《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第227話 危機的狀況

「まさか、そんな事が」

の厄災にの制を奪われ、魔人化したリッカから、現在のような狀況に陥ってしまった顛末を聞かされた。

今から數刻の後、俺達は全員謎の呪いによって命を落とした。

それをリセットするため、アスモデウスは時空迷宮(ルクスリア)を発させて時間を巻き戻したのだと言う。

しかし……、今この時既にフウカ達は原因不明の炎によって命を蝕まれつつあるのだ。

「アスモデウス、もっと時間を戻してくれ! フウカ達はもう意識を失ってる。これじゃ手遅れだ」

「無理じゃ。妾が覚醒し、艇全を我が時空迷宮(ルクスリア)で包み込んだ時、お前達は既に呪われておったからな」

「なに……?」

「時空迷宮発以前の事象は、再現は出來ても実在はせん。所詮は虛像よ」

みんなが病を発癥する前に時間を戻し、それを未然に食い止めるのはもはや不可能ってことか……。

「どうすればみんなを助けられる。お前はそのために時間を戻したんだろ」

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「なに、簡単なことじゃ。妾の領域に潛む異、この呪いの原因を取り除けば良い」

「呪いの原因……。このオープン・セサミの中に、俺たちを殺そうとしてる奴が潛んでるってことか?」

「おそらくはな。前達が呼ぶところのゲーティアーとやらの仕業であろうな」

ゲーティアー。また奴らかよ。全く飽きずに次々襲って來やがって。俺を狙ってんのか?

「なあ、アイツらってお前達厄災の仲間なんだろう? なんとかできないのか」

「さすがに勘づいておるか」

奴らの纏う邪悪な雰囲気もそうだが、迷宮の中に出たりレベル5モンスターに取り付いていたりと、ゲーティアーには否が応でも厄災に近いものをじさせられるのだ。

「あれは確かに我らイリスの眷屬であるが、妾達は貴様らニンゲンのような仲間意識なぞ持ち合わせておらん。——小僧、お前にわざわざ事の次第を話して聞かせてやった理由、もう分かっておろう?」

「あくまでも俺にやらせようってワケか」

アスモデウスは肯定するように口の端を持ち上げた。

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「待てよ……、俺やリッカはどうしてみんなのように意識を失ってないんだ?」

「時間差があるだけでお前達も同じじゃ。あと二刻も経たず同じように意識を失うぞ」

「……!」

そしてフウカ達のようになって苦しみ、やがては死に至ると。

アスモデウスは、俺たちの猶予は俺とリッカがまだ行可能な二刻程の時間しか殘されていないという。もし、それまでに呪いの原因を排除できなければ。

「…………」

「現狀の把握は済んだかの?」

「おおよそは。でも一つ聞きたい」

「言ってみるがよい」

「なんでお前は俺たちを助けた?」

リベルも厄災とゲーティアーの関係から、この狀況ではアスモデウス自の方が疑わしいと考えている。

「だってそうだろ。お前は俺たち全員が邪魔なはず。俺とリッカが死ねばお前は自由になれるはずだ。お前の機がわからない」

「妾のことが疑わしいというわけか? なに、簡単なことよ」

リッカは目を細め、見下すような邪な視線を俺へ向ける。

「お前達を泳がせておけば、いずれスカイフォールの神に會えるやもしれぬ」

「なに……?」

リーシャのことか。あのに會って一何をするつもりだ。

「妾の目的はスカイフォールの壊滅じゃ。そのために神を殺す。単純な理由よ」

「なっ……!」

それは正しく邪悪な考えだった。こんな奴の言う事本當に信用できるのか……?

「小僧、お前がどうこうが妾にとってはどうでもよいこと。何もせねば全員そのままくたばるだけじゃ。所詮は余興に過ぎぬ。だが、悪くなかろう?」

腹立たしいことに俺たちに選択肢は殘されていない。こいつは俺に目的を話したところで結局は何もできないと考えている。俺たちの命を使って遊ぶつもりなのだろう。

完全に厄災に弱みを握られてしまった。

『マスター、時間がない』

『やるしかないのかよ』

「とにかく今は……、みんなを助けるためにも呪いの原因を探さないと」

「くふふっ、賢い選択じゃな」

フウカの部屋に戻り、彼の苦しげな顔を覗き込む。彼の全を蝕む呪いは、波導の治療でなんとかなるようなものではないらしい。ゲーティアー特有の力、この世界の理から外れた不可思議な能力だ。

