《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第215話「魔王ルキエ、観事業を立ち上げる(3) −帝國のご一行、來たる−」
──十數日後、帝國にて──
「これが近ごろ、『ノーザの町』で配られているという宣伝文書か」
宮廷の一室で、皇太子ディアスは羊皮紙(ようひし)を手にしていた。
そこに書かれていたのは──
────────────────────
『魔王領の観施設 (名稱未定)で楽しさいっぱい、夢いっぱい!』
魔王領の『すぱ・りぞーと』で、至高のリフレッシュ験を!
『ノーザの町』の近くに、日帰り溫泉施設ができました。
湯量たっぷり、心もすっきりの、『わくわく・すぱ・りぞーと』です。
勇者世界の『鹿威(ししおど)し』で、魔獣対策もバッチリ!
安全安心な天風呂は、帝國の皇殿下も験ずみです。
今は仮オープン中。
このチラシをお持ちの方だけを、特別にご招待します!
みんなも『すぱ・りぞーと』で『魔獣アビスルインダババ (レプリカです)』と握手!
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「……私はいったい、なにを見せられているのだろうか」
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「心中(しんちゅう)、お察(さっ)しいたします」
文のが言った。
最近、ディアスに仕えるようになったで、名前はレイチェル・リースタン。
大公カロンの縁者で、ソフィアの護衛を務めていたドロシーの妹だ。
これから大公カロンは、皇太子ディアスの補佐をすることになる。
その関係で、レイチェルはディアスに仕えるようになったのだった。
「わたしにも……この文書の意味はわかりません。力不足をお詫びいたします」
「レイチェルが気に病むことではないよ」
皇太子ディアスは苦笑いした。
彼は椅子に背中をあずけて、天井をながめる。
落ち著いている自分が、不思議だった。
以前の彼なら、この文書を見た瞬間に高會議を招集していただろう。
そうして文や武たちとともに、魔王領への対策を練っていたはずだ。
魔族と亜人たちが人間を招待するなんてありえない。なにかのたくらみがあるに違いない、と。
「不思議だね。今は、そんな気にならないのだよ」
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リカルドとダフネの事件のあと、妙に肩の力が抜けた気がする。
素直に宣伝文書の容をけ止められるのは、そのせいだろう。
「魔王領は本當に観施設を作ったのだろうね。そのおひろめに『ノーザの町』の者たちを招待しているということだ。リアナとソフィアが施設を使ったのは、町の者たちが安心して利用できるようにだろうね」
「皇殿下たちが魔王領の観施設を利用するなんて……そんなことがありえるのでしょうか?」
「ソフィアはトール・カナンに嫁ぐと言っていたからね。それくらいのことはするだろう。ソフィアが施設を利用したなら、リアナも付き合ったはずだ。リアナは、そういう子だからね」
──その大膽(だいたん)さこそが、帝國を変えるのに必要なのかもしれない。
そんなふうに考えてしまうディアスだった。
「いずれにせよ、警戒するほどのことはないと思うよ」
「殿下のご判斷は正しいと思います。ですが……」
副のレイチェルは言葉をにごした。
その表を見ながら、ディアスは、
「もしかして文書の寫しが、他の高たちの手に渡っているのかい?」
「はい」
レイチェルはうなずく。
「新たに採用された軍務大臣と魔大臣が、文書の寫しを手にれられたようです。それで、対策を考えておられるようで……」
「いらぬ手間だね。気持ちはわかるが……」
皇太子ディアスは、し考えてから、
「ならば、私が確かめに行くのはどうだろうか?」
そんな言葉を、口にした。
「私は自の責任において、魔王領との友好関係を結んだ。ならば、魔王領の行いについて、確かめる義務があるだろう。今はカロンどのが派遣してくれた文・武たちがサポートしてくれている。私が十數日、帝都を離れるくらいはできるだろう」
「よろしいのですか? 殿下」
「構わない。皆に話を通しておいてくれ」
「……承知しました」
