《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》279.魔大陸風ペスカトーレ
279.魔大陸風ペスカトーレ
「やれやれ、ひどい目にあったな」
「問題ははぐれてしまったクラゲさん、もといパウリナさんですね。無事だといいのですが」
日はすっかり暮れて夜。野営のための焚火の、パチパチと小枝のぜる音だけが靜寂の中に響く。
焚火の周囲には、近くの川で釣った魚たちを串刺しにして刺して焼かれていた。
「だが、焼くだけでは味気ない。せっかくだからメインも用意しよう」
俺は真剣な表で、アイテムボックスからアイテムを取り出す。
そして、とりわけておいた魚を捌いて調理し一品完させた。
「よし出來た! 【魔大陸の魚をふんだんに使ったペスカトーレ】の完だ!」
俺はそれを集まっていたメンバーたちの前に皿に盛りつけて置いていく。
「さすがアリアケ君ですね。香ばしい香りがより一層引き立ちました。やはり旅館を將來一緒に経営するのはアリアケ君しかしませんね。お姉さんは確信しましたよ!」
著姿のブリギッテが手放しに喜ぶ。
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「こんな見知らぬ土地だ。せめて旨いものを食べて英気を養わねばな」
余った魚も串焼きのまま薪の周りに刺しておく。
小腹が空いた者が好きに食べるだろう。
何より、パチパチと枝のぜる心地良い音とともに、良い香りが周囲に漂うが良い。
「それにしても神イシス様はどうされたのでしょうか? 奔放の方だとは思っていましたが、いきなり何か言ったかと思えば私たちを魔大陸に飛ばすなんて。アリアケ君には分かりますか? もぐもぐ」
「俺たちはついでじゃないかな? むぐむぐ」
俺の言葉に、沈黙をしていた一人のが興味深そうに口を開く。
「もぐもぐ。ほう、ついでとはどいういうことですか、アリアケ神よ」
オートマタのエリスであった。最初は警戒していたようだが、今は旺盛にペスカトーレを頬張っていた。それによってほっぺがとても膨らんでいる。
「アリアケでいい。それに彼のことはブリギッテ、槍の使い手はラッカライと呼んでくれ。俺たちも君のことはエリスと呼ぶ。構わないか?」
「もぐもぐ、ごくん! ええ、構わない。それにしてもこの料理は味です。マナばかり食べてるより場合ではなかったですね。一生の不覚という概念を習得しました」
「オートマタ種族は食事はしないのか?」
「無駄だと思われているので普通しません。効率を重視する種族ですから。もぐもぐ、おかわり」
「……案外、健啖家だな。大きくなるぞ」
俺の言葉に、
「あのエリスさん! アリアケ君は先生もしているので、たくさん食べる子を応援しているだけですから。決して、そのあなたのそのがどうこう、とかそういう意味ではないですよ。特にお姉さんはそのシルバーのつるつるしたじの、とってもいいと思います! 好きです!」
「貴からの言葉で初めてで侮辱のようなニュアンスをけ取りましたが、ブリギッテ」
淡々とした口調ながら、エリスが半眼になった。
人形のように無表なのがデフォだが、こういう表も出來るのだなと思う。
と、そんな會話をしているところに、
「先生もブリギッテ様もエリスさんも! お願いですから食べに集中するか、今後の方針の話に集中するかしてください! っていうか!」
最後の一人、ラッカライが思いっきりツッコんだ。
「どうして敵であるエリスさんが普通に一緒にいるんですか‼」
ビシーッ! と指摘する我が弟子であった。
最近はちゃんと遠慮なくツッコミが出來る様になって長をじさせる一番弟子である。
俺は笑いながら口を開く。
「まぁ、仲良くなるには、食事をしながら、というのがエンデンス大陸の作法だからな。もちろん、魔大陸では違うかもしれないが」
「いいえ」
口をどこからか取り出したハンカチで拭きながらエリスは言った。
