《現実でレベル上げてどうすんだremix》W-006_ガンジ、行きまーす! 了

『ぅヲレ、高速増ゥゥゥッ! いつもより余計にパなしておりまぁぁぁぁぁぁぁぁすッ!!』

「はしゃいでんなあ」

天から降ってくる調子っぱずれの町放送のような大聲。

聞こえたそれに思わず空を見上げ、俺はひとつ呟く。

地上を見下ろす冒涜的な見た目の、目ん玉だらけの暗雲。

その正はなにを隠そう、俺がついさっき【霊召喚】で呼んだ雷の霊、オコシだ。“システム”をいじった影響か、以前は無作為だった霊の召喚も今は隨意に選んで行えるようになっていた。

通常ならば一抱えほどの大きさで、眼球も二つだけなはずのオコシ。

それがあんな有様になっているのは、ひとえに奴の持つspecialである【積雲】のせい。

“周囲の雲を取り込んで積を増加させる”力だが……目まで増えるのか、あれ。今まで使わせたことなかったから知らなかった。苦手な人にはきついだろうか、あの見た目。

『ぅヲめでとぅございまぁぁぁぁぁぁぁぁすッ!!』

奇聲とともに放電を雨霰とかましつづけるオコシ。

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言うまでもなく奴の【荷電】による攻撃である。読みどおりというかロボ――機械に雷は有効らしく、かすっただけで帝國の機を機能不全ないし停止に追いこんでいる。もっともあの攻撃は狙いが甘く、奴のき(・)印な格も相まってかなりの放電が無駄撃ちとなってしまっている。そのうえで景気よくばらまいているせいで、さっきからSPがもりもり減っている。そろそろ自重させねえと枯渇すんぞこれ。

『なんなのあれッ?! ひょっとして君のしわざなのっ? ガンジ殿ッ!』

「ああ、はい。公國に害はないので、安心してください」

『うわぁっ!? 目の前に雷がッ、どうなってんだ?!』

『……ほんとに大丈夫?』

「大丈夫です。……たぶん」

『サンダァロォォド!! 狂い咲きィィィィィッ!!!』

回復した通信から、イルダの取りし気味の聲。

答えた端からお味方のびが屆いたせいで、いまいち信用がなくなってしまう。

上空では、なおもはしゃぎ続けるオコシ。

「飛ばしすぎだオコシ」

『スン……』

「急に落ち著くな」

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とりあえず注意したら、噓のように靜かになった。ご丁寧に無數に増えた目も全部閉じたような見た目に。オンかオフしかねえのか手前。

時間が止まったかのように靜まりかえる戦場。ざっと見たじ帝國の被害は四割くらいか。とはいえそれはロボの機數だけの話。大戦艦はいまだ健在だし(砲塔が一部お釈迦になっているようだが)、それに一応人死には出さないようにしていたので、大量に控える後詰めの歩兵にも被害はない。

つまり全的には、まだまだあちらさんのが優勢。

『……な、なんだかわからんが、攻撃はあの気味の悪い雲からだ! くらえ!』

いち早く我に返った帝國機が、オコシ目がけて砲撃。

『オフッ、チクッとキタァ……』

あ、どうもダメージはったらしい。奴は既定のcondとして“気”であるため、理的な攻撃は一切通じないはず。つまりロボの兵裝は、やはり魔法的な攻撃裝置なのだろう。

一応有効らしいと判斷したのか、オコシに攻撃を加える帝國機が徐々に増えだす。

『イタッ、痛ィ? 多キモチィイィィィッ!!』

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次々加えられる砲撃に、しかし當のオコシはだいぶ余裕そう。

それもそのはず。奴の現在のステータスは、

――status――

name:オコシ

age:― sex:―

class:雷の

cond:気 帯電 積層

Lv:99

EXP:― NXT:―

HP:3596663/ 5

MP: 5/ 5

ATK:507

DEF:180

TEC:359

SOR:504

AGL:440

LUC:Normal

SP: 2992/ 4950

――magic――

〔加技〕〔麻痺〕〔功力〕〔解除〕

――special――

【荷電】【電電太鼓】

【雷屬】【風屬吸収】【核熱屬弱點】

【積雲】

【隠行】

こうだ。

【積雲】には“元の積と同量大きくなるごとにHP1増加”という効果もあり、そのせいで今上空で一塊の雷雲となっているオコシは、見てのとおりどえらいHPの値になってしまっている。

加えて霊には“弱點以外の攻撃のダメージは基本1”という質がある。つまり今の奴を倒すには、都合三十六萬発近い攻撃を加える必要があるわけだ。もちろん弱點を突ければその限りではないが……どうも見たじ、ロボの兵裝に屬攻撃とかはない様子。

『――いたぞ! 昨日のガキ、おそらく士だ!』

『この異変が魔であれば、ヤツを殺せば収まるはずッ!』

ふと、こちらに急接近する機が二機。

聞こえた音聲からおそらく昨日寢っ転がした連中の誰かと思われる。まあたしかに、屬なしで今のオコシを倒すよりは、呼び主である俺を狙うほうが幾分現実的かもしれない。

『させるかッ!』

「あ、待った。自分でやります」

『ええっ?! で、でもっ……』

「まあまあ」

すかさず庇おうとくイルダの機を、しかし俺は片手を挙げつつ制する。

とまどいつつもすこし下がる赤い機を橫目に、迫る帝國機と対峙。

『馬鹿かッ? 昨日のようにはいかんぞ! 喰らえ!!』

ほどなく、そんな臺詞とともに放たれる砲撃。

なにもしなくても〔反〕で無傷だろうが、それだとたぶん相手が死ぬ。

なので跳んで避ける。砲弾はそれこそ弾丸並みの速度だが、見えていれば【回避】に頼らずとも素ののこなしだけで躱せる。

跳んだ方向は斜め前方。地面に著弾した砲弾を目に、撃ってきた機薄し、

ぶん毆る。

『うが――、』

べごおん、と通事故にでも遭ったかのようにへこむ機前面。

通信共々沈黙した敵機を蹴って橫っ飛び、俺はもう一機の脇に著地。

同時に、そのキャタピラを前蹴り。

『ぐわぁっ!?』

をひしゃげさせ、向こうへと橫転する機

こっちの通信は生きているようだが、たぶん自力では起き上がれないよな、これ。

『が、ガンジ殿……これ、君はいったい、なにを……』

「獨自のです」

『聞いたことないわよそんな魔っ?!?』

イルダの疑問を適當に誤魔化したら、つっこまれた。むべなるかな。

まあでも、うん。薄々思ってはいたが、やっぱロボに乗らないほうがきやすい。

だけあってか、敵味方問わず頑丈そうには見えるロボたち。

けど実のところ、例えば故郷の戦車とかほどかっちりとした裝甲でないように思ってはいた。でなければさすがに【八卦酔】とかの補助なしで、ああもへこませることは出來なかっただろう。

おそらくロボの裝甲は、々丈夫な乗用車くらい。武裝が実弾でないからそれで十分なのではないか、と思われる。

不意に、ごごん、と重い稼音が響いてくる。

発生源は大戦艦。見ればなんと変形を始めている。すわ立ち上がるのかと期待したが、前方が開き艦橋がせり上がっただけで止まってしまう。なんだ。

と、そこで終わりでもないらしい。変形で出來た中央の開口部。そこからごうんと生えてきたのは、冗談のように馬鹿でかい砲門。ご立派。

『まずいッ! 総員退避ーーーーーッ!!!』

砲門に集中しはじめた。それを相変えたような命令が通信越しに響く。

『ガンジ殿なにをッ? 君も逃げて!!』

「ああ、俺は大丈夫なんで、気になさらず」

予測される線から、敵味方問わず兵が引きはじめる。

その線のまさにど真ん中にいるらしい俺へ、イルダからの切迫した聲。

そちらへまた片手を向けて平気だと示す。それを了承したのか、自の安全を優先したのかはわからないが、皆に遅れて彼もまた線外へと後退していく。

一際大きく輝く砲口。

一瞬のち、放たれる巨砲。

凄まじいが瞬く間に迫る。あ眩しいなこれ、目は瞑っとこう。

そうしていよいよ砲撃は俺へと到達し、

かん、と。

……………………。

「ん?」

目を開けて、思わず首を傾げる。

した〔反〕により、たしかに砲撃は跳ね返されたはず。

しかし視線の向こう、大戦艦は先程と変わらず、どこにも被害が見當たらない。

てっきり巨砲に返ってぶっ壊れているものと思ったが……無効化された?

