《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》に襲われました。

そうして、ダエラール領を離れたアレリラ達は、ウェグムンド領にると馬車から竜車に乗り換えた。

ウェグムンド領で乗るのは、地竜が引く竜車である。

幾度か目にしたことがあるが、茶の鱗を持つ地と、同並がの関節部と顔を覆う巨大な魔法生である。

竜匠と呼ばれる、特別なテイマー能力を持つ人材のみが世話を行い、者となる為、非常に數がない。

気質は溫厚な方であるらしいが元々人よりも遙かに長壽である為か繁の実績はなく、野生の、親を失った子、という極めて限定された條件でのみ人に懐くらしい。

各國に數頭、小國であればそもそも所持することすら困難な生である。

ウェグムンド領が所持しているこの個者も、馴らした竜匠から數えて3代目の弟子であると聞いている。

テイマー能力も筋でけ継がれるものではないため、者同士のの繋がりもないらしい。

「やはり、揺れがないですね」

竜車そのものは、ウェグムンド領を訪れた際に一度乗っているが、への負擔が馬車の比ではなかった。

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は先ほどまで乗っていた馬車の二倍近く、強力なバネによって支えられている。

「馬車だけの力ではない。『竜道』は、ウェグムンド領の移の要だ。一般に開放する代わりに、本邸がある場所を中継點とすることで領に利益もある」

「存じ上げております」

イースティリア様は何気ないことのように答えたが、それには膨大な維持費が投されている。

この道の整備・維持制は大街道計畫の參考になるほど優れており、ウェグムンド領の主要事業の一環だからだ。

ウェグムンド領は平野部が多く、元々通の要だったが、それに加えて『竜道』は安全や速度に配慮した道である。

道の広さも竜に合わせて幅が広く行き來がしやすい上に、土の魔が得意な魔士によって、固さを保ったまま荒れないように定期的に整備されていた。

その上、通過の際の関稅のみで多くの旅人や行商人が利用出來るのだ。

『竜道』は隣接する各領に向かって、ウェグムンド本邸から各方面に向かってびており、かつ領主が管理する道である為、宿泊所もそこかしこに設置されている。

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が、そんな安全である筈の道行きに、突如不穏な騒が起こった。

『魔だ!!』

という旅人のびと共に悲鳴が巻き起こり、ギャアギャアと耳障りな鳴き聲が複數聴こえてくる。

「魔だと……?」

イースティリア様が、かすかに眉を寄せたタイミングで、緩やかに竜車が速度を落として行く。

「駆け抜けないのですか?」

魔法生、と呼ばれる類いの生の大半は、獰猛で人を襲う。

馴らせる種や比較的溫厚な種が『幻獣』と呼ばれていたように、獰猛で敵対的な種は、基本的に駆除対象として『魔』あるいは『魔獣』と呼ばれて區別されていた。

しかし地竜であれば、多獰猛な程度の魔など相手にもならない筈である。

さらに竜車には、防護結界が施されていた。

イースティリア様のの安全を考慮するのなら、無視して進むのが結果的な安全に繋がる。

けれど。

「ウェグムンド領での災害は、最優先で対処するように徹底している。川の氾濫、土砂崩れ同様、魔の討伐も例外ではない。領民を守る為に、我々は財を預かり、贅に興じることを許されているのだからな」

「失言でした」

「良い。テラスへ出るぞ」

竜車は人の長よりも高い車によって支えられている為、相応に大きいが、重量の関係からアレリラ達が乗る場所以外には屋がない。

閉した荷などを置く後方のテラススペースに出ると、ユニコーンで空を駆けていたナナシャが目を剝いた。

「閣下! 危険です、お下がり下さい!」

空を見上げると、黒い魔がガァガァと飛んでいる。

を持つ強靭で厄介な魔、ガーゴイルだ。

それも複數おり、それぞれに通常よりも巨大であるように見えた。

ーーー近年、魔の力が増し、巨大化しているという話は聞いておりましたが。

だが、見てわかるほど明らかだとは思わなかった。

イースティリア様は、ナナシャの聲に軽く手を上げただけで応え、テラスの端に著くと、珍しく聲を張り上げた。

「護衛兵以外は竜車へ寄れ! 遠い者は木々の側へ行ってしゃがめ!」

ガーゴイルは目と鼻が良くない、という資料がある。

聴覚は良いが、ジッとじろぎせず息を潛めていることが、やり過ごす為の手段だと伝わっていた。

空からの攻撃は対処が難しく、ガーゴイルの場合、弓など魔以外の攻撃手段はそのの強固から有効ではない。

「どうなさるのです!?」

もう一人の、イースティリア様の近衛であるドルグの乗り手、トルージュが投槍を構えながら問いかける。

黒い短髪の、日に焼けたをした大男だ。

彼に、イースティリア様は言葉を返した。

「結界を張る」

イースティリア様が手を掲げて呪文を唱えると、近くに寄って來た旅人ごと強固な結界が竜車を包んだ。

「ナナシャ、地竜を戦闘に使うことを許すと伝えて來い。トルージュ、今から補助魔を掛ける。確実に始末しろ。護衛兵の一部は、怪我をした者達を守れ!」

イースティリア様が頷いたので、アレリラは彼の橫に立つ。

イースティリア様を襲おうと降下してきたガーゴイルが天蓋に弾かれるのを見ながら、アレリラはナナシャとトルージュを含む護衛兵達を、乗騎ごと補助魔の対象とする。

「……!?」

いきなり投槍が軽くなったからか、トルージュが兜の隙間から覗く目を大きく見開いた。

「おそらく、それならガーゴイルのを貫ける筈です」

イースティリアとアレリラは、共に攻撃魔を不得手としている。

また、金や銀の瞳を持つ者など、選ばれた攻撃や治癒魔の使い手には遠く及ばないが、それでも貴族である。

イースティリア様は、帝國に他に類を見ない防の使い手であり、アレリラは強化の補助魔において學年トップの績を持っていた。

基本的に事務仕事で長時間同じ勢のを保護したり、馬車に乗る時に負擔が掛からないように使用していたが、本來はこうした使い方をするものである。

イースティリア様の采配で行が一つに纏まり、地竜による砂嵐のブレスや、雙竜の炎のブレスなどによって連攜を分斷されたガーゴイルが、瞬く間に個別に駆逐されていく。

特に、空を駆けるユニコーンはガーゴイルに対して不利がなく、雷鳴の攻撃は、補助魔によって一撃でガーゴイルを消し炭にして落として行った。

騒ぎが落ち著くと、イースティリア様は怪我をした旅人の応急処置と、荷馬車に手分けして乗せるよう指示して、竜車に戻る。

「お疲れ様でした」

「大したことはしていない。次の街に著いたら、旅人の醫療費と眠る場所を準備してくれ。私費で構わない」

「畏まりました」

そうして、普段と変わらないやり取りをした後、竜車は再び走り出した。

アレリラ達が忙しくても調を崩さない理由の一つ、補助魔

使い方がサラリーマンである。

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