《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》24話 しだけ変化した関係

◆◇◆◇◆◇

底に沈んでいた意識が浮上し、覚醒すると同時に慌てて上を起こす。

目を覚ますと、そこには見知らぬ貓(、)がいた。真っ黒の、可らしい子貓。

「漸く、目覚めおったか」

そしてその子貓は、さも當たり前のようにこちらを見據えて喋った(、、、)。

霊という存在を知っている私であっても、見慣れたが言葉を喋っている事実に、ここは夢の中か。もしくは、私はもう死んでしまっていて、死後の世界にでもやって來たのかもしれないと思考を飛躍させてしまう。

ごしごしと目元をる事數回。

頬を強めにむにっと引っ張ってみる。

でも、目の前の現実は一切変わらなかった。

そんな私が次に取った行は、現実逃避。

きっと私は疲れてるんだ。

もう一眠りしてから考えよう。

意識を手放して再び、夢の世界に向かおうとしたところで、親しみ深い聲が聞こえてきた。

『夢なんかじゃないよ。ノア。その黒貓が、〝魔法學園〟の學園長、らしいよ』

「……ハク?」

『使い魔って言うのかな。今はその黒貓に意識を移している狀態みたい』

る程。全っ然、わからない。

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でも、私がこうしてベッドの上に寢かせられてるという事は。

「……どうにかなったっ、て、思っていいのかな」

「お主らのおでな」

〝學園長〟────らしい、黒貓の視線が私と、そのすぐ傍へと向かう。

そのきに違和があったから、視線を追うと、そこにはなぜかヴァンがベッドに背をもたれていた。

「ヴァ────」

名前を呼ぼうとしたけど、すんでのところで取りやめる。

理由は、

『今はそっとしておいてあげた方がいいかな。三日三晩、ノアに付きっきりで看病してくれてたから』

すぅ、すぅ、と微かな呼気を響かせて眠りについていたから。

そうしている理由をハクから聞かされて、顔が引き攣る。

「……三日三晩?」

『魔力の使い過ぎ。あれだけ無茶をすれば……まあ、そうなるよねってじだね』

うげ。

私、そんなに寢込んでいたのか。

「ところで、ラバンさんとリキさんは」

「あの二人なら國許に帰りおったわ。というより、連行されたが正しかろう。そもそも、王子が一人でぶらぶら出歩いとるのが可笑しいのよ」

リキさんによって、ラバンさんはノーレッドに送り屆けられた、と。

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その場にいた訳でもないのに、あーだこーだと言い訳をしてぐずるラバンさんの姿が容易に浮かんだ。

「ところで、黒貓さん────じゃない。學園長? さんは、どうしてここに?」

「そんなもの、決まっておろう。禮を言うために待っておった。それだけよ」

「禮?」

「先の一件に対する、禮じゃて。お主らが居合わせておらんかったら、なくとも死人は出ておった。最悪、この魔法學園がなくなっておったかもしれん。じゃから、禮よ」

そう言われて、私は居心地が悪くなって後ろ頭を軽く掻いてしまう。

結局、私一人では殆ど何も出來なかった。

ヴァンが殆ど解決したようなものだ。

「禮を言うならヴァンに────」

「禮を言うなら、ノアに言え。ノアが助けようとしていなかったら、俺はそもそも手を貸していなかった。だから、禮を言いたいならノアに言え。そう、言われたのよ」

ヴァンの口調を真似るように、學園長が私の言葉に被せるように言う。

そこには、呆れにも似たが込められていた。

────似た同士過ぎるじゃろ。

実際に言われた訳でもないのに、そんな言葉を言われた錯覚に陥った。

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「……律儀、なんですね」

だからといって、三日三晩寢込んでいた相手の側で目覚めるのを待っていたなど、律儀にも程がある。

「それだけの事をして貰ったからの。それと、あの王子からの伝言よ。いつでも城に遊びに來てくれ、だと。丁寧に招待狀を置いていっとるぞ」

簡素な部屋の角に位置する木造りの機。

その上には、確かに封蝋された手紙が────二つ(、、)置かれていた。

「?」

「片方は、レオン・アルバレスが置いていったものよ。中は聞いとらん」

────レオンさんが?

「確かに、伝えたからの。それと、何かがあればこの貓を通して申せ。儂に出來る限りの事はさせて貰う。以上じゃ」

それを最後に、黒貓から異様な雰囲気が霧散。やがて、呑気なにゃおん、と鳴き聲が聞こえてきた。

「は、はあ」

結局、あんまりよく分からなかったけど、謝をされている事だけは伝わった。

ここで待っていた理由は、ラバンさんからの伝言の件もあったからなのだろう。

『……今回の一件について、調べてるみたいだよ。駆けつけるのが遅くなった理由は、ノーレッドの霊痕騒に巻き込まれていたから、らしいね。デュナンって貴族が、特に念りに彼には気付かれないようにしてたみたいだから、流石に責め立てるのは気が引けたけど』

