《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》766.辿り著いた場所
逃げるように走り続けた。
私の命にその燃え盛るような意思を屆かせるあのから。
もう二度と死にたくないと、撤退の號令をかける事もせずただ馬を走らせた。
けなくても、神の聲を聞けないまま死ぬのは恐かった。
死をけれた一度目でさえ、神の聲を聞いていなければ恐くて耐え切る事はできなかっただろう。
『はぁっ……! はぁっ……!』
ずっとずっと走らせた。
一日目はひたすら走って、傷口が塞がっていくのすら気付かずに走った。
二日目も自分がどこを走っているのかわからないまま走り続けた。同胞と呼ばれた鵺(ぬえ)さんがこの世界から消えたのに気付いた。私はその事実に目を逸らして祈りだけ捧げた。
三日目になって、私を乗せた馬が消えた。
魔力を維持できなくなったのすらわからず、今度は自分の足で走った。
の奧から這い上がる痛みと三日間ずっと鳴っていたお腹の音に耐えながら。
途中に見かけた村に寄れば、今度こそあの達に追い付かれるのではと思って通り過ぎた。
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私はまだ試練をし遂げていない。
何を食べても味がしないまま。どれだけ食べてもこの空腹は満たされない。
ならばきっとこの空腹を満たすために私は行しなければならない。
なのに、死が恐くて私は逃げるのを優先した。
「う……ぐ……!」
魔法生命の形態も維持できなくなり、私の姿は元に戻る。
私は人間が食べたい。
私がこう思うという事は、この世界にいる人間は全て主が用意してくださった糧のはずだ。
――本當に?
「っ……! ぁ……!」
疑問を抱く度に、私の頭を誰かが掻き毟る。
聲が聞こえる。蛇(・)が見える。
そして次にお腹が鳴って、私は自分に課せられた試練を思い出す。
この空腹を満たすのが神から與えられた試練だというのなら、私はこれをするために生まれてきた。だから私は、人間を食べなくてはいけないのだ。
なのに……こみ上げてくる恐怖が勝って、私はずっと走っていた。
(回復しなければ……。主の糧を……いただかなくては……)
しばらくして私は山に逃げ込んだ。
見渡す限り生い茂った木々、ゆっくりとした風の音。
こんな場所に主の糧がいるのかと思ったが、私の鼻は確実に食すべき糧を捉えていた。
(糧の匂い……!)
深い緑の薫りと土の香りの中に私は確かにむものを見つけた。
いる。
主の糧を食べれば延命できる。
一日、一時間、一秒でも長く。
最後まで私は生き抜かなければならない。
この試練をやり遂げるまでは死ぬことはできない。
だから――人間を食べなくては――!
「あ、れ……? 私も、人間……なのに……?」
頭が痛い。
何かがおかしい。/ おかしくない。
私のみは主の試練を果たすこと。/ 本當のみは?
聲が聞こえる。
神の聲とは違う何かの聲が。
――頭が、痛い。
死ぬのが恐いから、食べなくては。
この先にいる主の糧を。
我がに課せられた試練の為に。
この空腹を満たして神の聲を今度こそ。
しばらくうずくまって、頭の痛みが無くなった。
草木をかき分けて、主の糧の匂いがするほうに進んでいく。
どこにいる?
近いはずだ。
水場が近いのか水の匂いとそこらから漂う果の香りが邪魔をする。
「はぁ……はぁ……」
歩いて、ようやく木々をかきわける必要がないほどの場所に出る。
誰かが住んでいるのか小屋と廃墟のような建を見つけた。
山にる時には見えなかった。
けれど、確実に匂いはそこから漂ってきていた。
主の糧があの廃墟にいる。
願わくば味がしてくれたのなら言う事は無いが、それは高みというものか。
なくとも一人食えば魔力は補充できる。
あの達からけた傷を治すのに使ってしまった魔力をしでも補充できれば、次の糧を食べに探す力も手にる事だろう。
「は……は……!」
廃墟から音が聞こえてくる。
なんという幸運でしょうか。
探す前に向こうからやってきてくれるとは。
私は廃墟に向かって歩いていく。
扉の前で、主の糧が出てくるのを待った。
出てきた瞬間、その首を食らおう。
「ふんふふーん……あん?」
「……え」
出てきた糧は私を見てし驚いたような顔をしていた。
比べるわけではないが、その糧よりもきっと私のほうが驚いていた。
黒と白を基調とした全を包むような服。
その格好が持つ獨特な様相は、時代や土地によって形は違えど何者かがわかる。
こちらの世界ではついぞ見かけなかったのに――
「おいおい、あんたどうしたんだい? そんな苦しそうにして?」
私はその糧の聲を無視して廃墟だと思った建を見る。
違う。廃墟なんかじゃない。
ここは――教會(・・)だ。
そして、目の前にいるのは。
「……神に、仕える者…………?」
「は? ああ、この格好か。修道服ってやつだもんね。ここも元は教會だったから勘違いさせちまったかい? 悪いけど、私はそういうんじゃないよ」
その糧は私の問いに答えながらどこか気持ちのいい笑顔を浮かべた。
私の様子を見てか、その糧は続ける。
「よく辿り著けたねあんた。ここはカレッラ。元は世の中から追い出されたり弾かれた奴等が作った……ちょっとした隠れ家的な村さ」
「あなた……は……?」
「私はシスター。あー……なんだ。あんた、とりあえずうちで飯でも食ってくかい? ずいぶん腹が減ってるんだね、さっきから鳴りっぱなしだ」
「……え?」
私は自分の腹が鳴り続けている事にようやく気付いた。
ぐーぐー、とわかりやすい求を私に訴えている。
「ちょうど晝食の準備をしようと思ってたとこさ。安心しな、元から二人分やら三人分やら作ってたからね。味はともかく、量に関しては心配しなくていい。お嬢ちゃんのお腹くらいいっぱいにできる量を用意してやるよ。さ、りな」
「あ……え……?」
「いひひ! 遠慮しないしない! あ、風呂もりたいかい? ここまで來て疲れたろ。沸かしてやるからっちゃいな」
「え、あ……? か、謝致します……」
そう言ってその糧……シスターと名乗るは私を教會に招いた。
私は一何をやっているのだろう。
本來なら出てきたこの糧の首に食らいついていたはずなのに。
久しぶりに見た修道服と教會のせいか、それともシスターの言う晝食に釣られてか。お腹がずっと鳴っているはずなのに、私をこのシスターというを何故か私は食べ損ねていて……招かれるまま教會へと歩を進めていた。
いつも読んでくださってありがとうございます。
明日の更新で一區切りとなります。
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