《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》ペフェルティ本邸に著きました。

―――數週間後。

先に降りたイースティリア様に差し出された手を取ったアレリラは、馬車をふわりと降りた。

婚前は彼よりも先に、者の手を取って降りるのが常だったので、まだ慣れず気恥ずかしいけれど、夫の務めと言われてしまえば何も言えない。

緩やかな風をじ、ワンピースに合わせた深い青のつば広帽を押さえながら顔を上げると、空は晴れていて、見慣れた景が広がっていた。

「……懐かしいですね」

旅行の最初の地。

辿り著いた先は、ぺフェルティ領にある本邸だった。

昔、ボンボリーノの婚約者であった頃は、行儀見習いや節目の挨拶などで頻繁に訪れていた場所だ。

この地は、座學ではよく知る領でもあるけれど。

ボンボリーノとアーハが學生の時に旅行に出かけたマイルミーズ湖に代表されるように、実際に領に足を運ぶことはなかった。

「疲れはないか?」

「はい。空気が澄んでいるので、むしろ頭が冴えるような心地が致します」

イースティリア様の問いかけに、アレリラは首を橫に振った。

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ペフェルティ本邸の周りは、自然の多いのどかな場所である。

領主の住まう地ではあるけれど発展はしておらず、どちらかといえば、街というよりもし大きな村と呼んだ方が正しいだろう。

それというのも、ペフェルティ伯爵家は元々商業の中でも易によって財をして爵位を賜った家である、というのが大きい。

正直、屋敷のある場所よりも易街の方が発展しており、領主は社界のオフシーズン、そちらの別荘に滯在していることも多かった。

が、別にそれはペフェルティ伯爵家が領地経営に手を抜いている、という意味では決してない。

基本的に、この領地は食などに関して『自給自足』を旨としているのだ。

なので、領の主産業である易がし辛い本邸のある地には畑が多く存在し、屋敷の周りは植林で覆われている。

「アレリラちゃん、いらっしゃ〜い♪ ウェグムンド侯爵もようこそお越しくださいました〜♪」

到著を伝えられたのか、気軽な様子で顔を見せたのは、アーハだった。

丸い顔にいつも通りニコニコと満面の笑みを浮かべて、ブンブンと手を振ってくる。

その後ろで、頭が痛そうな様子でこめかみを押さえているのは、ボンボリーノの従兄弟、現在家令のキッポーである。

眼鏡をかけた生真面目な青年で、ボンボリーノとはあまり似ていない。

「あ、ウェグムンド侯爵〜! わざわざこんな所までご足労(ゴソクロー)ありがとうございまーす!」

ひょい、と屋敷の橫からボンボリーノも顔を見せて、イースティリア様に手を振る。

何をしていたのか、泥だらけの農作業姿だった。

手には何やら布の掛かった籠を持っている。

ーーー本當に、何故でしょう?

今日、アレリラ達が訪ねること自は知っていた筈なのだけれど、忘れていたのだろうか。

ボンボリーノならあり得そうではある。

すると、そこでキッポーが溜まりかねたように聲を上げた。

「ご當主様、奧方様! 客間で待つこともなく、ましてや侯爵様よりも先に口を開くとは何事ですか!」

ちょっと青ざめてを震わせているキッポーの気持ちは、アレリラにはよく分かる。

彼らは悪い気質の人間では決してないのだけれど、禮儀知らずな振る舞いを悪意なくするので、ハラハラすることが多いのである。

「家令殿。問題はない。これから世話になるのはこちらだ」

イースティリア様に直接聲を掛けられて、キッポーが90度に腰を折ると、恐したように『ご寛容な対応、誠にありがとうございます!』と聲を張り上げる。

誤解されることが多いのだけれど、イースティリア様は他人の禮儀には、さほどうるさくはない。

それを気にしたり苦言を呈するのは、基本的にフォーマルな場での振る舞いについてだ。

同時に『自分以外の誰か』に対する禮儀を欠いた行であったり、あるいは禮儀を欠いた側が損をする場面など、場を丸く収めるための忠言であることが多い。

『禮儀禮節とは、思想信條に関係なく、円な関係を維持する為のものである』というのが、イースティリア様の持論だった。

「キッポー。お久しぶりですね。顔を上げて下さい」

彼に頭を下げられたままでは話が進まないので、アレリラは彼に聲を掛けた。

以前はお互いに敬語であったけれど、今のアレリラは侯爵夫人、キッポーはペフェルティ家の家令なので、むしろ敬語を使った方が気が休まらないだろうという判斷だった。

「ウェグムンド夫人、お久しぶりでございます。客間と、応接室にて歓待の準備が整っておりますので、ご案致します」

「オレたちが案するよ〜?」

「ご當主様、お願いなのでお黙りになった上で、その普段著を部屋でお著替え遊ばしてから応接室にいらしていただけますか?」

笑顔ではあるものの、こめかみに青筋を浮かべてどことなく圧をじる早口で告げるキッポーに、不思議そうな顔をしながら頷いたボンボリーノは。

「そしたらハニー、キッポーと一緒に案よろしくな〜!」

「任せておいてくれていいわよぉ〜。早く著替えて來てねぇ〜!」

相変わらずニコニコと仲は良さそうで、何よりである。

キッポーが控えていた下働きに素早く指示を出し、アレリラ達の乗る馬車について來ていた荷った馬車に向かわせる。

滯在は一日だけなので、著替えだけを下ろすことになるというのは、こちらの者には伝えていた。

「それにしてもぉ〜、とっても仰々しいのねぇ〜?」

「イースティリア様は、宰相閣下にあらせられますので」

アーハが不思議がったのは、警備制についてだろう。

竜騎士3騎を含む護衛騎士が二十名ついており、彼らはこの後、ペフェルティ本邸周辺の警戒に當たる。

また、レイダック王太子殿下より貸し出された腕の立つ近衛が2名おり、彼らは軽裝ではあるものの帯剣しており、無言のままイースティリア様とアレリラの前後に常に立って移するように指示されていた。

また、目に見える人員以外にも、ウェグムンド侯爵家が飼っている〝影〟が複數名おり、彼らも同様に近くに潛んでいる筈だった。

この警備狀況は、徒歩の兵士がいないだけで、外國の最重要人警護と同等である。

イースティリア様の暗殺計畫がある、というのは、対外的には匿事項になっていた。

知っているのは、引き連れてきた騎士団と近衛二人、そして〝影〟のみ。

「そうなのねぇ〜。大変ねぇ〜!」

話に出しはしたものの、さほど気になることでもなかったのか、アーハはそう言ってアハハ、と笑う。

そんな彼に対して、アレリラもしだけ口元を緩めた。

親しく接するに気付いたのだけれど、アーハにはイースティリア様の頼り甲斐とは違うものの、どこか人を安心させるような雰囲気がある。

人の懐にスルリとり込むようなその気質を、アレリラはしだけ羨ましいと思っていた。

というわけで、新婚旅行最初の地は、ボンボリーノくんのところでした。

安定の緩さで安心しますね。

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