々と聞いたのだろう。

ハクが教えてくれる。

「ところで、レオンさんの手紙って一何なんだろう?」

ラバンさんの手紙は招待狀────というより、己の未知を満たす為のものなのだろうが、レオンさんから手紙を貰うことに心當たりはない。

そう思いながら、倦怠の殘るを起こし、立ち上がる。

手紙を手に取り、中を確認すると、そこにはあの時、即席で描いていた魔法陣に関する詳しい容が記載されていた。

手紙の端っこに、「役に立つかは分かりませんが」と申し訳程度に書かれている。

────お姉様を助ける時に。

そんな私の呟きを覚えていたのだろう。

この人も律儀すぎるというか何というか。

「……これは実家に送るとして」

これで、後腐れなくこれからの人生を生きていけそうだ。

そう納得しながら、私は未だ寢息を立てるヴァンの下へと歩み寄る。

この部屋に、ベッドは一つしかない。

私の為に空けていたせいで、床で意識を手放す羽目になっていたヴァンを私の代わりにベッドで寢かせてあげようと試みるも、

「う、かない」

の調子が萬全でない事。

私があまりに非力すぎる事。

それらが合わさって、ヴァンを運ぼうとしてもびくともしなかった。

「ハク、ちょっと手伝って────って、いないし」

相棒に助けを求めてみるも、肝心のハクは先ほどまで學園長の意識が乗り移っていた黒貓に興味津々のようで、部屋の外に出た黒貓を相手に、ふむふむと唸っていた。

「起こす、のは流石に申し訳ないし、どうしたものか」

自分の非力さを恨みながらも、抱きしめるような形でもう一度と再挑戦を試みようとして。

ちょうど、お互いの鼻がれ合う程の距離になっていたところで、ぱちりとヴァンの目が開いた。

別に、何か変な事をしようとしていた訳でもないのに、直してしまう。

やがて、見方によれば男の逢瀬に似つかわしい行為をしようとしていたと勘違い出來る狀況ではないだろうかと考えが至る。

瞬間、顔から湯気が出てるのではと思う程に、熱くなる。

でも、そんな私の葛藤など知らんとばかりに、私の首に手が回され、今度こそ本當に抱き合うような形になっていた。

「な、何してるの」

「なんとなく、こうしたかった。だめか?」

「……だめじゃないけど」

別にヴァンだから嫌な気持ちはしないし、私達は一応、そういう間柄でもあるから拒絶する気はないのだけれど、恥ずかしいか否かはまた別の問題だった。

「正直、ロヴレンの提案を斷っておけば良かったと心底後悔してる」

だけど、熱に浮かされたような気持ちは、ヴァンのその一言によって霧散した。

「〝魔法學園〟なら安全。なからずそう思った俺にも責任があるから、責めるつもりはないけどな」

全てを知った上で、ロヴレンさんが〝魔法學園〟を勧めた訳でないとヴァンも理解してるのだと思う。

「……でも、こうして私達がいなかったら」

「誰かが死んでたかもしれないな」

いなかったら、もっと取り返しの付かない事になっていたかもしれない。

そう思うのは、驕りが過ぎるだろうか。

私の考えを否定するように、ヴァンは言い切った。

「それは、ラバン王子だったかもしれないし、レオン皇子だったかもしれない。リキだったかもしれない」

「だったら、」

この結果で良かったと、どうして丸く収めるような言葉を言ってくれないのだろうか。

「それでも俺は、ノアには傷ついてしくない。今回のように、無茶をしてしくない。萬が一があるような場所には、間違っても首を突っ込ませたくない。たとえそれで、俺が嫌われるとしても」

「……私がヴァンの事を嫌う訳ないよ。まぁ、ちょっと過保護過ぎる気がするけど」

「それは、気を失うまで無茶をしなくなってから言ってくれ」

ごもっともだった。

「なあ、ノア」

「うん?」

「この際だから言うが、俺に迷を掛けたからとか、親父殿を振り回してしまったからとか。そんな考え、まだ持ってるだろ」

「…………」

無茶をした理由の一つです、とは流石に言えなくて。でも図星過ぎる唐突な指摘に、私は閉口する他なかった。

「百歩譲って、ノアの意思で無茶をするのなら、俺はそれを尊重する。その為なら、俺も力を貸す。勿論、あんまり気は進まないが」

籠の中の鳥になれとまでは言ってないんだろうけど、言葉の節々から嫌なんだろうなっていうのは凄く伝わってきた。

「ただ、俺や親父殿の為に無茶をしようとする事だけはやめてくれ。どうせノアの事だから、借りがあるからとかそういう考えなんだろうが、そもそも、借りなんてものは何もない」

「へ?」

「親父殿はこの縁談で、漸く肩の荷が降りたと大喜びしてたくらいだ。俺なんて、もっとタチが悪い。言ってしまえば狀況を盾にして、好きな人間との縁談を無理矢理纏めただけだから」

