《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》2話 《あ、どうも、現代ダンジョン、バベルの大です》

《気軽に、バベルくんって呼んでくれたら嬉しいです》

誰しもが言葉を失っていた。霧の向こう側から聞こえてきた言葉の容が、あまりにも、アホすぎて。

「……は?」

《あ、やっぱソフィさんが1番反応早いですよね。さすがオイラに素晴らしい名前をつけてくれた名付け親なだけはあります。あ〜痛い……すみません、さっき地上向けに大聲で、結果発表の営業用トークしたんでが枯れてるんですよ。ちょっと皆さんには素で話させていただきますね》

「な、なんすか、この狀況……」

《あ、どうも、グレンさん。おお〜凄いっすね、星雲の落とし仔でしたっけ、あの黒いブヨブヨした気持ち悪い生きと共生できる完全な……いや〜人間ってほんと業が深い、おいら、尊敬しちゃうなあ》

「何を言ってるの、これ」

《あ、これはこれは、アレタ・アシュフィールドさん、こんちはっす。いや〜焦りましたよ、ほんと、アレフチームのみんながあなたを止めてくれて助かりました。流石のオイラも全ての52番目の星の力を集めて、それをぶっ放されたら痛いところじゃすみませんもん。ま、それをしたら貴も多分消えてたと思うんですけどね、まあ、いいや、それと》

アレフチームのメンバーの名前を、この聲は知っているようだ。馴れ馴れしく、まるで舊知の間柄に聲をかけるかのような。

そして、最後はーー。

「うわ」

《うわ》

「いや」

《いや》

「《…………》」

互いに言葉の初がぶつかる。ぼやきも、沈黙も同時。

的に相が悪いか、それか相が良すぎるか、どちらだろうか。

微妙な沈黙の中、し霧が揺らいで。

《あ、じゃあ、オイラ、いいですか。あの、耳男ってなんなんですか? ふざけてるんですか?》

「……いいや? 真面目」

ケロッと味山が応える。もちろん、耳男のまま。

《あー、なるほどなるほど、まあいいや。いや、なんていうんすかね。あなたとは會いたかったような、會いたくなかったような、いやでも、まあ、どっちかと言うと會いたかったんですかね、なんか、し気まずいというかどの面下げてここまで來たんだとか々言いたいんですけど、まあ、それはお互い様か。ていうかその姿、何度見てもヤバいっすね。普通、こう悩んだりしませんか? こんな姿になって、自分は本當に人間なのかとか、普通の生きなら気にすると思うんですけど、その辺ちょっと聞いてみたいな》

Advertisement

こいつ、何を言ってるんだ? 味山は警戒を増しつつも、無意識に相手を探りだす。

意味の分からない相手からの意味の分からない問いかけ、だが味山はある意味チームの中で一番そういうのに慣れていた。

「あ? 知らねーよ。つーか、お前」『バベルくんっすね』「バベル君はよー、あれか? このままのスタイル、天の聲スタイルで行くのか?」

《あー、そういうの昔から気にしますよね、あなた。なんなんですかね、自分がそういうサラリーマン的な禮儀とか上下関係とか嫌になって探索者になった割に、他人にはそういうの心のどこかで求めるとこ、かなりダブスタだと思うんすけど》

「うっせボケ。得の知れない超常現象風が知った風な口を叩いてんじゃあねえよ」

《相変わらず口悪いっすね、まあいいや。マ――味山さんと口喧嘩するほど人生で無駄な時間はないとオイラ思うので、さっさと本題にりますね。えっと、はい。オイラ、あなたたちのファンなんです》

「フ」

「ァ」

「ン」

「?」

アレフチーム全員がぽかんと口を開ける。意味が分からない。

《はい、最近の言い方だと推しとかって言うんですっけ? まあ、いいや。とにかく、オイラ、皆さんのことかなり気にってるんす。マス……あ、味山さんは別にそうでもないんですけど》

