《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2

「竜が飛んでたんですって?!」

「あっちの山脈に向かってたんじゃないのか?」

「違うよ! もっと低いとこを、飛行便じゃない真っ青な竜が飛んでたんだよ!」

「へぇ、竜がいるのか? どこに?」

私は騒ぎになっている街の中を全速力で走っていた。様々な人々がれて道は大混雑している。空を飛んでいる竜を直接見たと思われる人々は青ざめ、竜が降りた街の外壁の向こう側からしでも離れようと反対方向へ道を走る人もいれば、腰を抜かしてへたり込む人も。そして恐らく竜の怖さを知らない人達が、狀況を摑めてないらしく空を見上げて「どこだどこだ」なんて口にしている。

野生の竜は災害として認識されているが、こうして竜の生息地から遠い場所では知識として知っているだけの人も多い。正しく怖がって避難行も取っているのはここで生まれ育った人ではないのだろう。

いや、見なんてしてる場合じゃなくて、もしもの場合に備えて建の中にってしでもを守ってしいのだけど。

私も竜の姿を見て、今後依頼で使う事になる琥珀の寢袋を探していたのを即座に切り上げて、竜が降りた街の外に向かって人の流れに逆らうように走っていた。琥珀には、アンナやホテルの人達に向けて、渡してある魔道を持って地下に避難するようにと伝言を託してホテルに戻ってもらっている。

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もちろんあのサイズの竜が本気になったら私の結界どころか街ごと消し飛んでしまうだろうけど、生き殘る確率が上がるから。

竜影やからすると、明らかにワイバーンではなかったのが怖い。人の手で繁功している唯一の竜種のワイバーンではないという事は、つまり飛行便や軍など人がコントロールしている竜ではないという事だから。野良ではなく騎竜だと示す黃い識別布も尾についてなかったし。

クロンヘイムでは竜の生息地であるイズスカ山脈が近かったので、野生の竜が空の遙か高い所を飛んでいる事はよく見たけど、基本彼らは人が居る所に近付かなかった。だから、鱗のまではっきり見えるような高度まで降りてこないはずなのに。……七年前にディアグラで起きた竜災害は、貴族が巣から卵を持ち帰ったのが原因だったっけ。

もし野生の竜が街のそばまでフラッと來てしまったのなら、冒険者の急招集義務が適応される。この場合は銀級以下は市民の避難導と怪我人の救護、金級以上は……怖いなぁ。これがあるから、本當は金級にはなりたくなかったのに。

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しかし、強張った顔で、竜が降りた方へ向かうにつれ、私は不思議な景を目にする事になる。恐れるべき「竜災害」が起こったというのに、外壁の出り口に殺到して我先にと竜の居る街の外へ向かっているではないか。

いや、街の中に殘って恐れを顔に浮かべている人もいる。しかし災害に対する恐怖ではなく、未知のものへの好奇心が窺える表だった。街の外に向かっているのは若い人……特に冒険者や子供が多い。

竜が來た、と聞いて「最悪戦闘になるかも……」と手持ちの魔道や毒を思い浮かべて「どうやり過ごすか」を必死で考えながら走っていた私は、橫で子供が上げた聲を聞いて思わず足を止めた。

「すっげー! ドラグーンだって! 俺らも見に行こうぜ!」

「待ってよお兄ちゃん!」

……竜騎士(ドラグーン)? 噓、ワイバーン以外の騎竜は両手の指で數えるほどしか存在しないはず。……もしかして、その「世界に數名しかいないはずの竜騎士」がここに來たって事?

