した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》43 一面の雪が溶けたその場所で

大魔は過去に住んだことがあると言っていたが、疑ってしまいそうなほどの山奧。

新幹線の駅まで出て、そこからバスに乗ってダムを目指す。

あの時と同じだ。

川を超えると民家どころか道路沿いの畑も消え、木が鬱蒼(うっそう)とする緑の風景になってしまう。

十六年前とそう変わりはないのだろうが、昔の記憶はあまりなかった。

咲から連絡があってから、もう一時間以上経っている。時計は午後五時を過ぎたところだ。

季節のおかげでまだ空が晝間のように明るいが、帰りはきっと真っ暗だろう。

弘人と薫がミナに會いたいと言って、咲がダムを指定したという事だ。

ミナが居ないことで二人を怒らせてしまうかもしれないが、それでも彼たちの再會は避けたかった。集合場所が咲の店ではなくわざわざダムだというところも、もしものことを考えての事なのだろう。

もしも――異次元を作り出すことのできる咲に何かあったら。

そんな事が起こりうるのだろうかと半信半疑だが、それよりもダムに行くことへの不安の方が芙には大きかった。

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「無理に連れ出したけど、一緒に引き返してもいいんだからな」

「ううん、行くよ。修司がいるから心強い」

「――そうか」と苦笑混じりに呟いて、修司もまた窓の奧へ視線をやった。

駅を出た時には満席だったバスも、新興住宅地を抜けると乗客は二人だけになっていた。

フロントガラスの視界が開けて、広い水面が現れる。いよいよだと強く息をのむと、修司が「無茶するなよ」と囁いた。

ダムへ降りる階段の手前で二人はバスを降りた。エンジン音が遠ざかっていくと、靜まり返った風景に風の音が響いていた。

を反する水面と手前に広がる草原は、町子が見た風景とはだいぶ違っていた。

あの日は一面が城で覆われていて、ただただ寒くて仕方がなかったのに。

階段のすぐ橫に數臺停められる駐車場があって、見覚えのある車が二臺エンジンを切って止まっていた。示し合わせたように両方の扉が開き、芙は息をのむ。

中から下りてきた三人がこちらに向かってくるが、芙は弘人の視線を避けてうつむいたままを噛んだ。

「いらっしゃい」と咲。

「こんなトコまで呼んじゃってごめんね」

しかし薫は芙と修司を見るなり、あからさまに不機嫌な表をする。

「大魔はどうしたのよ。咲、二人が連れてくるんじゃなかったの?」

「そんなこと、一言も言ってないよ。いたら殺すんだろ? こっちは世界の終わりなんて真っ平だからね。大魔には大人しくしててもらうよ」

あっけらかんとする咲に、薫の整った眉が角度を上げる。

「あんまり頑固だと、力ずくでも大魔を出させるわよ」

「今日は、もう一度みんなで話さなきゃと思ったんだよ。仲間だろ? 私たちが敵同士にならない方法があれば、ってね」

「戦闘になるからここを指定したんでしょ? 信用してないってことじゃないかしら」

「そうじゃないよ――とは言わないけど。魔翔は出るだろうから、やっぱりここがいいよ」

薫は咲を睨んで、つまらなそうに息を吐き出した。

「大魔を倒したら災いが起こるなんて、本當かしら。私たちが騙されてるかもとは考えないの? このまま拠のない話を信じて魔翔と戦っていくつもり?」

「私はそれでもいいと思ってるよ。信じないで失敗するより、信じて失敗した方が後悔しないと思うからね」

「――本當、咲はおりこうさんね。でも、私の気持ちも変わらないわよ?」

うっすらと笑んで薫は柵の前に並ぶベンチに座り、背後のダムを肩越しに振り向いた。

「行ってもいいのよ、いつでも」

薫は戦いをんでいるのだろうか。諦めのような音をじてしまう。

魔法が戻ったことを報告したくて「あの」と芙が顔を上げると、薫の傍らにいる弘人とぴったり目が合ってしまった。

ここに來た意味など全く関係のないように優しく笑いかけられて、芙は慌てて目を反らした。

「どうしたの?」と視線を返す薫。

「薫、弘人も……あのね、私、魔法使いに戻ったよ」

ためらいがちに伝えると、薫は「そうみたいね」とだけ答える。

「咲に聞いたよ」

弘人の聲は優しかった。先日の夜會った彼とは別人のようだ。

どちらが自分の知っている彼なのか考えてみるが、どちらも昔とは違う気がした。

「でも、ちょっと殘念だよ。町子はホント、昔から頑固なんだから」

「殘念とか言うなよ」

すかさず前に出たのは、修司だ。

「大魔の話だと、自分から杖を求めなくてもいずれ魔法使いに戻るらしいぜ」

「そうやってさ」と突然不機嫌に吐く弘人。お互いがいがみ合う様に視線を合わせた。

「そっちの三人は大魔に會って、俺たちだけ會えないのは不公平じゃないのか?」

「俺たちは會おうとして會ったんじゃない。それに、お前が會ったらどうなるかくらい俺が一番分かってるよ」

修司は一歩、二歩と弘人に詰め寄って、拳一つ分高い視線を睨み上げた。しかし弘人は臆する様子もなく、ふんと鼻を鳴らす。

「町子を殺したことは今でも恨んでるけど、類は正しかった。今のお前じゃなくてな」

弘人の手がジャケットのポケットにり込んで、魔法使いの杖を摑んだ。

「どういうつもりだい?」

後ろで見ていた咲が、慌てて自分も杖を構えた。

「アンタが戦おうとするなんて、ただ事じゃないね」

戦うのを嫌悪して、魔法を放棄しようとしていた弘人。彼は魔翔と取引した。

「もう、イカれてやがるってことか」

呟いた修司と薫も杖を構える。芙もみんなに習ったが、現狀を把握しきれてはいなかった。

ただ、キンと耳鳴りが始まったことには気付くことができた。

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