《傭兵と壊れた世界》第百四十一話:不用な

親衛隊は第一軍の優秀な兵士から選ばれる。その數は一個中隊ほどの規模であり、彼らは三人一組になって孤児院の周囲に散らばった。いつでも駆けつけられるように萬全の準備を整えている。

そんな親衛隊の隠れ家へ、一人の青年兵が子豚を運んだ。彼は疲弊しながらも嬉しそうな表で部屋にると、仲間から訝しむような視線をあびながら機に向かい、下処理がされたばかりの子豚をドスンと置いた。

「なんだそれは?」

「豚だ」

「……なに?」

「豚だよ、子豚。普段は富裕層に買い占められているんだが、こんな狀況だから売れ殘っていたんだ。ああ、豚を食べられるなんて何年ぶりだろうな」

青年が調理を始めた。

や豚は貴重だ。飼育環境を用意するのが難しいため、市場に出回るのは蛇や鼠が主流になり、豚は高級食材として滅多に食べられなくなった。

「僕は料理人になりたかった。深い意味はなくて、ただ僕が味しい料理を食べたかっただけなんだ」

誰に聞かれるでもなく語り始める青年。豚を手にれられたことがよほど嬉しかったのだろう。

部屋の中には仲間が二人いる。外を警戒する者が一人と、銃の整備をする者が一人。

「でも、今は天巫様に味しい料理を食べてもらいたいって夢がある。世界にはこんなにんな食材があることを知ってもらいたいんだ」

勝手な行をする青年に対し、整備中の男は怒るでもなければ興味を示すわけでもなく、淡々と、まるで表が抜け落ちたような目で話しかけた。

「そのために他國を侵略し、食料を奪うのか?」

「上の指示なら従うしかないよね。でも、僕は戦うよりも料理を作りたい。お金をたくさん稼いで、料理の腕も磨いたら、いつか軍を抜けて、天巫様の専屬料理人になりたいんだ」

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整備中の男はうんうん、と頷きながら銃の調子を確かめると、彼はおもむろに銃口を仲間に向けた。狙われたのは、外を見張っているもう一人の兵士。

「ふーん、なるほどなあ。いい夢じゃないか」

そう言いながら、発砲。窓ガラスが赤く染まる。

飛び跳ねたが子豚の上にかかり、上機嫌で調理をしていた青年の手が止まった。

「お前みたいに単純なやつが多かったら、世界が壊れることもなかったのになあ」

「なにを……まさかお前は――!」

言い切る前に銃聲が響いた。撃たれた青年は無念そうに子豚を見る。

「悪いが、時間が惜しいんでね」

窓の外からも銃聲が聞こえた。別の場所で潛伏している親衛隊が襲撃されたのだろう。

裏切りとは世の常であり、目の前の男は最初から仲間ではなかった。卑怯とは言うまい。彼らも生き殘るために必死である。

心優しき青年は最後の力で銃を引き抜こうとしたが、すでに四肢は覚を失っており、手からり落ちた切り包丁がストンと床に突き刺さった。

無念。ただただ、無念。

激しい銃撃音は孤児院にまで屆いた。悲鳴、怒聲、窓ガラスが割れる音。目と鼻の先で誰かが戦っている。ディエゴは誰にも聞こえないように小さくため息を吐いた。

(嫌になるぜ……)

忘れかけていた戦場の記憶がフラッシュバックした。軍人に向いていないとサーチカに言われたが、本當にそのとおりだ。ローレンシアに著があるわけではなく、軍人として名を上げたいわけでもない。ましてや隊長なんて柄でもない。

それでも、ローレンシアに渡ったからこそ孤児院でシェルタ達と再會できた。サーチカは小言が多いだが、彼のおかげで生き殘れた戦場もある。

これ以上格好悪い姿を見せたくない。せめて孤児院のみんなだけは守ってみせよう。

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やがて、音が止んだ。來る。嫌な予ほど當たるものだ。補強材の間を明滅する影。じりじりと迫る無數の気配。來る。敵か、味方か。ドクン、ドクン、と心臓が跳ね、った汗が背中を伝う。