今出り口から街の外に出るのは難しそうだ。あの付近、人が押し寄せて群衆なだれが起きないか心配だな……。外の様子が確認したかった私は、「急事態につきすみません」と心の中で謝りつつ、いくつかの民家の屋を経由してから外壁の上に飛び乗った。

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「……ほんとに、騎竜だ……」

民家を優に越す高さの、リンデメンの外壁。それと同じくらいに大きな竜。足元にわらわら群がっている人達を興味深そうに見下ろす青い竜の背中には、人が乗るための鞍が設置されていた。尾にも、焼け焦げた識別票の殘骸らしき黃い布がしだけ殘っていた。もしかして、魔と戦闘があったのかな。

この街に竜災害が起きるかと思って心臓が冷たくなるくらい慌てたけど……良かった、違って。

でも、そういえば非常事態で鳴ってるはずの警報も一切鳴ってなかったし……報が行き屆いてなかっただけで騎竜だって冒険者ギルドや街は分かってたのか。なんだ。

「わ」

安堵に息をついていると、自分の頭の高さに生きが出現して気を引かれたのか、青い竜はぐぃんと首を曲げると私の目の前に頭を持ち上げた。深い、灰の瞳、私に焦點を合わせるようにきゅうと瞳孔が縦に細くなる。

しばらく見つめ合っていたが、気が済んだようで竜は私から目を逸らして足元の人間観察に戻った。

大きな瞳に見つめられている間、呼吸を忘れていた私はハッと思い出したように息を吐き出す。落ち著いて見てみると、竜を取り囲む民衆の中に冒険者ギルドマスターであるサジェさんを始め、何人か見覚えのある顔の人達がいて、竜に近付きそうになる見客を制止していた。

既に冒険者ギルドが対応してるのか、なら大丈夫ね。

あのサジェさんと話している背の高い男がこの竜のパートナーだろうか。

「……とりあえず、ホテルに戻って、人が乗ってる竜だったって説明しないと」

知らなかったから竜災害の対応をしてしまった。安全だと知らせてアンナや皆さんを安心させてあげなければ。

私は壁に登った時と同じルートで地面に下りると、今度は小走り程度に急いで來た道を戻った。そうだ、市場でも結構騒ぎになってたからホテルに向かう道すがら、「騎竜でしたよ」と顔見知りの店に伝えていこう。市場では顔が広い人達だから周りにも広めてくれるだろう。

「ただいま、アンナ……琥珀……」

「あら、お帰りなさいリアナ様。良かったですねぇ竜災害じゃなくて」

「良かった、もう知ってたのね」

ホテルに戻ってきた時から、ドラグーンが街にやってきたことに対する非日常で誰も彼もそわそわしていたけど、もう怖がっている人はいなかったので大丈夫だろうとは思っていたけど。

私はあのあと、まだ人の乗ってる竜だったと知らずに騒然としていた市場に戻って、顔見知りの店主たちに「竜災害の心配はない」と言って回ったのだが。良かったと皆が安心したのも束の間「竜を近くで見たの?」「どんな人が乗ってた?」「竜に近付いてみた?」なんて囲まれて質問攻めにされてしまい、へろへろになって戻って來たのだった。

あ、琥珀の寢袋……いや、今日は市場も竜の登場に沸いてかなり騒ぎになってたし、また別の日にしよう。

壁の上から竜を見ただけで、皆さんの期待に応えられるような報を全然持ってなかったのだが。そのため、行ける人は外壁の方へと竜を見に行ってしまった。店を空けて駆けて行ってしまった人もいたけど大丈夫かな。

「青銀(ミスリル)級の冒険者様ですってね! リアナ様は竜は直接見ました?」

「え? ええ……大きな青い竜だったわ」

「すごいですねぇ! 私は明日琥珀ちゃんと見に行く事にしました。お名前はデリク、若いのに『竜の咆哮』という外國の大きな冒険者クランのリーダーをしているそうです。あと、とんでもない形だったとお聞きしました」

「え? ちょっと待って何でアンナが私より詳しく知ってるの?」

いや、たしかに、私はちょっと離れた所から見ただけだけど。ずっとここに居たアンナがどうして私よりも報を把握しているのだろう。

「仲良くなったホテルの授業員の方達とかからちょっと……何でも、今日のお晝前に竜でやってくる連絡はしていたけど、それが街が周知する前についてしまったために、街ではし混が起きてしまったみたいですよ。それを知って申し訳なさそうにしてたそうで、禮儀正しい好青年だったと聞きました」

