《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》3話 ラウンドアバウト

〜2032年3月、ニホン探索者養學園"中央アカデミー"にて〜

うん、全員揃ってますね。それでは今日の座學を始めます。

聞く、聞かないはあなた達に任せますけど、あとから知らないって言い訳はしないでください。今、この國に愚図の面倒を見る余裕はないので。

3年前、世界は大きく変わりました。

Ver2.0、”候補生”のあなた達は覚えていますよね、あの日、世界中で発生した怪種の氾濫、”スタンピード”。

我々人類は人口の約2割をたった1ヶ月で喪い、社會に大きなダメージをけました。諸外國には、國家という形の維持すら困難になったものもあります。

特に、イギリス。あの”放送音聲"によれば、ダークブリテン地方ですね。

名前の趣味は悪いですが、現在あの國はもう人類の生存圏ではなくなりました。まあ、この辺は石神編集長さんの座學で詳しく聞いてください。

私の座學では、新しい有力な”防人”、つまりニホンの指定探索者候補である生徒のみなさんの存在理由を叩きこみます。

結論から伝えますね。あなた達の存在理由は一言で言えば”神種”の殲滅です。

種とは何か、今更説明しないと分からない人はいないと思いますけど……じゃあ、影山君、答えることが出來ますか? ……うん、正解、いい子ですね、きちんと復習してるみたいで大変結構です。

そう、”神種”とは”神話に登場する存在”と酷似した超強力な怪のことを指します。

現在、防衛省のガイドラインではニホン獨自で怪種の危険度判定の基準を策定中です。

種はその最上位、”戦略級怪種”よりもさらに上の階層の存在となります。文字通り、神話そのものと言ってもいいですからね。

現在、人類が遭遇したこの神種とはっきり認定されているものはおおよそ13

その中でも特に危険なものがイギリスを滅ぼし、國土をダンジョン化させ、新たな生の支配圏となった”ダークブリテン地方”の王、神種・”アルトリウス”。恐らくは、あの有名なアーサー王伝説が出典でしょう。

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そして、現在、我々ニホンが最も憂慮するべき、最悪の存在が……”神種・アサマ”の脅威です。

影山くん、緑下さん、怖がる必要はありません。

アサマの権能である”名前を呼んだものを呪う”とされる力は現在、ニホンの霊的防機構の三方のお力により、ヤマナシ県、シズオカ県の一部地域とイズ半島のみに限定されています。

さて、ようやく今日の座學の本題にれますね。

……仮稱"戦略級怪種1號・アジヤマタダヒト"により起こされた北南事変、そしてそれに呼応するように起きたアサマ侵略について、説明します。

よくこの講義を聞いててくださいね。

いずれ、みなさんは"神種"と戦う使命にあります。我々人類がこの先も、霊長であり続ける為には必ず、アレらを殺す必要がありますから。

ここまでで何か質問はありますか? はい、神さん、どうぞ。

……うん、うん。ああ、やはり気になりますよね。神種との実際に戦ったことのある人間の想は。

うーん、そうですね。私が初めて神種と出會ったのは、北南事変です。その次はあの第二次バベル島防衛戦。

2の神種と戦った人間の想を言うならば……,

一言で言うと、無理、ですね。

まず、笑っちゃうんですけど

ふふ、みなさん、そんな顔しないで下さい。気持ちはわかりますけど。でも、事実です。

うーん、そうですね、想像してみてください。

蟻、いますよね? 昆蟲の。あなた達、アレに殺されるって思ったことありますか?