コンコン、と孤児院の扉がノックされた。ディエゴはいつでも応戦できるように銃を抜いた。

「天巫様、私です、親衛隊のラチェッタです。敵はすべて排除しました。子豚を持ってきましたので、ぜひみんなで食べましょう!」

の聲だ。天巫が首を振っている。どうやら知らない相手らしい。

「天巫様ー? いらっしゃいますよね? 開けてくださいよ、そろそろ私も腕が疲れます」

廊下からゆっくりと顔を出した。り口の扉がやけに遠くじられる。

「天巫様?」

ぞわり、と背中が粟立(あわだ)った。絶対に開けてはならない、と彼の直んでいる。

ああ、これが戦士の第六なのだ。ホルクスが敵兵の殺気を読んで銃弾を避けるように、ディエゴもまた極限狀態に陥ることでようやく戦士の才能が開花した。いささか遅すぎる開花だが、それも含めてディエゴらしいだろう。

「天巫様、子供達を連れて地下室に隠れてくれ」

「君達はどうするの?」

「まあ、やれることはやるさ。どうせ外は包囲されているだろうからな」

天巫はいたたまれない様子で拳を握ると、姿勢を正して頭を下げた。

「巻き込んでしまい、申し訳ございません」

「構わねえよ。あんたはもう孤児院の一員だ」

天巫はもう一度頭を下げてから「あなた方の健闘を祈ります」と告げた。

の後ろからシェルタが駆け寄ってくる。

「……大丈夫だよね? もう、誰も、いなくならないよね?」

「心配すんなって。しぶとさだけならナターシャにだって負けねえからよ」

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頭をでてから背中を押す。子供達は不安そうな顔をしながらも天巫に連れられて地下室に向かった。部屋にはディエゴとサーチカだけが殘っている。

「で、一応聞くんだけど、俺は軍人じゃないから、もしも逃げたって悪くねえよな?」

「構いませんよ。さっさと逃げてください」

張を解くための冗談だったのだが、サーチカは真面目な表で返事をした。

「……それ、本気で言ってる?」

「もちろんです。私があの手この手を使ってようやく軍を辭めさせたというのに、こんなところで巻き込まれないでくださいよ。私の苦労が水の泡じゃないですか。責任を取って逃げてください。一般人が戦爭に參加するものじゃありません」

「珍しくたくさん喋るじゃねえか。ま、できたら俺もそうしたいんだけどさ」

ふう、ふう、と手元に視線を落とす。やはり手が震えている。大見得を切ったのは良いものの、打開策は浮かばない。

「運(・)が(・)悪(・)い(・)と(・)か(・)、(・)間(・)が(・)悪(・)い(・)と(・)か(・)、(・)考(・)え(・)が(・)足(・)り(・)な(・)い(・)と(・)か(・)、(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)の(・)す(・)べ(・)て(・)引(・)っ(・)く(・)る(・)め(・)て(・)俺(・)だ(・)か(・)ら(・)よ(・)、(・)今(・)さ(・)ら(・)逃(・)げ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・)わ(・)」

彼の言葉と同時に扉が吹き飛んだ。銃弾の嵐が二人を襲う。

ディエゴは一瞬だけ様子を伺った。り口に三人。先頭でしているのがラチェッタと名乗っただ。

「ハッ、素直に開けてくれたら手っ取り早かったのによぉ、こうなったら孤児院ごと吹き飛ばしてやるか!」

「天巫の奪取が優先だ! 目的を忘れるなラチェッタ!」

「うっせえよ! そんなもん敵を全部ぶっ殺せば同じだろ!」

敵は數の暴力でむりやり制圧するつもりのようだ。ディエゴとサーチカは扉に隠れながら応戦した。向かい合わせの部屋から迎撃する格好だ。玄関から直線狀になっているため敵も簡単には攻められないはずである。