「絶対それは『ちょっと』で知る事が出來る話じゃないわよ」

アンナはもしかして諜報の才能もあるのではないだろうか。

更にアンナが聞いた話では、空の上で鳥型の魔に襲われて、人が乗ってる事を示す布が焼ききれてしまった不運も重なってしまったため、騎竜と分からずこうして騒ぎになってしまったらしい。

でも、青銀級の冒険者がこの街に何の用があって來たんだろう。青銀級を呼ぶような魔なんてこのあたりにいないし、ダンジョンも無いのに。

それにしても、私達も持て余してるのに一人で隣の部屋を使うとは。いえ、大きな冒険者クランのリーダーらしいし、他の人が後から來るのか。

「それでですね……ちょっと困った事になりまして。その青銀級の冒険者様が、このホテルに宿を取ったんです」

まぁ、青銀級の冒険者が泊まるような場所と言うとこの街ではここと領主邸くらいしかないしね。どんなに高ランク冒険者であっても必要があれば野営も行うが、街で過ごす時に普通の宿に泊まったら宿に迷が掛かってしまう。

「それで、宿泊されるのがこのフロアの隣の部屋だと聞きまして」

「え? それは困ったわね……」

というのも、この階は豪華な特別仕様で、部屋は私達が使っているここと隣の區畫しかない。部屋數も多くて広く、書斎やキッチンに連れてきた使用人用の部屋など設備も充実している。

その分宿泊料金も高いだけでなく、普通は紹介が無いと部屋が取れない。まぁ青銀級の冒険者ならそこは問題無いだろうけど。

今私達が困っているのは、「使用人用の部屋があるのがここと隣、二部屋だけ」という事だ。フレドさんの弟であるクロヴィスさんが泊まる事になると思っていたのだが。

もちろん、ここの下の階も寢室が二つにリビングとダイビングも分かれていて十分に広い素敵な部屋だ。けど連れて來るであろう人達とは部屋を分ける必要がある。そうすると行き來するのに一度廊下に出る必要があるので、ちょっと不便だろう。このフロアと違って、下の階にはすでに別の一般のお客さんも何組かいるし……。

なのでフレドさんの弟さんが街に到著する前に、私達の方が部屋を移る事にした。

「ごめん……じゃなくてありがとう、俺の弟のために」

「いえ、使ってないスペースも多くて、勿ないと思っていたので」

なので部屋を移ります、というのをホテル側に話して、下のフロアで空いている部屋を用意してもらうよう話に行く事になった。私とアンナと琥珀、子供連れ家族四人を想定した部屋でゆったり過ごせるだろう。

があって部屋を移る事は明日會った時に子爵にも説明しなければ。一応この部屋、人工魔石の開発者である私を保護するために……という名目で子爵が用意した場所だからね。

途中でやってきて會話に加わったフレドさんも、自分の弟のための話だからと説明のために一緒についてきてくれる事になった。アンナは部屋を移るために荷をまとめててくれてて、エディさんと琥珀は私が書きをする時に使いやすいようにと機などの配置を思いっきり変えてしまっているので、それを元通りにしてもらっている。

階段に向かってる最中、微かな音がしたと思ったら進行方向途中にあるドアが開いた。あ……例の、竜に乗ってやってきた青銀級の冒険者さんだ……部屋にいたのか。家かしてドタバタしちゃってるの、申し訳なかったな。

一言謝っておこう……と聲をかけようと思った瞬間、こちらを向いた男がパッと駆け出す。

森を歩いてる時とは異なり、安全地帯だからと気を抜いていたから、反応が遅れてしまった。え、と思う間もなく金髪の男は私の橫を走り抜けて、斜め後ろにいたフレドさんにバーン! と抱き著いていた。

「兄さん! やっと會えた!」

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