《幽霊公(プランセス・ファントム)》5-3

「危ない」

けない聲を出して倒れかけた彼を、アドリアンが抱きとめた。

と思うと、ぴらり、と彼のスカートをめくり上げた。華奢な靴がわになる。

「っ!」

「これはまた、野歩きに向かない靴ですね。それでは失敬」

怒りと恥のあまり、ものも言えずにふるふるとしているユーディトに、アドリアンはにやりと笑いかけた。いきなり、彼は橫抱きにされた。

「下ろして下さい、ドーギュスタン子爵!」

「そんな靴では歩けないでしょう? それにもう暗い。足下が覚束ないですよ」

「あなたの節よりは見えていますわ! だから離して!」

をよじって彼の手から逃げようとするユーディトを、アドリアンは強引に押さえ込んで歩き出した。

彼の腕の力に、逆に自分の生じさせられて、ユーディトは慌てふためいた。

「ジーヴァ! ジーヴァ、お願いだから來て!」

ユーディトは泣きそうになって、彼の夢魔に助けを求めた。けない事この上ないが、形振(なりふ)りなど構っていられない。

「いい度だな、バカ殿」

耳に馴染んだ聲が響いて、彼がふわりと浮いた。

自分を包んだ夜の気配に、ユーディトのから力が抜けた。

「全く、いつもいい所で邪魔してくれるね、ジルヴァーヌス」

アドリアンの聲は、それほど殘念そうでもなかった。

しいなら、婚約者の所へ行け。何も知らない娘を、戯れにからかうのはやめてもらおう」

ユーディトが震えている事に気付いたのか、ジーヴァが彼を抱く腕に力を込めた。

「彼が世慣れていないのは、君たちが過保護だからじゃないのかい?」

アドリアンが珍しく真顔で吐いた言葉に、ユーディトは、びくりとを震わせた。

「そ……」

(そんなこと、あなたに何が分かるって言うの!)

怒鳴り返そうとしたが、ジーヴァの方が早かった。

「それはお前が口を出すことではないだろう」

彼の聲は地を這うように低かった。

ユーディトからはジーヴァの顔は見えなかったが、アドリアンがたじろいだ様子から、ジーヴァがどんな表をしているか想像はついた。

ほんのしばらくの間、彼らは黙って対峙していたが、直にアドリアンが手を上げた。

「分かったよ、ジルヴァーヌス。僕が言いすぎた。お節介は僕の分じゃないよ。だからこの話は忘れよう」

ユーディトに向き直り、「殘りの調査をなさりたいのでしたら、付き合いますよ」と言い置くと、アドリアンは手をひらひらと振って、先に城館への道を歩き去った。

    人が読んでいる<幽霊公女(プランセス・ファントム)>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください