した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》41 夢から覚めて

かの有名なノストラダムスの大予言は、大魔の死が引き起こす災いなのではないかと、本気で語り合ったことがある。

けれど、世紀末を當の昔に過ぎてしまった今、結局何もなかったんだなぁと実する。

普段夢を見ても容など殆ど覚えていないのに、忘れていた過去の記憶が走馬燈のように流れていった。

――「力を、頼むわよ」

そう、これは町子の記憶だ。大魔に會って、魔法使いになり、魔翔と戦っていた。

今まですっと抜けていた大魔の顔が、鮮明に蘇る。

暗いローブの下には確かにミナの顔があった。今と殆ど変わりない容姿で十六年前に生きる彼を、町子は知っていた。

――「私、もっと強くなるよ」

いつかの戦闘の後、町子は笑顔でそんなことを言っていた。あの日のことはよく覚えている。

初めて遭遇した鳥型の魔翔に手こずりつつも勝利した時だ。ミナの忠告も聞かずにもっともっと強くなりたいと、本気で思っていた。

けれど、夢に出てきたそのシーンで町子が笑いかけた相手は、そこに居ないはずの都子だった。

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本來なら、弘人の筈なのに。

――「気を付けてね」

またこのシーンなのか、と。名古屋から帰ってきて幾度と思い出す母親の言葉に、芙はハッと目を覚ました。

「あっ、おはよう」

オレンジに燈された部屋の風景が視界に飛び込んできて、同時にメグの聲が聞こえた。

ベッドの中。橫に置いた自分の腕は、見覚えのあるカーディガンを著ている。

服のまま眠りについた記憶はないが。

「おはよう、じゃなくて、こんばんはだね。気分はどう?」

言われるままに確認するが、特に不調はじられない。ただ頭がぼんやりして狀況が飲み込めないのと、起き上がると米神の辺りがしだけ痛んだ。

「大したことないけど、私、寢てたの?」

カーテンが閉められているが、今が朝でないことは分かる。時計を見ると、夜の八時を回ったところだ。

メグは私服姿で自分のベッドに座り、

「覚えてないの? 気分が悪くなって倒れたって聞いたよ。びっくりしたんだから」

全く覚えのない話だ。特に吐き気がするというわけでもない。

けれど、部屋の隅に置かれたボストンバッグを見つけて、芙は「あぁ」と我に返った。

「そうか――私、名古屋に行ってたんだよね」

ようやく頭がスッキリする。咲と修司と一緒にミナの部屋で話を聞いた。

――「思い出させてあげる」

そう言って彼が施した魔法は、彼が大魔であるということをはっきりと証明してくれた。

それより、寮母室に居た筈なのに、三階の自分の部屋にいることを疑問に思って、思わず修司の顔を思い浮かべてしまったが、芙を移させたのは意外な人だった。

「夏樹先生が、お姫様抱っこで運んでくれたんだよ!」

にやりと意味深な笑みを浮かべて、メグが芙のベッドの端に移する。

「ええっ、夏樹?」

想定外の名前に聲を大きくしてしまった。

「そんな、呼び捨てにしちゃって。みんなの噂、本気にしちゃうよ」

「違うってば。先生はそんなんじゃないの」

修司との二が更に広まりそうな話だ。

メグは「わかってるよ」と悪戯っぽく笑う。

「修司くんも居たんだよ。でも男子が子の部屋に行くのは駄目、って。ちょうど寮に來てた先生が運んでくれたの。ねぇ、夏樹先生ってミナさんの事好きなんじゃないかな」

は更に目を丸くする。まさかそんなことがあるのだろうかと思いつつ、見た目の年齢だけなら何ら可笑しい話ではないなと納得してしまう。

けれど――大魔のミナはそんな年齢じゃないはずだし、一般人の夏樹に興味があるとも思えない。

「確かに、人だしも大きいけど――本當?」

「見てて分かるもん。大、あんなに量良しのミナさんに人がいないってことの方がおかしいし、放っておかれる訳ないよ。あの二人ならお似合いだし、私応援しちゃうよ!」

「応援……か」

ミナに人がいない理由、それは彼が大魔だからだろう。

夏樹には幸せになってほしいと思うが、想いが葉う可能は低そうだ。複雑な気持ちに芙が眉をしかめると、

「え? やっぱり芙ちゃんも先生が好きだった?」

「ないない! それだけはない!」

を芙が聲を大きくして否定すると、メグは聲を弾ませて、「じゃあ、だいじょぶだね」とガッツポーズを決めた。そして、「忘れてた」とテーブルを指差す。

「さっき、ミナさんが芙ちゃんにどうぞって持ってきてくれたんだよ」

ベッドから降りると軽い眩暈に襲われた。しかしお腹は正直で、甲高い聲で訴えてくる。

ミナからの差しれは、ラップにくるまれた

二つの大きなおにぎりだった。型がしいびつなのは、もしかしたら彼が握ってくれたものなのかもしれない。

「何か、恨めないなぁ」

「え? 何?」

思わず出てしまった聲に、メグがすかさず反応してきて、芙は「何でもないよ」と手を振った。そして旅行バッグの中から金る土産を取り出し、メグに渡した。

「これお土産。ごめんね、時間なくてのままなの」

「気にしないで。ありがとう。そうだ、まだ言ってなかった――お帰りなさい!」

掌サイズの、金のシャチホコの置だ。時間が殆どない中、駅で咲が勧めてくれたもので、寮の部屋にはし眩しくじられる。

メグは「可いいよ」と窓辺にそれを飾った。

両親は元気だった?」

「うん――そうだね」

元気だったと思う。困らせてしまったけれど。

名古屋に行って、念願の杖を手にして笑顔で戻ってくる予定だった。魔法使いに戻って、あの頃のように戦えたらと思っていたのに、心がスッキリせずモヤモヤしている。

ミナは今回でなくてもいずれ魔法使いに戻ると言っていた。だから運命だとれて、戻るのがし早かっただけだとどこかで自分を納得させている。

メグは「なら良かった」と微笑むが「あのね」と何か言いたげに切り出して、しかし話し難そうにを噛む。芙が「どうしたの?」と覗き込むと、躊躇(ためら)いがちに口を開いた。

「明日、陸上部の合同練習があるんだけど、相手の學校がね、篠山実業なの」

「篠山? そうなんだ。何かあるの?」

市の中心部にある高校だ。薫の母校で、茶のセーラー服が新鮮で羨ましかった。

「話したでしょ? 中學の時フラれた人の話。その人が篠山の陸上部なの。四百メートル」

陸上に詳しくないが、聞き覚えのあるワードに芙は「あれ?」と首を傾げた。

「それって、野村くんと一緒?」

「うん――そうなの。私もびっくりしちゃって」

メグの好きな男子、野村祐(ゆう)と同じ種目だ。

「じゃあ、メグはどっちを応援するの?」

「決まってるじゃない、そんなの」

変なこと言わないでよとメグは頬を膨らませ、テーブルの皿を取り芙に渡した。

「結構張してる。けど、祐くんが好きだから、心配無用だよ」

メグのこんな所を見習わねばと思う。自分も真っすぐに生きているつもりだったのに、彼と同じだとを張ることができない。

――「後悔してる顔だ」

そう言ったミナが用意してくれたおにぎりは、し塩辛い鮭と胡麻がっていて、都子の作るそれと同じ味がした。

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