《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》783.友人達の奔走4
ルクスはアルムを無心で毆った。そうしなければ罪悪で決意が鈍る。
恩人を毆る。自分の目標を毆る。親友を毆る。
痛くて仕方ない。頭の中との奧がずきずきする。
目に見えて混しているアルムの表を見ないように、ルクスはただアルムを毆った。
「……」
ルクスが無言でアルムを毆る姿は異様という他無い。
トラブルに応対するはずの衛兵ですら友人間のいざこざなのではと一瞬固まっていた。
同じくその景を見ていたエルミラは驚きながら、一番騒ぎそうなミスティをちらっと見るが、予想に反してミスティはこうとしてはいなかった。ショックでけないのではなく、その景を不可解に思いながらも意図を汲み取ろうとしているような。
「どうしたルクス! やめろ!」
何かおかしいとは思いつつも、何度も毆られるこの狀況に耐えかねたアルムはルクスを遠ざけるように突き飛ばす。
ルクスはアルムを毆っていた右手からをポタポタと垂らしながらをふらつかせる。
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そしてアルムではなく、周りにいるミスティ達でもなく……廊下に立って不可解な景を見せられた無関係の衛兵のほうに目を向けた。
「そこの衛兵、見ていたか?」
「は、はい……?」
「今僕が突き飛ばされるのを見ていたか?」
「え、ええ……見て、いましたが……」
衛兵は戸いながらも頷く。
ルクスはそれを確認すると冷たい視線でアルムのほうを指差した。
「オルリック家次期當主ルクス・オルリックへの暴行の罪でこの男を拘束してくれ」
「え」
「は……?」
言われた衛兵も指を差されたアルムもルクスが何を言っているのか一瞬わからないようだった。
毆ってきたから遠ざけただけのアルムにとってはあまりにも理不盡。完全な言いがかりなのもあり、衛兵もどこまで本気なのか測りかねているようでけていない。
衛兵のその様子を見てか、ルクスはその場にいたクオルカに目配せを送る。
クオルカはルクスが何をんでいるのかを悟り、衛兵を睨んだ。
「どうした? 王城の衛兵は目の前のトラブルを前にけないのかね? ルクスの言う通り職務を果たしたまえ。現當主であるこのクオルカとしても早くいてほしいが?」
「し、しかし……毆っていたのは……」
「毆っていた? はて? 私の目にはそこの年が(・・・・・・)我が息子を(・・・・・)いきなり(・・・・)突き飛ばした(・・・・・)ようにしか見えなかったが?」
「クオルカ……さん?」
アルムは何が起きているのかもわからず、ただ呆然としている。
自分の知らないルクスと先程まで底抜けに優しかったクオルカとは別人のような鋭い目付きがその場の空気を重々しくさせていた。
「どうした? 君達にもそう見えただろう? かないなら君達の名前と所屬、上司の名を言いたまえ。四大貴族オルリック家に対立の意思があると判斷し、私が直接話をしに行こう」
「か、確保! 確保だ!!」
四大貴族の一つオルリック家の権力は貴族の中でも凄まじい。さらに言えば、中立派であるオルリック家の機嫌を一介の衛兵が損ねたと知られれば自分達の首は勿論、上司の首がいくつあっても責任を取ることは出來ない。
廊下にいた衛兵達は呆然とするアルムを拘束する。
アルムは抵抗を見せることなくそのまま衛兵に拘束された。アルムにとっては拘束される事よりも、ルクスの真意のほうが重要だ。
「ルクス……どういう……」
「……僕はこうして権力を振り回すのが嫌いだ。だけど、君のためなら権力もこの分も存分に利用しよう」
「お前……まさか……」
「僕からの君への暴行は無かったことになった。そういう事にすらできるのが……四大貴族の権力だ」
「ルク――ぐっ!?」
衛兵達によってアルムの口が塞がれる。
魔法學院の生徒を拘束するのなら當然、魔法を唱えられないようにするのは當たり前の事だった。
拘束されながら、ルクスが一瞬辛そうに目を伏せたのをアルムは見る。
「知らなかった、だろう……? これが貴族の汚さだ……!」
「むぐっ!? ううううう!!」
「引っ込んでいろ平民。この國を守るのに君の命なんて、必要ない」
辛辣に言い放ったその聲は震えていた。
そんなルクスを見て、霊脈に接続するとどうなるかをルクスが知ってしまったのだと悟る。
「気を付けてくれ。平民だがベラルタ魔法學院で生き殘った男だ。油斷せずにしっかりと口枷をつけてくれ」
「わ、わかりました」
オルリック家で生まれた事もクオルカという偉大な父の存在を利用し、ルクスは拘束されたアルムを見る。
暴力を権力によって無かった事にする橫暴。四大貴族という地位で振るう理不盡。
アルムを大蛇(おろち)と戦わせないためにはこうするしか思いつかなかった。
どれだけ恨まれ、軽蔑されようとも……アルムのためなら汚い貴族にでもなってやろうと決意して。
「連れて行ってくれ」
アルムは衛兵の手によって連れられて行く。抵抗の意思はないのか連れられるがまま歩いて行った。
「……それで、説明はあると思っていいですか? このままではマナリル対大蛇(おろち)よりも先にカエシウス家対オルリック家のほうが先に発してしまいそうですが?」
罪悪に苛まれているルクスの背後で、凍り付くような表をするミスティ。
事がある事は察してはいるが、それと不快はまた別。
普段のルクスがアルムを尊重している事を知っているからこそミスティはまだ我慢できていた。これが別の人間であればその場で氷漬けにされているに違いない。
「四大貴族でも中立派の二つが爭うとなると政治的な意味でマナリルは荒れに荒れるだろうな。ルクスよ、流石に私もミスティ殿と戦爭はしたくないぞ? マナリルの英雄クオルカ・オルリックもカエシウスの姫君相手ではな」
「わかっています父上……ちゃんと事はありますが……」
ルクスは振り返ってミスティに深々と頭を下げる。
「婚約者に対する突然の無禮を謝罪するミスティ殿。だがアルムの事を考えると……こうするくいらいしか止める方法を思いつけなかった」
ルクスはアルムの葛藤を完全には理解していない。エルミラが摑んだのは人間が霊脈に接続すると死ぬという事だけ。忘卻の報は無い。
しかしその背中を見てきた人間として確信があった。大蛇(おろち)が出てきてから止めるのでは遅い。誰かの危機を目の當りにしたら、アルムはきっと立ち上がってしまう。
「エルミラ、いいかい?」
「話すかどうかすら迷ってたけど……まぁ、確かにアルムを止めるには手っ取り早い方法か……」
「え? え? え? ど、どういう事ー……?」
これからみんなでお茶の時間になるはずだった一日は迫したものへと変わった。
ベネッタはお土産だったはずの焼き菓子の袋を不安そうに握っている。
「サンベリーナ殿やネロエラ達も集めてしい。事が変わった。大蛇(おろち)は……僕達だけで殺す」
ルクスは瞳に覚悟を宿す。
今まで何度も助けられた。救われた。戦ってくれた。
だからせめて最後だけは、背負わせない。背負わせてなるものか。
貴族が平民を助けるのは當たり前のこと。これで自分が恨まれようともアルムの命だけはと、その本気を聲にした。
いつも読んでくださってありがとうございます。
想、誤字報告などいつも助かっております。
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