《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》768.休暇明け

「あー……ひどい目にあったわ……。帰郷期間で休めてたのって本當に最初の一年目だけじゃない……?」

休暇という名の激闘を終えて、帰郷期間を終えたアルム達はベラルタ魔法學院に戻ってきた。

いつも通り食堂に集まったアルム達五人は互いに帰郷期間での出來事を報告し合い、互いをねぎらう會のようなものになっている。

なにせ帰郷期間の間はトラブル続き報告続き。最後の學生生活の休暇にしてはあまりに嬉しくない多忙続きだったのである。

「一年目の帰郷期間の時、俺とエルミラは寮でだらだらしてただけだからな……思えばあれが一番気楽だったな」

「人聞きの悪いこと言うな! ちゃんと練習してたし、寮の掃除とかだってやってたでしょうが!」

エルミラが自信満々にそう言うが、アルムは首を傾げる。

半分以上俺がやっていたような……と考えた所でエルミラの名譽を考えて口を閉ざした。

「一年目はミスティ殿が大変だったね。當主継承式の話でどたばたしてたから」

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「ええ、実際はグレイシャ姉様にい出されるだけのイベントだったので……改めて卒業後にしなければいけないのが大変ですわ」

「ニードロス家が補佐貴族だった時だったからボクでさえ付き添いで々やってたからねー、ミスティなんて目が回るくらい忙しかったと思うよー?」

「うふふ、その節はありがとうございましたベネッタ」

「うんうんー! 一年の時はほんっと暇だったから全然ー!」

當主継承式の話をもう二年前かと懐かしむ面々。

ほっとしたような空気だが、がやがやと食堂は騒がしい。

主にエルミラとベネッタへの視線が多い。包帯をそこらに巻いているので當然かもしれない。エルミラは首、ベネッタは腕の傷がまだ治っていないのである。

もっとも、注目されるのに慣れてしまったからかそんな視線は気にせずにエルミラはテーブルに突っ伏している。

「ルクスの所は? クオルカさんと戦ったって聞いたぞ」

「ああ、流石父上というか……全く怯んでなかったよ。魔法生命相手に初戦でいつも通りの力を発揮なされていた」

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「へぇ……流石ルクスのお父さんだな……。有名な魔法使いなんだよな?」

アルムの疑問にテーブルに突っ伏していたエルミラも呆れたように起き上がる。

ミスティとベネッタは顔を見合わせて苦笑いだ。

「……あんたツッコミ待ちなわけ?」

「いや、純粋な疑問だが……俺にとっては初めて會った時の優しそうなお父さんって印象で終わりなんだ」

アルムとクオルカが最初に會ったのはそれこそカエシウス家の當主継承式だ。

平民であるアルムにも分け隔てなく……というよりもルクスの友達という事でそれ以上によくしてもらった思い出だけだ。魔法使いとしてのクオルカの姿は縁遠いのである。

「アルム、ルクスさんのお父様はマナリルの英雄……私達が生まれる前のまだ戦爭が絶えなかった時代を生き抜いた數ない魔法使いですわ。ガザスの軍隊を一人で相手しながら勝利した記録もある一騎當千の使い手です」

「昔は滅茶苦茶恐かったんだってー、お父様達の時代だと近付くのすら畏れ多いみたいな?」

「へぇ……あんな優しそうな人なのにな……」

思い出すのはルクスを可がるような笑顔と向けられた謝のみ。

アルムにはクオルカがどう恐いのかを想像するのは難しかった。

「僕達より大変だったのはエルミラとベネッタのほうだろう? ベネッタが魔法生命に乗って現れた時は何事かと……エルミラも著いていくし……」

「ケトゥスさんはボクだってほとんど初めましてだよー……でも悪い魔法生命じゃないというか……」

「まぁ、悪い奴がわざわざ他の魔法生命が暴れてるところに連れてってくれないでしょ……そのおかげで間に合ったみたいなもんだし。そのせいで死にかけたとも言えるけどさ……」