「もしかしたら、私もこの宣伝文書におどらされているのかもしれないが……」
皇太子ディアスは羊皮紙(ようひし)を手に取った。
文章は整っている。文字もきれいだ。
この筆跡(ひっせき)は……ソフィアのものかもしれない。
ソフィアは読書量が多く、読んだ本の想を書き殘す習慣があった。
ソフィアとリアナが帝都を離れたあとの離宮で、ディアスはたくさんの想文を見つけた。
おそらくソフィアは、リアナの教育のためにそういうものを書き殘したのだろう。
その想文の筆跡と、宣伝文書の筆跡は、よく似ていた。
もしもソフィアが文書作に関わっているなら……皇太子として、現地に行くべきだろう。
皇が宣伝する場所の、安全を確かめる必要がある。
「これは、他の者にはできないことだからね」
そうして皇太子ディアスは、旅の準備を整えるように指示を出したのだった。
──十數日後──
「カロンどの!? どうしてあなたがここにいるのですか!?」
「むろん、宣伝文書を手にれたからだよ。ディアス殿下」
大公カロンは「どこに不思議がある?」というじで首をかしげた。
お忍びの旅人スタイルだが、ディアスが彼を見誤るはずがない。
ディアスもお忍びで、『ノーザの町』にやってきた。
そうして宿にったら、大公カロンが休憩所でお茶を飲んでいたのだ。
カロンの副のノナと、レイチェルの姉のドロシーも一緒だった。
「まさか、カロンどのまでが、魔王領の観施設にいらっしゃるとは……」
「うむ。面白そうだったのでな」
愉快そうに笑う、大公カロン。
「そもそも、文書を手にれてくれたのはドロシーなのだよ」
「ご、ごぶさたしております。皇太子殿下」
栗の髪のが一禮する。
彼はドロシー・リースタン。レイチェルの姉だ。
もともとドロシーはソフィアの護衛として、『ノーザの町』に派遣されていた。
ソフィアが魔王領にったあとは、『レディ・オマワリサン』の隊長として、町の警護を務めている。
同時に彼は、ソフィアやリアナとの連絡役も兼ねているのだった。
「この宣伝文書は、ソフィア殿下から招待狀としてお送りいただいたものなのです。4通のうち、2通はカロンさまと皇太子殿下に、殘りの2通は、わたくしとノナさまに……ということで」
「ドロシー。君はソフィアたちと連絡を取っているのかい?」
「は、はい。ときどき、化粧水(けしょうすい)などをいただいております。敏(びんかんはだ)への対策として」
「……敏(びんかんはだ)」
ディアスは思わず額を押さえた。
『亜人の國とのやりとりの目的が、敏対策。』
その言葉のギャップに、めまいをじそうになったのだった。
「まぁいい。それよりカロンどのには、帝都に戻っていただきたいのですが」
「なぜかな?」
「私はこれから、魔王領の観地とやらの調査に向かうつもりです。私になにかあった場合は、カロンどのに帝國の統治を引き継いでいただかなくてはなりません」
「行き先は観地だぞ? 危険があるとも思えぬがなぁ」
「油斷はです。友好國とはいえ、相手は魔王の國なのですから」
「私とディアス殿下のうち、一人は殘る必要があると?」
「そうです」
「わかった。では、コインを投げて決めようではないか」
大公カロンはふところに手をれて、銀貨を一枚、取り出した。
「それからこれを投げ上げる。ディアス殿下には、表か裏かを宣言していただきたい。落ちたとき、殿下が宣言した側が出たら、殿下が魔王領に行かれるとよい。逆ならば、まずは私が魔王領に行って見てくるとしよう。いかがかな?」
「……仕方ありませんね」
大公カロンは目を輝かせている。
彼は心から、魔王領の観施設を楽しみにしているのだろう。ディアスが頼んでも、後に退くつもりはなさそうだ。
ならば、ここが妥協點(だきょうてん)だろう。
「では、私は表に──初代皇帝陛下のお姿が描かれた側に賭(か)けます」
「ならば私は聖剣が彫(ほ)られている方だな。では──」
ちりりり、りりんっ。
軽やかな音とともに、大公カロンがコインを投げ上げる。
コインは回転しながら落下し、床へ。
そうして出た側は──
「聖剣だな。では、私がまずは魔王領に行ってみるとしよう」
「……仕方ありませんね」
殘念だけれど、やむを得ない。
大公カロンはディアスの補佐役だ。彼との取り決めを破るわけにはいかない。
「すぐに戻ってくるとも。それに、私が安全を確認すれば、殿下も安心して魔王領の観施設を利用できるであろう?」
