《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2
「それで、フレドさん。どうなさったんですか? 話したい事があると伺ったのですが」
翌日、私は無事調が回復したので、フレドさんがまたやって來た時昨日聞けなかった話について尋ねる。急ぎでは無いと言っていた割には様子がちょっとおかしい。どこか思いつめたような表をしている。
「……とが……」
「はい?」
「弟が……來るって……連絡が」
「ええ?!」
おとうとがくる。
咄嗟に、頭の中で言ってる事が文章として理解できずに固まってしまっていた。え……フレドさんの弟さんって、あの説明に出てきた方よね? フレドさんの弟……ミドガラント帝國の、皇子様……。
「い、いつですか……?」
「分からない……『可能な限り最速の手段で』としか……でも手紙が屆いた誤差を考えるとどんなに早くてもまだ一週間はかかると思うんだけど……」
なるほど、これが急ぎではない、けど確実に説明しなければならない事、か。
「クロヴィス様はどうやら、新聞記事の寫真でフレド様を見つけた時からこちらに直接向かう事を計畫していたようで……」
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「ええ……帝國の皇子様がリンデメンに來るなんて、大騒ぎじゃないですか……!」
エディさんの説明に、アンナが悲鳴のような聲を上げた。それは確かに……魔石事業が有名になってしまった時よりも騒ぎになりそうだ。フレドさんも渦中の人になってしまうだろう。
「あの、フレドさんを含めて私達は……この街で平穏に暮らしたいという要を、クロヴィス殿下は全く理解しておいででない……という事でしょうか??」
「アンナ、エディさんにそんな事詰め寄っても……エディさんのせいじゃないんだから」
「いえ、アンナさんのお気持ちはわかります。こちらの事に巻き込んでしまい本當に申し訳ございません」
「いえ、私は今までフレドさんにはたくさん助けてもらってますから、そのくらい……」
「一応、クロヴィス殿下はお忍びで來るようです。今回表向きは別の理由でロイエンタール王國を訪問し、王都に滯在している事にして分を隠してリンデメンを訪れフレド様と面會したいと」
「で?! そんな事出來……わりと出來ましたね……う~ん……それならまぁ……」
出來るのか、と口にしかけて、つい先日お忍びでリンデメンを訪れたライノルド殿下という前例を思い出したアンナはしゅるしゅると勢いを引っ込めた。
あの時、本當に特に何も起こらず帰國まで終わったものね。魔石事業の勉強のために來た商家の息子と部下と名乗っていて、「貴族だろうな」とは周りも思っていたみたいだけど、本當の目的や分は誰も勘付いた様子はなかったし……。
「いつ來るかが読めないのは分かりました。それで、何で來るんでしょうか? お忍びですよね?」
「一番早い手段、と言うからには王都からは魔導列車に乗るとは思うのですが……駅のある街からここまでは、恐らく魔導車を借りるのではないかと思います」
「まぁ多分そうなるよな……知り合いの、貸し魔導車手配してる商會に連絡とらないと……」
多分的な日時を言わないのは、あちらも分かっていないからかな。その場その場で一番早い便を取ったりするんだと思う。しかしその場合でも、高貴な方がお忍びで使う移手段は限られている。定期運航してる乗合の魔導車や獣車に乗る訳にはいかないし、貸し出している魔導車の予約狀況を知る事が出來ればある程度推測が出來るだろう。
馬車を含めた獣車も貸し出しがあるが、あれは者ごと雇うので、お忍びであるなら知らない人を帯同させるのは都合が悪いし選ばないだろうな、と除外してある。
「そうなると、宿泊するのは確実にこのホテルになるますよね? 私も親しくなったこちらの従業員の方からそれとなく報収取しておきますね」
何とも頼もしい発言だ。でもアンナの言う通り、もしフレドさんの弟が來る……となったら同じホテルに泊まる事になるはずなので、これであちらのきを把握できるだろう。
まさかエディさんみたいにフレドさんの部屋に泊まる訳にはいかないだろうし。
「とりあえず、何か分かったら報共有するから……また俺の事に巻き込む事になってほんと申し訳ない」
フレドさんのせいじゃないですから。それにご家族がフレドさんの行方を知った、とエディさんが來た時。正確には……仲の良いご兄弟だったけど、フレドさんが國に帰りづらい理由があると聞いた時から予想はしていた。
「しょうがないなぁ。じゃあしばらく毎食後のデザートはフレドの奢りじゃぞ」
だから気にしなくていいし、そもそも、その拠點にする街を移しようという話をしていたからちょっとくらい何かがあっても……。々言いたい事はあったものの、フレドさんはそれでも気にしてしまいそうだな……と口ごもっていると、琥珀がカラッとした口調でそう言った。
「……はは、そうだな……しばらく俺のせいでごたごたしそうだから、お詫びをするよ」
「まぁ、ダメですよフレドさん、琥珀ちゃんの口車に乗って」
それはフレドさんの気持ちを軽くするとても良い一言だったが……「毎食後のデザートは甘いものの食べ過ぎです」とアンナに待ったをかけられてしまい、どさくさに紛れて甘いものをねだろうとした琥珀はがっかりしていた。
「それに、兄弟が遊びに來るなんて、普通の事ですから。お忍びでいらっしゃる弟さんに、こちらも普通に『友人のご家族』を歓待するだけで、迷なんかじゃありませんよ」
「ありがとう、リアナちゃん……」
エディさんからも、弟さんはフレドさんを連れ戻したい、という気はないと聞いている。弟さんにとっては五年以上も行方不明だったお兄さんでしかない。父も母もいたけど、唯一、お互いだけが「家族」だったと言っていたし。なら、居場所を知ったら直接會いたいと思うのも當然だと思うから。
フレドさん自も會いたくない訳じゃないのも見て分かるので、私に出來る事があったら手を貸したいなぁ、と考えていた。
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