《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》880 遠い遠い過去からの伝言
スラットさんが示した巖は、果たしていつからそこにあったのか。つい先ほど浮かび上がるようにして出現したようにも思えるし、ずっとずっと長い間変わらずにあり続けていたようにもじられた
とにもかくにもその半ばほどの高さまでを草に覆われていて、さらには地面に近いあたりは苔むしている。何とも年月をほうふつとさせるたたずまいなことで。
「この巖にどんな意味が?……うん?傷?……それともなにか彫られてる?」
よく見てみれば、表面に刻み込んだような跡が見けられた。
「……これ、文字ではないでしょうか?」
「確かに文字のように見えますわ!」
急いで【湧水】で真水を生み出して、刻み込まれたそれが耗しないよう丁寧にそして慎重に汚れを洗い落とす。もっとも、かなり深くまで彫られていたようで消えるようなことはなかった。
『すべては俺たちの意思だ。なにも気に病むことはないし、誰にも文句は言わさないからな』
『幕引きの機會を與えてくれたことに謝を。時を越えて出會った心優しき友人たちの行く末に幸多からんことを』
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「こ、れは……!?」
「いつの間に……」
間違いない。これは二人からボクたちに殘した言葉だ。
「そうか!別行をしたあの時だ!」
ボクたちがマジックアイテムを調べていた時、二人だけでもう一つの雑木林を調査しに行った際にこの言葉を刻んだのだろう。
だとすれば心を決めたのは、マジックアイテムのMP吸収の仕組みを予想した頃だと思われる。
「自分たちのために誰かが犠牲になるとじたのかな?文句は言わさないなんて、最後の最後まで偉そうな態度だね」
浮かんできたその顔は相変わらず不機嫌そうだった。
「謝するのはボクたちの方だよ。短い間だったけれど、友人だと思ってくれてありがとう」
結局、頭を枝にぶつける癖は治らずじまいだったね。涙目になっていたのが妙に印象的だった。
「再び廻るその時まで、安らかなる休息を……」
長い長い時を、そうとは知らずに生き続けてきた二つの魂が癒されますように。ボクたちは靜かに黙禱をささげたのだった。
「もう、いいのかい?」
戻ってきたボクたちに向けて、イケメンさんは表を変えることなく尋ねてきた。
「うん。スラットさんもありがとう。おかげで何とか気持ちの整理をつけられそうだよ」
「僕は僕にできなかったことをやってのけた君たちに報いただけさ」
「そうかな?あなたならもっと早く、もっと簡単に終わらせることができたんじゃない?」
「それは買いかぶり過ぎというものだね。僕には何もないんだ。なにもね……」
思わず口をついてしまった恨みがましい言葉にも、彼は淡々と答えるだけだった。この人もまた時代と立場に翻弄されてきたのかもしれない。
いや、こうして存在しているのだから、代償として何かに縛られているというのは十分あり得る。
「もしかして、あなたも浮遊島、じゃなかった。『天空都市』の人たち同じく死霊になってしまっているの?」
「なぜそのことを?……いや、ここまでやって來るくらいなのだから知っていて當然かな。『天空都市』の皆と同じをけているという意味ではその通りだよ。ただ、僕はが発した時にはもうここに居てね。そのためなのかこうしても殘ったままなのさ」
うん。新しい報が出てきたけれど、その前提になる話もボクたちは知らないから。これは詳しく聞かせてもらう必要がありそうかも。例によってこちらの事や素も明らかにしないといけないが、これに関してはもう今さらの話だわね。
二人からの言のことを教えてくれた訳だし、それくらいは信用してもいいと思う。
「――という訳で、お空の上で死霊になっている人たちは今でも大陸支配の妄執に取りつかれているみたいだから、何とかしたいのよね」
『天空都市』で彼らを見たミルファのご先祖様が殘した石板によれば、もはや取りつかれたというよりはそれだけしか殘っていないとでもいうべき狀態だったようだけれど。
「だから『転移裝置』さえ壊して閉じ込めてしまえば、何もできなくなるだろうと思ってたんだよね」
まあ、それらしきものと言えそうなのは『水卿公國アキューエリオス』の跡だけだったけれど。『土卿王國ジオグランド』と『火卿帝國フレイムタン』では、例の絵に関係していそうな怪しげな工房らしき場所と、採掘場として機能していたのだろう迷宮があっただけなのよねえ……。
それでも、それぞれキューズのお仲間だろうローブの人と鉢合わせているから、全くの的外れではないと思う。
「誰かは知らないけれど『風卿』のを引く者であれば、それらのヒントを殘ることは可能だっただろうね……」
そこで言葉を區切ると、スラットさんは自嘲気で皮気な笑みを浮かべた。
「だけど、ふ、ふふふ……。まさか『天空都市』を封じるためにそれが使われることになるとは、その人も想像もしていなかっただろうね」
そうだね。最深部のホログラム的なやつで「大陸を支配するのは我が『風卿』の一族だ!」みたいなことをエンドレス再生されていたもの。だからこそ數代前のクンビーラ公主たちも、最初は意気揚々と『天空都市』へと転移していったのではないかな。
しかしそこは自我をなくした死霊たちがさまようディストピアだった。あくまでボクの予想だけれど、彼らが恐怖絶して『転移裝置』を破壊したのはその落差が原因だったのではないかしら。
「まあ、間違っていないと思うよ。あの景は心にくる(・・)ものがあるから」
「あそこに行ったの?」
人差し指を立てて空を指しながら尋ねると、彼はゆっくりと首を橫に振った。
「いいや、見ただけさ」
通信機もしくは攜帯端末的な魔道があったらしい。今ではもう込められていた魔力がなくなって使えない、どころか長い年月で風化して壊れてしまったのだそうだ。殘念。
「既に僕にはあの罠を乗り越えてきた者を迎える役割を與えられているからね。この場を離れることはできないのさ」
「迎える?迎え討つではなく?」
「さて、どうなのかな。僕がけた命令は「迎えろ」だけだったからね」
うっわ。言葉が足りていなかったのをいいことに、都合よく解釈しているよこの人。そもそも、そういう言い方をさせた、という可能すらありそう……。
本人の言によれば『大陸統一國家』最後の王弟に當たるようだし、一筋縄ではいかないかも。
正直に言うと、今回の展開については悩みました。
二人を犠牲にする必要があるのか?とか、もっとギャグ寄りな話にするべきでは?とかですね。
よろしければご意見や想などをお聞かせください。
あ、罵詈雑言は勘弁してくださいね。
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