《幽霊公(プランセス・ファントム)》2-2
緩やかな起伏を繰り返す田園地帯の中、一際高くなった丘の上に、オーギュスタン家の居城はあった。
灰城館(シャトー・グリ)。
それは文字通り灰の石で建てられた、気な建だった。
「本當に何か出そうだこと。」
「十四世紀の築城です。外観は古めかしいですが、中は快適ですよ。」
つまらなそうに馬車の窓から眺めるユーディトに、アドリアンは解説した。
「ふうん。」
ここはピカルディー地方、アミアンの近くである。パリを晝過ぎに出発して鉄道で北に二時間。迎えに來たアドリアンの馬車でまた半時間。
そろそろ休みたい。があまり丈夫でないユーディトにとって、滯在先が快適なのに越したことはない。
近付く當主の馬車に、門番は小屋から走り出ると、鉄の門扉を開いた。
弱々しい冬の殘照の中、車はプラタナスの木が並ぶアプローチを登っていった。
*******
門をくぐった時には殘っていた日差しは、ユーディトが客間に落ち著いた頃には、すっかり消えていた。日の短い季節は、彼にはありがたい。暗くならないは、彼もただの人だ。
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一通り荷解きをさせると、部屋付きのメイドを下がらせた。
彼が小間使い一人連れずにやってきた事に、アドリアンは意外そうな顔をしたが、特に何も言わなかった。
普通、彼のような未婚の令嬢は、一人では旅をしない。だが悪魔祓い(エクソシズム)に手を染めるようなが、今更世間を取り繕って何になる。
「ジーヴァ、いるんでしょう?」
「ユーディ、私は呼んでくれないの?」
彼の聲に答えたのは、すねたようなの聲だ。
妖艶な姿が空中に現れた。鈍くる銀の髪が、ゆうらりと水の中のように広がっている。とろりと底の見えない緑の瞳には、瞳孔が無い。彼もジーヴァ同様、ソブラスカ家に憑く夢魔(サキュバス)だ。
「リールゥ、あなたは呼んだって來やしないでしょう。」
「そりゃそうよ。私の代(・)じゃないんだもん。」
「暇つぶしに來たか。」
艶のある聲が響いて、リールゥの後ろにジーヴァが現れた。
「だって、久しぶりに屋敷に顔を出したら、シクロプスがこっちにいるって言うから。面白そうなところじゃないの、ここ。」
シクロプスはソブラスカ家の家令だ。
「それで、食べ甲斐のありそうなのはいる?」
ユーディトの質問に、ジーヴァは首をかしげた。彼は時々、こういう人間くさい仕草をする。
「それが良く分からんのだ。この城は人の気配が強すぎる。」
「そ。じゃあ明日帰ろうかしら。」
あっさりと帰る気になったユーディトに、リールゥは、すい、と床に下りるとまとわりついた。しゃらり、と腕に付けられた鈴が鳴る。リールゥはいつもお灑落だ。今日は千一夜語の姫君のような姿をしている。
「もーう、それじゃつまんないじゃないの、ユーディ。」
「ここには來たんだから、義理は果たしたでしょう?」
「だってあのお坊ちゃん顔の子爵、ユーディを狙ってるんじゃないの?メイドたちが噂してたわ。」
「良い部屋だな。」
ふいにジーヴァが話を変えた。
確かに良い客間だった。
広々とした居間と、続きになった寢室と著替えの間。天蓋付きの寢臺や機などの調度は、つやつやとしたローズウッドで誂えられている。
カーテンやカーペット、ソファの生地などは、ひんやりとした薔薇と薄藍を基調としたものだ。窓辺の小機と鏡臺には、溫室栽培のものか、薄紅の薔薇まで生けてある。
が使うことを前提にしつらえられたのか、全としてとても優しい印象の部屋だった。だが、甘すぎるじはしない。
「案外、今の婚約者の代わりにお前を奧方に據えようとしている、というのは本當かもな。」
「まさか。」
「バベット・シュヴェイヤールは商人の娘だ。娘を子爵夫人にしたい父親の圧力で婚約したそうだから、厄介払いしたいのかもしれんぞ。」
「どこで仕れたの、そんな報(ゴシップ)。」
「あらぁ、どこの家も、使用人はお喋りよぉ。」
「古(いにしえ)の神々の末裔が、揃って盜み聞き?」
耳の早い夢魔たちに、ユーディトが思わず笑いをらす。
夢魔は古(いにしえ)の森の霊の末裔である。だが、かつては深い森と、その闇に潛む獣たちの上に君臨した彼らも、その領國を離れて久しい。
「ねえユーディ、そろそろ晩餐に出る支度をするんでしょう?今日はこのドレスになさいな。」
勝手に裝棚を引っかき回していたリールゥが、鮮やかな赤葡萄酒のドレスを手に戻ってきた。
「どれでもいいわ。好きにして頂戴。」
ユーディトはため息をついた。
彼を著せ替え人形にするのが、リールゥのお気にりの遊びなのだ。大人しく旅行用のドレスをぎ始める。
「それじゃあ髪は上げて、あ、しカールさせようかしらん。」
鏝を手に取ると、リールゥはうきうきとしゃべり始めた。
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