「こんなに……！？」

慌てて逃げた先で、ゆっくりと視線を上げる。

――途方もなく大きい。

サンドワームという生が、本來はどのぐらいの大きさなのか。

俺はあいにく知らなかったが、目の前にいる生が規格外であることは理解できた。

くだけで地鳴りがするほどの巨は、人間どころかドラゴンでも丸呑みに出來そうだ。

大人七、八人は楽に乗れる車が、こいつと比べるとひどくちっぽけに見える。

今までもいろいろなモンスターと対峙してきたが、サイズだけなら圧倒的だ。

あの恐ろしいヒュドラすら上回ることだろう。

「ひいぃ……！　これ、流石にやばいんじゃないの！？」

「十億のためとはいえ、灑落にならねえぞ！」

「おいエルドリオ、どうなってんだ！？」

クルタさんが悲鳴を上げるのに合わせて、他の冒険者も次々と聲を上げた。

やはり、想定をはるかに超えた怪であったようだ。

するとここで、騒ぐ冒険者たちを制すようにライザ姉さんが言う。

「うろたえるな！」

これほどの大きさの敵を前にしても、自に満ち溢れたライザ姉さん。

そのよく響く聲は、さながら雷鳴のよう。

彼の威厳ある姿を見て、冒険者たちはにわかに落ち著きを取り戻す。

流石は姉さんだ、あれだけのモンスターを見ても全く怯む様子がない。

「ノア、あいつを斬れ」

「えっ！？　俺が！？」

「そうだ、何のためにここまで來たと思っている」

そう言うと、ライザ姉さんはひょいっと剣を投げてきた。

俺は慌ててそれをけ取ると、さっそく抜いてみる。

すると――。

「何だこれ！？　めっちゃ錆びてる！」

「街の武屋で買ってきたジャンク品だ。千ゴールドで買えたぞ」

「そんなので勝てるわけないよ！　めちゃくちゃだ！」

「それぐらいしなければ、修行にならん！」

この非常事態でさえ、ライザ姉さんは俺の修行に利用しようとしているらしい。

俺は全力で首を橫に振ったが、姉さんは有無を言わせず「やれ」と顎をしゃくった。

最近は比較的穏やかだったライザ姉さんだが、大剣神祭を前にして厳しさが戻ってきたな……。

実家を出る前のことを思い出し、たまらず震いしてしまう。

「……わかった。クル……わっ！？」

クルタさんたちに聲を掛けようとしたところで、サンドワームがこちらに向かってき出した。

まずい、もう時間がないぞ！！

慌ててクルタさんたちに目配せをすると、彼たちはこちらの意図を察してうなずく。

「任せといて、注意はこっちで引くから！」

「アンタらも協力してくれ！　集中攻撃だ！」

「了解だ！　みんな、やるぞ！！」

エルドリオさんの突撃を皮切りに、冒険者たちの一斉攻撃が始まった。

幸い、大きさはともかく防力はさほどでもないらしい。

冒険者たちの攻撃はサンドワームの分厚い皮を抜き、敵の意識をそらす。

「グオオオオオォッ！！！！」

「かはっ！！」

「ちぃっ！　暴れ出しやがった！」

サンドワームの巨が蠢き、取り付いた冒険者たちを吹き飛ばす。

軽くじろぎしただけだというのに、大の大人が軽々と宙を舞った。

その様子はちょっとした慘劇だ。

しかしその瞬間、サンドワームの注意が彼らに注がれるのを俺は見逃さない。

「はああああぁっ！！」

微かな隙を突き、サンドワームの背中に飛びつき剣を立てた。

切れ味の悪い刃はズズズッと掠れた音を響かせる。

――重い！

皮を貫くと、たちまちぶよぶよとしたが刃に絡みついた。

さながら、トリモチの塊にでも剣を刺したかのようだ。

クソ、これじゃ斬るどころか抜くことすらできないぞ……！！

力を籠めるあまり、全が熱を帯びるがそれでもなかなか斬れない。

「力任せになるな！　らかいものを斬る時は、流れを見ろ！」

「流れ？　どういうこと？」

「全を観察すれば、何となく斬れそうな方向が必ずある！　それに従え！」

「何となくって何だよ！」

「何となくは何となくだ！」

出たよ、姉さんの覚派指導！

そんなこと言われても、何もわかるはずがない。

ううーん、流れか……。

い質を斬る時には、そのの弱い點を見極めて突くのが基本だ。

その応用だとは思うのだけれど、これだけらかいと弱點が常にいてしまってよく分からない。

「んんん……！！」

「ノア殿、一度思い切り力するのだ！　そして、剣をもっとも振りやすいとじる方向へ振り抜け！」

ここでゴダートさんが、ライザ姉さんよりはいくらか的なアドバイスをしてきた。

俺はそのアドバイスに従い、深呼吸をしながら全の筋を落ち著かせる。

――靜寂。

暴れるサンドワームの上で、ほんの一瞬だが神が無に帰った。

時の流れが、さながら引き延ばされたようにじられる。

その長い時間の中で、俺はゆっくりと剣をかした。

すると、ほんのわずかにだがが違う方向がある。

「ここか……！　おりゃあああっ！！」

剣をかし始めると、姉さんが流れといった意味が分かった。

あれほど重かったはずの刃が、るようにき始める。

そして――。

「グギャオアアアアアン！！！！」

サンドワームのから、激しく飛沫が吹き上がった――！