『こちらも……いい糧ですね。撃て』

ベネッタが到著して早々、ベネッタの危険度も把握したのかジャンヌは號令をかけた。

二つの大砲とクロスボウの一斉掃。

黒い魔力を迸らせながら二人を狙う。

「『守護の加護(シールド)』！！」

『まさか……防がれた？』

背中わせのエルミラとベネッタの周囲に展開される魔力の壁。

砲弾の風も矢も全て防ぎ切ってひび割れはするが、二人までは屆かない。

ベネッタの防魔法はアポピスの能力さえ一瞬止められる堅牢さを誇る。"現実への影響力"が高いとはいえ屬魔力の斉ごときで崩れるはずもない。

エルミラがしかった一呼吸はベネッタが作り出す。

「ベネッタ！　頼んだわよ！」

「うんー！ 一気に行くよ！」

『炎の糧が背後に……』

ベネッタが前に、エルミラがその後ろに。

互いの意図がわかっているように即座にく。

「『あの日見た白亜(グロウ・アイディール)』！！」

銀の魔力が迸り、ベネッタの前に巨大な白壁が現れる。

ベネッタが唱えるのは上位に位置する防魔法。

大通りを橫斷するほど巨大なその白壁はベネッタの歩みに合わせてジャンヌ向かって突き進む。

『撃て！！』

人型魔力はジャンヌの號令と共に大砲で砲撃し始める。

……魔法生命の力やは生前の力や伝承に基づいている。人間同士の戦爭となれば城壁を攻略するのは必然。大砲は攻城兵だ。

"現実への影響力"を考えれば人型魔力の大砲は向かってくる白壁を破壊できるはずだった。

「そんなもの効くかあああああああ！！」

だがこの白壁はベネッタが作ったオリジナルの上位の防魔法。

その"現実への影響力"は自分が憧れた誰かの功績その現。

いくらジャンヌの"現実への影響力"が高かろうが、數が強みので破壊できるほどやわではない。

『私が路を開く。城壁にを開けて糧を捕らえよ！』

號令を下しながらジャンヌは剣を振るう。

その手に持つは異界における聖剣の一本。

エルミラの統魔法の一部を切り裂いたように、白壁に向けてジャンヌは剣を振るった。

「ボクの魔法を――！？」

『主の試練を前に壁など不要……糧を寄越しなさい。この腹を満たす糧を。神の言葉だけでは人間は生きられない。糧と神の言葉のどちらも必要なのだと、この空腹が私に教えてくれている！』