ふふ、田井中くん、そんなに面白いですか? でも、そうですよね。蟻に噛まれたら痛いって知ってる人はいると思いますが、だからと言って蟻に殺されるって思う人はいない。

だって、蟻は蟻です。人間とはありとあらゆるものが別次元過ぎて、私たちはそれを敵と認識することすらない。

ま、し噛まれたりとか、目障りとかだとか殺す対象になることがあったりはしますけど。

うん、それです。

種にとって、私達人類は、蟻、ですよ。

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ふふ、あれ、どうしました、皆さん。顔、悪いですよー。私たちはこれから頑張って、蟻として、人として、神話と戦わなければならないんですから。

どうやって? うーん、ごめんなさい、わかりません。先生も、その北南事変で神種に負けてます。それにその後の第二次バベル島防衛戦でも、生き殘ることで一杯でしたしね。

凄いですよ、神種の前に立つと、もう何も出來なくなるんですから。

あなた達の先輩である指定探索者も、何人も神種の前に立っただけで心が壊れた人が沢山いました。

目の前に立つ、それだけで、です。

種にとって、人類なんて目線を向けただけで勝手に死ぬほど脆い存在なんです。それが現在の私たちと神話の間にある歴然とした差です。

うん? 神さん、なんですか? ああ、どうしたらいいのか? ですか? 簡単ですよ。

それでも戦うんです、それでも進むんです。

え? もし、神種に勝てる人間がいたらどんな存在か?

ふふっ。

ああ、ごめんなさい。し、昔の……知ってる人を思い出しちゃいました。そうですね、もし、今の人類で神種に勝てる人間となると……きっと、めちゃくちゃでいい加減で訳わかんなくて、しムカついて、それで、うん。

ーーとても、恐ろしい人だと思いますよ。

……はい! 質問はおしまいです! では講義を続けまーす。皆さん、きちんとよく聞いていて下さいね! この私、ニホン指定探索者。

ーー貴崎凜の講義です、ありがたく聞くよーに!

◇◇◇◇

〜バベルの大、まんなか〜

《あ。なるほど、なるほど、やっぱこうなりましたか、さすがに、今のあなたが相手するのは無理がありましたかね。負けちゃいましたね。いやーオイラ殘念です。本當に殘念です――》

「……」

の髪、ハイライトのない蒼い瞳、小さな顔にしなやかな躰。

アレタ・アシュフィールドが地面にあおむけに倒れる。その目は閉じられ、頬には戦いの余波、煤や土汚れが目立ち。

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もはや、嵐は止んだ。

「……」

ソフィ・M・クラークが崩れ落ちる。うつぶせに倒れ、へにょりと地面に垂れる一房の赤い三つ編み。

久しく、はなく。

「……」

グレン・ウォーカーが無造作に転がる。領域の外の生命との結合、黒い外殻、黒いの面も見る影なく砕け散って。

もう、落とし仔も眠り。

アレフチームの3人、英雄たちが目を瞑る。神話との戦い末に。

神話と人間の差が、ここに。

英雄と呼ばれる人類の特異點ですら、未だ遙か遠いのかもしれない。

だが、1人。あと1人、地面に倒れるべき者が足りない。神話に挑んだのは、4人の筈で。

最後の1人は――。

《AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!??????????????????》

「ギャハハ!! ギャハハハハハハ!! ギャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!」」

白い、羽が舞っていた。

煌めきをそのまま羽として、それを編み、形をした巨大な翼が毟られていた。

《ーーセラフさん、負けちゃいましたね》

ぶ、ち、り。

地に、伏せる、神話の存在。そのしい翼がもぎ取られる。

聖なるものの悲鳴を汚い嗤い聲が攫っていく。悲鳴、そう、本來ならそれは”悲鳴”なんてものありえなかったのに。

「どうだあああああ!! 熾天使様よおお! アシュフィールドの嵐で、てめえを空から墜としてよぉお!!」

空からひらひら羽が舞い続ける幻想的な絵のなかで、頭がバカになる景がそこに。

耳男が、熾天使から元気に翼をもいでいく。

「……いたた。……あは、良いじじゃない、タダヒト」

アレタ・アシュフィールドがむくりと上半を起こす。そのまま足を投げ出し座ったまま、神話が終わる様を眺める。

「クラークんなんか、よくわっかんねえあのの銃とか鞭とかでてめえのぼこにしてえええ!!」

「……頭が痛い、吐き気もする……まったくタフだね、アジヤマ」

ソフィ・M・クラークがを起こす。アレタに寄り添い座ったまま、たった1人の男が神話の翼をもぎ取っていく姿を眺める。

「んでええ、グレンの黒いブヨブヨをてめえのの中に注すればよおおお!」

「あー、頭いってえ……うっわ、タダ、あいつ、本當にやりやがった」

グレン・ウォーカーが立ち上がる。呆れた顔で顔を拭いながら、蟻が翼をもいでいく景を眺めて。

TIPS€ 技能”汝、只の人なりて”により、”管理人(フロアマスター)”熾天使”への神話攻略が進行。

ぶち。

地面にうつ伏せに倒れるのは、神話。熾天使、その翼は嵐によりへし折られ、そのによって貫かれ、その巨軀は黒い粘によって侵されて。

《A A A A A A A……》

地に伏せるのは、神話。そしてその背に立ち、巨大な翼を一つ、また一つもぎ取っていくのは、耳の男。

まるで巨大な獲を解していく兇暴な蟻のように。

「はい、4本目エエエエエエエ!! ギャハハ! もう半分もねえぞ! 聖書の新しい見出しは決定だなあ! 6枚の翼、そのほとんどは探索者によって奪われた、てえよお!!」

ぶちり。

を壊すその大力。頭が焼けるような興、大いなるモノを壊す異常の力を振るう快楽に、凡人はただ、酔い続ける。

《A》

本から引き抜かれ、無造作に空に放り投げられる巨大な翼。船の帆ほどある巨大なそれを人間が持ち上げ、捨てる。

さらり。耳男によってもぎ取られる翼は、風に攫われての粒を撒き散らし、白い羽となり、散っていく。

《ああ、なるほどなるほど。オイラ、なんとなくそんな気はしてました。でも実際に見ると驚きますよね。なんだろう、ルソーさんが言ってたあの言葉って、こうなることを予言してたのかな。あの人いつも言い回しはくどいんだけど、本當に重要なことは端的に一言で言い表すんですよね》

『A

「こおおれええで、5本目えエエエエエエエ!! え?」

《あ、思い出した。神は死んだ、でしたね。ええ、まさに》

パンッ。

味山只人が、天使の背中から5本目の翼をもぎ取った瞬間、その巨軀が弾けた。

TIPS€ You fallen Fierce angel.

TIPS€ トロフィー(実績)授與"翼を捥ぐ者へ"

「うお!?」

足場としていた熾天使の巨軀が消える、味山が真っ逆さまに落ちて。

「ストーム・ルーラー!」

「うおおお!? お? おー! サンキュー、アシュフィールド!」

間一髪。アレタが起こした極小の嵐が

「どういたしまして」

ほっとした顔のアシュフィールドが頷く。指先を下に、それに合わせて味山をそっと地面まで運んだ。

「おっと、と、と! あ〜やったやった。これ、勝ったよな? 俺たちの勝ちでいいよな?」

「そう、思いたい所だよ。悪いが、我々まっとうな人間はもう限界だ……ああ、くそ、ピースキーパーの殘弾ももうないぞ」

「ソフィの言う通り。あの大きな真っ白な怪は消えた。……制を整え直したい所だけども……」

《あ、どうも、みなさんお疲れ様でした》

「……そう簡単にはいかないみたいね」

「どうする? またダンジョン毆ってみるか?」

《ちょっと待ってくださいよ、味山さん。なんでそんな結論になるんですか? オイラのような善良な現代ダンジョンに対しての無秩序な暴力は許せません。公的な機関、もしくは法的な手段での対応も視野にれさせていただきます》

「コイツ、もう意味わかんねえな」

「あなたが言うとその言葉の説得力はなくなるけど、概ね同意だわ。それで、現代ダンジョンバベルの大さん」《あ、バベルくんって呼んでください、アレタ・アシュフィールドさん》