「おい、コイツ隙あらばディスってくるんだけど」

「しっ、タダヒト、警戒! 集中!」

「あ、はい」

《あ、オイラもしかして警戒されてます? アレタ・アシュフィールドさん、本當安心してください。オイラはただの人畜無害なバベル君ですから。別にあなたたちに危害を加えたいわけではないんですよ》

「え、そうなの?」

アレタがぱちくり、ハイライトの薄い蒼い目を瞬きさせて。

「なわけないよ、アレタ! どう考えてもこの聲は怪しすぎるだろう! でもそんな素直なキミが好きさ!」

「センセイの言もこの聲と同じカテゴリーな気がするっすよ!」

Advertisement

《あ、今のやりとり、いいっすね。やっぱオイラ、あなたたちのこと好きだなー、はい、まあ、じゃあということで、アレフチームの皆さんには今から殺し合いをしてもらおうと思うんですよ》

かちっ。引き金の音。

その聲の話す容に、アレフチーム全員の目からが消える。世界を敵に回した大罪人の顔に。

「……笑えないわね」

「……まともに付き合う気すら起きないよ」

「こーゆータイプはまず本探しからっすかね」

やられる前にやる。生き殘るための探索者のルール。

《あ、ダメですか。人間は難しいな、あなた達、あの耳の長い人さん達みたいに殺し合いが好きなわけじゃないんですね。うーん、そうだ! マス、あ、ちがう、味山さん、あなた殺し合い好きですよね? 見てましたよ―、ケルブレムさんとの戦爭を。いやー考えば考えるほどなんでケルブレムさんに勝てたのか分からないですよね。あ、それで その、アレフチームの皆さんと殺し合って貰えないですか?》

話が全く通じない。

味山はこいつとの雙方向のコミュニケーションを諦める。こういうタイプの奴とは會話のキャッチボールを試みてはだめだ。

「……お前さ、さっきアシュフィールドになんか気になる事言ってたよな」

《あ、そうすね。いやー、ストーム・ルーラーだけでも驚異的なんすよ、そもそも、3年前に”嵐(テュポーン)”さんがアレタ・アシュフィールドさんに踏破された時はほんとオイラびっくりしました。あれって本來、52番目の星の役割の人が別の號級を拡大解釈まで進化させて、それでまあ、指定探索者クラスの仲間を何人も使いつぶしてようやく倒せるはずなんすけど、いや、ほんと驚きました、まさか通常兵と深度Ⅱの能力だけでなんとかするなんて。まあ、あれですね、アリーシャブルームーンさんが、あの気持ちの悪い黒いぶよぶよの複製とあの時點で適合してたのも大きかったのかな?》

Advertisement

「あー、いい。今そういうの聞いてねー。お前、バベルくんはあれか。何者だ?」

《えー、オイラが何者かなんてもうすでに言ったじゃないですか。どうも、現代ダンジョンバベルの――》

「わかった、でもそれ意味不明だからよー、お(・)前(・)が(・)本(・)當(・)に(・)バ(・)ベ(・)ル(・)の(・)大(・)(・)な(・)の(・)か(・)確(・)か(・)め(・)さ(・)せ(・)て(・)も(・)ら(・)う(・)ぜ(・)」

《え?》

味山の言葉に、初めてこの聲がどこか慄いたような気配を。

「ーーアシュフィールドにを開けられたら、痛いじゃすまないんだっけ?」

にいいっと、味山が笑う。耳の面がぐにゃりと歪み、耳に埋もれている目が半月のように笑う。

まともな人間がしていい顔ではない、だが、いつもの顔だ。

《あ、しまった》

「力ぁ、貸せ、クソ耳」

TIPS€ ”耳の大力”使用。耳男狀態のため壽命2時間使用

拳を握る。振りかぶり、味山が見つめるのは下、足元、大地。

つまりは――

弩っ。

味山が地面(ダンジョン)を思い切り毆りぬいた。一発で、肘のあたりまで、ずもりと地面に腕が突き刺さって。

《いたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた》

霧の向こう側から、悲鳴? が響いた。味山が地面を毆るのと同時。

「……よいしょ」

ぐり、ぐり。地面に突き刺した腕をねじる。

《いたたたたたたたたたたたたたたた、あの、やめてもらっていいですか? 頭がおかしいんですか? これって暴行罪が適用されると思うんですけど、その辺どう思いますか? 無抵抗のダンジョンにいきなり暴力って、頭の悪い人がやることだと思うんですけど》

