「……ああ、その通りだが？」

どことなく馴れ馴れしい冒険者たちに、姉さんはし気だるげに返事をした。

すると機嫌の悪さを察したらしい相手は、腰を低くして話を続ける。

「実は俺たち、これから狩りに行く予定だったんですがね。ちょっとばかし人手が足りなくて、誰かをおうって話してたとこなんですよ」

「剣聖さまが加われば百人力、いや千人力！　どうかお願いできませんか？」

「人助けと思って、なにとぞ！」

……あー、姉さんがいれば楽に仕事が終わるとか考えたな？

み手をしながら近づいてくる冒険者たちに、俺はやれやれとため息をついた。

ウィンスターの実家にいた頃も、たまにこの手の輩が來たんだよな。

いちいち追い返すのが面倒になって、最後の方はシエル姉さんが家の前にゴーレムを置いたんだっけ。

「ちょっと、他人の力を當てにするなんてあんたたちけなくないの？」

「そうですよ、恥ずかしい」

たちまち、クルタさんとニノさんが非難めいた眼を冒険者たちに向けた。

その冷ややかな視線に彼らはたまらずたじろぐが、すぐにあるものを取り出す。

「ま、まあまあ！　そうおっしゃらずに、これを見てくださいよ」

「依頼書？　……んん、Ｓランク？」

男たちが差し出してきた紙の右上に、大きく記された「Ｓ」の文字。

これを眼にした途端、クルタさんの表がにわかに変わった。

彼は依頼書をひったくるようにしてけ取ると、その容を読み上げる。

「えっと、巨大サンドワームの討伐。エルバニア北東にて巨大サンドワームにキャラバンが襲撃された。敵のさらなる長を阻止するため、早急に討伐されたし。なお、敵モンスターが非常に大型であるため大人數での作戦が有効と思われる……か」

「なるほど、それで人をそんなに集めてるってわけか」

この場に集まってきた冒険者たちを見回しながら、ロウガさんがつぶやく。

ざっと見ただけで、二十人以上はいるであろうか。

普通、冒険者パーティと言えば四人か五人が基本だ。

これだけの大人數で行することなど、滅多にないのである。

「非常に大型……か。案外面白いかもしれんな」

そう言うと、楽しげに眼を細めるライザ姉さん。

戦士のが騒ぎ始めてしまったらしい。

クルタさんたちも、先ほどまでの不機嫌そうな顔はどこへやら。

未知の巨大モンスターに、心惹かれてしまったようだ。

まあ、冒険者ならそういう反応になるのも無理はないか。

「サンドワームと言うと、でかいミミズのようなモンスターであるな？」

「ええ。その中でもこいつはとびっきりデカい。生き殘った者の話だと、通常の五倍はあるとか」

「ははは、それはまた大層な怪だ！」

おいおい、五倍って本當に同じ種族なのか？

それに依頼書には「さらなる長」とか書いてあるようだし。

ゴダートさんは何やら調子よく笑っているが、全く笑い事ではない。

これ、放っておいたらとんでもないことになるんじゃなかろうか。

「早く対応した方が良さそうですね」

「そうだね。けど、ワーム種のモンスターって倒してもあんまり味しくないんだよねぇ」

「どういうことですか？」

「は食べられないし、武に使えるような部位もなし。おまけに、に弱い毒が含まれてるから料にしたりすることもできないんだ」

「それ、全捨てるとこしかないじゃないですか」

俺の言葉に、コクンとうなずくクルタさん。

全く困ったモンスターもいたものである。

しかしここで、冒険者たちは不意に笑みを浮かべて言う。

「……ところが、こいつに関しては金になるんですよ」

「んん？」

「こいつが襲ったキャラバンって言うのがね。アダマンド鉱をたーっぷり運搬してたんですよ」

アダマンド鉱と言えば、高価な武の材料として用いられる希鉱石だ。

インゴットひとつで數百萬もの値が付くはずである。

それがキャラバン一つ分ともなれば……。

「あくまで噂ですがね、時価十億はあるとか」

「十億……！　すっげえな！」

「それは確かにすごい話だね」

俄然、みんなもやる気が出てきた。

この場にいる全員で平等に山分けしたとしても、數千萬にはなるからなぁ。

俺もさすがにこれほどの金額となると興味が出てくる。

それだけの元手があれば、宿屋暮らしを卒業して家を買うことだってできるだろう。

「俺たちも、參加させてもらいますか」

「ああ、特に反対する理由もない。いい鍛錬にもなるだろう」

「それがしも行かせてもらおう。ちょうど、路銀も心もとなくなっていてな」

「よし、それじゃあ支度をして明日の朝に南門へ來てくれ。これだけの狩りとなると、こっちも準備がいろいろと必要なんでな」

そう告げると、代表らしき男がそっと姉さんに向かって手を差し出した。

すると姉さんは、俺の肩をポンと叩いて言う。

「お前が握れ」

「え？」

「このパーティのリーダーはお前だからな」

こういわれてしまっては、斷れない。

俺は驚く冒険者たちの姿に恥ずかしさを覚えながらも、ゆっくりと席を立つ。

「どうも、ジークです。一応、このパーティの代表をやってます」

「俺はエルドリオ、今回のチームのリーダーです。よろしく頼みますよ」

固く手を握り合う俺とエルドリオさん。

こうして俺たちは、巨大サンドワームの討伐へと出かけることになったのであった。