《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》【コミックス①発売記念SS】鳥籠の夢
序盤でセシリアがローズブレイド邸を訪れた際、すぐに前世を明かしていたら……というお話です。
エルヴィスがヤバいです。
好王の十三番目の側妃にされそうになったセシリアは、その狀況から逃れようと、ローズブレイド公爵邸を訪れていた。
前世の義弟である、現ローズブレイド公爵エルヴィスの力を借りるためである。
「……私がアデラインの生まれ変わりであることを、打ち明けてしまいましょう」
一人になった応接室で、セシリアはそう決意する。
エルヴィスは義姉アデラインに対するが、とても重たい。重たすぎる。
その生まれ変わりであるセシリアが不幸になるのは、まないだろう。
「あら……? でも、どうして私はそんなことを知って……」
首を傾げたセシリアだったが、そのとき扉を叩く音が響いて思考を中斷する。
慌てて返事をすると同時に室してきたのは、エルヴィスだった。
「お待たせいたしました。私にどのようなご用件でしょうか?」
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エルヴィスの聲が冷たく響く。セシリアを眺める目も、邪魔者を見るような冷ややかなものだった。
怯みそうになるセシリアだが、勇気を出して口を開く。
「あの……私には前世の記憶があるのです」
「はあ……そうですか」
エルヴィスの視線が、哀れむようなものになった。頭がおかしい娘と思われているようだ。
しかしセシリアは、めげずに言葉を続ける。
「前世の私の名は、アデライン・ローズブレイド。あなたの義姉でした」
「なっ……!? 何を馬鹿なことをおっしゃっているのですか……!」
さすがに揺したらしく、エルヴィスの顔が変わる。
「信じてもらえないかもしれませんが、本當のことなのです。あの卒業パーティーの日、帰ったらあなたと本を読む約束をしていたのに、私は冤罪で懺悔の塔に押し込められ……誰かに突き落とされて死んでしまったのです」
「それは……」
セシリアの言葉に、エルヴィスは目を伏せる。何か思い當たることがあるのか、眉間に深い皺を寄せていた。
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「あの日読もうとしていた本は『鳥籠の夢』、その前の日に読んだのは『神の忘れもの』……他にも、何でも聞いてください。きっと思い出しますから」
セシリアは必死に訴えかける。
するとエルヴィスは頭を抱えながら、掠れた聲を出した。
「まさか……まさか、本當に……?」
そしてゆっくりと顔を上げた彼は、驚愕に満ちた表を浮かべている。
「義姉上……?」
「あの頃は、お姉ちゃまと呼ばれていたわ。大きくなったわね……」
ふわりと微笑んだセシリアを見て、エルヴィスの目が大きく見開かれた。
「そんな……本當に……! 何ということだ……!」
極まったようにぶと、エルヴィスはセシリアを抱き締めた。
「ああ……! こんな奇跡があっていいのだろうか……!」
「えっと……どうやら、信じてくれたみたいですね」
戸いながらも、セシリアはほっとする。これで協力してくれるはずだ。
「もちろんですとも。こうして再び會えたことを神に謝いたします。これからは、私が必ずあなたを守ります」
「ありがとうございます」
ようやく肩の荷が下りた気がして、セシリアは安堵の吐息をらす。
「それで、記憶を取り戻したから、私のところに來てくださったのですか?」
「ええと、実は……」
そこでセシリアは、今までの経緯を説明した。
後ろ盾を得ることができなければ、好王の十三番目の側妃として嫁がされてしまうのだ、と。
「……あの王太子、救いようがありませんね。しかも、またもあの好王ですか」
話を聞き終えたエルヴィスは、苦蟲を噛み潰したような顔をしている。
