《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》【二巻発売記念SS】かな誓い

「春の訪れ」の続きです。

ローズブレイド公爵エルヴィスが、王セシリアとの婚約を結んだ。

アデラインの仇である王太子夫妻の娘セシリアなど、ローズブレイド家に長く仕える家令トレヴァーにとっては、決して許せるものではなかった。

たとえ己の命と引き換えにしても、當主エルヴィスを諫めなくてはならない。その一心で、トレヴァーは王都へと向かったのだ。

「……わざわざ王都まで何をしに來たんですか」

王都のローズブレイド邸では、執事スタンが呆れた顔でトレヴァーを迎えた。

スタンはトレヴァーの息子であり、この屋敷の使用人達をまとめる立場にある。

しかし年若く経験も淺いため、トレヴァーから見ればまだまだ未だった。

「決まっているだろう。旦那さまに婚約を撤回するよう進言するためだ」

「父さんが何か言ったところで、聞くような方だとお思いですか?」

「いいや。だが言わずにはいられない。たとえそれで私の命がなくなったとしてもな! あの王太子夫妻の娘など、どのような悪辣なであるか知れたものではない!」

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トレヴァーの言葉を聞きながら、スタンは深いため息をつく。そして額に手を當てて首を振った。

「あのですね、父さん。セシリアさまは王太子夫妻にげられていたんですよ。確かに王太子夫妻はお嬢さまの仇ですが、セシリアさまには何の責任もないじゃないですか。むしろ被害者ですよ」

「……だからといって、王太子夫妻の娘をローズブレイド家に迎えれることに賛するわけにはいかない」

頑なな父親の態度を見て、スタンは再び大きなため息をついた。

「まあ、その気持ちはわかりますよ。しかし、アデラインお嬢さまを慕っていた旦那さまが、どうしてセシリアさまと婚約を結ぶことを了承したのか……。それをよく考えてください」

「……それは……」

トレヴァーは口ごもり、目を伏せる。

「まずはお二人の様子を見てはどうですか? ちょうど今、お二人で庭園をお散歩していらっしゃいますよ」

スタンの言葉を聞いて、トレヴァーは眉間に皺を寄せながらも、黙って庭園に向かう。

離れた場所からそっと様子をうかがうと、そこには仲睦まじく寄り添いながら歩く二人の姿があった。

「あれは……」

優しく微笑むエルヴィスを見て、トレヴァーは思わず目を疑った。

いつも厳しい表を浮かべているエルヴィスからは、決して想像できない姿だったからだ。

い頃は無邪気な笑顔を見せてくれたエルヴィスだが、アデラインを喪ってからは笑わなくなった。儀禮的な笑みを浮かべることはあっても、心からの笑みを見せることはなくなってしまったのだ。

そんなエルヴィスが、まるで別人のように穏やかに笑う姿を見て、トレヴァーの心が揺さぶられる。

「まさか……本當に……なっ!?」

続いて、エルヴィスの隣にいるセシリアを見たトレヴァーは、思わず言葉を失った。

アデラインがそこにいるように錯覚したからだ。

よく見てみれば、髪と瞳のは同じだが、顔立ちは違う。アデラインと比べればかなり小柄で、華奢なつきをしている。

そこまで似ているとは言い難い。それなのに、何故かセシリアとアデラインが重なってしまった。

「これは、いったい……」

いながら視線を向ける先で、セシリアが花に顔を寄せる。ゆっくりと指先をばし、摘んだばかりの花びらをおし気にでた。

その姿を目の當たりにして、トレヴァーは息をのむ。そしての奧底から込み上げる熱いを抑えきれなくなり、目頭が熱くなった。

「まさか……まさか……このようなことが……」

今、セシリアが見せた仕草は、アデラインと同じものだった。

花をし慈しむ優しい手付きも、穏やかな眼差しも、すべてアデラインとそっくりだったのだ。

セシリアを見つめたまま、トレヴァーの目から涙が零れる。

「お似合いだと思いませんか?」

いつの間にか隣に來ていたスタンが、靜かな聲で問いかけてきた。

「ああ……そうだな……」

トレヴァーは掠れた聲を出しながら、何度も深く頷いた。

そのまま二人が庭園を歩いて行くのを、トレヴァーはじっと見守る。

「ところで、セシリアさまはいったい……」

二人の姿が見えなくなったところで、トレヴァーは聲をひそめてスタンに尋ねる。

「はっきりとはわかりません。ただ、セシリアさまは初対面の俺の名前を知っていました。たかが一介の執事にすぎないはずの俺の名前を、です」

「そうか……旦那さまはそのことをご存じなのか?」

「ええ、もちろん。それに、旦那さまが何も気付かないはずがありません」

「では何故……」

「セシリアさまが何もおっしゃいませんからね。なので、あえて何もお尋ねにならないのです」

「なるほどな……」

トレヴァーは大きく息をつく。

おそらく、セシリアはアデラインの生まれ変わりなのだろう。だが、それをエルヴィスに告げることができない理由があるに違いない。

もっとも、そのようなことはどうでもよい。凍りついていたエルヴィスの心を溶かしてくれる存在が現れたことに、トレヴァーは謝せずにはいられなかった。

「……旦那さまに進言するつもりだったが、まったくもって必要なかったな」

「でしょう?」

スタンは得意げに微笑んでみせる。

「これからのお二人を見守っていけばいいと思いますよ。きっと大丈夫だと信じていますけれどね」

「ああ、そうだな……」

スタンの言葉に、トレヴァーは素直に同意する。

そして、心の中で改めて誓う。

エルヴィスとセシリアの幸せのために、全力を盡くそうと。

書籍版タイトル『悪役令嬢は、婚約破棄してきた王子の娘に転生する~氷の貴公子と契約婚約して「ざまぁ」する筈なのに、なぜか溺されています!?』2巻が本日発売です。

ぜひお手にとっていただけると嬉しいです。

また、新作「無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖と呼ばれる~今さら何を言ってももう遅い、私は負けません~」も始めましたので、そちらもよろしくお願いいたします。

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