《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》40 前の五人
力が大きくなりすぎて、大魔は五人の人間に力を分け與えた。
町子や咲が生まれる十數年前のことだから、そう昔の話ではない。
「あんなに短期間で強くなるとは思っていなかったのよ」
強い力を持っていた大魔。ずっと一人で戦ってきたせいか、五人もそうあるべきだと思っていた――だから、
「魔法使いとしての使命を持って強くなってほしい」
そう伝えた。まさか、それが彼等の運命を決める言葉になるとは思っていなかった。
「前の五人は弘人や類と同じ。戦うことに疲弊してしまったの。沸き続ける魔翔はどんどん強くなるのよ」
結果、五人は魔翔と戦って死ぬことさえんでしまった。
「彼等は自分たちが死ねばそれで終わりだと思ったのね。死んだら魔法から解放されるって。それで一度、五人全員が自害してしまったの。でも実際はそうじゃない。記憶も魔法も殘っていて――彼らは絶したのよ」
魔翔と戦って死を迎えても、それで終わることはできない。類が修司になったように。
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魔法使いが力を放棄できる方法は二つある。
一つは大魔が死ぬこと。しかしそれはこの世の災いの引き金になるから、何の解決にもならない。
選択肢は実質一択だ。
「五人は私が殺したの」
芙はテーブルに置かれたジュースの缶をぼんやりと見つめていたが、その言葉で顔を起こした。
ミナは缶を握ったまま手の辺りに視線を泳がせて、淡々と話していく。
「あの子たちがそれをんで、私が答えたの。大魔――つまり私に殺されると、魂も消滅する。もうそこですべてが消えて、転生もしないってことよ」
「転生、って。普通しないだろ? この二人だって、何も知らずに生き返ったんだよ?」
荒げた聲を挾むのは咲だ。
「そんなこと、私たちは全く知らされていなかった。それに、前の五人が苦しみの末に死をんで、アンタは、はいそうですかって殺したのかい? 何とも思わずに」
「そんなことないわ。私だってあんなことしたくなかった。でも、他に方法がないのよ。戦いが嫌だって言うのに、それでも戦えなんて言えないでしょ?」
視線を上げて、ミナはぶ。
長生きしているという彼の見た目が二十代なことへの違和。若くて人の寮母で、スタイルも抜群のミナは寮生の憧れの的だ。
芙にとっても姉のような存在だったのに。
「私たちを魔法使いにして、同じような最後になるかもっては思わなかったんですか?」
五人の話を初めて聞いた時、死を想像しなかったわけではない。ただ、そうでないことを祈って、考えないようにしていただけだ。
自分たちも前の五人と同じ結末を迎えねばならないのかと予して、芙の頭によぎったのは、都子の言葉だった。
――「気を付けてね」
その言葉にを締め付けられる。
「ほんとだな」
小さく呟く修司。咲は立ち上がりそうになったをソファに沈めて、ミナを睨む。
記憶がないせいだろうと思う。芙にはそれでもまだミナへの怒りは沸いてこなかった。
ポケットから杖を出して、両手で膝の上に握りしめ、口を開いた。
「魔翔は私たちが思ってたよりずっと大きくて危険なものだった。でも、力を持つことが危険な事は最初に聞いてたし、強くならないでっても言われてた。なら、一方的には責められないよ。きっかけは大魔でも、この道を選んだのは私たちだから」
魔法使いになれたことが嬉しくて、誇らしかった。多分みんながそうだったと思う。
「そうだね」と同意してくれた咲の言葉が頼もしかった。
「ここで過去が善いだの悪いだのの議論しても、何のメリットもないね。大魔――ミナさんだっけ。私も後悔してないよ。修司、アンタはどうだい?」
「俺は後悔なんてしてないぜ。ただ、もっと説明してしかったと思う。類が死んだのは、使いこなせなかった俺自のせいだよ。けど、それも過去の事だから言えるのかもな。弘人たちの意見は違うと思うぜ」
「私が説明してくるよ。あの二人も思い出してるんだろう?」
「えぇ」とミナが答える。あの二人は今のミナに會っていないはずだから、すぐにここへ辿り著くことはできないだろう。
けれど、それも時間の問題だ。
「私も行きたい」
もう一度弘人に會って自分から説明したいと思ったが、咲は「駄目だよ」と宥めた。
「もし何かあった時、アンタじゃ薫とまともに戦えない。戦闘の可能も考えないとね」
「だったら、とりあえずこっちは俺に任せろ」
「そうだね。私はアンタの実力を知らないけど、芙を守ってあげて。私一人なら、あの二人もしは冷靜でいられるだろ」
足手まといだと言われた気がして、芙はそれ以上言葉を返すことができなかった。
「みんな、どうしてそんなお人好しなのよ」
「そんなんじゃない。自分で選んだ結果だからだ」
溜息じりに視線を逸らす修司に、ミナは表を緩めた。
「それだけ力に自信があるってことなら、有難くけ止めるわ」
「ミナ、今は貴が死んでしまうことだけは避けないと。何かあったらすぐに連絡するから、ここに居てくれると助かるよ。二人も、弘人たちから連絡があっても勝手に行っちゃ駄目だからね」
「だな」と修司が念を押す。先日のことが響いて、芙は「はい」と肩をすくめた。
「心強いわね、貴方たちは。前の五人とは違う気がする」
「仲間同士で戦って、死んでなんかいられないんだよ」
咲と連絡先を換し合うミナを覗き込んで、芙は「あの」と小さく尋ねた。
「私はまだ記憶を戻してないんです」
自分だけ戻らないのか、待てば徐々に戻るのか。ミナは「あら」と驚いた顔をしたが、
「ごめんなさい。力が戻ったばかりで記憶までが追いついていないのかも」
そう言って立ち上がりテーブルの橫に立つと、芙を手招きした。促されるまま彼の前に行くと、ミナはそっと芙の頭に手を乗せた。
ふんわりと漂った優しい匂いに懐かしさをじる。ミナは穏やかな笑顔を見せて、芙の顔を覗き込んだ。
「後悔してる顔ね。杖を取りに行って、失敗したと思ってる?」
「そんなこと――ないです」
「まぁ、取りに行かなくてもいずれ力は戻るのよ。杖と魂は運命共同みたいなものだから、必ずあなたの手元に戻ってくるわ」
「そうなんですか!」
杖さえなければ、ずっと力を戻すことはないと思っていた。
「でもね、私が言える立場じゃないけど、自分の未來を自分で決めることは正しいと思う。これからも、自分を信じて。楽な方に流されちゃダメよ?」
決められる未來があるなら、そうしたいと思う。
しだけ未來を思い描いて目を閉じると、ミナの手に熱をじた。
そのまま、意識が遠のいて――。
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