「待っててくれ。俺がみんなをなんとかする」

部屋の扉をそっと閉じ、クレイルとリィロの部屋をノックし呼びかけるが応答はない。やっぱり俺とリッカ以外はみんな意識を無くしているみたいだ。

暗い廊下を早足で歩き出す。まずは艇の現狀を確かめなくては。そう考え、船市場の方へ足を向ける。

「お前の力でこの慘狀を作り出した奴の居場所を特定できないのか」

「こやつは時空迷宮の中に在りながら、妾の目を欺いておるようじゃな。特定したとてお前に言う事はないが」

この艇は半端な広さじゃない。本気で隠れられたらどうしようもないぞ……。

市場は酷い有様だった。道端にはに呪いの炎を燈した人が點々と倒れ込み、船員らしきネコ達が慌ただしげにそこらを駆けずり回っている。

明らかに人手が足りていないようだ。船でもかなりの人數がやられてしまったのか。このままでは死者はかなりの人數に及ぶだろう。

鍵の掛かった部屋に侵して來るような奴だ。きっと闇雲に探し回ったところで、時間を浪費するだけ。

「でも、そんな奴どうやって探せば……!」

「取り囲め」

「?!」

いつの間にか武裝したネコ達に囲まれていた。

「怪しげな二人組め、お前達が病を振り撒く元兇か?」

「ちょっと待て! 誤解だって! 俺達は何もしてない、ただの乗客だ!」

「噓をつけ。その異様な姿、とても普通のエアルに見えんぞ」

橫目で俺について來ていたリッカを見る。彼はふわふわと宙に浮かび、禍々しい角や羽まで生やした容貌だ。怪しくないと言い張るには無理がある。

「お前達を拘束する。大人しく投降しろニャ」

「……!」

彼等に抵抗し、一時的にこの場を逃げ出す事はできるかもしれない。でもそんな事をしたら最後、俺達は犯人に仕立てられてしまう。

大人しく彼等に従い連行される他無かった。

§

俺とリッカは船倉まで連れて來られ、鋼鉄の檻の中に閉じ込められていた。

「なぜ大人しく囚われておる? 邪魔なニンゲン風排除すれば良いではないか」

「あのなぁ……」

いちいち考えが過激すぎる。

「っていうか、この檻絶対一人用だろ」

檻は縦長の円筒形をしている。狹すぎて座ることもままならない。そんな中に俺とリッカは二人で押し込まれていた。自然、彼とはべったり著するような形になる。

リッカがするりと俺のに腕を回し、首筋に顔を埋める。

「お、おいっ」

魔人化しているとはいえはちょっと大人になったリッカだ。強引に引き剝がすこともできない。そもそもそのためのスペースもない。

「くふふふふっ。好ましい雄の匂い。妾のも悅びをじておる。の味を直に味わえるというのなら、を得るのも悪くないのう」

アスモデウスはその長い舌を首筋に這わせてきた。

「うわっ! ちょ、ちょっと待てっ」

ただでさえリッカの大きなに押し付けられているというのに、このままではこっちまで理を溶かされる。

「雄の匂いが強まったぞ。小僧、お主も期待しておるのであろう? 他にすることもないのじゃ、妾の糧となるがよい」

「うわあっ! こんなところで何すんだよっ! っていうかお前なんか前と格変わってない?!」

「変態……」

リッカと縺れあったままハッと檻の外に顔を向けると、俺たちを蔑んだ目でみつめるネコの乗組員の姿が目にった。

『マスター、見損なったぞ』

「…………」

それにリベルの聲まで重なり、俺の思考は冷靜さを取り戻す。

「こんなことやってる場合じゃない! なんとかここから出ないと……。そうだアスモデウス、もう一度捕まる前に時間を戻してくれよ」

「小僧、何か勘違いしておらぬか?」

「……?」

リッカは鋭利な刃のように目を細めて俺を見上げる。

「妾にとってこれは所詮戯れに過ぎぬ。お前達の生死などどうでもよいのじゃ。故に、妾はこれ以上力は貸さぬ」

「……くっ」

生き殘りたければ、あくまで自分の力でなんとかしろってことか……。

「取っ捕まっておきながら堂々と繰り合うとは、アタシらも舐められたもんだニャァ」

船倉の扉の方からよく通る聲が響く。そちらを振り返ると、四人のネコに擔がれた神輿の上に乗った豪奢な黒ネコの姿が目にる。

神輿の上に設置されたクッションの上に丸まった彼は、その小さな頭につば広の帽子を被り、キラキラした寶石をいくつもにつけている。

「ボスが直々にお前達を尋問なさる。覚悟しろニャ」

見張りのネコが俺たちに厳しい目を向け言い放つ。

「あれがカマス商會のトップ、大商人ミセス・カマスか……」

豪華な裝いの黒ネコは黃い瞳を爛々と輝かせ、獲を品定めするように俺とリッカを見下ろした。

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