「……わかっております」
「では、行ってくるとしよう。ノナとドロシーは同行してくれぬか」
「承知しました」
そうして大公カロンは、宿を出ていったのだった。
しばらくして、宿の手配をしていたレイチェルが戻って來る。
彼は大公カロンとノナがいなくなったのを見て、不思議そうな顔をしていた。
そんな彼に、ディアスが経緯を説明すると──
「……申し上げにくいのですが、殿下」
「どうしたのかな?」
「カロンさまは両腕が使えるようになってから、のバランス覚がよくなったとおっしゃっていました」
「そうらしいね。それで?」
「しかも、易所のお風呂を使っているうちに、さらにをうまく使えるようになったそうです」
「ああ。それは私も聞いているのだが。それがどうしたのだね?」
「大公さまは豪剣(ごうけん)の使い手ではありますが、繊細(せんさい)に武をあつかわれる方でもあります。それがさらに進化したということで……あの……その」
副レイチェルは、言いにくそうに、
「以前にうかがったことがあるのです。カロンさまは、指ではじいたコインの表裏、どちらを出すかを作できるようになったと……」
「……な、なんだと!?」
「3回に2回は功なさるそうです」
「………………あの方は、まったく」
してやられた。自分はまだ甘いのだろう。
大公カロンを最強の剣士で政治家としか見ていなかった。
あの人はこんな小技も使える人だったのだ。
「まだまだ學ぶべきことはありそうだね。私は」
「殿下……どうされますか?」
「仕方ないね。ここで大公どのが戻るのを待つことにするよ」
皇太子ディアスは椅子に腰掛けた。
荷から取り出したのは、ソフィアの離宮から借りてきた書だ。
あの離宮の書は充実している。それと、ソフィアの書き付けには、書に興味をもたせるようなものが多かった。
それを確認しているうちに、ディアスも離宮の書を読むようになったのだった。
「まぁ、これも充実した時間なのだろうね」
そうしてディアスは、書を読み始めたのだった。
──翌 日──
「いかがでしたか。大公どの」
「すごかったぞ」
戻ってきた大公カロンの想は、シンプルだった。
「いや、ほんとうにすごかった。勇者世界おそるべしと、あらためてじたよ……」
「的におっしゃってください」
「すごかったのだ」
「リアナみたいなことを言わないで」
「言葉では表現できぬこともあるのだよ。ところで、ディアス殿下」
「なんでしょうか」
「『魔獣アビスルインダババ』と向き合う覚悟はおありか?」
「……なんですと?」
「彼(か)の地に足を踏みれた者が、『恐怖! 魔獣アビスルインダババの館』を素通りするわけにはいかぬ。しかし、あの館にるには、それなりの覚悟が必要なのだよ」
「宣伝文書には『「魔獣アビスルインダババ (レプリカです)」と握手!』とありましたが……まさか、実在するのですか?」
「レプリカだがな」
「それは存じ上げております」
「ご當地キャラだがな」
「……それはまったくわかりませんが」
「とにかく、危険はない。それは私が保証しよう」
大公カロンはしたような口調で、告げた。
「ただし、すべてを験するには覚悟が必要なのだ。事実、ドロシーは『アビスルインダババの館』には行かなかった。私と同行したノナは……」
「……カロンさまカロンさま。カロンさまぁ」
「ごらんの有様だ。子どもに戻ってしまったようでな……館では自分をさらけだしていたから、あれはあれでリフレッシュできたのかもしれぬが……」
大公カロンは、腕にしがみついて離れないノナに、苦笑いした。
そして、ノナの頭を優しくなでながら。
「いずれにしても、私はノナを守らなければならぬとじたよ。さらに、力不足もじた。元剣聖などと呼ばれていても、私はまだまだなのだな……」
「……あの地では、一なにが起きているのですか?」
「その目で確かめるしかあるまいよ。さて、どうされる? 皇太子ディアス殿下」
大公カロンは不敵な笑みを浮かべて、告げる。
「リフレッシュできる『すぱ・りぞーと』で勇者世界の『鹿威(ししおど)し』、そしてご當地キャラ『魔獣アビスルインダババ』と向き合う覚悟はおありかな? 皇太子ディアス殿下」
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