《幽霊公(プランセス・ファントム)》1-3

「それで、ご趣味で悪魔祓い(エクソシズム)をなさっている、と。」

一通りの自己紹介を終えて、アドリアンはユーディトと機越しに向き合っていた。

「ただの霊能相談ですわ。」

「それとカウチに橫たわる事には、どのような関係が?」

張を解いていただくことで、お話をしやすくしているだけです。」

「催眠をかけるのですか?」

「まあ、そんなところですわ。大抵の方は夢現(ゆめうつつ)になりますし。」

「なるほど。」

「ところで、ドーギュスタン子爵。」

「何でしょう、公(プランセス)。」

「この事はにお願いします。」

「もちろんですとも。あなたのかな楽しみを邪魔するつもりはありません。」

にっこりと笑ったアドリアンに、ユーディトは肩の力を抜いたが、彼の次の言葉に、きっと彼を睨み返した。

「一つだけ、僕のお願いを聞いていただければ、ですが。」

照明の加減か、一瞬、彼の目のが変わった気がした。ガタン、と強い隙間風に窓が揺れた。

「おお怖い。」

「っ!」

おどけるアドリアンを、彼は締め殺さんばかりの目で見た。

「何、簡単な事ですよ。僕の居城を調べていただきたいのです。オーギュスタン家には、ある呪いがかかっていると言われてましてね。結婚する前に、不安要素を取り除いて置きたいのですよ。」

*********

自分の家にかかっている呪いを、婚約者のためにどうにかしてしい。

アドリアン・アリスティド・ドーギュスタン子爵と名乗った青年は、そう説明した。

「ご婚約者の方は、今日はご一緒ではないのですね。」

彼には何も憑いていない。魔り付いているとすれば、の方か。そう思ってユーディトは訊いてみた。

家に代々取り憑くような年代の魔なら、きっと味だ。

「怖がらせたくないので、呪いのことはバベットには話していません。それに彼重でしてね。今は城館の方にいます。」

にこやかに青年は答えた。年齢は二十才前後だろうか。明るい茶の髪に濃紺の瞳。のある笑顔は、いかにも育ちの良い好青年、といった風だ。

だが。

「手を出したことがばれて、責任を取らされましたのね。」

「はは、面目ない。あんまり可い娘(こ)だったので、つい出來心で。」

大方相手の家族にでもばれて、醜聞(スキャンダル)をもみ消すために婚約したか。だがまあ、それはどうでもいいことだ。

問題は、この軽薄そうな男に、こちらの顔を知られてしまった事。それから、何故か自分たちの力が、彼には効かなかったという事だ。

(この男を何とかしなくちゃ……。)

大儀そうにため息をつくと、ユーディトは口を開いた。

「そちらの居城に伺って、調べればいいんですね。」

「ええ、その通りです。」

(行ってみて、味しそうな魔(の)がいたら食べてしまおう。ああでも、こいつが取り殺されてくれた方が良いかしら……。)

と保。どちらを取るかは、行ってみて考えることにする。

(不味そうな魔(の)だったら、放って置こう。)

婚約者もろとも、この男も呪い殺されればいいのだ。

「何も出なくても、わたくしの責任ではありませんからね。」

「もちろんです。」

「………面倒ですが、仕方がありませんわ。」

「歓迎しますよ。」

ユーディトが嫌々同意すると、相も変わらず人畜無害そうな笑みを浮かべて、アドリアンは頷いた。

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