「……バベルくん。あたし達、あまり暇じゃないの。あなたが用意した怪は斃した。あなたが見たいといったアレフチームの実力は見せたつもりだけれど?」

《あ、そうですね。ありがとうございました。いやー、暑かったですね。セラフさんの"萬軍の尖兵や、前へ"で召喚された1000以上の下位眷屬を、アレタ・アシュフィールドさんがストームルーラーで鎧袖一するシーンは最高でした! あ、気付いてますか? アレタ・アシュフィールドさん、今、あの52番目の星さん達の集合になりかけてた時の影響で、ほぼ半神です。あなたの今後がとてもオイラ楽しみです》

「そうじゃなくて。今、あたしが言いたいのは、あなたはあたし達探索者を試して、危険な目に遭わせた。それで? バベルくん、あなたが現代ダンジョンっていうのなら、探索を終えた探索者に的な報酬とかはないのかしら」

おお、コイツすげえな。味山はアレタの言葉にし驚く。

さて、どうやってこの聲の主人を見つけてぶちのめすかだけを考えていた味山と違い、アレタはまた別のアプローチを試みているらしい。

《あ、すみません。それはそうですよね。もちろん用意してます。あなた達、アレフチームには他の人類の皆様に先行して、オイラから"報酬(リワード)システムへの接続権をプレゼントします》

「り、わーど?」

アレタが首を傾げ、

TIPS€ 技能"ゲーム脳"発

「ああ、なるほど。さっきのトロフィーがどうのこうのと関係あるのか?」

味山だけが、ピンと來た顔をして。

《あ、さすがは味山さん。ゲーム脳なだけありますね。説明が早くて助かります。えっとー、実は今、地上でVer2.0が適用されています。地上に現れる怪種やスタンピードを止めたりすること、あとはオイラが設定した目標を達することで、トロフィー(実績)を手にれることが出來るんですけど、それに合わせてトロフィーに合わせた報酬(リワード)への接続権をプレゼントさせていただきます。あー、まあ、説明がめんどくさいんで、とりあえず、えっとはい、どうぞ》

「え」

TIPS€ 実績・”管理人の撃破”を解放した。報酬・”深層突”を獲得。お前はダンジョンの”まんなか”を進む権利を得た

《あ、どうぞ。今回の実績はアレフチームのみなさんには全員に、オイラの深層に進む権利をプレゼントします。あ、あと、味山さんはセラフさんとの戦いで條件を達したので特別な実績を得ました。この報酬はちょっと準備がいるのでし待ってくれたらうれしいです》

「見て、霧が……」

「晴れていく……?」

「え? あれは」

《あ、報酬の扉です。それをくぐってもらえば、ここ、まんなかのさらに下に向かってもらえます。えっと、誇ってください、本來ならこの扉にたどり著くのって人類がVer2.0をクリアして、ダンジョンに侵攻出來るようになってからの予定だったんです、數百年くらいの歴史を先取りしてくれました。もしかしたら、今回はアレが來るまでに間に合うのかもしれないですね》

「……どうする?」

「そう、ね」

《あ、ちなみに今皆さんが悩んでいる壽命の問題なんですけど、オイラから皆さんにプレゼントした報酬、"ダンジョンサバイバー"あるじゃないですか。みなさんはダンジョンで生まれた食材を食べる事によるボーナスが凄いことになってます。深層にしかない希な食材や、怪種を食べれば、その辺はかなり解決すると思いますよ》

