『魔力測定』────それはナスターシャ魔法學校に學した全ての子供がける初めての授業。

自らがどのような魔法使いになるべきかを自覚する機會であり────人によっては夢が斷たれる瞬間でもある。自らが持つ魔力の質、適というものは、殘念ながら自分で選ぶことは出來ず、例えば魔法省直屬の醫療部隊には治癒魔法に適のある者しかれないからだ。この學校を首席で卒業した俺でも、最年で魔法省長補佐に登り詰めたジークリンデでも、例外はない。

薄暗い室の中心には重厚な臺座が一つ鎮座し、その上には澄み切った水晶が置かれている。冷卻用の魔石は設置されていないはずだが何故かし寒く、その怪しげな雰囲気をじ取ったのか、移中は騒がしかった子供達も今は靜かに水晶を取り囲んでいた。リリィも不安そうな顔付きできょろきょろと忙しなくしている。

エスメラルダ先生が水晶の後ろ──子供でも臺座に手が屆くように設置された小さな段差の反対側だ──に立ち、うっとりと目を細める。釣られるように子供達も水晶に注目している。

「綺麗だろう？　これは魔水晶といってね、手を翳すと自分の魔力がどういったものか分かる代さ。何かを燃やすのが得意だとか、誰かを癒すのが得意だとかね。必ずしもその道に進む必要はないけれど、自分にどんな才能があるのかを知っておくことはとても大切だからね。々參考にしてくれると嬉しいねえ」

言って、先生は水晶に手を翳す────その瞬間、薄暗い室は水晶から放たれるぼんやりとした黃緑ので照らされ、子供達がざわめいた。

魔水晶は與えられた魔力を増幅し、とり方で表現する。黃緑のは、手を翳した者が雷と風の適を備えていることを意味し、郭のないぼんやりとしたは範囲魔法に秀でていることを示している。重要なのはの方で、り方は一つの目安に過ぎない。

……それにしても、先生は二元素適持ちだったのか。流石と言うべきか、意外と言うべきか。実績を考えれば三元素適持ちでもおかしくないと思っていたが。

火、水、雷、土、風。

殆どの魔法使いは、その五大元素どれかの適を持つ。その他の元素としては治癒魔法等が屬する『』と、呪い等が屬する『闇』があるが、これらは特殊元素と呼ばれていて五大元素とは明確な違いが二つある。

一つ目は、五大魔法は適がなくても使えるが、特殊魔法は適がなければ全く使えないということだ。治癒魔法の適がなければ魔法省の醫療部隊にれない理由はそこにある。

そして二つ目は、特殊元素の適はそれのみでは現れないということだ。火の適ひとつだけを持つ者はいるが、の適ひとつだけを持つ者はいない。や闇の適は『火・』のように五大元素と複合して現れる。因みにの適はさほど珍しくないが、闇の適を持つ者は極々稀だ。俺は一人しか知らない。

殆どの魔法使いは五大元素のうち一つの適を持つが、稀に二つの適を持つ者がいる。約千人に一人と言われている二元素適持ちは、有りに言えば魔法使いのエリートだ。魔法使いとして名を上げている奴の殆どが二元素適持ちだと言っていいだろう。そして、稀に三元素以上の適を持っている奴もいるらしい。數萬人に一人と言われていて、俺はてっきりエスメラルダ先生がそれだと思っていた。勘が外れてしまったが。

「見ての通り、私は『雷』と『風』の適を持っている。二つ持っているのは結構珍しくてね、普通は一にるんだ。さあ皆、遠慮せずに手を翳してみるといい。一人ずつ、焦らず、ゆっくりとね」

先生の言葉に、子供達は水晶の前にばたばたと列を作る。リリィもワクワクした様子でその中程に並んでいた。リリィは他の子供達よりし背が低く埋もれがちだが、水の髪は薄暗い室でも目立つから見失うということがない。このクラスは人間以外の種族がないようだし余計にな。

「…………」

先頭に並んでいた活発そうな男の子が、ゆっくりと段差を登る。確か自己紹介ではターナーと名乗っていたか。ターナーは真剣な眼差しで水晶を見つめると、意を決したように手を翳した。

「──赤い。君は火の魔法が得意みたいだねえ」

室を照らす赤いを見て、先生が告げる。告げられた男の子は大きく腕を上げて喜んだ。

「やった！　なんかカッコよさそう！」

「魔法はもう使えるのかい？」

「んーん。お母さんが先生におしえてもらいなさいって」

「そうかい。それじゃあ、これから楽しみだねえ」

「うん！」

男の子はぴょんと段差を飛び降りると、水晶の近くに移した。恐らく他の人がどんな適を持っているのか近くで見たいんだろう。

「次は私のばんね」

そうこうしているうちに、二番目に並んでいたの子が堂々とした様子で段差を登った。に纏ったエンジェルベアの皮のローブは権力とワガママの証。頭の両側でくるくると巻いている髪のも勝ち気な格を表しているようだ。確か名前はレイン・フローレンシア。ジークリンデのフロイド家には及ばないものの帝都で強大な権力を持つフローレンシア家の娘で、つまりは俺の元クラスメイト、メディチの娘でもある。

…………昨日も思ったが、まさか親子で同じクラスになるとはな。魔法省からの依頼でエンジェルベアの皮を採りに行った時は「依頼主の子供とリリィが同じクラスになりませんように」と祈ったものだが、元クラスメイトならうまくやれるかもしれない。とりあえず一安心といったところか。

「私はどんなてきせいを持っているかしら」

レインが躊躇いなく手を翳す。すると水晶は突き刺すような黃いを放ち、俺は眩しくてつい目を背けた。

あのり方は先生とは逆で、集中魔法が得意なことを意味している。対人戦闘に長けたタイプだ。

「これは雷の魔法がとくいってことかしら」

「當たりだよ。私と一緒だねえ」

「たくさん教えてくださいね、先生」

レインは優雅に段差を降り、同じ様に水晶の近くで足を止めた。やはり他の人が気になるらしい。

それからはとりどりに染め上げられる室を楽しみながら、時に目を逸らしながら新しい才能達を眺めていると、ついにリリィの順番がやってきた。娘の一大事を前にしてドクンと心臓が大きく跳ねる。先生も思わせぶりな視線をこちらに向けていた。

「んしょ、んしょ……ふう」

リリィが段差を登る。リリィは段差の上で一息つくと、むむむと水晶を睨みつけて思い切り手を後ろに振りかぶった。そんなに気合をれなくても大丈夫だぞ。

「むずむず…………たぁーっ！」

リリィが水晶に渾の張り手をかます。

…………頼む、俺と同じだけは────あ(・)の(・)(・)だけは出ないでくれ。