《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》共通項

クロヴィスさんに「二人で話したい事がある」と言われてやって來たのは、展車だった。大きな車窓が設置されていて、軽食も提供している。夜はお酒も出すバーになるらしい。列車の中に喫茶店がある景がし不思議で、非日常で、この空間にいるだけで楽しくなる。

しかしクロヴィスさんの態度からすると今から重い話が始まりそうで、じっくり観察する余裕はなさそうだ。後で琥珀やアンナ達と來た時に楽しむ事にしよう。

「リアナ君、僕がこうして二人きりで話したいと言った……目的って何か分かる?」

給仕にさりげなくチップを手渡して、周りに客の居ないカウンター席の一番端に案させたクロヴィスさんは、飲みが屆くなりすぐテーブルの上に魔道を出した。これは……盜聴を防ぐものか。

一瞬、水の中に沈んだように、周りの音がこもって遠くなる。すぐにクリアな環境音が戻って來た。それをこのこの大きさで実現してるなんて……かなり高価な魔道だな。

魔道に意識を持っていかれていたところに、クロヴィスさんの言葉で現実に引き戻される。こうして二人きりで、車窓に向くカウンター席に座って、盜聴も読も警戒するような話……?

「…………手品のタネの事とかでしょうか?」

「ふははっ」

本當に心當たりが無くて、無い所から絞り出して答えたというのに。私の回答に笑い出したクロヴィスさんをちょっとむっとした顔で見てしまう。

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「聞いてきたのはクロヴィスさんじゃないですか」

「いや、ごめんごめん。あまりに予想外だったもので、つい」

この人の事、いまひとつよく分からない。フレドさんやエディさんと一緒にいる時にしか喋った事が無いし。お兄さんのフレドさんの事が大好きな事と、私が見た限りあらゆる分野で天才だって事しか分からない。

「手品のタネを聞き出すなんて、失禮な事はしないよ。ああでも、手品が出來るようになったら楽しそうだね。合ってるか分からないけどこうして……こうかな? ああダメだ、やっぱりうまく出來ないな」

「え……?」

カウンターの上に出していた手の平を上に向けて、軽く握る。次に開くと、私がやったように銀貨が乗っていた。また握って開くと、そこに銀貨は無い。……いや、隠したまま保持出來なかったようで、手の甲側から零れた銀貨がカウンターに落ちてチャリンと音を立てた。

「……見ただけで分かったんですか?」

「いや? 完全には理解してないよ。こうかな? と思っただけで。それに息を吹き替えて紙細工が出來上がるヤツの方は、どうやってるかまだ見當もつかない。特に興味深かった」

改めて、フレドさんが「弟は天才」だと言っていたのがよく分かる。何でも出來るし、何でもすぐ出來るようになってしまうと言っていた。

見ただけでタネを見抜いて、再現してしまうなんて本當に規格外の天才だな……。手品以外でも、大のものはこうして軽々とに著けてしまうんだろうなと想像出來る。

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「リアナ君はどうして兄さんと一緒にいるのか、それが聞きたくてね」

「……? どうしてって……それは……フレドさんとは本當にたまたま出會って……」

フレドさんと私については、初対面の時の話から全部話しているのに。

今更、盜聴まで警戒して何を聞きたいのか私が分かりかねていると、クロヴィスさんは言葉を続ける。

「出會いは偶然だったのは知ってるよ。僕が知りたいのは……目的なんだよ。現在まで、こうして一緒にいる目的」

「目的?」

「そう。……兄さんと一緒にいるのって、すごく居心地が良いでしょ? 優しいし、とても頼りになるし、守ってくれる。戦闘面だけを見れば君の方が強いけど、それとは別の話で。分かるよね」

たしかに、フレドさんにはたくさん助けてもらっている。けど、その言い方では……。

「リアナ君は善人なんだろうね。人を見る目のある兄さんがここまで信頼してる人だしそこは間違いない。でも、兄さんは優しい人だから、ただ一緒にいたいからって理由で傍にいるのはやめてしい」

