（麻縄みたいな神経だこと……）

先日は毒殺されかけ、今日は銃殺されかけた割には、アドリアンの食は落ちていない。今夜も普通に食事する彼を見て、ユーディトは呆れを通り越して心してしまった。

夕食が始まってしばらくすると、執事が回廊に落ちていたというライフル銃を手に、主に報告に來た。

「當家の武庫のものでございました。刻印がっております」

手にとって、アドリアンも確認した。表が固い。

「鹿狩り用のものだな。鳥撃ち銃は？」

鳥や兎などの小の狩りには、散弾銃を使う。至近距離で人に向けて発砲すると、弾丸が四方に飛び散るため、大慘事を引き起こす武だ。

「他の猟銃は皆、揃っております。わたくしが自分の目で確認いたしました」

「それは良かった。取りあえず誰か見張りを付けて置くとして、明日、職人を呼んで錠前を取り替えてくれ」

「かしこまりました」

「他には何か分かったか？」

「弾丸も一箱無くなっておりました」

「そうか。下がって良いよ、ロベール」

「失禮いたします」

執事が下がり、食堂に使用人が居なくなると、アドリアンはユーディトに顔を向けた。バベットは食事に現れなかったので、テーブルについているのはジーヴァをれた三人だけだ。

「公(プランセス)、警察を呼んだ方がいいですか？」

「わたくしではなく、ドーギュスタン子爵が決められることでは？」

「あなたも危険に曬されたですから、當事者です。あなたの意向を確認した上で、決めたいと思いまして」

「子爵、あなたは今回の一件は、警察沙汰になさりたく無いのですね」

ユーディトの言葉は質問ではなく、確認だった。

「部の人間がやったと考えているのだな」

昨夜バベットが座っていた席を見ながら、ジーヴァが言い切った。

「まあ、そういう事です。何せ武庫の鍵は、當家に二つしかないのでね」

「一つはロベールが持っていますのね」

「そうです。そして彼が管理を誤ることは無いと思います」

大、銃聲がしてすぐに駆け付けた彼には、反対側の回廊から狙撃するのは無理だ。

「となると、もう一つは……」

「僕の寢室の金庫にっています。金庫の鍵は、僕と彼しか持っていません」

つまり、バベットだ。

「ユーディト」

「なあに、ジーヴァ？」

「明日、パリに帰るぞ」

「そうですね、公(プランセス)。パリにお帰りになった方が良いでしょう。呪いの調査のはずが、とんだ騒な事態に巻き込んでしまいましたね。お詫びします」

底の読めない笑顔で、アドリアンもジーヴァに同調した。

ユーディトをパリから呼んだのは、婚約者を呪いから守ろうという、彼なりの誠意の表れだったのだろう。それが、逆に彼から命を狙われていたことが判明して、彼も傷ついているのだろうか。

だが。

（殺人は、人間のする事……）

呪いの調査は宙に浮いたままだったが、それはそれとして、バベットの問題は他人(ユーディト)ではなく、アドリアンが解決するべき事なのだろう。自分が口を出す問題ではない。

「わかりましたわ。明日、戻ります」

他にも々釈然としないのを押しやって、ユーディトは帰宅を了承した。