《傭兵と壊れた世界》第百三十八話:戦闘開始

緒戦はラスクの西側で始まった。腹の探り合いではなく、開幕から最速。ホルクス元軍団長が持ち前の腳力でローレンシア軍を破壊する。

「全速力だテメエら!」

狼部隊が躍り出た。より速く、より強く、ホルクスは仲間を背負って戦場を駆ける。刻限はローレンシア兵が集結するまで。

「とばしすぎでは!?」

「馬鹿かよイサーク! ローレンシアが態勢を整えたら俺達の敗けだぞ!」

「ですが後続が追いつけません!」

「ケツ叩いてでも追いつかせろ!」

ホルクスが前方の角に潛む敵兵を補足した。壁を伝って高所を取り、そのまま散弾銃で撃ちおろしつつ敵軍のど真ん中に著地。同士討ちを恐れて発砲をためらうローレンシア兵を食い散らかした。

「前しか活路はねえぞ!」

そうして足並みがれた敵兵をホルクスの部下が潰す。常人には真似できない荒業だ。仲間すら置き去りにするような戦い方は、ホルクスが並外れた覚と運神経を有しているからこそり立つ。

戦の天才である。誰に狙われているのか、どれを潰せば混するかを瞬時に把握し、敵兵の數や地形を利用して最適解を導き出す。その「答えを導き出す速度」がずば抜けているのだ。

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ローレンシアの牙として幾多の敵を砕いたホルクスが、今度はローレンシアに食らいついた。深く、どこまでも鋭利に。

勢いにのったホルクスは誰にも止められない――。

「活路なんてありませんよ。私が、許しませんとも」

孤立したローレンシアの部隊に襲い掛かろうとしたホルクス。しかし、ローレンシア兵のきが急に変わった。まるで一つの意思に統率されたかのような連攜を見せたのだ。末端の兵士までもが練兵と遜ないきをする。

この厄介な相手を彼は知っていた。反シャルコー機構と呼ばれるによって兵士と同調する力。高い処理能力が要求されるため長らく大國に眠っていたが、適合した途端にその力を憾なく発揮し、若いでありながらも軍団長にのぼりつめた

「ちっ、アメリアか……!」

流石にホルクス一人で攻めるには守りが固い。ホルクスは一旦、イサークのもとへ下がろうとした。だが狼の足をもってしてもローレンシア兵を引き離せない。まるできが読まれているかのように、ホルクスの退卻ルートが潰されていく。

「頭が高いのだ。誰が住まう國だと思っている?」

忠臣アメリア。彼は落ち著いた様子で構えた。

シモンの死とホルクスの寢返り。一度に軍団長を二人失うという危機的狀況が彼を強引に長させた。

兵を束ねて國を守るのがアメリアの使命。殘された軍団長として責務を果たす。土壇場で一皮むけたアメリアの存在は、離れているにも関わらずホルクスがじられるほど大きい。

続々と集結するアメリア軍。その圧力に狼部隊がたじろぐ。

「へい、イサーク、困った狀況だ」

「――これは、難しいですね。抜けられそうな隙がない」

「なら正面からぶつかるか」

「――本気ですか?」

「それが一番早いだろ」

ホルクスが獰猛な顔になる。なる獣を表に出す。退卻する時間はない。ならば、力で押しとおるのみ。ホルクスは通信機越しにんだ。

「てめえらの大好きな戦の時間だ! 來るとこまで來たんだから、今さら退けねえよなァ!」

「おう!」

「喰らえ! 殺せ! 二度と歯向かえないように叩き潰せ!」

「うぉぉおお!」

ホルクス軍が鬨(とき)の聲を上げる。彼らは國を捨てた。ホルクスの圧倒的なカリスマ。そして戦場で発揮する比類なき力が大國ではなくホルクスを選ばせた。

「狼どもにひるむな! 天巫様を奪おうとする無法者に鉄槌をくだせ!」

「天巫様に忠誠を!」

アメリア軍も負けじと聲を上げる。天巫に仕えることを至上と考える集団だ。彼を守るための戦となれば士気が跳ね上がる。

両軍、激突。

かつて肩を並べあった二人の戦いが始まった。

ホルクスとアメリアを中心にして熱気が渦巻く一方、南側の戦場でも二人の傑が睨み合う。

「ユーリィ様、ホルクスがきました」

「了解。それじゃあ僕らも始めようか」

ゆるりと旗を掲げる。亡國ルートヴィアの國旗を今一度、太の下へ。戦場にが差した。まるで天運が解放戦線を後押しするかのようだ。

「おいユーリィ。あたしはどうしたらいい?」

隣にじゃじゃ馬娘のラチェッタが並ぶ。先の戦いで左足を失った彼だが、商業國から提供された義足のおかげで再び戦場に立つことができた。

「ラチェッタは待機だ。君には役目がある。合図を送るまで待っていてくれ」

「仲間が戦うのを眺めていろってか?」

「そう睨むなよ。君も了承しただろう?」

ラチェッタはしかめっ面のまま否定も肯定もしない。了承はしたが、納得はしていないというわけだ。

「死ぬなよ」

「この旗を祖國に返すまでは死なないよ」

利用できるものはすべて利用した。同志を集め、商業國の支援をれ、ホルクスを懐し、ようやく立つことを許された戦場だ。一世一代の大勝負。負ければ後がない。

「同志諸君よ、銃を持て! ルートヴィアが大國に通用するのだと証明しろ! 革命の夜明けは近いぞ!」

「ルートヴィア萬歳!」

する解放戦線。鬼気迫る表で進軍を始めた。

対するは軍部の頂點、アーノルフ元帥。かつてシモンが率いた第二軍をまとめ、解放戦線の主力部隊と相対する。

「左翼展開、敵を封じ込めろ。砲弾はまだ撃つな。地の利は我々にある。焦らずに敵が程圏まで進むのを待て」

アーノルフの命令が全軍に通達される。戦いを忘れさせるほど落ち著いた聲だ。ローレンシアが危機的な狀況であることは変わりない。だが、無闇に兵を焦らせては勝てる戦も負けるだろう。

「亡國だからと侮るな。あらゆる不安を排除し、今度こそ徹底的に叩きのめすのだ。我ら大國の威を、そして天巫様のご加護を知らしめろ」

統率されたきでローレンシア軍が迎え撃つ。たとえ劣勢であろうともアーノルフがいれば問題ない。彼の命令は絶対だ。そう思わせる力が、大國の兵士をい立たせる。

かくして第二〇小隊がまだ到著していない中、ルーロ革命は激化の一途をたどっていた。

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