《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》776.アルム2

「ベネッタ頼んでいいかい?」

「う、うん……【魔握の銀瞳(パレイドリア)】!」

部屋の外で固まっていたベネッタはルクスの聲で目を開き、統魔法を唱える。

魔力を持つ命を映す信仰屬の瞳は確かにカヤ自の命とカヤの首にある小さな核を捉えた。

「ほ、本當にあるー……!」

「ならあのの首へし折れば問題解決ってやつじゃねえのか? 魔法生命は核を破壊すりゃ死ぬんだろ?」

ヴァルフトが拳を鳴らすがミスティ達はまだかない。

普通に考えればヴァルフトの言う通りなのだが、それで終わるならあまりにも呆気なさすぎる。

カヤが大人しくこんな事を言っている意味もわからなければ大蛇(おろち)が宿主を放置している意味も分からない。あまりに不可解な點が多すぎて行に移すことができなかった。

「……一応、私の統魔法であのに命令を書き込めるけどどうする? 真実を言え、って命令すれば噓かどうかわかるわよ。あのが大人しくしているならね」

黙るミスティ達に提案したのはグレースだった。

グレースの統魔法【狂気満ちよ(ルナティック)、(・)この喝采に(フィアー)】は相手の思考に一つ命令を書き込める神干渉系の統魔法……真偽を確かめるには打って付けの"現実への影響力"を持っている。

「ありがとうございますグレースさん……。ですが、噓を言っているようには見えません……。それにそんな噓をつくメリットもありません」

ミスティの言う通り、そんな噓をつくメリットがない。

そう思っていたのは質問するアルムも同じようでさらに問う。

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「察するに、その首の核を破壊してもめでたしめでたしとはいかないようだな」

「はい、大嶽丸と戦ったと思いますが……覚えてらっしゃいますか?」

その魔法生命をアルムが忘れるはずもない。

自分自も殺されかけ、そして恩人である師匠を殺した魔法生命だ。

「大嶽丸の核を破壊するのは苦労されたでしょう?」

「大蛇(おろち)の核を破壊するにも條件がある?」

「はい、その通りです。大蛇(おろち)様にとっては起床(・・)と言うべきでしょうか」

「起床?」

「アルム様はもう目にしているのでは?」

カヤがそう言うとアルムは気付く。

アルムだけでなく部屋の外にいたミスティ達もカヤが何を指し示しているのか気付いた。

「各地に現れている大蛇(おろち)の首……!」

「あれってそういう事ー!?」

「つまりあれは襲いに來ているのではなく……自分の本を出す為の儀式なのか……?」

霊脈に出現する大蛇(おろち)の首の真の目的はアルム達を倒す事でも霊脈と接続する事でもない。

そう考えれば、他の魔法生命よりも手応えが無いのも納得がいく。本出現のための儀式……もしくはただの余波だとすれば一大蛇(おろち)の本はどれだけの規模の魔法生命になるのだろうか。

「殘る首は後三つです。終われば大蛇(おろち)様の本が目覚め……わらわの首の核は霊脈を通じて大蛇(おろち)様への本へと送られます。わらわはあくまで仮初めの宿主ですから當然魔法名も知りません。

クダラノ家は千五百年前から大蛇(おろち)様の核を代々継承し、大蛇(おろち)様とこの世界を繋ぐ楔となることで霊脈に干渉する統魔法を編み出し……常世ノ國(とこよ)での地位を築いてきたのです」

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カヤの話を聞きながらアルムはさらに問い続ける。

ヴァンに言われた通り質問は躊躇わない。

「宿主無しで大蛇(おろち)は活できると?」

「はい、大蛇(おろち)様だけでなく……今王都近辺にいらっしゃるケトゥスにも宿主はいませんよ。この世界と自の伝承を繋ぐ"楔"に相當するさえあれば宿主無しで活できる魔法生命もいるのです」

「……何故そこまで詳しいのに呪法をかけられていない?」

初めて疑いを帯びた聲でアルムは問う。

向けられた疑心をともせずカヤは答える。

「警戒されるのも無理はありません。ですが、呪法をかけられていないのは當然です……わらわは仮とはいえ大蛇(おろち)の宿主……。宿主には呪法は使えません。でなければ魔法名も唱えられなくなってしまうでしょう?」

「なるほど……確かにそうだな」

「ですが確かに、これを知っているわらわを大蛇(おろち)様が放置している所を見ると……もしかすれば大蛇(おろち)様にとっては大した報ではないのかもしれませんね……」