私がフレドさんに迷をかけてばかり、「もらって」ばかりだと図星を突かれた気がして、心臓の奧がギュッと冷たくなった。

たしかにフレドさんには、船で再會した時も、街まで親戚のふりをして連れてきてもらった道中も、街でも、助けられてばかりで……。でも。

的に「そんな事無い」と言い返したくもなったけど、ぐっとこらえて頭の中で整理する。

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「兄さんは優しい人だから、一回れると自分が傷付いてでも守ろうとしてしまうんだよ。これから兄さんは敵の多い場所に戻らなければならないのに、無駄に弱點を増やしたくない。僕は兄さんに傷付いてしくないんだ。ミドガラントでは、兄さん親しい間柄である事は隠してくれないかな」

私がここでちゃんと答えられなかったら、ミドガラントに戻ったクロヴィスさんは、絶対に私がフレドさんと親しくするのを許さないだろう。きっと表向きに分からないように、自分が采配したとフレドさんに分からない形で私達は「疎遠」にさせられてしまうと思う。

それでも私を実家から守る、便宜を図るという約束は守ってくれるのだろう。フレドさんに誓ってたから、そこは確実に。私は目立ちたくないし周りが騒がしいのは好きじゃないからそっちの方が本來んだ通りの環境かもしれない。でも。

「……確かに、たくさんお世話になったのは事実です。今までフレドさんの力になれた事はほんのしで、助けてもらった恩の方がずっと多い」

「そうだろうね」

「っ……だからこそ。私は……フレドさんの力になりたくて。フレドさんが気にするから、『移住先の條件に合う』って口実にしましたけど。本當は……今度は、私がフレドさんの力になりたかったんです。クロヴィスさんにわれた時から、そう決めてました」

ここで私は、一度息を吸う。頭にがのぼって、頬が熱い。舌が震えて口が渇く中、何とか言葉を口にしていった。

「やっぱり、私はこれからもフレドさんに助けてもらう事は多いと思います。でも、それ以上に私はフレドさんの力になりたい。だからクロヴィスさんの言うような、親しくないふりなんてしたくない。それに、フレドさんは周りに全部守ってもらわないといけないような弱い人じゃないです!」

冷靜に説明しようと思っていたのに、的になってしまったせいですごく頭がクラクラする。これでフレドさんの友人に相応しくないなんて言われてしまったらどうしよう。おそるおそる橫を見ると、なんだかとても楽しそうな顔をして、クロヴィスさんは私を見ていた。

そんな、面白い生きを観察するような視線を向けられる心當たりが無くて、私はギョッとして固まる。私は無意識にほんのじろぎして、床に固定されたカウンターの座席の上でクロヴィスさんから距離を取っていた。

「そっか、リアナ君は兄さんの力になりたいんだ」

「そ、そうですね……」

「じゃあ兄さんの力になるって、例えば?」

「えっ……と、……一つ目に、新式の人工魔石の事業を持ち込めます。売卻した事業のものとはまったく別の製法で、現在二十七等級相當の人工魔石の製造に功しています。や工場など初期投資は必要ですが、かなりの利益が見込めて……事業計畫書と、収益見込みの試算は……簡単なものになりますが、明日にはお渡し出來ます」

「リアナ君は事業計畫書まで作れるの?」

「……きちんとしたものではなく、簡単なものですけど……」

「いいねぇ! 何かしらの才能に秀でてる人は事務仕事が苦手って場合が多いんだけど。君は例外なんだね、有能で勤勉な人は大好きだよ」

「それで……私が提供できる利益について、二つ目ですが」

「ああ、大丈夫。分かったからもういいよ」

自分が出來る事の中から、何を売り込んだら「失蹤していて突然帰って來た、継承権を失った皇子」の力になれるか必死で考えていたと言うのに。突然止められて、気持ちだけすぽんと抜けて行ってしまった。

……どう言う事? その理由を一つ思いつく。私に壁を作っていた笑顔から、いつの間にか心底楽しそうな表になっているクロヴィスさんに。

「……どこからですか?」

私は最初から、試されていたのでは?

