《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》

「こりゃぁああ! ベルン! それは琥珀のだぞ!」

「キュルルー」

「ほらほら、喧嘩しないの。ベルンちゃんも琥珀ちゃんのペンをいたずらしちゃだめですよ」

ホテルに戻ると、クロヴィスさんを含めた全員がまだ私達の部屋にいた。むしろ貓くらいの大きさの竜が増えている。

騒がしくしているが、まるで子犬のじゃれ合いを見ているようなほほえましい景だった。琥珀と竜の掛け合いを楽しそうに眺めているクロヴィスさん、すごく馴染んでるな……。

あらためて、私はまだ顔を合わせていなかった竜に挨拶をする。クロヴィスさんがベルンディアムートと教えてくれた名前は、皆と同じように「ベルン」と稱を呼ぶことを許された。人の言葉は話せないけど、こちらの言っていることは分かるそうだ。

ワイバーン以外の竜なんて、こんなに近くで見るのは初めてだ。すごいキレイな生きだな。

「リアナ君、浮かない顔をしているけどどうしたんだい?」

「あ、えーと……ちょっと今日の話し合いでし問題が起きてしまって……」

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今日初対面の人に話すべき容ではないのだけど、クロヴィスさん側の事を考えると、報共有しておいた方が良いだろう。

フレドさんも母國に帰るので、私達も予定を早めて次の行き先を話し合っておかないと、連絡が取りづらくなってしまう。

なので軽く話してはいたが……私の家族関係に問題があって家出の形でこの街に居る事、実家の干渉を含めて、守ってくれるはずの後援の貴族から縁談を薦められて困っている事をアンナやフレドさん達にも伝える形で話した。

「あの子爵、日和見がすぎると思っていましたが、ここまでとは。リアナ様、すぐ街を出ましょう」

「ア、アンナ。いくらなんでも急すぎるわよ」

「遅すぎるよりはマシですよ! 屋敷に行ったら既に相手がいて、お見合いの既事実を作られたらどうなさるんですか」

たしかに、それをされるとキツイ。私の今の分が貴族の肩書のない、ただの市民でしかないから。「見合いを行った」と名分を作られると面倒な事になる。子爵はそこまでする人ではないが、私を取り込もうと今回の見合いを持ち込んだという本家の方はしかねないと思う。

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冒険者ギルドに間にってもらえば、貴族が婚姻で強引に取り込もうとしている……と抗議して無効に出來るパターンだとは思うけど、どの道ベタメタール家との関係は完全に修復出來ないようなものになる。

だったら、わざわざ地元著型の冒険者ギルドと地元の領主の仲を険悪にさせたくはない。冒険者ギルドにはたくさんお世話になったし。このまますっと何も無く街を出たい。

「計畫なんてしなくても大丈夫ですよ。リアナ様なら、違う土地に行っても食いはぐれは無いでしょうし。家を守る役目としてしっかり蓄えもしましたので、しばらく新しい街でのんびりしても良いと思います」

「そうだよ、俺も次の移住先を決める前にとりあえずすぐ街を離れるのは賛かな」

「わ、分かりました。迅速に検討したいと思います」

本人の私よりも深刻そうにを説かれて、私は二人の意見に慌てて頷いた。琥珀は橫で聞きながら、「難しい話は分からんが、暑いとこじゃなければ何処でもよいぞ」と分からないなりに意見を出してくれている。

「ねぇ、リアナ君、次にどこに行くかは決めてないんだよね?」

「そうですね。候補は見たりしてたんですけど」

「逆を言えばどこでも良いという事だ。ならミドガラント帝國に來ればいいんじゃないかな」

あ、と口から聲がれていた。あまりに足元すぎて、見えてなかった気がする。

「ちょい、クロヴィス……いきなりそんな事言ったら、リアナちゃん達も困るから」

「どうして? とりあえずの行き先だ。それに、合わなければその時また考えればいい」

こうして會話の中心になって主導権を握るクロヴィスさん、その存在を私を含めて皆自然にれていた。

人の上に立つ事に慣れている方なのだろう、しかしそれを高圧的だとかは一切じない。そういった人柄をじるからだろうか。それともフレドさんにどことなく似てるから……私は勝手に親しみを持ってしまっているかもしれないな。

