《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》23 第4部2章 終

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。すずすけ でございます。

第4部最終話ということもあり、いつもより文字數が多くなっておりますがご了承下さい。

それではまた、後書きで。

翌日。

エインズたち三人はキルクに戻るカンザスの馬車に同席することになった。

晝前までエリアスの復興作業と合わせて土産をしていたエインズ。その間、カンザスは昨夜に続いてアラベッタと二人だけで打ち合わせを行っていた。

エインズたちがアラベッタの屋敷に戻ってきたのと、時を同じくしてカンザスもアラベッタとの打ち合わせ容がまとまったようだった。

「それではアラベッタ様、ありがとうございました」

「エインズ殿、こちらこそ心から謝いたします、ありがとうございました」

馬車の窓から挨拶するエインズに丁寧にお辭儀をするアラベッタ。

カンザスとの話も昨晩から長い時間行われていたのだろう、アラベッタの顔には多の疲れが見えていた。

「無理はしないでくださいね。またエリアスでアラベッタ様にお會いできることを楽しみにしているのですから」

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微笑みかけるエインズに、アラベッタはわずかに目を伏せる。

「……私も、今度は平穏なエリアスでエインズ殿と穏やかに親を深めたいと思っています」

「?」

すぐに笑顔を作り、手を振るアラベッタ。

エインズの向かいに座るカンザスはアラベッタを一瞥しただけで、者に出発の合図を飛ばした。

朝から街の復興のため汗を流しながら瓦礫の処理をするエリアス領民を窓から眺めながらエインズはエリアスを後にする。

エリアスの復興を手助けしてくれたエインズら三人に気づいた者たちの中には手を振ったり謝の言葉を投げる者もいた。

「これだけ謝されるのも久しぶりだね」

「私たちは皆いつも、エインズ様に心から謝していますので」

「ありがとう、ソフィア」

ソフィアの「私たち皆」という言葉がきっとアインズ領の領民のことを指しているんだろうと察したエインズは、久々にアインズ領に足を運ぼうかと考えたのだった。

王都に到著したエインズら一行はそのまま登城した。

海の番人によるエリアスの危機と並び、『次代の明星』の襲撃を撃退したエインズの功績を王國としては無視しておくこともできず、なんとも微妙な空気が流れる中謁見の場が設けられたのだった。特に玉座に座るヴァーツラフやその橫に連なる者たちのエインズを見る目がどこかよそよそしさがあった。

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學院で一言二言言葉をわしたハーラルや、一時親しくしていたキリシヤですらエインズに張を覚えている様子だった。

それもあって、エインズにとってはありがたいことだが謁見はごく短時間で終了した。

広間に殘ったのはエインズと僅かな衛兵のみ。

カンザスは王城での用事があるということで広間を離れ、エインズは以前から要していた玉座に著座するため広間に殘ったのだった。

ヴァーツラフの許可を得たエインズは玉座の周りを歩きながら、その構造を観察する。

「椅子の材料には特別なものは使われていないね」

椅子の背もたれや肘掛など、細かなところを観察するが何も見つからない。

(さすがに人目につくようなところに何も殘さないか……)

