《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》879 最悪の攻略法
手渡したマジックアイテムがふわりと宙に浮かんだかと思うと、凸凹コンビの拳がめり込んでいた。
「な、なんで!?」
「同僚に騙されたとはいえ、最後の最後まで何もできませんでしたとなると國家の軍人の名折れなんでな」
「私も敵にしてやられたままでは、仲間たちに合わせる顔がありませんので」
それは、出會ってから二人が初めて見せたすがすがしい笑顔だった。
それを覆いつくそうとするかのように、破壊されたマジックアイテムから強烈なが発せられ始める。
「だからって、どうなるかも分からないのに!」
「ははっ。それなら案外全員無事に生き延びているかもしれませんね」
「そりゃあいいな!……だが、なくともお前たちは解放されるだろうよ」
!!
やっぱりこの人たちは!
しかし、文句も罵聲も口にすることはできず、吹き荒れるの激流に飲み込まれてボクの意識はそこで途絶えることになった……。
気が付くと、ボクたちはらかな草の上に倒れ伏していた。そよそよと吹く風はらかいのにどこか寒さをじる。
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……ああ、『大霊山』によって日差しがさえぎられているからか。このあたりに棲むとなると日照権が問題になりそうだわね。そんなどこかズレた考えが頭に浮かんだ。
「うーん……」
起き上がりながら軽く頭を振ることで霞(かすみ)がかった思考をクリアにしていく。ふと周りを見やればミルファとネイトも無事だったようで、ボクと同じくを起こそうとしていた。
「そうか。ついにあの二人もいくことができたのか」
「誰!?」
突然聞こえてきた聲に慌ててそちらを向くと、巖に腰かけた怪しい人がいた。
「……驚かせたことには謝ろう。だからその敵意を靜めてはくれないかね」
「こちらの都合で申し訳ないけど、ローブのフードを目深にかぶった人に碌な思い出がないの。信用してしいのであれば顔くらいは見せてもらいたいかな」
「それで無用な衝突を避けられるのであれば喜んで」
その人は予想外にもあっさりとフードをぎ、隠されていた顔を日の目に曬したのだった。わずかに見えていたキューズを始めホムンクルスたちの口元とは全く似ていない。
どうやらローブ姿は単なる偶然の一致だったようだ。よくよく考えてみれば魔法使い系のキャラクターが裝備として、そして外套(がいとう)代わりとしてローブを著込んでいるなんてよくあることだった。
目まぐるしい狀況の変化の連続で、知らぬ間に神経質になっていたようだ。
そんな彼――顔立ちや聲音から恐らくは男だ――のお顔を一言で表すならば、形だった。アイドルグループや俳優陣でも彼レベルのイケメンさんはそうはいないと思う。
そのせいなのか、いまいち年齢が絞り切れない。ハイティーンから二十代前半のようにも見えるし、三十代もしくは四十代だと言われても納得できてしまいそうなのだ。
ミルファもネイトもすっかり見惚れてしまっている。いや、ミルファは婚約者がいるよね!?バルバロイさん泣いちゃうよ?ネイトだってクンビーラ冒険者協會の支部長で、形エルフのデュランさんと何度も顔を合わせているでしょうに……。
まあ、かくいうボクも危なかったけれどね。別は違えど里っちゃんという人さんが近にいなければ目を奪われていたかもしれない。
さて、顔を見せてくれたのだから、名乗りくらいはこちらからしなくてはいけないだろう。
「こちらの要を聞いてくれてありがとう。ボクはリュカリュカ・ミミル。ここから北にあるクンビーラを城にしている冒険者だよ。この二人はパーティーメンバーのミルファとネイト」
今の段階では何者なのか分からないからこれで一杯といったところだ。あちらもそれは理解しているようで気を悪くした様子はなかった。
ただ、さすがにその後の自己紹介には開いた口がふさがらなくなりそうだったけれど。
「名乗られたからには名乗り返すのが禮儀というものだろう。僕の名前はスラット・ドゥエン。『大陸統一國家』最後のドゥエン王朝直系にして、最後の王となったエアーレの実弟さ」
は?
はああああああ!?
「國家の王弟?あなたが!?」
そんな人がどうしてこんな場所に?……いや、今はそれよりも先に聞かなくてはいけないことがある。
「ぶしつけだけど一つ質問させて。あの閉鎖された空間と、そこに居た二人はどうなったの?」
「あの空間がどうなったのか、君たちがこの場にいることが答えだよ。……あの二人は、死んだ」
「……ぐうっ!」
び出さないよう強く下を噛む。噓だと怒鳴り散らしたかった。が、それを証明するための材料がない。
「二人だけじゃない。あの空間が解かれたことで捕らわれていた全ての存在に時間の流れが一気に押し寄せたんだ。例えエルフやドラゴンのような長命な種であっても生きてはいられない。それだけ長い間、彼らはあの場に捕らわれ続けていたんだ」
見上げた空はあの空間で見たものと同じく、青く蒼くどこまでも澄んでいた。
「君たちには禮を言うよ。彼らを知る者として、そして同じ時代を生きた者として、二人を解き放ってくれてありがとう」
聞きたかった言葉のはずなのに。それを口にする人が違うだけでこれほどまでに虛(むな)しくじるだなんて。ミルファもネイトも力なく肩を落としていた。
「こんな……、こんな終わり方だなんて……」
「あの二人自がマジックアイテムを破壊する、それしか閉鎖空間を打ち破る方法はなかった。僕はそう聞いているよ」
あの正四面(マジックアイテム)は攻撃してきた者の力を自で吸い取る機能が付いていたのだとか。唯一例外となるのが閉鎖空間のパーツにされていた凸凹コンビだった。
ちなみに、二人を置いて先に進もうとした場合、『大霊山』周辺からはるかに遠く離れた地點へとランダムで飛ばされるようになっていたらしい。
「つまり、ボクたちがここへ來るためには二人の犠牲が必要だったということなのか……」
とんでもない悪趣味な罠だ。こんなものを起させるだなんて、とても正気だとは思えない。
「その通りさ。僕を含め當時の連中は皆どこか狂っていたんだ」
「こんな、こんな終わり方なんて……!」
出會った人すべてを幸せにできるだなんて考えてはいないし、ボクたちの関與がきっけかになって不幸になったり命を落とした人だっている。だけどそれは、立場の違いがあってのことだった。
あの閉鎖空間の中で、ボクたちと彼らは同じ方向を向いていたはずなのだ。
「さて、彼らが何を思って行したのか。その答えは恐らくそこにあるのだろうね」
スラットさんが指さした先、そこには彼が腰かけているのと同じくらいの大きさの巖があった。
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