「それに、うちに來るなら々と融通できる。僕は優秀な者が好きなんだ、人工魔石の開発者……錬金師リオ君。どうかな? ミドガラントに來てみないか?」

「だからクロヴィス強引な事は……ああもう、リアナちゃん、全然斷ってくれていいから」

「いえ、フレドさん。これは言われたからではなくて……人工魔石事業の売卻、これが終わったら、ミドガラントに行きたいと思います」

やはりというかなんと言うか、薄々予想していたように、フレドさんは私達がミドガラントに行くのを反対してきた。

「だ、だって! 移住先に挙げた條件に、これ以上合う國は無いですから。他の土地を選択肢にれるにしても、ミドガラントに行ってみてからにします」

「そうですよ! 今更水臭いですよフレドさん」

「そうじゃそうじゃ!」

「ぐぬぬ……」

しかしその反対をれる事は出來ない。アンナも琥珀もここでさようならとフレドさん一行と別の國に行くつもりは無いらしく、私に加勢してきた。

「……俺は……あのままあの國に居たら殺されるだろう、そう思うような事があったから逃げて來たんだ。勢については聞いてるけど、もう危険が無いとは言えない。ミドガラントには來ない方が良い」

反論するちゃんとした理由が無いと無理だと悟ったフレドさんは、はっきりとそう本音を口にした。私達を遠ざけたいフレドさんの気持ちも分かるけど……。

「一応、當時兄さんに直接害をそうとした王妃排斥派は出來る限り潰したからかなりの安全は確保出來てるけど……」

さらりと口にするクロヴィスさんに、エディさんが頷く。それは知っていたらしい……改めて、穏やかではない話だな。

「僕としては、帝國に來た方が良いと思っている。理由は二つ、この街から離れて新しい生活を築くのに、僕ならこれ以上ない後ろ盾になれる。もちろん君の家族や他の貴族にリアナ君を売ったりしない。それと、目が屆く場所で兄さんと一緒に居てくれた方が守りやすい」

「クロヴィス、」

「兄さんの目の研究をするために兄さん本人は絶対必要だ。兄さんの存在が明らかになるのが不可抗力だとして……モルガン家みたいな、兄さんの弱みになる存在を目が屆きにくい場所に置きたくないんだ」

「ク、クロヴィス!」

モルガン家、とはエディさんのご家族の事だ。両親や妹さんを含めて家族ぐるみ本當の兄弟のように育ったと聞いている。フレドさんが、自らが離れる事で危険から引き離した後、多分クロヴィスさんが代わりに庇護してたんだろうな。

初対面でこんなに親になってくれたのをし疑問に思っていたが、今の発言で納得した。なるほど、フレドさんのためか……とてもしっくり來てしまった。

「ミドガラント以外の國に行くとしたら……『竜の咆哮』名義で所有している件を一つ譲るから、そこの管理を名目に……事が終わるまで目立たずひっそりと暮らしてもらう事になるかな。監視ではないけど、護衛を兼ねた連絡員は著けさせてもらう。兄さんへの人質に使われるかもしれない以上、これは譲れない」

「目立たずひっそり?! ……そ、そんなの絶対無理だ……ッ! ……う、俺が國に行かないとならない以上、絶対報が洩れないという保証は無い……冒険者の俺の顔知ってる奴もいる訳だし……遠く離れた地でうっかり活躍して目立ったリアナちゃんが、俺のパーティーの仲間だったってバレたら……!!」

一人でうんうん悩んだフレドさんだったが、考の末に「一緒に行した方がまだ安心」という理由でミドガラント帝國に向かう事を納得してくれた。

……私が、絶対うっかり目立ってしまう事が前提なのがとても気になるが、ここで「目立つ事なんてしません!」と反論しては話がまた振出しに戻ってしまうので、渋々言葉を飲み込んだ。

「ここを離れると知られると面倒そうだ、僕が兄さん達のパーティーに依頼を出すからそれを口実に街を出よう」

「それがいいかな、守義務名目で行き先も正確な期間も全部に出來るし……」

「戻ってくる気が無いのが気取られないように、借りてる部屋を片付けたりしないで、全部置いて行ってしい。長期の依頼だからと數か月分家賃を前払いして、頃合いを見て賃貸の解約をすればいいかな。手配しておくよ。後は……」

私が考える前に、次々クロヴィスさんによって必要な話が進んだので特に口を挾まず々決まっていた。私は錬金工房を手放す事になるが、それを離れた土地からやるのが々面倒そうだが、そのくらいかな。

でも人工魔石事業は、あのすぐ意見を変える子爵にこのまま渡るのはちょっと心配だな、と考えた私は多計畫を変更したい旨を皆に相談した。

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