ならばとエインズはを屈めて椅子の裏を覗く。

「……あった」

そこには小さな式が一つ刻まれていた。

だがこれは魔法を発現させる直接的な魔法刻印というよりは、起スイッチのような簡単なもの。

エインズは広間全に目を凝らしながら玉座にゆっくりと座った。

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椅子の裏で魔法刻印が起するのが分かる。

玉座に座る者の魔力が、椅子の腳を通して広間全に薄く広がっていくのがエインズには分かった。

椅子の裏の魔法刻印はこのためのもの。広間に広がった魔力は、広間の間取りや裝飾、合い全てをもって一つの式魔法として展開される。

「玉座に座る者に注意を向け玉座を見る者に威圧を與える、空間的魔法。こんな繊細な魔法を誰が思いつくんだろう」

左ひじを置きながらエインズが考えていると、

「玉座に座って、この國の王になったつもりか? エインズ」

絨毯によって近づいてくる際のハイヒールの足音はかき消されたが、そこには忌々しそうに見下ろす妖艶なが立っていた。その手には扇子が握られている。

「君は……、リーザロッテだったかな。どうして君がここに來たんだい? もしかして僕にもっと君の魔を見せてくれるのかな?」

を躍らせるように話すエインズをリーザロッテは鼻で笑い、玉座のすぐ橫の空間に腰を下ろす。

何も知らぬ者はリーザロッテが空気の上に座っている奇妙な景に自の目を疑ってしまうが、彼が魔師であることを知るエインズは特に驚く様子もない。

「違うわ戯け。妾はお前を監視するためここへやって來させられたのだ、ヴァーツラフにな」

「なんだ……」

リーザロッテはエインズを一瞥して、衛兵に聞こえるよう一つ手を叩き「下がってよい」と聲をかけた。

リーザロッテの言葉に衛兵たちは靜かに広間を離れ、書庫以來の二人だけの空間となった。

「彼らはいいのかい?」

「お前が相手ではあいつらが居ようと意味はない。それに、邪魔もされたくはない」

「うん?」

エインズは顔を向け、空間に座るリーザロッテの目を見る。

強気で唯我獨尊と言わんばかりの言をしてきたリーザロッテのその目に僅かな揺らぎ。揺れる瞳にエインズが映る。

「……何が聞きたい」

先ほどまでの道化らしさが一切消えた、喜怒哀楽が凍り付いたような澄ました顔でエインズが尋ねる。

その顔はまさにエインズ=シルベタスとして、リーザロッテという一人の魔師に対して話す魔師の表そのもの。

「お前に聞くことなど一つに決まっている。魔について」

「君はすでに不完全解除の域に至っていたね。そんな魔師が何を知りたがっている?」

広間に二人の聲だけが響く。

赤い絨毯を踏み歩く者もおらず、外からの聲もってこない、二人の魔師だけの空間。

リーザロッテはエインズから一切目を離さずに答える。

「不完全解除のその先、……魔の終著點」

「……」

「妾も不完全解除に至った魔師の端くれだ、魔の歪さについてはに沁みて理解している。だが」

リーザロッテらしからぬ、すぼみな聲。

「今の君は、その先が見えないんだね」

苦しむように、苛立つように扇子を勢いよく開くリーザロッテ。

しも見えん、その郭すらも。その先が本當にあるのかすら疑ってしまうほどに」

「……」

「妾はそれが知りたいのだ、エインズ。それだけのためにお前のその忌々しい顔を見に來てやったのだ」

普段のように上からの言いをするリーザロッテだが、いつもの鋭さはない。

「僕がそれを教えるとでも?」

「教えるだろう? お前の制約がそうさせる」

「へぇ……」

「言っただろう、妾も魔師の端くれだ。お前の魔を見れば、おおよそその制約が何か推察することくらいできる」

「その確証は?」

エインズは向けられた扇子に目線を逸らすことなく間髪いれず返した。

だが、

「死ぬ覚悟はできているのか?」

リーザロッテの言葉に肩をすくめたエインズ。

「……いいだろう、どうやら制約にかかるみたいだ」

制約。それは魔師にとって命よりも大切なもの。課された制約を侵した者は存在が消え、周囲の記憶からも消されて無価値に死んでいく。

エインズは一息ついて、口を開いた。

「今の域に達している君ならばすでに、魔が萬能なものではないことくらいは理解しているだろう」

リーザロッテは當たり前のように頷く。これは彼も魔を不完全解除で発現させる魔師として當たり前に理解している容。

「萬能ではない魔は『』にしか過ぎない。世の理を歪めるための、理の中で足掻くための、それが魔。では、魔法とは?」

「世の理に準じた力」

「その通り。だからこそ『法』なんだ。法を前に歪にす力など、許されるはずもない。當たり前にそれは捻じ伏せる。だが、捻じ伏せても、捻じ伏せたが故に歪さは殘ってしまう」

