《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第68話 ヴァイス、バレる
なんだい、ありゃ…………私ゃ耄碌(もうろく)しちまったのかねえ……?
下級生の擔任になったつもりだったんだが、どうもそれにしちゃ大きな子供が混ざってる気がするんだがねえ……?
「おはよう。改めて、今日からお前たちの擔任のエスメラルダ・イーゼンバーンだよ。若い力に負けないようせいぜい頑張るつもりさね。よろしく頼むよ……ヒッヒッヒッ」
「「せんせーおはよーございます!」」
おはようの大合唱……懐かしいねえ、この覚は。先生に戻ったってじがするよ。下級生を擔當するのはもう何十年振りか分からないけど、これはこれで良いだね。
……上級生になると、どうも大人振って元気がなくなるからねえ。丁度今、後ろの方で偉そうに腕を組んでるあいつみたいにね。
本當、一何のつもりなんだいあいつは。明化の魔法まで使ってさ。この私を前にバレないとでも思ったかい。
「それじゃあ……まずは元気に自己紹介でもしてもらおうかねえ。この歳になると名前覚えるのも一苦労でね、済まないけどよろしく頼むよ」
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昔から名前を覚えるのは苦手でねえ……全員の名前を覚える前に一年過ぎた事もあったっけね。今回はすんなり覚えられるといいんだがね。
「────すきなたべものは──」
「…………しゅみは…………」
「────よろしくおねがいします!」
…………うーん…………マズいねえ、全然覚えられないよ。どの子がお菓子が好きでどの子が火魔法が得意なんだっけね?
そういえば、腕組みして頷きながら子供達の自己紹介を聞いてるあいつの代は粒揃いで覚えやすかったねえ。あいつといいジークリンデといい。メディチも名家の出だったしね……あいつらがもう親なんだ、時が経つのは早いよ。まあメディチはともかく、あいつとジークリンデは何やら訳アリみたいだけれどね。
ジークリンデがあいつにをしてるのは當時誰の目にも明らかだったけど、唯一あいつにだけは伝わってないみたいだったからね。私に言わせれば、今更くっつくなんて違和が凄いんだよ。昨日の雰囲気を見る限り夫婦ってじでもなかったしねえ。ジークリンデが報われる日は果たして來るのかねえ……。
お、噂をすればあの子の番になったみたいだね。私が魔法學校に帰ってきた理由の子が。
「りりー……えっと……ふれ? ふらん…………りりーです! すきなものはぱんけきとぱぱ! しょーらいのゆめは、りっぱなまほーつかいになって、ぱぱをたすけてあげることです!」
リリィ・フレンベルグだよ。立派な親から貰った名前だ、大事にするといい。
「…………」
親は親で、何を泣きそうになってんだか。ヴァイス、お前そんなキャラだったかい?
◆
「でだ。一どういうつもりさね」
エスメラルダ先生による初授業という名の自己紹介を終えると、生徒たちは魔力測定のために別室に移する事になった。後ろをついていこうとした所、俺は先生に呼び止められたのだった。
「流石に気付いてたか」
「當たり前だねえ、私を誰だと思ってんだか。それにしても、明化に気配遮斷なんて高等魔法持ち出してまで娘の様子が気になるとは隨分親バカじゃないか」
「俺が親バカだと?」
明化に気が付いたことは稱賛に値するが、その分析は的外れだ。いくら魔法に優れていても人の心までは分からないらしいな。
「俺はただアンタが衰えてないか確認しに來ただけだ。心配はいらなかったようだがな」
「教え子に心配されるほど年取った覚えはないよ。安心してあの子は私に任せときな」
「急に復帰した理由はそれか?」
「ちょっとばかり魔法學校にお願いをしただけさ。伝説のハイエルフ、新人教師には任せられないだろう?」
「まあアンタが先生で役者不足という事はないだろうな。それは俺が一番良く知ってる」
諸刃の剣ではあるがな。何せ授業と稱して近くの森を丸焼きにするような人だ。
「ビシバシ鍛えてやってくれ。アイツが自分のことを自分で守れるように」
失われし伝説の種族ハイエルフの生き殘りであるリリィには、この先必ず困難が待ちけるだろう。リリィが一人でも生きていけるように育てることは俺の目的でもある……いつまでも一緒にいられるとは限らないからな。
「任されたよ。まあお前とジークリンデの子なんだ、実技も學業も申し分なさそうだけどね」
「……この前も言ったが、は繋がってないからな」
「分かってるさね。ヴァイス、それよりお前はジークリンデの事をもうし見てやるんだね」
「ジークリンデ? あいつがどうしたんだ?」
「夫が妻のことを気にするのは當然じゃないかい?」
「アイツはリリィについて調べる為に母親役をやってるだけで、別にそういう関係って訳じゃないんだがな…………まあ分かった、考えておく」
見てやれ、ったってなあ……昔みたいに商業通りをぶらつくくらいしか出來ることなんてないんだよな。帝都は栄えてこそいるが、面白みで言えばゼニスに遠く及ばない。
まあ考えても仕方がない。今度、うだけってみるか。
「……用は済んだ。リリィのこと、よろしく頼む」
「魔力測定、観ていかないのかい?」
踵を返す俺の背中を、先生の言葉が摑む。
「あの子にどういう適があるのか気になるんじゃないかえ?」
「…………そこまで言うなら、見てやらんこともないが」
「ヒッヒッ……ほら見ろ、やっぱり親バカじゃないか」
「娘のことが気にならない親なんていないと思うがな」
どうも勘違いされている気がしてならない。昔の俺を知ってるエスメラルダ先生なら、俺がそんなキャラじゃないことは分かると思うんだがな。
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