「ご安心ください。私が後ろ盾となりましょう。大切なあなたを、あのような男に渡すわけにはいきません」
頼もしいエルヴィスの言葉に、セシリアは嬉しくなって笑顔になる。
「では早速、婚約誓約書を作しましょう」
「こっ、婚約……!?」
ところが、エルヴィスがさらりと言った容を聞いて、セシリアは思わず絶句してしまった。
「後ろ盾となるのですから、當然でしょう。それに、そうしてしまえば、もう二度とあなたを他人に渡さなくてすみます。私としては、それが一番ましいことです」
「そ、それは……でも……前世では姉弟だったのに……」
「今は他人です。それに、前世でも姉弟とはいっても私は養子で、本來いとこ同士でした。問題は何もないはずですよ」
エルヴィスはにっこりと笑う。
確かに、今はもちろん、前世でも縁的には何の問題もない。
「でも……」
「今世で、誰と結婚なさるおつもりですか? それならいっそのこと、私と結婚してください」
「……」
「返事がないということは、了承していただけたということでよろしいですね」
「……はい」
有無を言わせない口調のエルヴィスに押されて、セシリアは頷いていた。
これは契約婚約だ。目的を果たせば、円満に婚約を解消すればよい。そう自分に言い聞かせる。
「よかった。斷られてしまったら、私は失意のあまり死んでしまいそうでしたよ」
「大げさすぎます」
「いえ、本気です」
エルヴィスは真顔で斷言する。
「私にとっては、あなただけがすべてなのです。このような奇跡が起こるなんて、夢にも思っていませんでした。だから、もう絶対に手放しません」
「……」
その熱っぽい眼差しに、セシリアは戸ってしまう。
前世では弟として可がっていたので、どう接すればいいのかわからないのだ。
「ああ、しています、義姉上」
「んっ……」
不意打ちのようにを奪われ、セシリアはを強張らせる。
すぐには離れたが、初めての口付けに心臓が激しく脈打つ。
「ふふ……可いですね」
「あっ……」
耳元で囁かれ、ぞくりと背筋が震えてしまう。
「あ……あの! 今日はそろそろ帰らないといけませんので……!」
このままだと大変なことになりそうな予がしたので、セシリアは慌ててエルヴィスから離れようとする。
しかし彼はそれを許さず、セシリアを強く抱き寄せた。
「帰る? あなたの家はここですよ。どこに帰るというのですか?」
心底不思議そうに尋ねられてしまい、セシリアは言葉を失う。
「大丈夫です。何も心配はいりません。これからはずっと一緒なのですから。一生、この腕の中でお守りします」
「え……?」
エルヴィスは、困するセシリアを抱き上げる。そして歩き出した。
「あ、あの……どこに……?」
「もちろん寢室に決まっているではありませんか。さあ、行きましょう。あなたが私のものだと刻み付けるのです」
「ちょっ……! 待って……!」
抵抗しようとするが、エルヴィスの腕から逃れることはできない。そのまま寢室まで運ばれると、寢臺に優しく下ろされた。
「あ……あの、冗談よね……? ねえ、お願い……」
必死に訴えるセシリアだが、エルヴィスは微笑むだけで答えない。代わりに、するりとネクタイをほどく。
シャツをぎ捨てた彼の上半を見て、セシリアは息をのんだ。
鍛え上げられたは見事に引き締まり、しい筋に覆われている。セシリアを見つめる目は、の炎を宿していて、とても冗談とは思えない。
前世のい姿しか知らないセシリアにとって、目の前にいるエルヴィスは見知らぬ男にしか見えなかった。
「嫌……やめて……」
セシリアは弱々しく首を橫に振る。
「大丈夫ですよ、優しくします。私はあなたを傷つけるようなことはいたしません。ただ、どうしても我慢できなかったのです。だって……」
そこで言葉を切ったエルヴィスは、セシリアの上に覆い被さってきた。
「あ……!」
「今の私は、もう子どもではないのですよ」
艶のある聲で囁かれると同時に、再びを奪われる。
「んっ……!」
激しく貪られるような口付けに、セシリアは呼吸さえままならない。