「兄さんの傍に置く人を選別したかったのは本當だよ。味方であっても、兄さんの負擔になるような存在は遠ざけたいから」

「私は……クロヴィスさんのお眼鏡にかなうような利益を提示できたという事でしょうか」

「人工魔石、たしかにすごいね。元々素晴らしい発明だとは思っていたけど、二十七等級相當の人工魔石が作れるなんて。ほとんどの貴族の家の結界に、戦略規模の魔の起まで出來る出力だ。工場が稼働するまで時間はかかりそうだけど、將來魔道がさらに発展するね。魔回路に使う錬金素材や事業を今のうちに買っておこうかな」

人を食ったような、肯定にも否定にもならない返事をしたクロヴィスさんは、フレドさんに向けているような子供っぽい笑顔を私に向けてきた。

そうして邪気が抜けて笑った顔はフレドさんに似てるから、何だか直視しづらくてつい目を逸らしてしまう。

「それが兄さんの功績になったら、すごいメリットだろうね。でもそこじゃないよ。リアナ君……君が、僕と一緒だって分かったから」

「私と……一緒?」

「兄さん……あの人に救ってもらったから、今度は自分がそれ以上に力になりたい。君が僕と同じだったから」

どう言う事なのか。分かりかねて質問すら出來ない私を前に、クロヴィスさんはまるで寶を自慢するみたいに、フレドさんの話を始めた。

「我が家の事は知ってるよね? 兄さんはあまり人を悪く言わないから、ぼかされてると思うけど」

「大は……」

「僕の父親は優不斷で王としての自覚も無く無駄な政爭を起こした張本人、母親はプレッシャーをかけるだけの高貴な人。その背後にいる親戚を含めた周りの大人達も僕の事は駒としてしか見ていない。小さい頃の僕の育った環境の話だ」

あまりに辛辣な言葉っだった。相槌を打たずに聞くしか出來ない。うっかり肯定するのも良くない気がして。

「僕は気付いた時には大何でも出來たんだけど。でも僕にとっては、何故他の者が同じ事が出來ないのか、そっちの方が不思議だったな。教わった事を習得しただけで僕は自分の事を、天才だとか、神だとか……異常だと思った事は一度も無いんだけど。周りには僕を『天才』と呼ぶ人しかいなくて、それがい僕は無意識だが苦痛にじていた」

「それは……」

「どんなに努力をしてし遂げた事でも、僕が天才だからと、その一言で片付けられてしまう。僕個人を見てくれる人はいなくて、でもそれがおかしい事なんだと気付ける知識も無かった」

フレドさんから話を聞いただけだが、まぁ、逸話を聞くと、クロヴィスさんの事を天才と呼ばない人はいないんじゃないかと思う。そう呼ばれたくないと主張したクロヴィスさんが、「何て謙虛な」と評判を上げた事も。

……でも、優秀なだけのい子供がそうやって「普通じゃない」って標識を付けられてずっとその「標識」で呼ばれるのは、つらかっただろうな。

「兄さんはね……そんな僕を、天才とか第二皇子なんて區分ではなく、『僕として』見てくれたんだ。家族として、兄として接してくれた。褒めるだけじゃなく、きちんと理由も説明しながら叱ってくれた事もある。決して多くの時間ではなかったけど……兄さんが僕を一人の、ただの弟として扱ってくれた経験がなければ、僕は自分が苦痛をじてるとすら知らずに生きてたんだよ。だから何て言うか……」

クロヴィスさんはそこで言葉を區切って、大切そうにその言葉を口にした。

「僕は兄さんがいたから『人』になれたんだ」

ああ、だからこの人はフレドさんの事がこんなに大好きなんだな、と私のの中にすとんと落ちてきた。それは言葉の通り、「救われた」過去だったから。

「もちろん、兄さんの事自も尊敬してるよ。自ら學んで、學び方も適宜見直してて、自分の出來る限りの様々な努力をして、果も出していた。自己評価が低いけど、普通に優秀な人だ」

