《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第4章 1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 5 常連客と「おかえり」(6)
5 常連客と「おかえり」(6)
きっとまだまだこんなふうに、十倍からかけ離れたものだってあるのだろう。
しかし今この狀況で、細かく考えたって始まらない。だからまずはし多めに、ひと月四萬円くらいは必要だろうと考える。となれば一年でざっと四十八萬。十年ならば五百萬近い金が必要だということだ。
剛志はそこまで考えて、ぎ捨ててあったジャケットから革袋を引っ張り出した。
中には一萬円札の束が四つと、バラの千円紙幣五枚ほどがっている。まだ三萬と數千円程度しか使っておらず、殘りのジャラ銭はポケットの中だ。
厚さのじからして、元はひと束百萬円ってところだろう。
そう思いながら、まだ手つかずのひと束を剛志は數えてみることにした。
ところが何度數えても、百萬には五枚ほど足りない。念のためもうふた束も數えるが、やはりどれも同じで一萬円札が九十五枚だ。
最初に使った束も九十五萬だったのか? そう思うまま殘った札を數えてみるが、やはり九十一萬しか殘っていない。つまり最初に使った束も、きっと九十五枚だったのだろう。
――なんとも、中途半端な金額だな……。
そう思ってよくよく見れば、ずいぶん変わった帯封だ。白い無地でロゴ一つないし、そんな帯で巻かれた紙幣も新品ではまったくない。きっとこれは、銀行で用意された紙幣ではないのだ。
普通なら、帯に金融機関名が印字されているはずだし、もしかするとこの金は、伊藤がどこかの時代でかき集めたものなのか……そして理由はともかく、九十五枚ずつを手製の帯封でしっかり巻いた。
実際昭和五十八年でも、まったく同じ紙幣が流通している。
そこから百萬持ち込めば、この時代なら一千萬ぐらいの価値になるだろう。だから未來から紙幣を持ち込んで、伊藤はこの時代で一攫千金を狙ったか?
――いや、違う。それならどうして、腹ペコの狀態で智子の前に現れたんだ?
それさえも演技だったか――などと、考えれば考えるだけ新たな疑念が浮かんでは消えた。
ただとにかく、そんなわけで當分の生活費には不自由なかった。
一年で四十八萬なら、ざっくり八年間は何もしないで生きていける。
――でも……その後は、その次の八年間、俺はいったいどうすればいい?
なんにしても、このままプラプラだけはしていられない。本當のところ考えたくはないが、長期戦に備えて住むところを探し、働き口の目安くらいは考えておきたかった。
そしていざという時のために、革袋の金はできるだけ殘しておこうと思うのだ。
――さっそく明日、児玉亭に行って、それとなく親父に聞いてみよう。
新しい戸籍はあったが、できるだけ事をスムーズに進めたい。だから見ず知らずの不産屋には頼まずに、まずは顔の広い正一に聞いてみようと素直に思った。
とにかくあの辺りから離れなければ、智子が戻った場合、その報はすぐに伝わってくるだろう。そうなったら、何を差し置いてもあの林に駆けつける。そのためにも、できるだけ林に近いところにしたかった。それにしても……、
――今頃、あの時代でどうしてるんだ?
巖倉邸に殘った智子は、果たして無事でいるのだろうか? どう頑張ったって知り得ないそんなことを、剛志は旅館の一室で夜も更けるまで考え続けた。
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