《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第99話 醫務室Ⅳ①
「子さん、先ほどの會話から察するに、まだ『悪だくみ』を仕込まれているのでしょう? それは私、楽しみに待ってますので」
「ああ、それは後のお楽しみにしといて頂戴。いまだ紅葉ヶ丘學生が未解決の問題があって‥‥‥‥いや泉さん。それだと私がすっごい腹黒いみたいだよ。やめてよ。ね? みんな」
「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥」
ラポルトのブリッジで、子は渚と紅葉ヶ丘に聲をかけるが、返事は無い。
「‥‥‥‥後で覚えていろ。紅葉ヶ丘學生」
小聲で呟いた子に、紅葉ヶ丘が「ぎぴぃ!」っと悲鳴を上げる。
「‥‥な、なんで私だけ!? 助けて葵(ひなた)ちゃん!!」
附屬中3人娘の方針は固まった。東トゥマーレ軍がく想定もしつつ、野営の準備にる。
子がテキパキと指示を出していく。
「全DMTは帰投を。暖斗機を最初に。次が桃山機」
「泉さん渚學生と舵代わって。食事を取って就寢を。お風呂はゴメン我慢して」
「で、さらに、渚學生は折越さんが逢初さんと戻ったら代」
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「コーラさんソーラさん。殿(しんがり)お願いできる?」
モニター越しに、ふたりに頭を下げる。
「‥‥そんな水臭いですよ子さん。元々オリシャさんを助けて貰ってますから」
「そだよ。アタシらこういうの慣れてるから。陣地に居ればいいんだよね? ソーラ、ゲームやろ?」
「ちゃんと哨戒するの! 実戦よ」
*****
ちょっと慌ただしかったな。
僕はUO-001を著艦させて、大型用のDMTデッキの整備臺(クシュローシス)に固定する。モニターの隅に、クルーザーを降りる折越さんと依の姿が。
そうか。今病院から戻って來たんだ。
エンジンをアイドル狀態にしてハッチを開けると、もう仲谷さんが待ち構えていた。AEDとか、対英雄さん戦の時に使ったが用意されている。
依もすぐに連絡橋(ゲピューラ)に上がってきた。
「マジカルカレント、極大値で使ったのね。大丈夫よ。大丈夫」
思えばあの時、依は泣いていた。マジカルカレント後癥の癥狀が一気にくれば、最悪心停止だとか。僕が死ぬくらいなら、私達がハダカになるとか。
でも、あの時泣いていた僕の神は、今、病に立ち向かう戦士になっている。
「醫學は敗けないよ。今まで採らせてもらった暖斗くんのが役立つ。‥‥やっぱり! 挫滅癥候群に近い癥狀出てきてる。この錠剤飲んで。これでアシドーシス補正合剤が高カリウム癥を回避するよ!」
依が何て言ってるかなんて、まるっきりわからない。でも、君がそう言うなら、僕は安心して目を閉じるよ。
「‥‥‥‥すん。‥‥あれ? 暖斗くん。香水か何かつけてる?」
僕に錠剤を飲ませるべく顔を接近させた依が、僕の首元あたりに何かを知したみたいだ。
「え? 何だろ? 臭う?」
「ううん。臭いとかじゃないよ。暖斗くんの汗とかはわかるもん。‥‥むしろ、いい匂いがするのよ」
「?」
「依ちゃ~~~ん!」
折越さんが縦席にってきて、僕のを持ち上げる準備をする。
「ちょ!?」
「エンジン切ったらけないでしょぉ? 今のに準備をするのぉ。急いで依ちゃん」
僕のパイロットスーツの襟首あたりを犬みたいにすんすんしてた依も、我に返った。
「は~~ん。暖斗くんチカラ抜けたら急に重くなったぁ」
僕を抱える折越さんは、そう言いつつもガバッと僕を持ち上げた。
エンジン切ったら早速マジカルカレント後癥候群が出た。――でも、心停止も気絶もしてない。――すごいな。やっぱり彼は。
そのまま用意したベッドまで運ばれた。
折越さんにお姫様抱っこをされながら。
「頑張ってねぇ暖斗くん。暖斗くんの回復にこのラポルトの運命かかっちゃってるからぁ」
――うん。それはわかってるよ。その為に1秒でも早く醫務室に行かなくっちゃ。
醫務室の中にある個室、「授室」にると、もうミルクのった容が置いてあった。あれ? ぞうさんの意匠なんだけど、何かカタチ変わった?
僕は外に向けて聲をかけてみる。
「依。何かミルクの容が新しいよ?」
「‥‥‥‥うん。今著替えてるから、ちょっと待っててね?」
その聲は「授室」の外。醫務室のバックヤード辺りから聞こえてきた。
「ぞうさんマグT(タイプ)2よ! より赤ちゃん用のストローマグに近い形狀となっております」
同時に、足を踏み鳴らす様な音も聞こえてきた。依も病院から帰ってきたばかりでバタバタしてるんだ。
僕がミルクを飲み終えたと同時に、授室のドアが開いた。白キャミにもこもこショーパンの依だ。確かこれは、自室で寢る時と同じ格好。
でも何だろう? 何か違和をじる。
「おまたせ。暖斗くん。‥‥‥‥今日は、電気‥‥‥‥消すよ」
そのまま依は室燈のスイッチに手をかける。僕は驚いて止める。
「照明消すの? そしたら真っ暗だよ。予備燈は點けようよ?」
「暖斗くん。‥‥‥‥今日は『これ』で治験をしたいの。下著はお願いした通りよね? 真っ暗にしたいから、そうさせて」
出撃前に、依頼をされてたんだ。「いつもパイロットスーツを著たままの治験だから、いだ狀態でのデータ取得をしたい。ついては、見られてもいい服裝を下に著込んでしい」って。
「大丈夫かなあ。スクランブル発進の時に起きれるかな? ほら、依、前に真っ暗にしてがぶつかったりしたじゃん?」
「‥‥‥‥ん! ‥‥‥‥そうだっけ。ぶつかってないよ‥‥‥‥」
「え? いやいや。真っ暗で何も見えなくて何かとぶつかって。そうだ。ほ瓶で飲もうとして電気を消した時だ」
「何それ?」
「え?」
依を見てはっとした。耳朶まで真っ赤になって、構えている。
「暖斗くん。マジカルカレント後癥候群の対処法。もうすぐピースが埋まりそうなの。わたしもそれなりに覚悟して臨んでるの。協力して。お願い」
依の真剣さに気圧された。そして。
彼に「お願い」されるのは、たぶん初めてだった。
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