《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》22話 デュナン・レジナ

◆◇◆◇◆◇

間違いなく、一片の偽りなく、この一連の騒を引き起こした張本人は帝國の人間である。

それは、エスターク公爵家に赴いたダークエルフの年の言葉。

そして、ヴァン・エスタークが帝國軍人と見抜いた男の存在こそがこれ以上ない証明だった。

だが、決してそれは総意ではなかった。

帝國に籍を置くある人間の策謀。

故に、拙速を重視しなければならなかった。

そのせいで、完璧とは言い難い結果に見舞われるとしても。

そして、案の定とも言える結果に落ち著いた。

その最たる例が、腫れ扱いをけていた無才の王子────レオン・アルバレスに計畫が見する羽目になった事だろう。

だが、彼らにとってそれは許容の範囲の事柄であった。

想定範囲外だった事は、碌に力のないレオンが首を突っ込んできたという事実。

レオンでは止められないと分かっているだろうに、どうしようもないと理解しているだろうに、それでも食らい付き、あまつさえ〝大図書館〟へ無謀にもあえて踏み込みここまでやって來てしまったという事だった。

何より、そうまでした理由が、

「────……こんな事は、間違ってる」

止められる力など欠片すら無いにもかかわらず、真っ當な倫理観による故というのだ。

……一誰が、予想出來ようか。

尤も、絶的に人を騙す事に向いていないと評したリキ・マグノリアであれば僅かの可能くらいはあったのやもしれないが。

芯の通った聲音。

聲の主たる青年は、不退転の決意に似た熱量を銀の瞳の奧に湛えながら口にする。

周囲には、彼にとって見覚えのある生徒が複數人見けられた。

その足下には、妖しくる紫の魔法陣。

その中心部に鎮座し、異様な雰囲気を漂わせるソレが〝聖〟であり、意識を失った生徒達から魔力を。生命力を吸い上げた陣より、力となるエネルギーを供給されていた。

青年は、どうにかしてこの現狀を食い止めたかったのだろう。

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しかし、それは葉わない。

制服の上からでも分かる生傷は酷い有様で、力盡くが出來る狀況でない事は一目瞭然であった。

「……こんな事は間違ってる、か」

反芻する。

一字一句違わずに口にする男は、嘲りとも呆れともつかない様子で青年に視線を向けた。

「確かに、殿下の仰る事はよく分かる。これは真っ當な人倫からは外れた行為です。彼ら彼らを力に使えば、なくとも無事で済むという事はあり得ない」

〝聖〟を起こすのだ。

それには、莫大なエネルギーを必要とする。

如何に、將來有な魔法師の卵だろうと、十數人程度の魔力などものの數秒でこそぎ奪う事だろう。

生気すら奪われ、絶命に至る未來などし考えれば子供でも分かる。

そして、〝聖〟が起きてしまったが最後、その力となるエネルギーを吸い上げる役割を負った〝吸魔の陣〟がディアナ王國全域にまで広がり、両國を躙する事になる────これはその、準備段階。

始まってしまえば、もうどうにもならない。

だから、力がなくとも止めなければならなかった。無謀でしかない行為をレオンが敢行した理由は、それ故。

彼に選択肢はこれしか殘されていなかった。

幸か不幸か、本來ならば〝大図書館〟に踏み込んだ時點で魔力を吸われ、常人ならば時の経過と共に気絶するところ────魔力の一切を持たない無才の王子故に、そもそも吸われるものがないが為に中心部にまでたどり著けてしまった。

「ですがこれは────仕方がないのです。世の中には、必要犠牲というものがあるのですよ。……ぬるま湯に浸かっていた殿下には分からないでしょうが」

言葉の節々に、侮蔑の言葉がり込む。

ここで、発言の主である男がレオンの息のを即座に止めなかった理由は、彼に助けを呼べる程の伝手を持ち得ていないと知っているからでも(、、、、)あったのだろう。

もしくは、時間潰しでもあったのだろう。

ただ、それだけではなかった。

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彼の言葉の裏に宿っていた憎悪を、の変化に聡い人間ならば気付いた事だろう。