撃って、隠れてを繰り返しながら、ディエゴは聲を張り上げた。

「解放戦線ってのは孤児院を襲う野蠻な集団なのか! 犯罪者のほうがまだ優しいだろうな!」

「武裝した孤児院があってたまるかよ! それともローレンシアは武裝しないと安全に暮らせないってか!? 野蠻なのはどっちだ!」

なぜか銃聲よりも大きいディエゴとラチェッタの罵り合い。

敵は三人しか確認できないが、そんなはずはないだろう。いくら親衛隊と戦った後だといっても、三人だけで正面から攻め込まむとは思えない。

「サーチカ、窓も警戒しておけよ! 補強しても銃弾は防げねえ! 囲まれたら終わるぞ!」

「わかっていますが、手が足りません! 隊長が一人でり口を抑えられるなら別ですが!」

「ワハハ! 無理だな!」

無理だが、やるしかない。選択肢は殘されていないのだから。

ディエゴが目線で合図を出しながら手榴弾を投げた。一瞬でもいいから隙を作るのだ。同時にサーチカが窓に向かって走る。補強材の隙間から外の様子を確認し、表を曇らせながら銃を構えた。

一発、二発、続けて外に発砲。

言葉を介さずともディエゴは理解した。サーチカが外を迎撃したということは、すでにり口以外から攻め込まれているのだろう。彼はり口から一旦視線を外し、背後の窓ガラスに向かって発砲した。特に狙ったわけではないが、壁の向こうからうめき聲が聞こえる。

狀況は絶的だ。しでも時間を稼いで救援を待つしかない。

いつまで耐えればいい? 救援を送れるほど戦況に余裕はあるのか?

わからない。だが抗うしかない。わずかでも生き殘る確率を上げるのだ。

「祖國解放!」

敵が來る。

「祖國解放!」

補強材が破壊される。

「罪のない孤児院を襲いながら綺麗事を並べるたあ、あんたらは役者の才能があるぜ!」

「口がよくくなあローレンシア人! お前らみたいなのを猿の笑いっていうんだ!」

「難しい言葉を使うなよ! てめえの馬鹿さがけて見えるぜ!」

「ぁあ!?」

「馬鹿ラチェッタ、挑発に乗るな!」

「てめえも馬鹿っつったか!?」

時間稼ぎの煽りだ。

すでにこちらが二人なのは気付かれているだろう。心臓が波打つ。正面に敵。右も左も足音がする。弾は有限だ。そう長くは耐えられない。

そもそも孤児院が襲われないための親衛隊だったのに、彼らが負けた相手をディエゴとサーチカで抑えるというのが無茶な話なのだ。十分すぎるほど健闘しているといえよう。

「このままではもちません! 一旦地下室に退きましょう!」

耐えかねたサーチカが最後の手榴弾をり口に投げた。すでにボロボロの玄関が今度こそ崩壊する。

「今のうちに……!」

「地下室はこっちだぞ!」

「隊長は先に行ってください!」

サーチカは地下室ではなく、居室の奧に向かおうとした。

この時、ディエゴは過去に類を見ないほどの騒ぎに襲われ、同時に思考が凄まじい勢いで加速した。

なぜサーチカは地下室に向かわないのだろうか。二人で地下室のり口を塞いだほうが安全だろうに。

否、否だ。今、考えるべきはソレではない。

なぜか、正面の敵は攻めずに待っている。安全に制圧するならば包囲網を狹めるはず。ならば、敵が狙っているのは橫腹だろう。

ディエゴとサーチカにとっての急所はどこだ?

「待てサーチカ! そっちは壁の向こうに敵がいるかも――」

壁越しに銃がされた。運悪く、そのうちの二発がサーチカに命中する。一発は太もも。もう一発は右だ。崩れ落ちるサーチカ――。

「っ、クソがァ!」

ディエゴは壁に向かって銃撃しながら駆け寄った。サーチカの軍服があっという間に赤く染まっている。致命傷だ。特に右がまずい。肺が傷ついたせいでうまく呼吸ができず、彼は苦しそうにを鳴らした。

「駄目です、はやく、地下室へ……」

「黙ってろ! 俺は隊長なんだろ? なら部下は見捨てねえ!」

しでも呼吸がしやすいようにサーチカを片腕で抱きながら、ディエゴは鬼気迫る表で応戦した。手を止めれば敵が攻めてくる。手を止めねば、サーチカの手當てができない。そもそもが致命傷。込み上げる怒り、焦り、やはり怒り。抑えきれなくなったが涙となってあふれ出す。

