浮かべて、一人で期待してしまう。
彼は薫の人だ。第一、一人で來るとも限らない。
自分と弘人はもう終わった関係なのだと納得した筈なのに、突然プライベートにり込んできた彼の聲に、やっぱりまだ諦めきれていないことを思い知らされる。
「電話じゃ、ダメ?」
「駄目だよ」
悪戯っぽく否定する弘人。晝間、彼の真意にれた。
だからきっと、會いに行っても楽しくないことが起きるのは想像できる。
――「弘人に注意しとけよ」
修司がそんなことを言っていた。
彼は芙の知らないことを知っているから、これから起きることを心配したのだろう。けど、それでも弘人に會いたいと思ってしまう。
「――わかった」
裏口の鍵は手で中から回せるからいつでも抜け出せるともっぱらの噂だ。
ミナにさえ見つからなければ余裕だし、もし帰ってきた時に鍵がかかっていても、誰かを呼んで開けてもらえば中にることができる。
外で落ち合う約束をして、電話を切った。
「大膽だね、芙ちゃん。誰? 修司くんじゃないの?」
「――うん。でも、修司とだって付き合ってるわけじゃないんだよ」
「もう。名前で呼ぶなんて、多きなんだから」
すごい、と尊敬の眼差しを向け、メグがしおりを挾んでパチリと本を閉じた。
「もしもの時は、扉お願いしてもいいかな?」
「いいよいいよ。私の時もお願いするから。見回りまでは戻ってほしいけど、間に合わなくても何とかしておくよ」
任せて、と親指を立てるメグ。十時の消燈とともに見回りがき出す。その時間までには戻りたい。
「ありがとう」と禮を言って、芙は慌ててパジャマをいだ。クローゼットの手前にあった、お気にりのワンピースを被り、まだったままの髪を手グシで直す。
「今日は遅くまで起きてる予定だよ。本がそろそろ終わりそうだからね」
あんなに分厚いと思って見ていた彼のお気にりの小説も、しおりの先が殘り一センチを切っている。
「そんなに面白いんだ」
「面白いよ」とメグは本を手に取って、の前に抱き締めた。
「の子が主人公なんだけど、人がいるのに病気で死んじゃうの。でも、彼にもう一度會いたいっていう願いが奇跡を起こして、彼は生まれ変わるんだよ」
に覚えのある容に、芙は思わず立ち盡くしてしまう。メグは「はやくはやく」と準備を促しつつ、夢見がちに容を語った。
「でもね、生まれ変わった主人公が彼に會えたのは、彼が十六歳になってからで、彼も三十五歳。結婚はしていなかったけど、彼には婚約者がいたんだよ」
「す、すごい話だね。結末はどうなるの?」
自分を重ねて、そのヒロインに期待してしまう。
「まだラストまで読んだわけじゃないから、わからないよ。他にも人候補の同級生がいるしね。でも私は、歳の差を乗り越えて、本命の彼と結ばれると思う」
自分もそんな主人公のようになれればと思うが、きっとそれは最善ではない。
「幸せになれるといいね」
鏡に映る自分は、弘人に會いたいと思っている。ヒロインも自分も、昔の記憶を離れることができないのだ。
「じゃあ」とこっそりドアを開け、芙は皆の目を盜んで靜かに寮を出た。ミナもそうだが、修司には見つかりたくなかった。
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