「……それが、魔の呪縛」

エインズは首を橫に振った。

「いいや、祝福だ。君がどう思うのかは別として、僕はそう捉えている」

「あれが、祝福なわけがあるものか……」

を下げるリーザロッテは、彼の言うところの呪縛を思い起こしていた。

「まあ君がそう言うのならこの場ではどちらでもいい。……だが、法の強烈な力にも勝る強剛な歪力はどうなるか」

「勿ぶるな……っ」

だがエインズはリーザロッテの言葉を無視するかのように玉座から立ち上がった。

リーザロッテが見つめる中、ゆっくりと段を下りていく。

「どこに行くつもりだエインズ。まだ話は終わっておらん」

「いいや、終わった。その先を見るための手がかりは教えたつもりだ。あとは君が見つけられるかどうか」

「お前の……」

エインズの後ろ姿に、肩を震わせるリーザロッテ。彼は手の中にあった扇子を指が白くなるほど強く握りしめる。

「お前の、その何でも知っているかのようなその澄ました態度! 知っているくせに肝心なところだけは隠すその格の悪さが昔から不愉快だったのだ! それでどれだけの人間をわしてきた! 何人もの人生を狂わせてきた!」

リーザロッテも立ち上がり、に魔力を纏わせる。

怒りに任せて、リーザロッテの魔力が空間を荒ぶる。

「妾が呪縛に囚われたのもお前に出會ってしまったから! ならば、狂気の道を歩むことになった妾を導くのはお前の義務ではないのか!」

足を止め、ゆっくりとリーザロッテに振り向くエインズ。

そこには今にも泣きそうなほど、顔を歪める彼の姿があった。妖艶な絶世のが苦悩と怒りに顔を歪めた悲痛な姿が。

「……リーザロッテ、名前として違和を覚えていたんだよ僕は。普通、リーゼロッテのはずだが君は違う。その名、業を背負った名だね?」

「黙れ!」

扇子を向けるリーザロッテにエインズは踵を返した。

「ここで僕を殺したならば、こんな様子の君ならいつになってもその先は見えないだろうね。一時のに流されるつもりかい? 一生分以上の後悔をするつもりかい?」

腕を怒りに震わせたまま、魔法を放つこともなく魔を発現させることもなく、ただ停滯し続けるリーザロッテ。

「興が乗らない」

「……っ」

「……『原典』を読め。副本は君が作ったんだろう? ならばもっと深く読むことだ、これ以上は言わない」

エインズは再び歩き始めた。

リーザロッテに背を向けたまま「大サービスだったかな」と呟いて、左手を振った。

「用事も済んだことだし、僕は帰るとするさ。俗世の王によろしく伝えてくれよ」

師エインズ=シルベタスは、魔リーザロッテとの二度目の邂逅を終えた。

以上をもちまして第4部完結となります。

皆様、いかがでございましたでしょうか。

第4部は、これまでに比べかなり踏み込んだ容にしたつもりでございます。

なにせ『隻眼・隻腕・隻腳の魔師』は終始「魔法と魔」に焦點を當てた話にもかかわらずエインズの魔ですらぼやっとしたものでございましたから。

最強と思わせるだけ思わせて、全然戦わなかったですからね。

そんなエインズの力の一端をお見せすると同時に様々な方面のきと長、そして「魔法と魔」これらを描いたつもりでございます。

もちろん、稚拙な文章であるため皆様を満足させられたか疑問ではございますが。

ここまで長きにわたってお付き合い下さり本當にありがとうございました。

溫かいご想や、誤字字のご報告といつも皆様に助けられております。

ではございますが、これからも拙作とともに私とお付き合いくださると幸いにございます。

また、以前から報告させていただいておりました第5部投稿については、

し間を置かせていただきたく考えています。

また、時期の報告をさせていただきますのでご容赦ください。

長くなりましたが、

それではまた、第5部でお會いいたしましょう。

すずすけ

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