「お、手応えあり。……てか、お前、まじでバベルの大なのか? 凄えな」

「バカな、アジヤマの攻撃に反応している? な、なんなんだ、これは」

ソフィが驚愕の聲を上げる。

地面への攻撃と聲の反応が連している、それにこの覚。命にれている生ぬるさがある。

《凄いのはこの會話の流れでいきなり暴力に訴えかけてくるあなたの脳みその野蠻さですよ。もー、わかりましたよ、わかりました。アレフチームの皆さん同士で殺し合ってもらうのはダメってことですね。んー、困ったな。でも、もうオイラ、ファンとしてはやっぱり気になるんですよね、アレフチームで今、1番誰が強いのか》

「お前、まじで何を言ってんだ、さっきから。會話になんねえ。話がしたいんならまず、お前がなにをしようとしているかを説明してーー」

『あ、そうか。思いつきました、この前の52番目の星さんたちみたいな敵を用意して、それと戦ってもらうのいいっすよね。要はあなた達同志で殺し合うのは嫌だけど、力を合わせて敵と殺し合うのならいいってことですよね』

「クラーク先生、すっごく嫌な予してきた」

「奇遇だね、アジヤマ。ワタシもだよ」

軽口を叩き合う部位保持者2名。目がうずいて、耳が蠢いた。

『じゃ、そういうことで管理人(フロアマスター)と戦ってもらっちゃおうかな、いやー、オイラワクワクしてきました、えーっと誰にお願いしようかな。ウェンフィルバーナさんは……あー、なるほどなるほど、こっちでは管理人になってないんすね。えーとじゃあ、ケルブレムさん……あ、マ、味山さんにぶっ殺されてましたね。かなり満足死、というかあの人、ていうかまあ竜なんですけど、ちゃっかり目標達してましたね。まあ、なにを定義してその個本人とするかはその人次第なんすけど。えーっとどうしよ、なんかちょうどいい人いるかな……』

うーん、うーんと頭をひねり出す聲。

アレフチームの疲れはどんどんたまっていく。

「どうする? 逃げる?」

味山がアレタに言葉をかける。

「どこによ? このふざけた聲の人がどこにいるのかも分からないのに、それにもし、本當にこの聲が、バベルの大だったら逃げ場なんてないわ」

「反論の出來ないマジレスどうも。もうあきらめていつもので行くか」

「いつもの?」

アレタの問いかけに、味山がうなずいて。

「出たとこ勝負」

うんうんとうなずいて。

TIPS€これは、まずいな

《あ、どうも、現代ダンジョンのバベルの大です、あ、セラフさん、今ちょっといいですか? はい、はい、はい。そうですそうです、アレフチームの方が5階層以下の”まんなか”に來たんで。はい、この前セラフさん言ってたじゃないっすか、5階層以下の人類未到達地點にまで人間がたどり著いたら教えてしいって。え? やだなー別に贔屓なんてしてないですよ。え? あー多分4人のうち3人はセラフさんのお父さんとかの宗教じゃないんすかね? え? 殘りの1人……? あー、ロンのお兄さんの誕生日を祝ったりはしてると思います、まあたぶん一人か男友達とゲームしたりして過ごすだけでしょうけど》