「……や、違うな」

すこし考え、思い至る。

たぶん砲撃は砲そのものにではなく、撃った人(・・・・)に返ったのではないか。砲手か、あるいは命じた人間、ひいてはあの艦の総指揮者――そのうちの誰かが、今頃真っ黒焦げになっているものと思われる。その証拠になるかはわからないが、大戦艦は先程からしんと靜まり返ってく気配がない。案外艦橋あたりが大混に陥っているのかもしれない。

「てかまた殺しちまったか? ……まあいいか」

ふと気づいて、しかしすぐ切り替える。敵戦艦が壊れるだけならいいだろうと思って〔反〕させたが、この結果は予想していなかった。まあでもぶっ壊れたのが砲でもその余波で人死にくらいは出たかもしれないが……あんま気にしてなかったな、そのへん。

自発的な人殺しはやめたが、

そうかっちりと、心に誓っているわけでもない。

(戦爭なんかするから人が死ぬんだよ! とかなんかんどけばそれっぽいか?)

どうでもいいか。

さておき、いやに靜まり返った戦場をざっと眺める。

中大破した敵機、そこそこたくさん。

そこに加えて、大戦艦の砲塔一基に、乗組員の誰か。

開戦早々にお釈迦にしてしまった機の埋め合わせには、十分だろうか。一宿一飯の恩にも見合う働きだと思うが、どうだろう?

「というわけで、俺はそろそろ行きます」

『……え、えっ?』

「お前ももう戻れ、オコシ」

『ぅヲととい來てやるぜェェェェェ!』

駆け寄り、聲をかけてから、ヘッドセットを外してイルダの機の適當なところに引っかける。

それからオコシを送還し、俺は次に【境界廊】が繋がる地點を目指すことにする。まだ一日半くらい時間はあるが、そろそろ向かったほうがいい距離ではあるだろうし。

「それじゃ、世話んなりました」

たぶん聞こえないだろうが、それでも聲をかけてから駆け出す。

向かう先はおそらく帝國であり、だから敵陣へ突っこんでいくかたちになるが……まあ大丈夫か。あ、でも一応〔反〕はかけ直しておくか。

そうして俺は、戦場を早引けすることに。

當然帝國兵に攻撃されたが、避けたり防いだり無力化したり、とくに問題なく通過できた。

その後は帝國の前線基地に下働きとしてりこみ一晩明かし、

翌日あらためて地點を目指し、無事開いた【境界廊】へとることができた。

~~~

――九二四年、イスペル公國へ侵攻したツァーロ帝國は、かねてより建造を進めていた大戦艦を戦線投し短期攻略を計る。

數において公國を圧倒する帝國は優位にあったが、不明な攻撃による機械歩兵十四~二十二機(資料により異なる)の損壊、大戦艦主砲の不調や三番砲塔の沈黙、ひいては同艦長の突然の不審死等、予期せぬ被害もあって一時戦線は拮抗する。

しかしその後は中央からの援軍も加わり戦況を盛り返し、公國東方防衛軍を打ち破り、同月四日には東部都市アガスタを制圧。この戦闘を契機に公國は同年中に帝國へと併合されることになる。

なお、この戦闘においてツァーロ、イスペル両國の兵から「空に不気味な雷雲を見た」「雷がまるで雨のように降ってきた」「空を駆け上る人間がいた」といった奇妙な証言が得られている。その荒唐無稽さから戦場という極限の狀況からくる錯や幻覚と思われるが、証言者の多さや他の戦闘では同様の証言が得られなかったことから、実際に起こったことなのではないかと推察する識者もなくない。

またこの戦闘での帝國側の被害も、當時の公國の戦力を鑑みると異様といえ、ゆえに大陸西部戦史上の大きな謎のひとつとされる……

――大陸西部戦史概略 シニョル・ナーディエ著 シヴィリブリアンテ書房刊行

とりあえずこれだけ。

今後の投稿時期は未定です。

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