「私も王のであり、そうした儀禮はわきまえています」
「はい? えーっと、どういうことですか?」
俺たちの會話の意味が分からなかったらしく、ラッカライが頭上にハテナマークを浮かべていた。
俺は優しく説明する。
「今回の事件はパウリナが鍵を握っている。神イシスの暴走《バグ》も俺の観察では、彼の元にある紋様を見た時に急避難的に発生したように思う。だから、厳にはバグではなく、彼こそをこの魔大陸へ時空転移させる【仕様】だったかもしれないな。俺たちは巻き込まれたわけだ」
「だからついで、と。なるほど、そうなんですね……」
意外そうにラッカライが言う。
「ああ、イシスは俺たちが3人で來たと言っていた。俺とブリギッテとラッカライの3人だ。無視しているというじではなかったな。あれは俺の見立てでは、【非認識対象概念】となるように仕組まれた、神《システム》の仕様、あるいは意図されたバグではないかと思う」
「訳がわかりませんよ~! それになんでそんな仕様になっているんですか⁉」
「「それが分からない。だから一時的に手を組もうと思う」」
はからずもエリスの聲と俺の聲が同調する。
「魔大陸は俺たちにとっても未知の土地だ。地図も何もない。オートマタ種族と手が組めれば、鍵となるを助けることもできるだろう」
「私たちは寶を収集することが目的です。その寶を買い取ってくれるのなら共闘は可能です。何より、この【ペスカトーレ】をまた食べさせてもらえると認識しています。その場合、あなたへの信頼度がMAXまで上昇し選択の余地はありません」
「えーっと。それは単なる餌付けなんじゃないかなー……」
「胃袋を摑んで懐するなんて、アリアケ君にしか出來ない手腕ですね! さすがアリアケ君!」
「もう一點だけ確認させてください」
「なんだ?」
無表な彼だが、表に出ないだけではよく伝わって來た。彼との接し方がし理解出來てきたように思う。
「どうしてよく知りもしないのためにそこまでするのですか? 魔大陸の件が々絡んでいるとしても、あなたがかなくてはならない合理的理由はありません。何か裏があるのですか?」
その言葉に俺は意外なことを聞かれたような気がして思わず噴き出した。
「ふっ、確かにそうだな。だが別に理由なんてないさ」
「はぐらかすのですか?」
いやいやと俺は首を橫に振る。
「パウリナはこの俺に助けを求めたんだ。なら、そんな彼を見捨てて、明日食べるペスカトーレの味が旨いと思うか? きっと不味くなるだろうな。本當に彼を助ける理由も、世界を救うのすらも、それだけの理由さ」
「優しいのですね」
「優不斷だと妻には言われているが……」
一緒にバカンスに來ていたのだが、今頃怒っている……というより、呆れていることだろうな。またアー君巻き込まれてー、と。
「いえ。あなたは好ましい生命です。アリアケ・ミハマ」
彼はそう言って初めて微笑みを見せた。人のように。
「明日からの料理楽しみにしています。私のパートナー。あ、魔大陸風ペスカトーレは2日に一度お願いします」
エリスはそう言うと、もう寢ると言って、近くの木に座る形で眠りについた。
正確には機能を一時停止狀態(スタンバイ)にしているということらしいが。
やれやれ。
とにもかくにも、俺たちエンデンス大陸の人間にとっては前人未踏の魔大陸に、水先案人を確保できたことは大きい。
俺はそんな気持ちでホッとするのであった。
しかし。
「ブリギッテ様~、やっぱり先生ったら天然ですよ!」
「そうですね。最後私のパートナーとかさらっと言わせてましたねー。まぁ、それがアリアケ君のやり口って奴よねー。ラッカライちゃんも気をつけた方がいいですよー? あっ、手遅れでしたねー、あははー」
「笑いごとじゃないですよー⁉ どんどんライバルが増えて行ってませんかー⁉」
そんな子たちのよく分からない會話が、隣では繰り広げられていたのであった。
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