「……他に何かこちらの有益になりそうな報は?」

「この場で言える報はこの首の核だけで後は當時の常世ノ國(とこよ)のくらいですが……わわらは生かしておくメリットは提示できます」

カヤは再び自分の首を指差した。

「この首にある核が大蛇(おろち)様の本に行った際……わらわは大蛇(おろち)様の本の場所を統魔法によって確実に割り出す事が可能です。わらわを生かしておいてくだされば、皆様は後手に回ることなく大蛇(おろち)様を迎え撃つことができます」

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「!!」

「水屬創始者であらせられるネレイア様が常世ノ國(とこよ)の巫であるわらわを囲っていたのもネレイア様がいずれ大蛇(おろち)様に挑む際の有利な手札となるから……そのネレイア様亡き今わらわには後ろ盾もなければ安全な場所もありません。どうかこの條件でわらわの亡命をれてください」

カヤは深々とアルムに頭を下げる。

アルム達からすれば願ってもない條件だ。

今までの魔法生命との戦いはほとんどが出現場所を特定できず、後手に回るしかなかった。

戦力を分散させ、その場その場での戦力で何とかするしかなかった狀態を迎え撃てる狀態にできるのなら戦力を集中できる。

「……」

アルムは背後でカヤを見張っているヴァンにちらっと視線を向ける。

ヴァンはカヤを見ながら難しそうな表を浮かべていた。次にファニアのほうを見るとこちらもヴァンと似たような表だ。

カヤが噓をつくメリットはないが、信用が出來ないという所だろうか。

そして大蛇(おろち)の本が現れた時の條件という事は……このままカヤを王都かベラルタに置き続けなければいけないという事。

大蛇(おろち)の核を持ったカヤをここに置いてもしこの場で顕現されたら王都の民は避難する暇もなく躙されるだろう。今でさえその可能を孕みながら報を引き出そうと牢獄に置いているというのに、これ以上のリスクを果たして背負えるのか。

……なにより、本當に大蛇(おろち)の本の場所など摑めるのか?

戦力を集中できるメリットが大きいゆえにリスクと天秤にかけて揺れく。

統魔法でわかるというのは的には?」

決めあぐねる二人を見てかアルムは続ける。

普通なら統魔法の力を使いもせずに喋るなど有り得ないが、狀況的に問い詰めるしかない。

「わらわの統魔法は"霊脈に干渉し、記憶を読み取る"というものでございます。本來は霊脈を通じて記憶を読み取る事で、本人すら知らない人の記憶や誰も知らない土地の記憶などを映し、回収し、閲覧するというのが主な用途だったのですが……わらわの代で魔法の記憶にまで干渉できるようになりました。魔法生命の核を霊脈から回収したのもこの統魔法の力です」

「今まで魔法生命の核を見つけたように大蛇(おろち)の核がどこに行ったかも読み取れる……という事ですね?」

「はい、仰る通りです」

カヤは覚悟を決めたように目を閉じ、首を差し出すようにし上を向く。

この渉が決裂すればマナリル側が自分を生かしておく意味が無いとわかっているのだろう。一か八か首ごと格の破壊を試みる可能が高いと思って首を差し出している。

「ならまずは証明してほしい」

「え?」

目を閉じていたカヤがその言葉で目を開けるとアルムの真剣な眼差しと目が合った。

「あなたの言う統魔法の力が本當なら……証明してほしい。霊脈を通じて人の記憶を見れるんだろう? 俺の記憶をここで映してあなたの言葉が真実だと証明してみせてくれ」

「で、ですが……その、見る人は選べても見れる記憶は選べません。萬能ではないのです。あなたが知らない記憶やにしたい記憶もこの場で再生されてしまいますよ……?」

アルム達に囲まれても毅然とした態度をとり続けていたカヤが初めて狼狽した様子を見せた。

これは統魔法の力が噓で取り繕おうとしているのか、それとも本當に記憶を公開する事に抵抗をじているのか……アルム達には判斷が出來ない。

「アルム、俺達は席を外すか? 本當だったら流石に俺達が見ていいものじゃあないだろう」

ずっと靜観していたヴァンが口を開くが、アルムは首を橫に振る。

「それだと証明になりません。直接話してた俺はカヤさんの事を信用してもいいと思い始めていますが俺だけ信用しても意味が無い。カヤさんの提示したメリットは対大蛇(おろち)を考えれば大きい。大蛇(おろち)の核が本當に本のほうに行くかは今どうやっても証明できませんが……カヤさんが言った統魔法の力だけはここでも本と証明できる。信用するにしてもしないにしても判斷する材料は全員で共有しておくべきです」

「それはそうだが……いいのか?」

「この中で記憶を見せてもいいのは自分くらいでしょう。他はだったり貴族としての機だったり、統魔法について探られてしまう。見れる記憶が選べないならなおさら自分しかしない」

あまりにも真っ當な意見にヴァンはため息をつきながら手をひらひらと振る。

お前の好きにしろ、の意だという事はすぐにわかった。

「では……よろしいのですね?」

「はい」

アルムが頷くと、カヤの周囲の空気が変わる。

萬が一を考えての張が走る中、カヤはその統魔法を唱えた。

「"放出領域固定"――【永久への星扉(とわへのあゆみ)】」

空気が止まった。響くような言の葉が溶けていく。

どこからか現れた白いが粒となってカヤの周囲を飛びう。

無機質な取り調べ室に現れる幻想のような景。まるで宙の星がここに映し出されているようだった。

カヤが手を前に出すと、カヤの周りを飛びう白いがその手に著地して……ふわっとらかく弾けた。

『アルムは大丈夫かい?』

『ああ、仮眠もとったしな』

が弾けると中空に映像が映し出される。

映し出されたのは王都に來る馬車の中でしていたアルムとルクスの會話だった。

「あ、さっき話してたやつだー」

「記録用魔石の映像に似てるわね……」

吹き消された蝋燭の火のように映像は消えて、次のが弾ける。

『ふわあ……しまった、また機で寢てしまった……』

今度は寮の部屋で目覚めたアルムの姿だった。

本を読みながら寢たのか起きた場所は機。手には本を持っている。

「ベッドで寢ないなんて不健康ですこと……」

「案外寢起きだらしないし」

寢起きのアルムの油斷しきった姿を見ながら部屋の外はくすくすと笑い聲が上がる。

その映像も消えて、次のが弾けた。

『今日は疲れたな……』

「ひゃああああああああああ!?」

映された映像はアルムが上半の姿だった。風呂にる前らしい。

映像に映るアルムを見た瞬間、ミスティは耳まで真っ赤にしながら顔を両手で覆う。

「ミスティ殿しっかり!!」

「気を確かに! 上だけだから全然だよ!!」

「なるほど……は駄目ってこういう事ね」

「運が良ければ覗きたい放題の夢の魔法だなこりゃ……」

ぼそっと呟いたヴァルフトにグレースが蹴りをれる中、また映像が変わった。

今度はベラルタ魔法學院の講堂だ。舞臺の上で演劇をするアルムがいる。

次の映像はダブラマの地下跡にいる姿が、その次は南部のイプセ劇場でクエンティと戦うアルムの姿が映る。

「……どんどん遡ってるのか?」

「私も思った」

ルクスとエルミラの予想通り、何でもない一人の映像も一緒にいる映像も徐々に遡っているようだった。

南部に馬車で向かう姿、學院でなんでもない話をする姿、そしてその次に映ったのは……アルムと師匠が花畑の中心で涙する姿だった。

『アルム……。君をずっと、してる』

『師匠……。俺も、俺もだよ……! ありがとう……!』

その映像を見て涙ぐむベネッタ。先程までのような茶化す聲もなく見守って次の映像に変わる。

映ったのはミスティの家の外で一緒にいるアルムとミスティの姿だ。

『アルムが……指につけてくださいませんか?』

『俺が?』

『はい……あの時のように……あなたに付けてほしいのです』

アルムがミスティの指に指を通すシーンになると、アルム以外の視線が一斉にミスティの手に集まった。

ミスティは照れながら小指の指を見せびらかすように手をし挙げる。

『俺は教わったよ。誰かに助けられたから誰かを助けたいと思うんだって。

俺は教わったよ。そうやって誰かに助けられた自分が、また誰かを助けていって……誰かを救いたいって気持ちを繋いでいくんだって』

映像が二転三転し、映し出されるのはミレル。

懺悔するシラツユの姿と諭すアルムの姿。

カヤの周りを飛びう白いは次々とアルムの記憶を映し出していく。

『"魔力堆積"! 【天星魔砲(カエルムフロス)】!』

今度は【原初の巨神(ベルグリシ)】に向けて魔法を放つアルムの姿が。

塗れになって放つその姿は映像とわかっていても鬼気迫る。

映し出される映像を懐かしみながら、または驚愕しながら辿る。

アルムという人間の人生が知っている事も知らない事も映し出されて……語を見ているようだった。波萬丈なアルムの人生にいつしかミスティ達の目は釘付けになっていく。

『行ってきますシスター』

『ああ、頑張りなよ!』

そしてミスティ達では知り得ない過去まで。

カレッラを出発する時のアルムが。今よりく見えるのは気のせいだろうか。