息苦しくて頭がぼんやりしてくる。
やがて解放されたときには、すっかり力が抜けてしまっていた。
「ああ、なんて可らしいのでしょう。私の義姉上は……」
うっとりと呟きながら、エルヴィスは頬をでてくる。
「すぐに結婚式を挙げましょう。そして、ローズブレイド領で二人幸せに暮らすのです。あなたのための屋敷を建て、あなたの好きな花を植えた溫室を作り……もう二度と誰もあなたを害することがないよう、大切に大切に守ります」
「……そ、それは……まさか、監……!?」
恐ろしい考えに行き當たり、セシリアは戦慄した。
エルヴィスは嬉しそうに笑う。
「ええ、そうですよ」
あっさり肯定されてしまう。その顔は無邪気なまでに純粋で、自分の発言に何一つ疑問を抱いていないようだった。
「私は、この世界で誰よりも何よりも、義姉上をしております。だから、誰にも渡したくない。そのためには、こうするのが一番なのです」
「そんな……」
「安心してください。私が一生をかけて、お世話をさせていただきますから」
「ひっ……!」
思わず悲鳴を上げるが、エルヴィスは気にした様子もない。むしろ楽しげだ。瞳には狂気じみたが浮かんでいる。
「ああ、しております。永遠に私だけのものでいてくださいね」
「い、いやぁー!!」
セシリアは恐怖のあまり、絶していた。
*
「……セシリア……セシリア……?」
はっとして目を開けると、心配そうに覗き込んでくるエルヴィスの顔があった。
思わず息をのむセシリアだが、すぐに我に返る。
「夢……?」
どうやら馬車の中で眠ってしまっていたようだ。窓の外を見ると、見慣れた風景が広がっている。もうすぐ屋敷に著くだろう。
結婚式を間近に控えて張しているせいか、妙な悪夢を見てしまったらしい。
「大丈夫ですか? ずいぶんとうなされていましたが……」
「あ……ええ……」
セシリアはぼんやりと返事をする。
先ほどの悪夢のせいで、まだ心臓がどきどきしている。
目の前のエルヴィスは、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。今の夢とは違い、セシリア本人のことをしてくれている、しい婚約者だ。
「悪い夢でも見たのですか?」
「ええ、まあ……」
「どのような容か聞いても?」
「ええと……もうよく覚えていないのですが、とにかく怖くて苦しいじのものだったと思います」
セシリアは曖昧にごまかすことにした。まさかエルヴィスが豹変して襲ってきて、監されそうになったとは、さすがに言えない。
「そうですか。怖い思いをされたのですね。かわいそうに……」
エルヴィスは優しく頭をでてくれる。それだけで、先ほどまでの恐怖が和らいでいく。
やはり現実のエルヴィスのほうが、ずっといい。
ただ、もしかしたら先ほどの夢は、もう一つの未來だったのではないだろうか。
セシリアがエルヴィスに協力を願い出たとき、すぐに前世を明かしていれば、そうなっていたのかもしれない。
「セシリア、どうかしましたか?」
黙り込んだセシリアを見て、エルヴィスは首を傾げる。
「いえ……なんでもありませんわ」
セシリアは首を橫に振った。
何にせよ、現実にはならなかったことだ。単なる夢にすぎない。
今のエルヴィスはセシリアのことをし、大切にしてくれる。それがすべてだ。
「さあ、著きましたよ。帰りましょう」
やがて馬車が屋敷に著くと、エルヴィスは微笑みかけてきた。
「ええ……」
セシリアは笑顔で応えると、差し出された手を取った。
2023/2/10頃に雙葉社モンスターコミックスf様より、コミックス『毒親に復讐したい悪役令嬢は、契約婚約した氷の貴公子に溺される』が発売予定です。
BEKO先生による、とても素敵なコミカライズになっています。
ご予約開始しておりますので、よろしければお手元に迎えていただければ嬉しいです。
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