「そうですよね。フレドさんって私に言う割に、自分に対しての評価が厳しすぎますよね」

「まぁ兄さんも君にだけは言われたくないと思うけど……とりえあえず。僕はね、兄さんには絶対に幸せになってしいんだ」

「それは……分かります」

今、さらっと悪口を言われた……? しかしここで議論すると長くなりそうなので、一旦置いておこう。うん。

「……本當は、兄さんに王位を継いでしかったんだよね。いや、今でも可能ならその方が良いと思ってる」

「でも、フレドさんは……」

「そうだね。本人がんでないし、さすがに五年も行方不明だった人に継承権を再び與える事は出來ない。兄さんの安全面の問題もあるけど」

それに、母系の後ろ盾は無いに等しいし、実際無理だろうな。たしかに、今はフレドさんを王位に推すつもりは無いのも分かる。仮定の話だ。私は続く言葉を待った。

「これは兄さんのためじゃなくて。國の未來をより良いものに導くために學んだ立場として、本心からそう思ってたんだ。僕より……ただ優秀で天才なだけの僕よりも、人から好かれる、普通の人の心に寄り添える兄さんの方が向いてる。僕はこの才能を生かして、兄さんの治政を支えてより良いものするんだと……」

こんなに仲の良い兄弟なのに、周りの大人の事のせいで大変だったんだな。クロヴィスさんが眺めている車窓からの風景を見ながら、二人の子供時代に思いを馳せてしまう。

「だから神様は僕達兄弟をこの順番で作ったんだって、そう思ってたんだけどね。やっぱり間違ってるよなぁ……僕、無能と怠け者がこの世で一番嫌いなんだけど。優秀で素晴らしい人がきちんと評価されてない世界も同じくらい嫌なんだ」

そう考えると、私はすごく恵まれていたな……頑張っても家族に褒めてもらえないってだけで、私にはちゃんと認めてくれるアンナがいたし。

ぼんやりそんな事を考えていた私の耳に、すごく穏やかで優しい聲で喋るクロヴィスさんの言葉が響く。

「兄さんについて、君は同志だ。それが分かって良かった。これからもよろしくね」

「えっと……よろしくお願いします……?」

優秀な人は相応しい評価をされるべき。言っている事はもっともなんだけど、何だか一瞬不穏な空気をじた。何だろう、違和を上手く言語化できないんだけど……。

「あと、聞きたい事はまだあって。こっちも大切な事なんだけど……」

「は、はい」

クロヴィスさんが改まった様子で仕切り直す。

真剣な話をしていて元々い空気にだったが、なんだかよりが強まった気がする程だ。盜聴防止の魔道は、當然起したままである。

私は沈黙の中、カラカラに乾いた口を飲みらせるのも忘れて、次の言葉を待っていた。

「君しか知らない、兄さんの話を教えてしくて」

「…………はい?」

「だから、リアナ君と兄さんが二人きりだった期間を含めた、リアナ君しか知らない話だよ。兄さんは謙虛だから……恥ずかしがって自分の事をあまり話さないんだよね。でも僕は、兄さんの事は可能な限り全部聞きたいんだ」

言葉の意味は分かるんだけど、思わず聞き返してしまった。これ以上にどんなに重い話が來るかと構えていた私は、拍子抜けしてしまう。

「……えっと……フレドさんが隠すような事を、こうして緒の場で教えるのはちょっと……と思うんですが……」

「兄さんが本當に知られたくない、隠してる事を探っている訳じゃないよ! 自分に言い寄って來たの関係でリアナ君を巻き込んだとか、起きた事は知ってるんだ。兄さんが話してくれた。でも詳細は濁されちゃって……」

「ええ……」

「頼むよリアナ君。僕が知らない兄さんの話を聞く事でしか得られない喜びがあるんだ」

それからしばらく、とても気強くお願いされてしまい、その熱意に負けた形で「フレドさんがクロヴィスさんに教えた話を、私視點で話すくらいなら……」とフレドさんのエピソードを語る事になったのだった。

なお、話終わった頃には夕飯の時間が迫っていた事を追記しておく。

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