『師匠! できた! できた……! 俺にも、できた……!』

『ああ、見ていたとも』

無屬魔法を初めて使いこなせるようになって泣くアルムの姿が。

『シスター……何で魔獣の解してる時だけタバコ吸うんだ……』

『いひひ! 悪い悪い!』

狩った魔獣のを切るアルムの姿。

『シスターのシチューはおいしいなぁ……おかわり!』

『シスター、私もおかわりを貰えるかな』

『師匠ちゃんは五杯目だからなし!』

今より小さいアルムが師匠とシスターとシチューを食べる姿が。

『今のままではなれないね』

白い花畑の中心で泣くいアルムとそこに現れる師匠の姿が。

『俺、魔法使いになれるかな?』

夢に出逢い、目を輝かせるいアルムの姿が。

『うぁ……シスター? シスターどこぉ……? うう……どこ行っちゃったの……? すん……ぐすっ……しすたぁ……』

深夜に起きて泣きながらシスターを探すいアルムの姿が。

アルバムを見ているように次々と映し出されていく。

友人のい時の映像というのは興味深いようで、ミスティ達はそのまま映し出される映像を眺め続ける。

『うあうま……むあ!』

『あ、こらこら! ばっちいだろうが!』

そしてついにアルムがシスターに拾われる時にまで記憶は遡った。

シスターの姿もミスティ達と初めて出會った時より遙かに若く、アルムは當然赤ん坊なのでいなんてものではない。黒髪と黒い瞳、そして顔立ちはうっすらとアルムの面影がある。

「シスターさん今も人さんだけど若い頃もっと人さんだー!」

「拾われたって言ってたけど、もろ山じゃない……」

「でもシスターさんに拾われて幸せそうだったね」

「はい、小さいアルム可かったです……」

い頃のアルムを見て反応は違えど楽しんだミスティ達。特にミスティはご満悅の様子で呆けている。

カヤの統魔法の力は言った通りだったようで、一緒に見ていたアルムも特に訂正する部分はないのか映し出された自分の記憶について指摘する事はなく無言で映像を見つめていた。

「ともかく、これで統魔法の事については本當だという事が証明されたようですね」

「ええ、カヤ殿についてはこの後――」

これで終わりかと全員が思った中……次の白いがカヤの手の上でらかく弾けた。

『じゃあね役立たず。お母さんからの最後の願い。綺麗に骨まで食われなさい。生まれないまま死んでほしいって最初のお願いは聞いてくれなかったものね?』

突然映し出された映像にはくすんだ茶髪をした見知らぬがいた。

そして先程シスターがアルムを拾った場所に捨てられる赤ん坊。

先程とは違う意味で、アルム達の視線は浮かび上がる映像に釘付けとなった。

『ああ、そうだ! 野犬に食われた事にしましょう! 子供を亡くしたになれば邪魔者はいないし男がまた寄ってくるかもしれないわ! 子供を亡くした可哀想な母親だなんてめたい男がいっぱいいるに違いないわ! そうと決まれば早く捨てに行かないと! さあ行こうか赤ちゃん?』

赤ん坊のアルムを喜々として捨てに行こうとするの姿。

これがアルムを産んだ母親だとすれば自分の子供に名前すらつけない母親とは一……どんな人なのか。

『おろせないから産んだけど、やっぱ子供なんて邪魔なだけね……同だけは引けたけど同だけじゃ金にもなりゃしない。こんなんじゃ客もとれないじゃないのよ……うるせえ! 泣いてんじゃねえよガキ!!』

『ふふ、妊婦だからって理由でみんな気遣ってくれるから楽だわー……子持ちになったもっと楽になったりするかしら?』

『子供なんていらねえよー……金もねえし……。ざけやがって……』

『は? 私が妊娠? ちょっ、お醫者さん冗談でしょ……? ねぇ、聞きたいんだけど、子供って腹ん中で勝手に死んでくれたりしないわけ? そっちのが私はありがたいんだけど』

そこでようやく浮かび上がった映像は完全に途切れ、カヤの周囲にあった白いも全て消える。

記憶を遡って遡って、母親の中にいる時までカヤの統魔法はアルムの記憶を鮮明に映し出した。

カヤ・クダラノの統魔法が映すのは本人が持っている記憶ではなく、星が記憶したアルムの人生。

カヤは確かに言っていた。本人も知らない記憶まで……この統魔法は映し出してしまうのだと。

いつも読んでくださってありがとうございます。

今回長くて申し訳ないです。本當は二話に分けるつもりだったんですが……どうかお許しを……!

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