それが、「ぬるま湯」から始まる発言に込められ、レオンに向けられている事も。

なくとも男は、レオンにいいは抱いていなかった。言うなればこれは、嫌がらせなのだろう。

無力な彼に対する、最大の恥辱を叩きつけてやる為の嫌がらせだったのだ。

そして、當人であったレオンも、流石にそれに気付いたのだろう。

「……ボクに恨みがあるなら、ボクだけを巻き込めばいいだろう────デュナン侯爵」

レオンが名を呼んだ人は、帝國において弱冠ながら侯爵の爵位を賜った天才。

帝國への忠義も深く、次代の帝國を擔う人間として、誰もが疑いを持っていない人であった。

何故、彼がこんな真似をという疑問がある。

だが、目の前の景こそが現実だ。

逃避したところでどうにもならない。

「……ええ。殿下にも恨みはありますとも。才がないにもかかわらず、皇子だからと〝魔法學園〟へと留學。苦労らしい苦労も知らず、何不自由のない生活を送っている。當たり前の幸せすら出來ずに朽ちていった人間のの上でり立っている事も知らずに。これに憤りを覚えるなと言う方が無理でしょう」

愚癡のような嫉妬だった。

けれど、違和が殘る。

侯爵位を賜るまでに、苦労があったのだろう。しかし、彼自もまた、貴族出だった筈だ。

王家でないにせよ、出自は負けず劣らず裕福な家であったとレオンは記憶している。

だからこそ、筆舌に盡くしがたい違和があった。

そんなレオンの表を読み取ったのだろう。

「分からない、とでも言いたげですね」

帝國という大國で、侯爵という地位を賜った人間が、こんな危険な真似をする理由がないのだ。

寧ろ、られていると言われた方がまだ納得が出來るというもの。

けれど、デュナンにそんな様子は見けられない。何より、魔法師としての腕を広く認められていたデュナンをれる人間がいるとは思えない。

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「そもそも、ワタシにとって帝國(、、)の侯爵などという地位に微塵も価値などないのですよ。あるとすれば、し立ち回りやすいと思える程度のもの」

最中、聞こえてきた言葉は、思案するレオンの前提を土臺から々に壊すものだった。

「全ては、この日の為のものでしかなかった。全ては、何もかもを巻き込んで帝國を破滅へと追いやるこの日の為のものでしかなかった。故にこそ、彼らは必要犠牲なのです。我らの悲願の為の、礎に必要なのです」

理解した。

ここにきて、レオンは漸く理解した。

デュナンの目的とはそれ即ち────戦爭を引き起こす事。

それも、帝國が世界相手に引き金を引くという前提で以ての戦爭を。

だが、分からない。

國の中には、戦爭を歓迎する人間が一部、存在している事をレオンも知っている。

領土を広げる為。武功を上げる為。

英雄になりたいが為。

闘爭という求を満たす為。

理由は人それぞれだ。

けれど、如何に大國と呼ばれる帝國だろうと、世界を相手に戦爭を起こせばまず間違いなく無事では済まない。

それどころか、勝算も低いだろう。

破滅の可能しかレオンは浮かばない。

だから、こうして強行する理由が分からなかった。

ましてや、彼が戦闘狂などという話もこれまで一度として聞いた事がなかった。

デュナンは、〝大図書館〟に封じられていた〝聖〟を使う事が出來ればどうにかなるとでも思っているのだろうか。

「違いますよ。そもそも、前提が違うのです。殿下」

否定の言葉が一つ。

魔窟のような宮中にて、己の求を満たす為、様々な策謀張り巡らされる政治的な駆け引きを繰り返してきたデュナンにとって、レオンほど手玉に取りやすい相手もいないだろう。

レオンの頭の中など、デュナンからすれば筒抜けもいいところだった。

「そもそもワタシは、帝國の人間ではないのですから」

「────……は?」

レオンから、表が抜け落ちた。

「今から百余年前。北東に、ムエリダと呼ばれる小國が存在しました。決して裕福な國ではありませんでしたが……王は優しく、真っ當な統治が行われていた。差別もなく、決して裕福ではなかったが、平和な國だった────ワタシは、そう聞いています」

百余年ともなれば、デュナンはこの世に生をけてすらいない。

故に、人伝でしか知りようがない事実。

「だが、そんな平和はある日、唐突に崩れ去った。他でもない、悪辣極まりない帝國の計によって」

「…………」

帝國は、他の國を併合して大きくなった國である。そこには勿論、戦爭による侵略も存在した。歴史として當時の記録は殘っているが、それが本當であるという確かな証拠は最早、得ようがない。

それこそ、百余年前に生きていた(、、、、、)生き証人を連れて來ない限りは。

だが、レオンが知る限り帝國は國の方針としてそんな事をした事は一度としてない。

財政の破綻した國へ手を差しばした事はあれど、併合してきた理由も、その本にいつもあったのは民がかになる為という「優しい」理由だった。だからこそ、帝國は反らしい反もなく、ここまで大きくなった。