「……こいつ、どこまで知ってるんだ?」

「なんでもお見通しって、わけっすか」

「ふむ? どうする、アレタ」

ソフィがちらりとアレタを見つめて。

「進むわ」

シンプル、しかし、力強くアレタが答える。

「あたし達は、探索者よ。ここがバベルの大で、試練があって、それを打破したのなら、もう進むしかない」

「アシュフィールドに賛

「ワタシもだ」

「俺もっす」

『さあ! アーミー達、俺に乗り込め! 合衆國の熱い開拓の魂は今、貴様らに燈っているぞ!』

がなりたてる喋る裝甲車のハートマン。彼の言葉にみんなし笑って乗り込んでいく。

アレタ、ソフィ、グレン、順番に車に乗り込んで。

「タダヒト、行きましょ」

「おう、アシュフィールド」

味山が、最後に車両の天井、そこから覗く銃座に乗り込んで。

ぎいいいいいいいいい。

巨大な扉が、開く。その先は真っ暗で何も見えない。

《進むべき者よ、進むに値する者よ。あなた達を私はずっと待っていた》

あの聲が響く、先ほどとはまるで、口調が違う。

《価値なき命、まれない種として無為に生まれ、しかし、ただそのちっぽけな生命の輝きを連綿と繋いだ者よ。想いを、慟哭を、願いを、次へと引き継ぎ、ここまで辿り著いた者よ。星の支配者ーー人間(ホモ・サピエンス)よ》

「アジヤマ、気づいたかい?」

「……ああ、この聲、あ(・)の(・)扉(・)の(・)奧(・)か(・)ら(・)聞(・)こ(・)え(・)て(・)る(・)な(・)」

味山がソフィの言葉に頷く。扉の奧から聞こえる聲はまるで鐘のように響いている。

《汝らの道に、汝らの結末に私は期待する。決まりきった終わりに汝らがもしも、立ち向かうというのならば》

世界の底から屆く聲を、人類の最前たちが聞き屆ける。

《進むと良い。進めば良い。私を下れ、私を降りろ、その底が見通せずとも。汝ら人間が祖先より引き継いだその飽くなき未知への求を武に》

「タダヒト、そういえばあなた、あの聲が響く前に何か、お説教がどうのこうの言ってなかった?」

「ああ、あれか? 後で落ち著いた時に言うよ」

「えー……聞きたくなーい」

「はい説教長くなりましたー」

《箱庭(私)を下れ、探し索る者よ。貴方達にはその資格がある》

「ふ、ふふ。こんな時になんだが、知的好奇心が湧いてきたぞ。どこかでまた執筆がしたいものだ。うん、次のワタシの著作のタイトルが決まった。ソフィ・M・クラークのバベルの大ワクワク生きガイドブック、というのはどうだい?」

「ワクワクの意味を辭書で調べてからにしてください、センセ」

「まあ、いいじゃない、グレン。ソフィのネーミングセンスのなさは今に始まったことじゃないもの」

「え!? あ、アレタ!? 噓だろう? そんな風に思ってたのかい? い、いいじゃあないか! ワクワク生き! あ、アジヤマ、君はどう思う?」

「ワクワクするから良いと思う」

「ほーらみろ! ほーらみろ! これで2対2だ! ふははははは! まだワタシは負けてないぞおう!」

「タダヒトを1にカウントしていいの?」

「おい、アシュフィールド、どういう意味だ」

探索者達が進む。先の見えない荒野を、暗闇を、未知を恐れずいつも通りに。

人類の最前、アレフチームが今、バベルの大深層へ向かう。

裝甲車両がゆっくり、しかし確実に前へ。

いつのまにか、軽口を叩いていた4人は押し黙り、前を見る。

前方、巨大な扉、闇。

それでも彼らは、探索者だ。ならば、するべきことを一つだけ。

「それじゃ、全員、仕事を始めましょうか」

運転席のアレタが手を組む。祈り。たとえそれを聞き屆けるものがいないとしても。

この旅が、探索が良いものでありますように。そう、祈り、願い、進む。

すっと、青い瞳を開いた。ここには全てがいる。全てがある。たとえ世界から忘れさられても、例え世界を置き去りにしても、アレタ・アシュフィールドは孤獨にはならなかった。

