《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》何か、恨まれるようなことをしましたか?

「迷って、アタシは良かったのぉ〜!?」

「あはは、ハニーはハニーになってもらうつもりだったんだから、一蓮托生じゃないかぁ〜!」

「難しい言葉を使ってごまかそうとしてもダメよぉ〜!」

揺するアレリラをよそに、アーハがぷぅ、と頬を膨らませてむくれている。

結局、ボンボリーノがアクセサリーをプレゼントすることで、彼の機嫌は治ったのだけれど。

ーーーお祖父様が、わたくしとボンボリーノの破談をんでいた……?

それは、どういう意図なのだろうか。

アレリラは、の頃の數ないれ合いしかない祖父の顔を思い出していた。

當時は、労働をせず日に焼けていないこそを至上とする貴族としては、平民と変わらないほどに日焼けをしていた祖父の顔。

格も良く、手のひらはそれこそ騎士のようにゴツゴツとしており、優しげで整った顔立ちに笑みを浮かべると、人懐っこい印象になり、目に深い皺が刻まれる人。

黒髪黒目(・・・・)で、髪も短かった。

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フォッシモやアレリラを煙に巻くような言いを良くして、かな弟はよくムキになっていたけれど……アレリラの中で、そんな祖父との一番印象的だったやり取りは、まるで問答のようなものだった。

『お祖父様は、お母様とあまり仲がよろしくないのでしょうか?』

アレリラは、し距離がありそうな祖父と母を見て、そう問いかけたことがあった。

『ん? なぜそう思うんだい?』

わずかに目を見張った後、祖父はすぐに表を隠して笑みを浮かべた記憶がある。

そうして、彼はこう問いかけてきた。

『アレリラ。この世で一番ままならないものって、何だと思う?』

そう問われて、アレリラはし考えてから答えた。

『……他人の行、でしょうか』

自分の意思ではどうにもならないことと言われて、思いついたのがそれだったのだけれど。

祖父は答えを面白がりながらも、頭を橫に振った。

『君は賢いね、アレリラ。でもね、それ以上にままならないものがこの世にはあるんだよ』

『それはなんでしょう?』

すると祖父は、に手を當てて、片目を閉じた。

『ーーー自分の心だよ。他人よりもよほど、ままならないものさ』

それが、最初の問いかけの答えだとは、なんとなく察したけれど。

結局深く意味は分からないままだった。

ーーー何か、わたくし達は、お祖父様に恨まれるようなことを?

婚約を破棄されるというのは、非常に不名譽なことなのだ。

母とはギクシャクとした関係に見えたけれど、歓待してくれているように見えた祖父の心には、何かしこりがあったのだろうか。

それこそ、孫であるアレリラの名譽を傷つけたいとむほどに……。

「アル」

二人きりの時だけの呼び方をする、低く心地よい聲が耳に屆いたので、アレリラは我に返った。

気づくと、応接間にいたはずだったのに割り當てられた客間の中にいて、イースティリア様が目の前に立っている。

どうやら、思考に沒頭し過ぎていたらしい。

「申し訳ありません。わたくしは、何か相を……?」

「いや、アルに限ってそれはないが……」

心配そうなを瞳に浮かべたイースティリア様が、落ち著かせるようにそっとアレリラの肩に手を添える。

「タイア子爵の行は、おそらく君が懸念しているような理由によるものでは、ない」

まるで思考を読んだかのように伝えられて、アレリラは顔を伏せた。

ーーーイースティリア様は、何もかもお見通しですね。

何故分かるのだろう。

そう思いながら、アレリラは素直に言葉を溢してしまった。

「……何か、ご存じなのですね」

祖父のことに関して。

返ってくる答えは、分かっているけれど。

「私も直接面識があるわけではない。しかし君の祖父は……おそらく、陛下が最も信頼しておられる方だ。それ以上のことは語れないが、負ので行なさるような方ではないだろう」

し苦慮するように眉を寄せて、目は逸らさないまま。

イースティリア様は、誠実な言葉を舌に乗せる。

「では。わたくしどもの婚約に、帝國にとって何らかの不都合があったのでしょうか?」

正直、思いつかなかった。

領地は広大だが、基本的には山林に覆われたさほど旨味のない……なくとも當時は、金山も銀山も見つかっていなかった……ペフェルティ領と、そこに隣接する家柄が古いだけの領の子爵家との婚約である。

両親同士の仲が良いだけで結ばれたもので、注目されるような婚約ですらなかった。

すると、イースティリア様は意外なことに、微かな笑みを浮かべた。

「私も人のことは言えないが、アルは々悲観的だな」

「楽観していて取り返しのつかない事態になったことは、歴史上幾らでもございますので」

「それはその通りだ。しかし、人の思いというのは、悪意ばかりめているものではない。それが例え、一見悪し様に見えることであっても」

「そうでしょうか……好意から婚約を……」

破棄するよう示唆するなど、と言いかけたところで、アレリラは気付いた。

「……」

「悟ったようだな。そう、先ほどまで君の目の前にいただろう? 好意的な理由で、自ら泥を被っても婚約を破棄した男が」

ボンボリーノ。

當時のアレリラには理解し難い思考だったけれど、結果的に正しい行いをした、かつての婚約者。

「祖父も、同じだと?」

「気が合うと、ペフェルティ伯爵本人も言っていた。彼は君の祖父だろう? ……孫と気にっている男がお互いに不幸になりそうだと察したということは、十分にあり得る話だ」

言われてみれば、腑に落ちる話だった。

だからこそ、口添えをしようとしたのだと言われれば。

「……そうなのでしょうか」

「既に結果が出た、過去の話だ。婚約が破棄されたことで、私は君と出會うことが出來た。タイア領への滯在も手紙で快諾していただき、暗殺計畫について陛下に伝えたのも彼だということは忘れてはいけない」

祖父の行を、好意的にけ取ってもいいのだと。

傷ついたり悲観したりしなくていいのだと。

そう告げられて、アレリラは小さく頷いた。

という訳で、アレリラ、杞憂じゃね? って話でした。

まぁ婚約破棄を教唆されたって聞いて好意的にけ取れって方が難しいですけどね。とんでもねぇ前例がいるので問題なかったという。

次回、マイルミーズ湖へ! お楽しみにー!

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