「絶対に諦めるなよサーチカ、もうすぐ救援がくる……!」

腕の中で彼が頷く。軍人とは思えぬほど細いだ。普段から眠そうな彼だが、今は本當に眠ってしまいそうである。

命が流出していく。思い出が、記憶が、溫もりが、と一緒に失われてしまう。ディエゴはようやく幸せを摑んだと思っていた。酒場で働きながら孤児院に通い、サーチカに小言を言われつつも穏やかで満ち足りた日常。そんな幸せが奪われていく。

「私が、シザーランドの協力者、だと知ったとき、失しましたか……?」

「するわけねえだろ。お前の努力がわからねえほど俺は馬鹿じゃねえぞ!」

「ふふ、そうですよね、あなたは、そういう人――」

「おい、なんだ?」

サーチカが何か言いたげに口を開けるため、ディエゴは耳を寄せるように顔を近づけた。

そんな彼の首もとを強引に摑み、サーチカは最後の力を振り絞って顔を上げる。

二人のが重なった。

銃を撃つ手が止まる。それは、舞い上がった灰が地面につくまでの、長くも短い二人だけの靜寂。いつ敵兵が突してもおかしくない狀況下で二人は口付けをわした。

「もっと、早く、こうしておけば良かった」

が最後に抱いたは渇だ。時間がしい。もっと一緒にいたい。別れるのが恐ろしい。

驚いたような元隊長の表を見つめながらサーチカは思う。どれだけ懸命に生きても、悔いは殘るのだろう。彼なりに努力したつもりだった。されどやはり「こんなはずでは」と思ってしまう。

つまるところ、人は失敗を繰り返す生きだ。

(・)し(・)で(・)も(・)選(・)択(・)肢(・)が(・)広(・)が(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)考(・)え(・)て(・)、(・)自(・)分(・)の(・)あ(・)り(・)た(・)い(・)姿(・)を(・)想(・)像(・)し(・)て(・)、(・)夢(・)を(・)葉(・)え(・)る(・)た(・)め(・)の(・)最(・)短(・)経(・)路(・)を(・)模(・)索(・)し(・)、(・)そ(・)う(・)し(・)て(・)殘(・)る(・)後(・)悔(・)を(・)選(・)び(・)な(・)が(・)ら(・)生(・)き(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)。

サーチカは掠れた聲で呟いた。

「今度、天巫様の、歓迎會を、ひらきましょう……孤児院の、みんなと、盛大に」

「ああ、もちろんだ! ここから出して、お前の怪我を治したらすぐにひらくぞ!」

「隊長は、お酒、止ですからね? 軍団長に、憧れて……酒癖が悪くなったの、知っていますから」

「ああ、ああ、もちろんだ。俺は辛抱強くないから、飲まないようにサーチカが見守ってくれ」

サーチカの口角がわずかに上がった。

「ふふ、本當に、どうしようもない人。私がいないと、駄目なんだから……」

サーチカの瞳が閉じ、今度こそ彼は深い眠りにつく。

ディエゴは聲をおし殺して泣いた。今、敵兵にサーチカの死を気取られるわけにはいかない。無駄な足掻きかもしれないが、しでも彼の死を無駄にしたくなかった。

されどここは戦場だ。敵は待ってくれない。

「今が好機だ! 突しろ!」

敵の戦士がんでいる。

無力さが憎い。解放戦線が憎い。自分にもこんながあったのかと驚くほど、際限のない憎悪がで暴れる。

敵を殲滅する方法を考えろ。サーチカの仇を討つにはどうすれば良い。賢明な彼は死の間際、地下室に向かうのではなく居室の奧へ向かった。彼なりの考えがあったはずだ。

ディエゴが顔を上げた。視界にったのは、とある研究者が発明した結晶増幅

「まさか、サーチカはこれを……」

すれば周囲一帯を結晶に変える兵だ。使い方次第ではホルクス部隊に大打撃を與えられるほどの力がある。

ディエゴは逡巡(しゅんじゅん)した。

このままではサーチカの死が無駄になり、子供達も皆殺しにされてしまう。だが、裝置を起すればどうだ?