「…………」

突然の告白に、なんと返したものかと悩んでしまう。

そして、取り敢えず、この場から逃げようかなとか思ってみるけど、首に手を回されてるこの狀況で逃げられるわけもなかった。

「一応それとなく伝わってると思ってたんだが、全く伝わってなかったから、打ち明ける事にした。この関係も嫌いじゃなかったんだが、こう言った方が多分、ノアはちゃんと考えてくれるだろうから」

これが仮に、友達として────。

という前提がつけば、確かにあまり深く考えなかったような、気もする。

だけど、好きな人間と言われると流石にヴァンの言う通り、ちゃんと考えてしまう。

というか、考えすぎてしまう。

「だから、借りとか思う必要はないし、寧ろそう思われてると心苦しくて仕方がない。それと、俺に相応しくないとか卑下するのもやめてくれ。好きな人間にそう思われるのは、正直悲しいから」

……確かに、そういう事なら私の考えは失禮極まりないものだ。

でも、ヴァンが私に……?

そもそもいつから……?

というか、どうして? なんで?

そんな失禮な考えを巡らせる中、何処からともなく『にぶちんノア』とハクの馬鹿にするような聲が聞こえてきた気がした。

……うるっさいな。分かってるよ、私も。

そして、そこで気づく。

気付いてしまう。

ヴァンからの告白に、驚きはしてるものの、全く嫌な気持ちがしない。

というか、これがなんというか、嬉しいと思ってしまうあたり、多分……ううん。

私もヴァンの事が好きなんだよなあとあえて気にしないようにしていた事実を、自覚させられる。

「……い、以後気をつけます」

「そういう返事じゃなくても良かったけどな」

きっと、ヴァンが笑いまじりに求めていた返事は、「好きな人間」という言葉に対するものだったのだろう。

言い訳をさせて貰えるなら、こちとらの「れ」の字もした事がない人間で────と逃避しようとして。

でも、相手はちゃんと言ってくれたのに私だけ逃げるのってかなり失禮というか、卑怯な奴過ぎないか。っていう考えが働いた。

特に、大事な友達でもある(、、、、)ヴァンに、そういった態度は取りたくなくて。

ただただ自分の格が恨めしかった。

「わ、私も、ヴァンの事は好き、だよ? というか、そうでもなかったら多分、無理矢理であってもれてなかっただろうし」

本気で嫌なら、何処かで逃げ出してた。

「なんで疑問系」

「……今はこれで勘弁してください」

真正面からを囁けるほど、私の経験値は高くないのだ。

疑問形になったのはなんというか、言葉の綾というか。取り敢えず、訂正も含めてまた今度にしよう。

私、がんばった。超がんばった。

「……さ、さーて。早いところお姉様に手紙を送らなきゃ」

そこで漸く、首に回されていた手から解放された。

レオンさんが折角、気を利かせてくれたのだ。また改めてお禮を言いにいくとして、恐らくまだ意識を取り戻していないだろうお姉様に向けての手紙を用意すべく慌てて機に向かう。

「別に、そこまでする必要はないと思うが」

「私の自己満というか。ケジメというか。あんまりいいは抱いてないけど、それとこれはまた別というかさ」

「お人好しだな」

「そんなお人好しに付き合ってくれるお人好しには言われたくないかなあ?」

そういえば、ハクにも同じこと言った気がする。

私の周り、お人好しが多過ぎるんだよほんと。

それからというもの。

案の定というか。

に送った手紙の返事は來なかったけど、私が気にしているからとこっそり様子を見に行ってくれたハク曰く、快復に向かっているらしい。

やがて経過すること、十日。

休校だった學園も、再開する事となり、編という扱いで私はヴァンと同じクラスにねじ込んで貰える事になった。

ロヴレンさん曰く、一時的な避難の意味で學園を勧めただけだから戻って來てもいいのに。

との事だったが、私が通ってみたかった事もあって、その申し出は遠慮しておいた。

────お願いがあると言うから、來てみれば。

デュナンの件も含めて、々と調べる為に奔走する學園長に滅茶苦茶呆れられたけど、ヴァンと同じクラスにしてくれと伝えると本當にそうしてくれるのだから、何事も言ってみるものである。

なんと言っても、そのクラスにはレオンさんやリキさんもいるらしいし、人付き合いがお世辭にも得意と言えない私にとってこれ以上なくピッタリなクラスであった。

『……まあ、向こうが許したとはいえ隨分とやりたい放題してるね』

席もヴァンの隣。

ちなみにリキさんは、要注意人とのことで一番遠い席に移させるという、橫暴が罷り通っていた。

いやいやふざけんなよ!?

などと、文句の聲が飛んでいたが、無にも封殺されていた。名案を信じて危うく死にかけたこともあって、私がリキさんを庇う理由もなくて。

そんなこんなで。

「初めまして、ノア・アイルノーツです」

私が魔法學園に通う事になるなんて、ついこないだまで想像すら出來なかったけれど、

「これから、よろしくお願いしますっ!!」

慣れない挨拶と共に、勢いよく頭を下げる。

しだけ変化したヴァンとの関係も含め、私は新しい日々に向かって、一歩踏み出せたような、そんな気がした。

モチベ向上に繋がりますので、

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