ジャンヌの持つ剣は魔を退ける聖剣……転じて、その斬撃には魔を象徴する神である魔法を破壊できる"現実への影響力"を持っている。

ベネッタの白壁はジャンヌの聖剣によって両斷され、きも止まった。

『どこに？』

しかし、切り開いた城壁の先にはベネッタしかいない。

ベネッタの背後にいたはずのエルミラが――

「食いなら向こうで探しなさい悪食」

『上――』

太を背にエルミラがジャンヌ目掛けて飛び降りる。

ジャンヌがベネッタとベネッタの魔法に気を取られていた數秒。

エルミラはベネッタの後ろに隠れるのではなく、白壁を駆け上がっていた。

この一撃を……呪詛を焼き盡くす自の炎を浴びせるために――！

「灰になれ！　その糞みたいな魔力ごと！！」

エルミラの炎は降り注ぎ、ジャンヌと人型魔力を飲み込む。

人型魔力は為す無く灰へと変わり……逃げ場を封じるように取り囲んだエルミラの炎はそのまま魔法生命ジャンヌを焼き盡くす。

『あああああああああああああ！！？　火……！　火！　火いいいいいいい！！』

鬼胎屬の魔力が焼かれ、灰へと変わっていく。

エルミラは確実な手応えをもって著地する。

ベネッタはそんなエルミラに駆け寄って反撃に備えた。

『あああああああああ！！　主よ！！　主よおおおおおおおお！！　違う！！　私は違う！！　私は聲を……！　まだ何も葉えて――！！』

を抱えるように苦しむジャンヌの聲。

あれだけこの場に重圧を加えていた鬼胎屬の魔力がエルミラの灰へと変わっていく。

「向こうで祈るのね。生憎、ここにあんたが祈る相手はいないわ……"炸裂(アネロ)"！！」

周囲にある呪詛を焼いて出來た灰はエルミラの一言で発する。

ジャンヌの壁は風の勢いのまま大通りに投げ出された。そのに……エルミラの炎を纏ったまま。

「いたたた……」

「はいはい、『治癒の加護(ヒール)』ー」

ベネッタは矢が刺さったエルミラの腕を治癒する。

エルミラは今も統魔法を維持しているが、聖剣によって魔法を切り裂かれた腕だけはそのままだった。

「やっぱりというか予想通りというか一人だときつかったでしょうね……」

「ボクの上位の防魔法……斬られちゃったんですけどー……。あれアポピス相手でも結構頑張れた魔法だったのに……」

「あの剣はちょっとわからないわ……相かそういう能力なのか……。発してこなかった所を見ると向こうも簡単には使えなかったんじゃないかしら」

「そりゃあんな"現実への影響力"持ってるの発されたらどうしようもないよー……」

ジャンヌが燃え盡きるのを見屆けながらベネッタはエルミラの治癒を終える。

二人はこの魔法生命を相手にどんな戦法をとるか互いにわかりあっていた。

ベネッタの防を盾にエルミラの最大火力を叩きこむ短期決戦。互いに作戦を伝えずにわかりあっていたのは、二人共このを相手に長期戦をしてはいけないとじ取っていたからだった。

「ベネッタ、あいつの核はどこ？」

「にあったよー」

「わかった。完全にかなくなったら破壊しに行くわよ」

エルミラはきを確認するように治癒された腕をぐーにしたいぱーにしたりしてかす。

戦闘が終わり核の位置も確認したのでベネッタも目を開けるのをやめた。

後は核を破壊すれば二人の今回の役目は終了である。

「宿主の人は大丈夫かなー？」

「大丈夫よ。今は呪詛しか焼かないようにコントロールしてるから……といっても、宿主が死んでたらわからない……け……ど……」

「え……」

燃え盛る炎の中、ゆらりと影がく。

エルミラとベネッタはその影を見て……言葉を失った。

炎の中にいるのは呪詛を焼かれているはずの魔法生命ジャンヌしかいない。

『ああ……！　見ていますか私を異端と斷じた皆々様……？　魔でなければ清き炎に焼かれる事はないと……あの日の私は信仰が足りぬばかりに火刑ごときに焼かれ死んでしまいました』

最後の抵抗かと構えた期待を大きく裏切るように、歓喜に震えた聲が炎の中から聞こえてくる。

エルミラの表が恐怖に染まる。

統魔法から確かに手応えをじているのに……その影は自分の肩を抱きながら、確かに今の自分に喜んでいる。

『ああ、神よ……！　見ていらっしゃいますか！？　ようやく、ようやく私の信仰は正しくあなたの下へと屆いたのですね……！　後はこの空腹を満たせば私は……私は！！』

「う……そ……！」

……人間はその脆弱なに宿る強靭な意思によって、時に常識を塗り替える。

誰にでも起こり得る逸。が神を凌駕する瞬間。

奇跡とは違う……人間が自分の意思によって引き起こす限界の破壊。

二人のは今、その瞬間を目の當たりにした。

包する屬は鬼胎から信仰へ。

焼かれて灰となるはずだった呪詛は聖火を乗り越える信仰を示す。

呪詛に侵されもなおこの信仰は不滅なのだと世界に証明する。

――人間は生きている間は勿論、時には死後でさえ進歩する。

人類の発展を願っても、萬人を滅ぼす悪意を持っていても……人間はその強い意思によって確実に先へと進む。

時には歴史や伝承に付けされて現実よりも強く、偉大に。

不平等よりも殘酷なほど平等に善悪も倫理も関係なく。

『私は……人間だああああああ！！　ふっ……ふふっ！　ははは……！　あははははははははははは！！　アはははハハはハはははは！！』

狂気を孕む哄笑と共に魔法生命ジャンヌは"存在の変生"に至る。

燃えぬに魔を退ける聖剣の力も取り込んで……信仰の魔力を纏って人を喰らう人間(かいぶつ)として長を遂げた。

彼は炎に巻かれながら口にする。

私は人間だ(・・・・・)。

その聲に頷けるものはいなかった。