自分を含めた地上の人間は助からないが、地下室に逃げた子供達と天巫は守ることができる。遅かれ早かれ死ぬならば、せめて敵兵を道連れにしてしまえばいいのでは?

彼は裝置の仕組みをきちんと理解していない。もしかすると孤児院の外にまで影響が広がり、罪のない住民を巻き込むかもしれない。

それでも、大切なみんなを守れるならば――。

「俺は、元ローレンシア第三軍所屬、ディエゴ隊長だ」

ああ、そうか。このために自分は軍人になったのか。極限狀態の中、青年は一つの天啓を得た。が震える。け、と脳がんでいる。

今度こそ救うために戦え。サーチカの意志を継げ。子供達を守れ。

馴染にを張れる男であれ。

部屋の中に敵兵が突した。先頭のと目が合う。ラチェッタと呼ばれていた戦士だ。

「てめえが生き殘りか……!」

「遅えよ!」

ラチェッタが発砲。弾丸がディエゴの左肩を撃ち抜いた。だが、間に合わない。ディエゴがよろめきながらも裝置を起させた。出力は最大。なくとも孤児院を飲み込むだけの範囲はあるだろう。

ブウン、と低い音が唸る。

異変はすぐさま起きた。ディエゴを中心にして床が結晶化し始めたのだ。空気中の結晶濃度が急激に上昇し、呼吸をするたびに側から刺すような痛みが広がった。敵も味方も平等に、結晶の種が芽吹く。

「うわあぁっ、逃げろ……!?」

「なんで結晶が……!?」

狼狽える解放戦線。彼らは慌てて外に出ようとしたが、孤児院に踏みった時點で手遅れだ。に吸い込まれた結晶があらゆる生命活を停止させる。

「てめえ! 何をしやがった……!」

「小せえ脳みそで考えてみろ!」

「ぶっ殺してやる……!」

ラチェッタは銃を撃とうとした。しかし、彼の指先はすでに結晶化が始まっていた。指だけではない。息を吸うだけで肺が締め付けられ、目を開けていられないほどの激痛が走り、全がみるみるうちに無機質な結晶へと変化していく。

「この、け、くそっ、ちくしょうがァアア……!」

ラチェッタは吠えた。されど結晶の波は止まらず、彼の両足を床に固定する。

は間近に迫る死の恐怖に怯えた。

あと一歩だった夢が離れていく。する人と目指した夢が遠ざかる。

「ざまあみろ、クソッタレ」

ディエゴは痛みに耐えながら無理やり笑った。最後の最後まで敵を嘲笑ってやるのだ。戦いに負けても気持ちでは負けられない。

やがて視界が閉ざされていく。先ほどまでの激痛はじなくなり、その代わりに、震えすら許さぬ本質的な寒さに襲われた。サーチカも同じ零度を味わったのだろうか。そう思うと申し訳なくなり、ディエゴはぼやけた視界の中でサーチカを見た。結晶化してもなお綺麗な死に顔だ。

蘇る走馬燈。

サーチカを巻き込んでしまった。居なくならないというシェルタとの約束を破ってしまった。ホルクスやイサークに何も言わずに軍を退役してしまった。アリアを移都市に置き去りにしてしまった。ナターシャの友人を撃ってしまった。

後悔ばかりが思い浮かぶ。サーチカの言うとおり自分はどうしようもない男だろう。

(だが、最後は敵を殲滅できた……俺にしては上出來だろう。なあ、ナターシャ……)

さあ眠ろう。今日はもう疲れてしまった。猛烈な睡魔にを任せたい。そうして次に目覚めたら、サーチカと一緒に歓迎會の準備をするのだ。花壇の花を機に飾り、カルーダ・スパイスのピザを山盛りに用意して、天巫にはにしつつ、こっそりと酒を用意し、サーチカにみつかって怒られる。

そんな夢を想像しながら、年は安心したように眠った。

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