勿論、多の反発や、反対も存在する。

けれど、計などと、卑劣な行いを帝國が許容する筈がない。

何かの間違いだ。

レオンがそうぼうとした瞬間、無にも言葉を被せられる。

元より、引き返せないところまで來てしまったデュナンに、今更レオンの言葉は屆く筈もなかった。

「ですから、ワタシは。ワタシの父も、祖國を滅ぼした帝國にを寄せ、〝草〟と生きていく事を決めた。いつの日か、帝國を破滅へ追いやり、祖國の仇を取る為に」

「……〝草〟、だって?」

繰り返す。

それは、知らないが為に言葉にしたものではない。

その言葉と、目の前のデュナンが結びつかなかったが故に繰り返していた。

〝草〟とはつまり、何者かに裝い、何年、何十年と敵國の勢を知る為に溶け込んだ者。

その通稱。

そんな人間が、何故、侯爵位を賜るほどのことが出來たのか。

疑問符で頭の中を埋め盡くされる。

「だからこそ、今回のこれは実に都合が良かった。ディアナ王國は勿論、〝魔法學園〟に通う多くの貴族子弟子。その祖國を纏めて敵に回せるのだから。流石の帝國も、こればかりはどうしようもないでしょう」

「……何かの、間違いだ」

辛うじてレオンが絞り出した言葉は、あまりに小さく震えていた。

ここまでするのだ。

何かしらの確証があっての事だろう。

腕っ節でも遠く及ばない相手に対して殘されたのは言葉による説得だけであったというのに、今ではそれすらも揺らぎかけていた。

そして、逡巡する今この時も、刻々と無に時間は経過をしている。

最早、どうしようもない。

どうにもならない。

自分が────。

帝國の皇子であり、才がないからと孤立を選んだ自分に、し人があれば。

頼れる人間がいたならば、こんな結果にはならなかったのではないのか。

そんな後悔をした────その時だった。

「──────」

ぴしり、と壊音が響く。

単なる空耳で、気の所為か。

はたまた、自分一人ではどうにもならないこの現狀をどうにかしてしいと願う己の願による幻聴か。

レオンがそう考える中。

しかしその壊音は、辺り一帯に伝播し、ぱらぱらと明確な崩落の音となってやってくる。

そして、人の聲が聞こえた。

「─────わり。加減を間違えた」

「リキさんを信じた私が馬鹿だったぁぁぁぁあ!!!」

それは、人を責め立てる怒聲とも悲鳴ともつかないび聲であった。

◆◇◆◇◆◇

遡る事數分前。

「────聞いてくれ。おれに名案がある」

私とヴァンが頭をフル回転させ、なんとか〝吸魔の陣〟の大元となる場所を見つけ出した。

そして、私達を追い回してくれたあの幽霊もどきは〝吸魔の陣〟の副産だったようで、途中、襲われる事もあったが、〝大図書館〟に設置されていた陣を念りに々に壊してやるとその姿は跡形もなく霧散した。

が、一つ重大な問題があった。

「……卻下だ。俺には碌でもない案にしか思えない」

付き合いの長さ故か。

容を一文字も聞いていないのに、複雑な表を浮かべてヴァンはにべもなく冷靜に卻下した。

「だが、どうしようなくねえか? 〝大図書館〟にある陣はぶっ壊した。でも、〝吸魔の陣〟の効果は未だ健在。恐らくはまだ何処かにあるぜこれ」

陣を壊したにも関わらず、効果は未だ続いている。

けれど、ラバンさんとも協力して、〝大図書館〟中の場所は網羅した。

だからこそ、あの幽霊もどきに何度も追いかけられていたのだから。

「そこで、おれは仮説を立ててみた」

「……言ってみろ」

「本命の陣は、コッチにあんじゃねえのかってな」

そう言って、リキさんは足下を指差す。

「そもそも、この建の作り自が歪なんだ。元より、地下を想定してたかのような作りだしな」

「そうなんですか?」

「魔導の為に方、いろんな技は頭ん中に叩き込んでんのよ。間違いねえ」

リキさんとはいえ、腐っても技者の発言だ。

無視はできないし、何より一応、筋は通っている。

だけど問題は、

『……問題は、その地下に空間があるとして、そこに続く道が散々探し回ったのに誰も見つけられてないって事だね』

ハクの言う通りだった。

「そこでおれの名案なんだよ。恐らく、失蹤した生徒達もかなり危ない狀況だろう。時間はあまりねえ。だから、きっとこれが最善。聞いて驚け────それはな」

だから俺は聞く気もないし、そもそももう卻下しただろうがと小言を口にするヴァンに構う事なく、リキさんが発言をする。

後の私は言う。

如何に殘された時間がなかろうと、案は採用してもリキさんは信用するな、と。

────真正面から、床をぶち抜く。

リキさんの名案とは、そんな脳筋極まりないものだった。

そして、現在進行形で私達は落下していた。

「た、っ、たっ、たすけてハク!!」

『ぐぇっ!? ぐ、ぐるしい! 締まってる!! ぼぐの首がしまっでる!!』

があるハクにしがみつけば何とかなる。

迫したこの狀況で、頭の中がそれで埋め盡くされていた私は無我夢中でハクにしがみついた。

私よりもずっと小柄なその軀故に、ではなく首付近をがしっ、と摑んでしまう。

申し訳程度にパタパタと羽いていたが、私の落下速度が緩やかになる事はなくて。

「死んだら化けて出てやる!! 絶対にリキさんの枕元に化けて出てやる!!」

『そ、その前に僕の方が死にそうな事に気づい、で、ノア……』

たかが地下室の筈が、なぜか全く底が見えず、不安を煽る深い黒と浮遊が「死」を予させる。

最中、誰かに抱き寄せられる。

「……〝霊〟に死の概念があるのかは疑問だが、離してやれノア。ハクが死ぬぞ」

「え? ぁ、っ、は、ハク!?」

『し、死ぬかと思った』

慌てて手を離す。

危ない危ない。ハクを窒息死させてしまうところだった……。

やがて、數秒にもわたる落下が終わり、魔法によって衝撃を緩和させたヴァンのおかげで私は緩やかに著地。

ラバンさんも問題なく著地し、しかし一つ。「ふべっ」と締まらない聲でやや大きめの衝突音が響き渡った。

どうやら、リキさんだけが調整を間違えたらしい。おれ、魔法苦手な事知ってんだろ。助けろよと責め立てるような視線を向けていたが、ヴァンは勿論、ラバンさんも取り合う様子はなかった。

「ご存じでしたか、殿下」

ヴァンが言う。

それは、目の前の景に対しての疑問。

知識人であるラバンさんに問い掛けるのが一番、手っ取り早いと考えたのだろう。

しかし、その問いに対してラバンさんは「はい」でも「いいえ」でもなく、どちらともつかない答えをらす。

「ん。そういう噂がある事は知っていたとも。尤も、ここまでのものとは聞いていなかったがね」

ラバンさんが歩く。

足下には、妖しく輝く魔法陣が広がっている。

先程までとは比べにならないがあった。が、それでも「多」で済む程度だった。

その理由は、私達の足下に転がっている────

「嗚呼、良かった。ちゃんと効果、発してるみてえですね」

────リキさんによる即席の魔導

大元に向かうならば、対策が必要だろう。

そう言って、〝吸魔の陣〟の効果をラバンさんとハクから聞いたリキさんが、即席で手持ちの道を解(バラ)して作り上げていたのだ。

々と信用出來ない人ではあるが、こと魔導においてのみ、信用はしていい人。

私の中でリキさんの人像はそれで固まっていた。

「ところで、あれが〝聖〟って事は何となく分かるんですけど────これは一、どういう狀況なんですかね」

倒れ伏す者達に見覚えはないが、につけている服に見覚えはある。

恐らく、〝魔法學園〟の生徒達。

奇妙なのは、この〝吸魔の陣〟の傍にいながら、意識を保つ青年と、こちらを鋭い目つきで見據える男の姿。

高貴な服裝に、當たりに付けられた勲章のようなバッジ。

私の記憶が正しければあれは、

「隨分な大が出てきたな、帝國の若き天才。確かそう謳われていたと記憶しているんだが、若き天才が何故、こんな事を起こしたのか。実に気になるところではあるな、デュナン・レジナ侯爵?」

「……噂に違わぬ、好奇心旺盛なお方だ。ラバン・ノーレッド王子殿下。普通、ここに辿り著ける筈がないんですがね」

『魔』であっても、気付けないように細工をしていたというのに。

という呟きが聞こえた。

「ですが、ワタシの人生が予定通りに進んだ試しなど、一度もなかった」

不敵に笑う。

「何より、あなた方を殺せば間違いなく帝國は終わる。なくとも、ノーレッドは死ぬ気で帝國と事を構える事でしょう。それは、ワタシにとっても都合がいい。丁度、殿下が人払いをしてくれたおで、奪うエネルギーが足りていませんでしたしね」

る程。貴公の目的は帝國の破滅か」

「さて。どうでしょうか」

誤魔化しにすらならない形ばかりの誤魔化しを最後に、ラバンさんからデュナンと呼ばれた男は〝聖〟だろうものに手をれさせる。

「────〝骸錫杖(クシャーナ)〟────」

〝聖〟の形狀が変化する。

髑髏を模った趣味の悪い錫杖へ。

やがて、しゃらん、と音が鳴ると同時、何処からともなく湧き出る────無數の骸骨。

正常な人間ならば、真っ先に忌避するであろう、魔気に満ちた異空間が出來上がる。

「……戦爭の絶えない期故、聖者は民を守る為に死者すらも使役した、などという文獻を目にした時は何をふざけた事をと思ったものだが、る程。こういうことであったか」

「何を冷靜に分析してるんですか、ラバン王子殿下……っ!!」

「あの『魔』が大仰な箱を造り、こんな地下室に封じ込めていた理由がよく分かる。見る限り、魔力が許す限りを召喚出來そうだ」

────その代償と條件はまだ分からんが。

窮地に陥りながらも分析を止めないラバンさんに、現実を見てくれと告げてみたが、右の耳から左の耳狀態だった。

……わ、私達だけで何とかするしかない。

「……先に生徒を助けるべきだろうな。が、數が多すぎる上、守りながらはまず無理だ」

ヴァンの言う通りだ。

どう、する。

どうすればいい。

「加えて、あいつが味方かどうかも分からない」

唯一、傷だらけながらも意識を保っていた青年。デュナンと敵対していたようだが、ここで味方と決めつけて行するのは危険すぎる。

あまりに障害だらけ。

考えている間にも、は刻々と増えていく。

地面から這い出るように、奇聲をあげながら更に、更に、更に。

「────す、ぅっ」

その時だった。

不意に、息を大きく吸い込む音が聞こえた。

発生源を探すより先に、続く大聲量が私達の鼓を揺らした。

「ボクはどうなっても構わないッ!! だから、せめてこの人達だけでも助けてくれッ!!」

なりふり構わない懇願だった。

「この陣は四隅に配置された寶玉によって維持されてる……ッ!! だから、まずはそれを壊ッ、ぃ、ぐぁっ」

デュナンの片腕で首を摑まれ、青年は苦悶の聲を上げる。

演技には見えなかった。

しかし、真面に言葉をわしてすらいない相手を信じるのは如何なものだろうか。

そんな考えが脳裏に一瞬だけ過った。

でも私は、彼の言葉が噓とは思えなかった。

だから────馬鹿だという事は自覚してるけど、今は信じる事にした。

「わか、り、ました……!!」

「正気か?」

ラバンさんの疑問は尤もだ。

しかし、

「分かった。おれは右をいく。殿下は左を頼みます」

「……貴公もか、リキ・マグノリア」

「レオンを疑う気がないと言い出したのはおれです。なら、なくともおれはその意見を貫く責がある。それだけですよ」

言葉に従うように駆け出した。

……あの人が、レオン・アルバレスさんなのか。

「お人好し(馬鹿)が多過ぎる。が、理屈自は通っている。とはいえ、時間がない。今は……信じる他ないのだろう。まあ、偶にはそういう賭けをするのも悪くはなかろうて」

続くようにラバンさんも、王子殿下らしくない俊敏なきで駆け出した。

陣を壊す役割を二人が負ってくれるというならば、私達がやる事は決まったようなもの。

「それじゃあ、まずはあの人達を」

助けなきゃだね。

と言おうとして、言葉が止まる。

油斷をしていた私に、が襲い掛かってきたことで中斷されていた。

だけど、ヴァンがすんでのところで剣を差し込んでくれた事で無事だった。

「助けると言っても、ノアが死んだら意味がない」

「ご、ごめんなさい」

……油斷しすぎてた。

だめだ。こんなんじゃ。

ヴァンの背中を守るんだから、ちゃんとしなきゃいけないのに。

でも、魔法もも使い辛い現狀、私にはどうしようも────ぃ、や、ある。

あった(、、、)。

「ノア?」

一人、時間が止まったように無防備に停止する私を見て、ヴァンが不思議そうに聲を掛ける。

「ハク」

『まーた、変なこと考えてる顔してるよ』

「ちょっと、力を貸してしいのハク」

あくまで今は、使い辛いだけ。

には使えない訳じゃない。

それに、デュナンを止めるには既にエネルギーを蓄えに蓄えた〝聖〟もどうにかしなくちゃいけない。

だったら────。

「ここからさ、」

視線は〝吸魔の陣〟へ。

「魔力を、私も奪えないかな(、、、、、、)」

モチベ向上に繋がりますので、

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