《傭兵と壊れた世界》第百三十九話:激化する戦場

連日に及ぶ戦いは兵士を疲弊させた。砲弾が宙を飛びい、銃聲が絶え間なく響き、日が沈めば撤退し、逃げ遅れた者が結晶憑きとなって味方に襲いかかる。

口を割らない捕虜は敵軍の近くで夜曬しにされた。そうして放置された死が結晶化して天然の地雷となった。戦うのが嫌で自分の足を撃ち抜いた兵士がいた。戦士よ、仲間のを越えろ。そうんだ上も次の日に結晶化した。

戦爭は始めるよりも、終わらせるほうが難しい。戦えば戦うほど後戻りができなくなる。仲間の犠牲を無駄にしたくない。英雄として名を殘したい。大義名分という名の狂気が背中を押すのだ。

ある日、ローレンシア兵に一口サイズの小さなパンが配られた。すぐに食べるのではなく、敵に追い詰められたときに食べるといいそうだ。パンから大國の花(イースト・ロス)の甘い香りがした。

地獄。彼らは地獄のり口に立っている。

ホルクスとアメリアの戦いは拮抗している。互いに優秀な軍団長。簡単に隙を見せないが故、直狀態に陥る。

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こうなると戦況をかす鍵は南、ユーリィとアーノルフの戦いだ。當然、時間をかければローレンシアが有利になるため、先にくのは解放戦線――。

「先手が有利とは限らない。が、難しい戦は先手を取るべきだ」

否。アーノルフがいた。

彼は元來、攻めを得意とする將だ。厳しい狀況だからこそ攻める。有利なフィールドに持ち込めば勝機がみえる。

「ユーリィ様、伏兵です!」

「ここでくか……だが數は僕らが有利だ。焦らずに対処しろ!」

南側に突如現れた伏兵が解放戦線を襲う。ローレンシアを包囲しようといていた部隊の橫腹を突いた。彼らはアーノルフ直屬の隠部隊。かつて腹抱えのロダンが所屬していた鋭達である。

ユーリィは數の差を活かして隠部隊を包囲しようとする。されど彼らは捕まらない。隠部隊によるゲリラ的な戦法が解放戦線の勢いを落とした。

「敵、止まりません!」

「ならば迎撃しつつ北上だ! ホルクス軍と合流して敵部隊を叩く! ローレンシアに休む暇を與えるな!」

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ここで退いては敵の増援を許すだけだ。前にしか道はない。祖國解放までもうしなのだから――。

「させんよ。私の部下は優秀なのだ。広大な大國全土から選ばれた兵士なのだから」

さらに伏兵。ユーリィ軍の行く手を阻むように機船が走る。前方に伏兵、背後にアーノルフの鋭部隊。ユーリィ達は挾まれた格好だ。

「祖國解放とは、たしかに素晴らしい夢だろう。だが、素晴らしいという観點ならば私も夢を持っている。國よりも重い夢をね」

アーノルフは手を緩めない。緒戦から本気。ローレンシア最高峰の元帥が、解放戦線の心をへし折らんとする。

その容赦ない戦い方は味方ですらも目を見張るものがあった。當然、嗅覚の鋭いホルクスも、南の異常に勘づいた。

「あっちがやべえか」

ホルクスの目が鋭くる。をびりびりと震わせる空気。それは彼が軍人だった頃に何度か味わった、元帥の覇気。

「イサーク、奴らを出せ。解放戦線に倒れられると流石に厳しい」

「予定よりも早いですね」

「それだけ閣下がやばい。まったく、目の前の敵をぶっ殺すだけの楽な戦いなら良かったんだがな」

そう言いつつも、ホルクスの表りは見えない。むしろ好敵手を相手に心を躍らせているかのようだ。

彼は元來、挑戦者。ここにいるのは戦場でしか居場所を見出せない者達。ホルクスも、イサークも、その部下も、誰もが強敵との戦いに高揚を隠せなかった。

イサークが合図を送る。

直後、南の戦場に奇妙な部隊が出陣した。虛ろな目をした兵士が猛烈な勢いでアーノルフ軍に直進する。彼らは敵の反撃をともせずに薄し、そのタガが外れた怪力で敵兵を締め殺した。銃で撃たれても立ち止まらない。痛覚が遮斷された彼らは、生命活が終える時まで命令どおりに戦う。

今度はアーノルフ軍の足が止まる番だ。

「アーノルフ閣下、北の隠部隊が壊滅! 敵が合流します!」

「中毒部隊(フラッカー)は廃棄したはずだが……そうか、ホルクスは寢返りに反対した者達を……」

中毒部隊(フラッカー)。

ホルクス主導のもと、大國の花(イースト・ロス)を用いて作られた傀儡兵だ。彼らによってユーリィ軍の活路が生まれた。アーノルフが忌々しげに顔を歪める。

天秤がわずかに傾いた。難しい戦いから、苦しい戦いへ。

「中毒部隊(フラッカー)に狙撃部隊を回せ! 近づく前に排除しろ!」

中毒部隊(フラッカー)の弱點は思考能力の欠如であり、彼らはまともに銃を扱えない。故に遠距離からの狙撃にはなすがないだろう。だが――。

「もちろん対策済みですよ」

狙撃手には狙撃手を。

イサークが小隊を率いて中毒部隊(フラッカー)を援護した。彼は持ち前のバランス覚で予想外の場所から狙撃を繰り返し、アーノルフの援軍を破壊する。

イサークの瞳には復讐のが宿っていた。アーノルフによって前線送りにされ、殉死した父の仇を討つために、彼はなんとしてでもアーノルフを程圏におさめたい。

「あなたはやりすぎた。父のように、國を純粋に思って行すれば結果は違っただろうに」

狙撃手にとって強いは命取りだ。特に狙撃手同士の戦いでは些細(ささい)なミスも許されない。激が表に出ないように押しとどめながら、イサークは引き金を絞った。

戦況が瞬く間に変化する。

傾いたかと思えば逆転し、裏をかいたかと思えば罠にはまる。策の読み合い。意地と誇りのぶつかり合い。

この速度に置いていかれたほうが負ける。故に誰もが脳を限界まで働かせて考えた。

「ここが攻め時だ! 解放戦線の誇りをみせよ!」

旗頭は前だけを見據えた。最初から退路はない。弱者のとして希の旗を掲げる。

「外道な真似を、ホルクス……!」

「戦場に外道もクソもあるかよアメリアァ!」

軍団長も退かない。敵がかつての仲間であろうとも躊躇せずに撃つ。食らえ。殺せ。兵士達の足踏みが大地を打ち鳴らす。

「機船をかせ! 敵よりも先に狙撃手の居場所を特定しろ! 天巫様に忠義を見せるのだ!」

アーノルフも聲を張り上げた。苦しい戦いだがまだ耐えられる。長引けば有利になるのはローレンシアだ。先手を取って有利に進めることが難しくなった今、慎重に敵のきを見極める必要がある。彼は鋭い目つきで地図を睨んだ。

そんな彼のもとへ部下が走った。彼の顔から滲むのは焦燥

「急報です! 敵に援軍の影あり! シザーランドの傭兵部隊です!」

戦いの炎は著実に天巫へ迫っていた。

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