《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》50 戦闘
薫たちを遠目に巻き、魔翔を避けて走った。
もちろん二人は気付いているだろうが追い掛けてはこない。非力な芙が向かう方向に大魔はいないと判斷されたらしい。
どんな理由があるにせよ、その場から遠ざかることが最善だと割り切って、芙は昇降口の硝子戸にタッチした。校の死角が戦うには有利かもしれない。
既に扉が開いていたのは好都合だ。こちらには見えないが、早番の教師がもう來ているのだろうか。
芙は息を整えて、周囲の魔翔を見やった。
ざっと視界にったのが六匹。どれも見たことのない形だ。芙が手に負えるレベルではないだろうから、戦闘は避けたい。
魔翔から逃げることなど町子の頃は考えたこともなかった。校舎へ土足で踏み込むことを躊躇(ためら)いつつ、芙は足音を忍ばせ中へる。下駄箱の上に居た大蛇のような魔翔の橫をそっと通り抜け南側の校舎へ出ると、視界から魔翔の姿が消えた。
靜まり返った廊下が肝試しの記憶を思い出させる。どこへ向かうか當てもなく、芙はあの時のルートを辿って階段を上った。
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警戒しながら進んでいくと、小さな魔翔に出くわした。雀ほどに小さな鳥型の魔翔だ。が黒いせいでカラスにも見えてしまう。
これは自分に沸いたものだ。昔、町子がよく戦っていた魔翔で、スッと肩の力が抜ける気がした。
「これならいける」
杖を握り両手で魔法陣を描いた。キィとぶ魔翔は二度三度と忙しなく當たりを仕掛けてくるが、うまくかわすことができた。対抗した芙の攻撃が、奴にダメージを與える。
楽勝だ――黒い羽を炎に焦がし散り散りになる姿に高揚を覚えた。たとえ小さくても、魔翔を倒した時のこの覚は格別だ。
西側の階段を三階まで上り、遭遇した魔翔を一二と順調に倒していく。特にひねりもない炎の攻撃だが、うまいくらいに奴等を灰に変えることができた。
フロアに出て東側の階段を目指す。肝試しの時は真っ黒い闇だったが、朝のに照らされて見通しが良かった。
目の前にびる長い廊下。油斷しないようにと教室毎に警戒しながら足をそっとらせていく。恐怖に逸るが、自分は戦えると言い聞かせながら一番端の教室に差し掛かった時、奴の気配に気付いた。
遠くに響く仲間の戦闘音をかき消す、キンと鳴る出現音。気合をれて飛び込んだ教室は、肝試しで魔翔が出たまさにその部屋だった。
ボンと現れた魔翔に全が強張った。バスケットボール程の丸いに付いた天使のような大きな羽に、あの時の記憶が蘇る。
町子の最期。ダムで會った魔翔だ。
あの時は二匹で、今は一匹。町子なら一発で倒せる相手だ。
「こんなトコでまた會うなんてね」
機の上でボンボンと弾む。細く開いた口は、ずっとこちらを嘲笑うかのような三日月型に開いている。キィキィ鳴く聲に眉をひそめ、芙はくるりと魔法陣を描いた。
ゴオと音を立てて、炎はうねりながら魔翔を撃つ。
衝撃で飛び上がった丸いが天井の蛍管に直撃し、パンと派手な音を立てた。飛び散るガラス片を避けるように芙は退いて呼吸を整えると、魔翔はダメージをじさせないスピードで降下しながら攻撃を放つ。
白いの線が奴の口からピイッと音を立てて吐き出され、芙目掛けて襲ってきた。
間一髪、橫に跳躍してダメージを避けるが、直後に來た二発目のに左腕を撃たれる。
「いやぁああ」
表面をかすめただけで済んだのが幸いだが、咲が作ってくれたワンピースの腕が裂け、真っ白い生地がドロリとしたで滲んだ。
一呼吸おいてからビリビリと痛み出した腕を抑え、芙は指に絡む生溫いに全を震わせた。
奴はまだそこにいる。まだまだ戦う力は殘っている筈だ。けれど町子なら簡単に倒せるはずの魔翔なのに、どうして負傷するミスを犯してしまったのだろうか。
今の自分は、町子にすら及ばない。こんなに弱い自分は戦う意味があるのだろうか。
地面をりながら後退って、芙は廊下へ飛び出た。
「――嫌だよ」
間違った選択をした覚えはないのに、この戦闘が現実を突き付けてくる。違うと首を振ると、魔翔と目が合い、奴も芙を追いかけて廊下に出た。
奴に目などないが、真っすぐにこちらを見ているのがわかる。口角が上がって、狙いを定めた次の攻撃が飛んでくる。
同時に攻撃する余裕はなく、芙が必死に防しようと杖を振り上げた時――芙の頭上、すぐそこで羽の魔翔がバンと高い音を上げ、一瞬でを引き裂かれた。
芙の攻撃ではない。芙の死角から何者かが攻撃したのだ。
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