「アシュフィールド、今なんか、俺、アイツにすげえバカにされた気がする」

「え? そうなの? 何言ってるか全く分からないのだけれど……」

TIPS€警告、警告、警告、逃げろ、いや、もう遅い

「うわ、すっげえ嫌なヒントじゃん」

《あ、いいですか、あざーす。いやー、セラフさんさすがです。人類にを貸す気持ちで、はい、お願いしまーす。あ、アレフチームの皆さん、お待たせしました。今からオイラの友人というか、知り合いというか、部下というか、眷屬というか、コレクションというか、まあ、そんなじのアレな人がやってきます》

「おい、そろそろワタシは頭が痛くなってきたぞ」

「センセイ、頭痛薬として殘りのウイスキー飲みます?」

「それだよ、ワタシが求めてるのは」

のない姉弟コンビが漫才を始めた瞬間だった――。

「えっ」

「おっ」

「あ、れっ」

ソフィ、グレン、アレタ。この3人が唐突に片膝をついて。

TIPS€ イザヤ書・6章3節――

「は? お、おい、どうしたお前ら!?」

TIPS€ それは、まだ人類に斃せる存在ではない。それはまだ人類が出會うべき存在ではない。それは星の種である。それは最低でも3つの人類軌跡級の力がいなければ戦闘にすらならない。

「うそ、あれ……」

「う、あ」

「あちゃー……」

「マジかよ」

ひざまずく3人、そして立ち盡くす味山。

霧の奧でなにかが蠢いた、かと思えば真白の霧がゆっくり晴れていく。舞臺の幕が上がるように。

TIPS€ それは6つの翼を持つ。それは萬軍の主である。それは人間が冒していい存在ではない。それは人間を導くものである。それはまだ人類がれていい領域ではない。

『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』

霧の帳が開く。そこには巨大なものがいた。

見上げるほどの巨

白く眼をくらませる6つの白き翼。霧が眩しい。ダイヤモンドをにしてばらまいたかのような輝きが周囲に満ちる。

3対6枚の翼。

そのの2枚で頭を、2枚で足を隠す。

殘りの2枚で羽ばたいている。

聖なるモノが、霧の向こう側から現れた。

《あ、お疲れ様です、セラフさん。すみません、わざわざご足労いただいて。あそこにいる人類がさっき話したまんなかにたどり著いた人たちです。セラフさんは人類の可能を試したい系の人ですよ、あのアレフチームが現在この地球で最も進化の可能に近い存在だと思うんすよ。おいらはここで眺めてるんで、セラフさんはセラフさんであの4人を好きにしてくれたらいいと思います》

『~~~』

『あ、はい。え? あの化けも人間なのかって? えっとそうですね、本人に聞いてみましょうか。あ、すみません、マス、じゃなかった。味山さん、こちらセラフさんって言う熾天使というか燃え上がるものというか蛇というか神話の概念っていうか、まあそんなじの6つの翼を持つ人なんですけど、彼っていうか彼っていうかが、味山さんの見た目が自分の知っている人とは違いすぎて困ってるんです。あなたって本當にヒトですか? はいかいいえで答えてください』

「はい」

『あ、人だそうです』

《》

《あ、いいですか。ありがとうございます。さすがセラフさん人間の判定が拾いです。が大きいですね。オイラからしたらあんなの怪種よりも怪ですよ。いやー自信なくすなー。天然であんな化けになられると必死に怪種をデザインしているオイラの立つ瀬がありませんよね》

《》

『あ、そうですね、彼はニホン人なんでセラフさんの宗教の信徒ではないんですよ。なんで、セラフさんの特である”敬虔なる子羊よ。主に敬意を”は味山さんには効かないんです。ニホン人は無宗教っていう名前の宗教に屬してる人多いっすからね。なんで、お父さんの方の力だと多分効くと思いますよ、はい、行ってみましょう、”神・熾天使"』