彼らがそれを許さなかった。今は、ただそのことが嬉しい。そのことが誇らしい。

「探索、開始」

「了解だよ、アレタ」

「了解っす、アレタさん!」

仲間が彼の言葉に答える。なんのことはないはずの景はしかし、數多の52番目の星が願い、焦がれ、それでも辿り著けなかった景だ。

そして、彼はその聲を待つ。

が選び、彼を選び、彼を引き摺り下ろした男の聲を。

気だるそうに、でも、しっかりと自分の名前を呼んでくれるその聲を。

「ーー了解、アシ《あ、すみません。忘れてました。マスターはこっちです。あ、違った、味山さんでした》

「「「は?」」」

「え?」

つまみ。

銃座に座り、車外に位置していた味山只人。

いつのまにか、浮いていた。

ふわり、間抜けなUFOキャッチャーの景品のように、なんか、浮いていた。

がちゃり。

空の上に、また扉。黒い扉が地上にむけて開いた。

「え、え?」

《オイラの勘なんですけど、味山さんをこのまま深層に行かせるより、地上に送った方がなんか面白そうです》

「っッ、ストーム・ルー《あ、もう行っていいですよ、アレフチームの皆さん。大丈夫です、向こうとあっちでは時間の流れが違うのでそんなに問題ないと思いますんで》

ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

大扉が、アレフチームを吸い込み始める。風が逆さに吹き付ける、アレタが展開したストーム・ルーラもまるでその中に吸い込まれるように消えていく。

「タダヒト!!?」

一瞬の、油斷、いや、あまりにも理不盡で馬鹿げた力により、アレフチームはあっけなく分斷された。

「くそ! アジヤマ! だめだ! キミは、キミだけはアレタの前からいなくなってはダメだ!!」

「せんせ! やめ、車から出たらダメっす!! 扉に吸い込まれる! おい、タダ!! お前、こっちだ! 戻ってこい!!」

車の扉を開き悲鳴に近いソフィの聲、彼の小さなが扉に吸い込まれないようにグレンがソフィを車に引き戻す。だが、彼もまた目を見開き、味山を見上げる。

しゅるり、黒い扉からびたのは數多の腕、人間の腕だ。それが味山ののいたるところをつかんで、扉に向けて持ち上げはじめた。

やば――。本能がぶ。反的に味山は再び、耳男になろうとして。

「ジャワ! 火ィーー《あ、あのバカげた力は今、やめた方がいいですよ。あなたバカだから忘れてるでしょうけど、もう多分、壽命がたりません》

TIPS€ お前の壽命は殘り12時間だ。耳男を使いすぎたな、バカめ

「やべ」

の殘り滓たちも、反応しない、手ごたえがない。彼らは意識的に、味山の壽命を考えて力を貸さない。

味山只人は、この時點で誰よりも早く、まず諦めた。このままアレフチームの元に戻ることを、だ。

そして、彼のIQ3000の頭脳が加熱する。

さて、じゃあ自分はどうするか。なんとなく、このままアレタ・アシュフィールドを放っておくと、また、アレになりそうだ。

アイツは勝手に自分を呪う。もうよく考えるとそれは仕方ないことかもしれない。そういう生きなのだ。ならそれをどうこうするよりも――。

「アシュフィールド」

空に吊り下げられた味山が眼下のアレフチームに聲を。

何を言おう、何を言えばいい? ここはあれか、やはり、俺のことはいいから先に行けとかそんなんだろうか。

ひとつ、確信がある。例えヒントを聞かなくても。

アレタ・アシュフィールドは今度折れたらもう、ダメだ。今、このまま自分が離すれば、アレタは必ず己を責める、それで今度こそ折れる。

考えろ、もう時間がない。この英雄バカを、今、泣きそうでぐちゃぐちゃで折れそうなアイツを、折らずに、誤魔化せる最高の気休めを。

アシュフィールド。アシュフィールド。アシュフィールド。

味山の無意識が、選んだ言葉。それは英雄(アレタ)にとって最善(最悪)の言葉。

「すまん、助けてくれ」

「――あ」

アレタの目が揺れる。

ぐちゃぐちゃになりそうな顔が、目の前で何より自分が失ってならないものが失う景。だが、その言葉を聞いた瞬間、彼の顔が切り替わる。

「アシュフィールド」

その言葉はきっと呪いになる。その言葉はきっとまたアレタ・アシュフィールドを追い詰める。でも、味山は本能的に最適解を選んでいた。

今、彼を立たせるには――。

「ーー頼んだ」

呪いと祝福はきっと似ている。

味山の言葉の瞬間後、アレタの顔が切り替わる。

ぞっとするようなしい蒼い瞳。ハイライトのないその目はまるで底の見えない凪いだ海のよう。

「――わかった」

アレタがうなずく。一切のブレのないその視線、人間じゃないものがたまたま人間の形をしているかのような異質

怖くて、悲しくて、悔しかった。これから、ようやくアレフチームが全員そろって、それで、ちくしょう。

味山が諦めと絶に息を吐いて。

――只人、笑っとけ。

祖父、あの適當な山菜取りがライフワーク自由な爺さんの言葉がなぜか今。

――怖い時は笑え、悲しい時は怒れ、もうダメだと思った時は大笑いせえ。あ? なんでって? そんなん決まっちょろうが――。

その先の言葉は忘れた、でも、味山は――にっと、嗤う。

「ダンジョンの味いもん探しといてくれや。バカども」

「「「バカーー」」」

《あ、じゃあ送還しまーす》

「またな」

嗤え。

ぎ、ぎぎぎぎっぎ。ばたん。

へたくそな笑顔のまま、味山が小さな扉に引きずり込まれ、あっけなくその扉は閉じられた。

「タダヒト……」

ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

扉から逆巻く風が、アレフチームを飲み込む。

彼らもまた進む。アレフチームは人員1名を欠いたまま大扉の向こうの闇に進む。

《いやあ、ワクワクしてきましたね、これからあなた達の探索がどんな結末を迎えるのか、オイラとても楽しみです。期待してます》

ぎいいいいいいいいいいいいい。大扉が閉まる音が平原に響く。

あとはそれだけ。もう、そこには何もなくなった。まんなか。どこでもあって、どこでもない。ただ白い霧が、揺うだけ。

がちゃん。

その扉が次に開くのは――。

€Head, shoulders, knees and toes.€

€Head, shoulders, knees and toes.€

€Eyes and Ears and mouth and nose.€

€Head, shoulders, knees and toes.€

ソレの歌聲が、霧の中に拡がる。

霧のもやの向こう側から現れたソレ。

小便小僧のようなぷっくら膨らんだには、消えぬ大きな傷が。

それは彼の小さな冒険、恐るべき霧と強き金としぶとい黒との存外にたのしい時間の思い出。

短い手足でぺちぺち歩いてここまでやってきた彼が、それを見上げる。

「Wow, Big doors」

が、音聲を再生する。

大きなお耳が、ひとつ、ふたつ繋がって。

それが、目の前の大扉と、あと真上に浮いている黒い扉を順番に眺めていた。

きっと、その扉のどちらかは、すぐにひらかれることになるだろう。

「Hmmm... Which one should I choose?」

その化けの名前は――。

《あ、どうも、お耳さん。オイラ、現代ダンジョンバベルの大です。どちらの扉もおすすめですけど、オイラ的にはやっぱりーー》

耳のは、その耳障りな聲を聞き流しながら、じっと、上を見つめていた。

《上がより、おすすめだと思います》

「OH YEAH」

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

凡人探索者の書籍版、電子版など予約始まりました。凄えいいのでおすすめです。沢山予約助かります。

下記Twitterでも々作品の間話、本編ではれられない怪種についての小ネタなど投稿しています。灰ゴブリンも見れるよ。

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