エルミラは思い出したくないようなげんなりした表で首をった。

治癒魔法でも治しきれなかった部分があの戦いを思い出すたびに痛む。

「今は王都近くの空にいるんだっけ?」

「うん、數ない魔法生命の味方だしー……このまま渉になるんじゃないかなー? 呪法があるから報提供は難しいだろうけどー」

「そうだね。それでも有益な事には変わりないし、向を監視できるってのは大きいよ。今回僕達が相手してた魔法生命達も現地でどうにかするしかなかったからね」

「スノラから帰った後みんな大変だったんだな……」

他人事のように言うアルムにエルミラとベネッタは顔を見合わせる。

二人の様子を眺めていると、ちらちらとミスティを見ている事に気が付いた。

流石のアルムも長くこんな景を見ていると二人が何をしようとしているかがわかるようになる。

これは二対一でミスティがからかわれる流れだな? と。

當のミスティをアルムがちらっと見るとミスティはアルムのほうを見ていたようで、不意に目が合うとらかい笑顔を浮かべていた。

「いやー……でも來週にはまた王都だからボク達も気は抜けないねー」

「そうそう。なにせ一番大変だったあんた達の一件が殘ってるわけだしね?」

にやにやしながらミスティのほうを見るエルミラとベネッタ。

アルムの橫顔を見て一歩出遅れているミスティに回避するはない。

すでに二対一の構図。ミスティをいじり倒す準備は出來ている。

「そっちのいざこざが終わった後アルムが見つけたっていう……カヤって人だっけ? アルムのお嫁さんの?」

「自稱です! じ・しょ・う!」

そこだけは忘れないようにと念押しするミスティ。

スノラでのカンパトーレ部隊の襲撃後、アルムが見つけたカヤ・クダラノは今回の事件の重要人として王都へと運ばれていった。

王都へと行くまではカエシウス家で面倒を見ていたのだが……あろう事かアルム以外の前でもアルムの嫁だと事を説明したようで、カエシウス家ではし一悶著があったのである。

アルム浮気説まで上がり始めて使用人達に質問攻めになった時は流石のアルムも疲れていた。

「いやぁ、アルムってばモテるようになったわねぇ」

「綺麗な人だったって聞いたよー?」

「た、確かに綺麗な方ではありましたが……」

「家に挨拶に行ったと思ったらライバル登場とはついてないわね、ミスティ?」

「う……うう……!」

ミスティがぷるぷるし始めたのを確認し、エルミラとベネッタは矛先をアルムに向ける。

ミスティだけをおちょくっていては二流。アルムを絡めてからかうのが一流なのだと言わんばかりに二人は息が合っていた。一方ルクスは我関せずを決めている。

「で、本當の所はどうだったのー? アルムくんー?」

「確かに綺麗な人ではあったな。禮儀正しい人だったし、俺の嫁と自稱している理由はよくわからないが、それ以外が普通に話せる人だったし面白い人だった」

「へぇ、アルムもそう思うんだ?」

「俺を何だと思ってるんだ……?」

「こりゃそのカヤって人が優勢かな……? どう思うミスティ?」

再び矛先をミスティに向けるが、ミスティの様子にエルミラとベネッタは固まった。

その表は冬の湖面のように靜かだった。

エルミラがんだのは恥ずかしさに耐える顔だが、それとはかけ離れている。

ベネッタがんだのはもう! と怒るミスティだったが、それともかけ離れている。

極めて冷淡な表で、口はうっすらと笑みを浮かべて瞳の奧にだけ炎が渦巻いていた。

ミスティが右手に持つティーカップの握りにはひびがっていて……そのまま握り潰しかねないと思うほどの圧を放っている。

「……」

「ひい!? エルミラ! あ、謝って! 目がやばい! 目がやばいよー!!」

「ごめん! ごめんミスティ! 冗談! 冗談だって! 恐いから無言やめて! 怪我人です! 手加減して!」

二人の謝罪を聞いてもミスティは無言のままだった。

その怒りが渦巻く瞳に自分達が映っていることは間違いない。

二人はすぐに謝り倒すが、すぐには許してやらないという意思が見られる。

からかうのであれば、當然からかう事を怒られる覚悟もしなければならない。一方的な友人関係などこの世には存在しないのである。

「あー、アルム? ミスティ殿と……ついでにエルミラとベネッタの名譽のために目を逸らしておいてあげてくれ」

「……? 見ないようにすればいいのか、任せろ」

苦笑いを浮かべるルクスのアドバイスでテーブルから目を逸らすアルム。

般若のような表でエルミラとベネッタに無言のまま怒りを見せるミスティ。

ミスティの怒りに怯えるエルミラとベネッタの様子はさておいて……休暇明けでも楽しそうだな、と周りからの視線はいつもより溫かかった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

帰郷期間から帰ってきました。

こここからが本當の意味での第十部最終章となります。どうぞ最後までお付き合いください。

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