瞬間。

TIPS€ まずい、おい、厄介なのが來るぞ

「ぎゃっ――」

味山のが地面にはりつく、片膝すらつけず地面にい付けられたように倒れ伏す。

TIPS€ お前は"凡人"だ。技能"神・熾天使"による影響でお前の権限は失われる

「うごおおおおお!? またかあ!? また、なのかああああ!? またこれかよおおおおおお!!」

これの厄介さはつい數日前に験している。アレタ・アシュフィールドが辿り著き、なれ果てようとした存在の持つ力。

人間に対して絶対の優位権を持つその力。凡人の味山には効果覿面のルール。

凡人は神に逆らうことなど出來ない。

『あ、凄い効いてますね。さすがはセラフさんの神。まあ世界で1番読まれてる本が宗教を広めてるだけあって凄い存在力ですね。味山さんみたいな才能のない凡人には効果覿面って奴ですね』

「くそおおおおお、なんかてめえにバカにされるのすげえムカつくうううう!! ふんごおおおおお!?」

味山が耳の大力をもって、立ちあがろうとする。しかし、ダメだ。上からか、下からか、見えない力に押さえつけられるようにはやはりかない。

『アレフチームの皆さん。期待してます。皆さんがいつものように試練を乗り越える姿をおいらに見せてください。いやあ、生アレフチームが見れるなんて激だなあ』

「あなた、さ」

『はい? どうしましたか、アレタ・アシュフィールドさん。あ、膝の震えがなくなって、お?』

TIPS€ アレタ・アシュフィールド、対抗技能、発。アレフチームに複數の"神"への対抗技能発見

「なるほど、こんなじだったのね、あたしも。ごめんね、タダヒト。あなたがあんなに怒ってたのも無理ないわ。ことさら不愉快ね。訳わからない存在に、試されるっていうのは」

『お、お、お』

し、イラついた』

TIPS€ "英雄" 、"半神"、"高度報生命≠??"

アレタ・アシュフィ(英雄)ールドが、神の戒めを解く。

立ち上がる。

「ごめん、みんな、これはあたしがやる。みんなは手出ししないで……って、ごめん、そういうのがダメなのよね……。わかった。みんなに無理はさせない、けれど力を貸して」

アレタの聲に、最初に反応したのは赤髪アルビノのしい

白いと、白い眉をぴくりとかし、不敵に笑う。

「わかっているじゃあないかい、アレタ。アジヤマの荒療治もバカにしたものではないね……今更だ。我々の行手を阻むものは、たとえそれが神話の存在であれ、打破されるべき対象にすぎない」

TIPS€ "反英雄"

ソフィ・M・クラーク(反英雄)が、神の強制を引きちぎる。

立ち上がる。

「とにかく俺たちアレフチームの敵ってことでいーんすよね」

TIPS€ "人造英雄"

グレン・ウォーカー(人造英雄)が、神の錘を引き摺り外す。

立ち上がる。

アレフチーム。人類の最前にとって神話ですら、既にーー。

「アレフリーダーから各員へ。とりあえず、降りかかる火のを払うわ」

「いや、アレタ。君は今反省中だ。アレフリーダーはワタシだよ」

「……そうでした……。アレフ2、アレフ2でいい? 皆様へ。……降りかかる火のを払います……」

「クックック。アレフリーダー、コピー」

「あっはっは、珍しいセンセがアレタさんから一本取ってらあ! アレフ3、コピーっす」

攻略する対象でしかない。

ーー悲劇があった。

星は、いずれ數多の墮ちた星たちに囚われ取り込まれ、箱庭に溶けゆく運命だった。己が願いに気づく事なく何も為せずに終わるはずだった。

ーー悲劇があった。

史は、最も大事な星を健忘癥により忘れ、奪われる。後には何も殘らない、彼はその苦しみと怒りにより破滅する運命だった。己が願いに呪われて哀れに慘めに終わるはずだった。

ーー悲劇があった。

灰の狼は、何よりも守るべき家族を守れず、ただ狂っていく寶を見守ることしかできず。ただ、呆気なく姉と共に朽ちてゆく運命だった。己が願いを守ることすら出來ず無力さと後悔に終わるはずだった。

