《機甲學園ステラソフィア》反逆五重奏

刃と刃がぶつかり合う。

霊子《アズル》の輝きが舞い踴る。

マリアの目的を阻む、その裝騎の名はスパロー。

一刻も早く裝騎スパローを――サエズリ・スズメを退《しりぞ》かせ、目の前に聳える巨大な"神"へロンギヌスの一撃を與えなければならない。

だと言うのに――サクレ・マリアは思った。

(ずっと、戦っていたい)

裝騎戦《ヴァールチュカ》を楽しいと思ったことが今までの人生であっただろうか?

1人の騎使として、チーム・クインテットの一員として、様々な大會に參加し、様々な騎使と戦った。

それでもこれほどまでのの高鳴りをじたことがあっただろうか。

今この戦いは試合ではないというのに。

勝つか負けるか、生きるか死ぬか、壊すか守るかの2つに1つ。

だと言うのに、この戦いを私は楽しんでしまっている。

ああ、もし彼と違ったところで出會えたのなら。

ああ、もし私が違った道を歩んでいたのなら。

高揚で我を忘れそうになるところをマリアは強く踏ん張った。

マリアにとって裝騎戦とはあくまで1つの手段だった。

仲間たちに報いるための手段。

モウドールの目的を果たすための手段。

そしてこの戦いで、マリアの存在意義が果たされる。

マリアは靜かに息を吐き、靜かに"目標"を見據えた。

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終わらせよう。

この戦いを。

心付いた時から実の両親は居なかった。

寄りのない私を拾ったのは夜のお店を営むある--通稱「將さん」。

そのお店で私は様々な雑用を任され、気づけばそれが當たり前のようになっていた。

ある日、お店で使う雑貨を購し帰ってきた時だ。

業務用の機甲裝騎から降りる私に1人の男が鋭い視線を向けてきた。

「若いな。買い出しはいつもあの子が?」

「ええ。不想でほかに取り柄もありませんしね」

「ふむ……し借りれるか?」

「まぁ、よいですけど……もちろんタダとは言いませんよね?」

「當たり前だ」

「マリア!」

將さんが聲を張り上げる。

「ご指名だよ!!」

その言葉に私はただ頷いた。

「俺の名はコンラッド・モウドール。突然だが君に聞きたい。君はこの國のことをどう思う?」

本當に突然の問いかけだった。

この國を――マルクト神國のことをどう思うか。

そんなこと考えたこともない。

良いとも、悪いとも、そんなこと、ちっとも。

「だろうな。君はまだ若い。それにそんな余裕も無いだろう」

「モウドールは……どう思っているの」

「効率的だ。"神"が全てを決め、民は全てに従う。そこに疑問も反意も覚えないようにできている」

その言葉に神への疑問と反意が見えるのは気のせいだろうか。

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「何、たまには欠陥品が出てくるってわけさ」

不意に背後から多數の人が私たちを追い抜いていった。

「中央憲兵か」

この神都カナンの警備をしているマルクト中央憲兵団。

急ぎ足で周囲を見回し、何かを探している。

それほど頻度は高くないが、こういう景はよく目にする。

俗にいう"狩り"だ。

憲兵の1人が小さな建を指さす。

の佇まいや玄関口に置かれた看板から恐らくはバーだろう。

手慣れた様子で他の憲兵と示し合わせた後、

「マルクト中央憲兵団だ!!」

聲を響かせその建り口を蹴破り、中へと消えていった。

その店の人は反逆罪か、はたまた技制約違反か――それは分からないけれど何らかの疑いをかけられ連行されるのだろう。

神の意思に反してはならない。

民は與えられた技の解明をしてはならない。

「あそこのマスターは手1つで2児の面倒を見ていた。金に困って副業に手を出しあのざまだ」

モウドールはその店の店主のことをよく知っているようだった。

「子どもはきっと路頭に迷うだろうな。まだいのに、心つく前に親が消えてしまうのだから」

心つく前に親が消える。

どこかで聞いた話だった。

子ども達はそのまま息絶えるのか、誰かに拾われるのか……。

「放っておくの?」

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「手を出しても意味がない。心苦しいが」

「子ども達も……?」

「信頼できる人がいる。寄りのない子ども達を保護しているだ。彼に連絡する」

抑揚の無い聲に全くかない表

私はそんなモウドールの瞳の中に炎を見た。

気付けば私は地下に來ていた。

「さっきのバーのマスターは……稼業で使う機械の修理を自分の手で行っていた。その技を使い、常連の持ち込んだ機の修理もな」

「だから捕まった」

「ああ。一般國民の彼が機械類を分解、修理、解明することは技制約に引っかかる。それに彼は元々悪魔派のシンパだったらしいしな」

神の目は広く、鋭い。

そうでなくても、熱心に信する人々もなくない。

神は絶対なるモノだから。

「それでも神の目が屆かない場所だってある。結局のところ神は神ではない。ただの演算裝置だからだ」

「あなたは……」

「もしこの國を変える方法があると言ったら、君は協力してくれるか?」

今日が初対面だというのにモウドールはそんなことを言ってくる。

恐らくモウドールは私の境遇を知っている。

だからきっとその気持ちが分かるはずだと。

あの店の店主や、その子ども達のような人々を救いたいはずだと。

そう思っている。

けれど私にはそんな熱は微塵もない。

だけど――私はモウドールなら信じられるような気がした。

「ここは……」

「悪魔派組織《サタネス》グローリア。その基地だ」

彼に連れてこられた薄暗い地下の一室。

周囲に置かれた様々な機械は機甲裝騎の部品、だろうか。

部屋の中には人影が2つ。

「コンラッド、また変な子を拾ってきたの?」

そのの1人、どこか大人びた雰囲気のが聲をかけてきた。

「またって言うけど拾われたのはローラだけだよね」

ローラと呼ばれたは、その聲がする方へと視線を向ける。

ディスプレイから放たれたに照らされた年。

「ロイ。あんただって拾われたようなものでしょ」

「違うよ。ボクはモウドールに賛同して自ら接したんだ。キミとは違う」

「2人ともケンカするな」

はぁとため息を吐くとモウドールは私の背を優しく押し、一歩前に出るように促した。

「今日からグローリアの一員になる。サクレ・マリアだ。よろしくしてやってくれ」

「あたしはミラ・ローラ。よろしくね」

「テレミス・ロイ……」

「そういえばレイは?」

「さっき買い出しに――あ、帰ってきた」

「ウィーッス! ヴェニム・レイボルトが帰ってきましたよ~」

この場のノリに合わない軽い聲が響く。

買い袋を両手にぶら下げ、どこか軽薄そうな男が姿を現した。

「っておお! !! もしかして新メンバー!?」

「うっさい」

レイボルトの大きな聲にローラが顔をしかめる。

「ああ、サクレ・マリア。今日からグローリアの一員になる」

「よろしくな!!」

満面の笑みを浮かべながら私の両手を摑み、上下に振るレイボルト。

これが私の戦いの始まり。

仲間との出會いの始まり。

「マリア! 裝騎バトルの基本を教えてあげる」

「アブディエル型裝騎の調達完了……マリア、名前を付けてあげて」

「お菓子の調達なら任せろ! 何が食べたい!?」

「何事も実戦からだ。裝騎大會にエントリーしてきた。マリア、君の初陣だ」

そこから月日が経つのは早かった。

仲間たちの教えで私の裝騎戦の腕はみるみるびていった。

モウドール、ローラ、ロイ、レイボルトと組んだ裝騎戦のチーム、クインテットもその実力を轟かせ一部では最強とも言われるチームとなった。

けれど私たちの目的は裝騎大會で頂點を取ることではない。

裝騎戦はあくまで手段。

実戦の中で実力を高め、來《きた》る反逆の時に備えるための。

そして私たちの戦いは試合だけでは終わらない。

「今日は勾留された悪魔派シンパの救出作戦を決行する」

「輸送用の陸上艇は神都カナンの北東を走っているね……」

「あたしが空から仕掛ける。それと同時にマリアは背後を取って」

「仲間の救出はオレ様に任せろー!!」

戦いはどんどん激化していき、危険はどんどん大きくなっていく。

けれどそこに不安はなかった。

むしろ、私の人生の中で一番楽しかった時期だと間違いなく言える。

「マリア、貓とか拾ってきたの!?」

「はっはっは。かわいーじゃねーか! 貓はブサイクだけ――うぎゃぁ!! コイツひっかいてきやがった!!」

「名前はあるのかい……?」

「フニャト」

「にゃあ」

「なかなか気難しそうな貓だな。ちゃんと世話できるのか、マリア?」

「がんばる」

「にゃあ」

いつしかみんなのことを家族だと思えるようになっていた。

モウドールというお父さんにロイとレイボルトという2人の兄。

ローラのことは――お母さんのようだと言ったらやっぱり怒るだろうか。

「そういえばマリアは知ってる? 天使巖の中に裝騎が埋まってるって話」

「天使巖……エンゲル・ガルテンの?」

「そっ。なんかあるでしょ。羽が生えてるように見えるっていう巖が」

「聞いた事は――ある」

その巖は伝説に語られる神ザクレートとも重ねられ、神に支配されたこの國では珍しく容認された"もう1つの神"だった。

「今度見に行ってみようよ」

「うん」

ない會話。

だけど私はこういう日々が來るなんて考えてもなかった。

「裝騎……埋まってるかも」

「は?」

そう言ったのはロイだ。

「都市伝説についていろいろ調べてた。あの巖も実地調査をしてみた」

「もしかしていつもパソコンカタカタしてるのってそういうのやってんの?」

「趣味の時間は」

「面白そうだな!!!」

レイボルトのやかましい聲が響く。

「聞いてた――っていうか帰ってたの?」

「天使巖掘ってみようぜ!!」

「常識ってモンが無いの!?」

「何か戦力になるかもしれねーじゃん!」

「実際に裝騎が埋まってたとしてもそんなのがくわけないでしょ」

「直せばいいじゃん!」

「それでエンゲル・ガルテンに遠足か?」

いっぱいの星空、誰もいないエンゲル・ガルテンを歩きながら呆れたようにモウドールが言う。

「まるで引率の先生になった気分だ」

とは言えそんなモウドールの姿はどこか楽し気にも見えた。

「ていうかレイ、本當に天使巖掘るつもりなの?」

「さすがに本気で掘るつもりはねーよ! けど、たまにはこういうのさ、楽しいじゃん! な、マリアちゃん!」

「はぁ……」

なんて會話をしながら天使巖の前に來た時、私は不思議な覚を覚える。

目が天使巖に釘付けになる。

「これが……天使巖」

「マリアは見るのはじめてだよね」

「うん」

噂以上にその巖は天使のようだと私はじた。

傅《かしず》いたその背から翼が天を仰いでいる。

その翼は朽ちてボロボロだけど、まだ天を往くことは諦めていない。

そんな妄想が私の脳裏に浮かんだ。

確かに実としてはそんなにしいものではないのかもしれない。

見る人によってはただの巖のように見えるかもしれない。

それなのにこんなに心が惹かれるのは、彼に呼ばれているようにじるのは何なのだろう。

「マリア……?」

「アズル反応……やっぱり埋まってるよ。機甲裝騎」

「天使巖にか!?」

私の手が天使巖にれる。

ゾクリとに悪寒が走った。

それは悪いものではない。

機甲裝騎が起したときの――アズルリアクターと接続した時の覚。

「天使巖が……」

ひび割れていく。

そして、その中から姿を見せる。

まるで天使のような機甲裝騎。

「これが――天使巖の、裝騎?」

ローラの呆気にとられたような聲が聞こえた。

「そもそも本當に裝騎、なの?」

でも確かにそれは裝騎というよりも人形《パネンカ》のようだった。

とても巨大な著せ替え人形。

けれどそれは確かに機甲裝騎だった。

ハッチが開きコックピットが現れる。

コックピットの中はほのかな黃金の輝きで包まれ、溫かい。

そしてなぜか、とても馴染み深いもののような気がした。

その裝騎に乗り込むと同時に意識が裝騎と重なる。

我國の機甲裝騎――機甲裝武には神接続システムがあると言うが、こんなじなんだろうか。

私は機甲裝騎と一化していた。

「まさか本當に裝騎が埋まってるとはな」

「ニュースになってるわよ。天使巖が何者かに破壊されたって」

「仕方あるまい。足が付かなかっただけ良しとしよう」

それからも戦いは続いていく。

私の新しい裝騎、もう1人の私も戦いに加わりそして――その時は來た。

通者《ヴラーナ》からの連絡があった。彼と合流し次第、作戦は最終段階にる」

「信用できるんですか? マルクトの中央憲兵なんですよね」

「彼とは付き合いも長い。確かに手段を選ばない非な面はあるが、だからこそ信用できる」

「合流方法は?」

「戦闘中行方不明だ」

その戦場は、ある意味、今まで見た戦場の中で一番凄慘だった。

裝騎の殘骸の中に1騎、漆黒の裝騎が佇んでいた。

「遅かったわね。もう自分で終わらせてしまったわ」

殘骸は恐らく、彼と共に作戦へ參加したであろうマルクト神國の裝騎。

「自分の手で片付けたのか」

「ええ。カラスバ・リン率いる裝騎隊はロメニア皇國領で予想外の反抗にあい壊滅。生存者はいなかった。そういうお膳立てでしょ?」

「それはそうだが――」

「これは証明よ」

「証明、か」

「そう。私の決意のね」

そして運命の日。

より凄慘な戦い。

最後の作戦が幕を開けた。

「勝った……」

マリアの視線が捉えるのは大きく聳える神の象徴。

シャダイコンピュータのサーバータワー。

最後の一撃は敢えて大振りに、敢えて隙を見せて、そうでいながらスズメに目的を悟られないように。

裝騎サクレの手から決戦《ロンギヌス》仕様の突撃槍ロンが投げ放たれる。

それと同時に裝騎スパローの手にしたチェーンブレードが裝騎サクレのを貫いた。

「----負けた」

スズメは茫然と呟く。

神に突き刺さった突撃槍ロンは周囲の霊力《セジ》を巻き込みながら強烈な魔電霊子《アズル》を瞬間的に発生させる。

それと同時に突撃槍ロンに仕込まれた薬が起

火薬と魔電霊子の瞬間的暴発は強力な発を起こし――神を炎で包み込んだ。

激しい振と衝撃。

崩れていくサーバータワー。

天から降り注ぐ瓦礫の中で、マリアは朦朧とした意識でけなくなっている裝騎スパローを見た。

腹部が熱い。

チェーンブレードの一撃はマリアのも切り裂いていた。

どう考えても助かることのできない重癥。

どう考えてもかすことのできない

それでもマリアの目の前には救える1つの命があった。

「サエズリ・スズメーー生きて、私の分まで……そして、幸せに……」

マリアが最期に思ったのはささやかな願い。

「それと……ごめんね、みんな、フニャト」

それにしの後悔。

「だけど……楽しかった」

そして満足。

ただ無為に死んでいくはずだった自分が、多數の仲間に出會え、多數の強敵に出會え、最期に尊敬できる騎使に出會えた。

マリアの魂は黃金の輝きに包まれ、永い眠りにつくのだった。

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