だが、それはもうなくなった。只の人の気分を害したせいで。

「あとは、貴方だけよ?」

英雄が、未だ神の意により地面に倒れ伏せる凡人を見下ろす。

「あ、え、うそ、みんな、もう立てるの? ぐ、ぎぎ」

この男だけだ。

アレフチームの中で唯一、味山只人だけが何ももっていない。運命にも宿命にも選ばれず、無為に生きて、無為に死ぬ、ただ、それだけの存在。

凡人が地を這う。凡人が神の意に伏せ続ける。

英雄の集団に1人混じる只の人間。慘めに醜く哀れにただ、神話の前にひれ伏すーー

「まあ、キミのことだ。どうせ大丈夫だろう? いつも通り期待してるよ」

「あんまもったいぶんなよー、どーせ、お前は立ち上がるんすから」

「あたしはもう、知ってるわ。あなたの本當の力を」

でも、英雄たちは知っている。この中で誰が1番、恐ろしい存在なのかを。

「先に行ってるよ、アジヤマ」

英雄が前へ進む。いつだって凡人の集団から先んじて進むのは一握りの天才達。

英雄が、凡人を置いて前へ進む。選ばれた者達にはその義務がある。

「タダ、さっさと來いよ?」

じゃあ、凡人は? 何にも選ばれず義務も意味も意義もなく生きる凡人は、どうしたらいいのだろうか。

「ーー援護宜しく。タダヒト」

決まってる。

このまま、立ち上がれないのはダサい。恥ずかしい。だから、立とう。

描くべき未來も、を焼き焦がすも未來ない凡人にとっては只、その時のノリとテンション。

「ーーケッ、好き勝手、言いやがって。凄え奴らは羨ましいよ」

TIPS€ 技能 "凡人"有り、神への対抗不可能ーー

理由なんて、ただそれだけでよかった。

ーー過去の探索記録より、大罪確認。対抗技能、発見

TIPS€ 技能、発

GYAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH

TIPS€ "大いなる罪よ、神を嗤え"

GYAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH

「了解、アシュフィールド」

TIPS€ 味山只人、神対抗開始ーー起きろ、殺してこい

味山只人が、立ち上がる。凡人が、神を嗤う。

ソフィがそれを見てし笑う、グレンがそれを見てパキりと拳を鳴らす。

アレタは振り返らない。味山に背を向けたままーー

「では、臨時アレフリーダーより、アレフチーム各員へ、目標前方、不明怪種の攻略だ。さあ、紳士淑諸君、仕事の時間だよ」

ソフィ・M・クラークがにいっと、その人形のようなを酔いに任せてゆがめた。を開き。

「指定探索者、ソフィ・M・クラークの許可により、アレフチームへ。全武裝制限解除(ウェポンズ・フリー)」

「「「コピー(了解)」」」

始まる。

人類の最前の探索が。

目標、神話。イザヤ書、第3節から第6節。萬軍の主と稱えられ、黙示録の日に顕現が約束されたれてはならないもの。

《》

『あ、すごい。セラフさんめちゃくちゃ嬉しそうですね。いやー、期待していいと思いますよ。あそこの4人、かなり今人類の中でも進んでる人たちなんで。いやー、オイラも本當に楽しみです。初めは用な猿から始まった生きがここまで來るなんて、人類の好きなオイラにとっては本當に無量です、あ、ではそろそろセラフさん、お願いします。長した人類の力をどうぞ試してみてください。オイラはその間、ちょっと地上で遊んできます。あ、もちろん皆さんの戦闘も見ているんで、そこは安心してください』

聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。

ソレが目の前の4人を認識する。ソレは歓喜にその巨を震わせる。

ああ、人類よ、人の子よ、よくぞ、よくぞーー。

6枚の翼が歓喜にむせる。

それに対抗するのは4人の人間。

風舞う、雨降り、嵐が參る。奏でるは英雄の暴。世界を支|配するにふさわしい大いなる力、星の息吹ともいえる天現象が、そのの元に傅く。

(レリック)・顕現(スタート)。跪け、ストーム・ルーラー」

其は英雄。アレタ・アシュフィールド。

が降りる、人のにありうべからざる幻視の翼、目の前の神話に通ずる、かつて其が目に焼き付けた"彼"の力の殘滓を従えて。

「熾天使VS人類、か。さて、黙示録のリハーサルと行こうじゃあないか」

其は反英雄、ソフィ・M・クラーク。

がりり、どろり。

アンプルを噛み砕く音。完された強い生命のに、彼方からの生命の骸がよく馴染む。顔のというから溢れた黒い粘はやがて形となり、を持つ鎧面のように、男のを包む。

「アンプル使用、擬似融解結合第二段階。グリゴリ・スペア。言うこと聞いてもらうっすよ」

其は人造英雄、グレン・ウォーカー。

アレフチームの最大最強戦力狀態。

英雄は嵐を従える。

反英雄は世界の幹をの幻視を。

人造英雄は星雲の遙か彼方の生命を攜えて。

そしてーー。

「俺、こう見えて割と頭良いからよ〜」

じゃり。地面を踏みしめる。凡人が、前に進む。

「知ってるぜえ~、セラフってよ~。あれだろ? なんかの神話に出てくる熾天使って奴だよなァ〜、すっげえ偉い天使の位階の奴だ、萬軍の主、時に人間を裁いて導くすっげえ神話の存在だったよな〜」

『あ、すごいっすね。ご存知なんですね、そうです、セラフさんは今、味山さんが仰った存在ですね。まあ、正式な名前はーー』

「ギャハハハハハハハハハハハハハ!! てえことはよお! てめえをぶっ殺したらあ! 俺え! 聖書に載れるっつー事だよなああ!!」

酔い、酔い、酔い。

脳が焼ける、スターターピストルの音が鳴り響く。點火プラグは、どこだ。

ダンジョンに満ちる酔いが笑いの呼び水となる。

耳男の全能、そして何より嵐が、が、黒い生きが。その全てが今回は味方だ。

「神話を書き換えてやるぜえ!! 超すげえ天使はよお、それより凄え探索者にズタボロにされて全部の翼をむしられてしまいましたってなあああああ!!」

ぼおう。右手はよく燃えている。

ぎち。左手は骨の刃を攜えて。

きゅぽん。首にはエラを攜えて

耳の面が、ぐにゅり、にゅりにゅり。耳たぶビロビロ蠢いて。

耳男が、英雄の橫に並びんだ。

《あ〜なるほどなるほど……ほんと、変わんないですね、あなたは》

霧の向こうの聲、何かを懐かしむような。

「ふふ、バーカ」

アレタが、目を細めて。

味山が、さらに一歩。英雄たちの前に踏み出る。

対峙するは古い星の種。今より2600年前に人はその存在を讃え、宗教を生み出した。

聖なるもの、星の先住者にして、ある者を基礎にして造られた星の子。人とは違う、そうあれかしと定められ在る者。

本來ならば、人類があと數千年、いや、萬年の時を経てようやく挑むことが出來る存在。文明を、あと2つ、いやなくとも3つ経て、ようやくれていい存在。

『あ。アレフチームのみなさん、敬意を示してください、このセラフさんは他の方たちと違って、あなた達人類をいつも見守ってくださってたんすよ。ずっとこの”まんなか”にたどり著いた人が來るのを待って――』

だが、この男だけは決してそれと出會わせてはいけなかった。この存在は決してこの男とだけは出會ってはならなかった。

「聖書を改訂する準備はいいかァアあ!?」

《…………あ、はい》

時に、西暦2028年12月某日。

アレフチーム、探索開始。目標、前方、”神話”。

読んで頂きありがとうございます。

下記Twitterで凡人探索者のキャラデザインの公開などしてます。明日から公開するアレフチームのキャラデザ見た後にまたこのお話読み返すとたのしいのでおすすめです。

書籍版も予約開始中です、超楽しいのでぜひ手にれてください。

    人が読んでいる<凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください