《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》885 暴されてみよう その4

「さっきから似たようなことを繰り返しているけど、またまた確認ね。『天空都市』に行くためにスラットさんを倒さなくちゃいけないとか、そういう制約はないのよね?」

いわゆる「先に進みたければ俺を倒していけ!」というやつだ。年漫畫等でおなじみだわね。

対義語に「ここは俺に任せて先に行け!」があるよ。

「ああ、あの二人のことがあったばかりだし、君たちがそう考えるのも當然か。彼らには悪いけど僕にはそんなしがらみはないよ。強いて言うなら『天空都市』の連中と同じけていることくらいかな」

良かった。里っちゃん報によれば、王様とか王族が強敵として立ちふさがるというのはゲームではありがちな展開らしいので、戦いになると大変かも、とちょっぴり心配だったのよね。

まあ、不老不死な上にこの場に留まり続けなくてはいけないのは、悪質過ぎる呪いにも似たものと言えそうだけれど。

そこで新たな疑問が浮かぶ。どうして彼はここに派遣されたのだろうか?

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あの二人の命を利用した悪辣な罠があるとはいえ、反勢力との最前線とすらいえる。戦力にならない王弟がいるような場所ではないでしょう。

「確か「あの罠を乗り越えてきた人を迎えるのが役目」だったっけ?でもそれってスラットさんが勝手に言っているだけだよね?」

「勝手ではないさ。兄である王からちゃんとそう言いつかったのだからね。まあ、その意味合いは僕と彼らでは若干違っていたのかもしれないけどね」

二コリと笑みを浮かべるスラットさん。まさに無邪気を現したような素敵な微笑みのはずなのに、どこか黒いものをじてしまうわあ……。

「割と致命的なズレだよね、それって……。ボクたちにとっては楽でいいけど」

これは本音だ。當時はともかく気の遠くなるような年月を経た今の彼は、強者へと変貌を遂げていても何らおかしくはない。バトルジャンキーではないからね。これからラストダンジョンに乗り込もうかという時に、苦戦必須な相手と戦うのは可能な限り避けたいのですよ。

「そうだな、君たちが納得できる答えをいうなら、『天空都市』から放逐された、というところだろうか。を捨てる計畫に始まり、最後の數年は幹部や側近たちの提案どころか王の言葉にまで疑問を突きつけたり反論していたから。厄介払いをする絶好の機會だとでも考えたのだろうさ」

なるほどね。捕らえられてしまえば絶好の旗頭にされる可能はあるけれど、あの罠が破られないという絶対的な自信があったならそれはデメリットにはならない。事実、ボクたちがここに到達するまで存在し続けていた訳だし、あながちその考えが間違いだったとは言えないだろう。

それと、仮に捕らえられてもそれはそれで攻撃するための口実に使えるから構わない、とも思っていたのではないかしらん。疎まれていたというくらいだから、きっと生死を問わない勢いで攻撃を仕掛けたような気がする。

「お、なかなかいい読みだね。僕としても全くの同さ。後は僕の扱いをどうするのか意見が割れて時間稼ぎになるとか、僕を連れ帰るための部隊が必要になるから反勢力の勢いを弱めることができるとかも想定していたと思うよ」

王弟というこの人の価値を考えれば、それくらいは織り込み済みでもおかしくはないか。『天空都市』の人たちにとって、死霊化することで自我をなくしてしまったことが唯一にして最大の誤算だったのだろうね。

「『天空都市』を追い出されたスラットさんだけが自我を持ち続けていられたっていうのはすっごい皮だね。……あ、もしかしてこれも予想しておとなしく追い出されたの?」

「まさか!あんな連中とは同類になりたくなくて、距離を置きたいというのがせいぜいだったさ。こんなことになるとは欠片も思ってはいなかったよ」

それもそうか。死霊になった人たちも破滅主義者だった訳でもなければ無能揃いなはずもない。もしもスラットさんが気付くような欠陥があれば計畫を斷念しただろう。

「とりあえずここまでは了解。それで、どうやって『天空都市』に行けばいいの?『神々の塔』の頂上から繋がっているとは聞いたけど、これを登れとか本気で勘弁してほしいんですけど……」

壁のようにそそり立つそれは、霞んで途中から見えなくなっていた。いったい何千メートルあることやら。登山道らしきものがあるようにも見えないので、ロッククライミング狀態?

……いくらリアルに比べると力や筋力が高くなっているとはいえ、限度があると思うの。

「それなら心配いらない。『神々の塔』は『古代魔法文明期』に造られた、この大陸最大のでね。その正は千を越える階層があるという超巨大な人工迷宮なんだ」

「これがで迷宮!?とんでもなさ過ぎでしょ。『古代魔法文明期』って何なのよ……」

「ずっと研究が続けられていたけど、結局その問いに答えを出すことはできなかったよ」

お手上げという風にスラットさんが力なく両手を上げる。今の時代からするとスラットさんたちの『大陸統一國家』の跡ですらとんでもないオーバーテクノロジーの産なのですが……。

ふう。ちょっと落ち著こう。どうせ考えたところでどうにかなるものではないのだ。変に意識していては大事なことを見落としてしまう。ここはすっぱり切り替えてそういう設定だとか舞臺裝置だと思おう。

「すうー、はくうー。……よし!わざわざその説明をしたということは、迷宮であることが頂上に向かうための鍵になるのかな?」

深呼吸をして続きを促す。

「……君、鋭い上に意外と膽力もあるよね」

「ふふん。褒めても何も出ませんぜ、旦那」

「あの罠を越えてこられただけはあるということか。やっぱりここで待っていて正解だったな」

うわー、意味深な臺詞は止めてしいなあ。裏があるのかと勘ぐってしまいそうになるよ。

「おっと、『神々の塔』についてだったね。実は迷宮にはいくつかの共通する機能があるんだ。まあ、迷宮によっては稼働していない機能もあるから、そこは注意が必要なのだけれど。で、そんな機能の一つに階層を行き來できるというものがある」

瞬時にり口まで帰還できるとか、到達した階層まで移できるとかは聞いたことがあるね。

「ここの場合はし特殊でね。最初からすべての階層に移できるようになっているのさ」

「なにそれめっちゃ便利。……もしかしてその機能で頂上にも行けるってこと!?」

「その通り。あ、命が惜しいなら他の階層には進まないことだね。僕たちの時代でも派遣した調査隊が帰ってきた試しがないから」

なにそれめっちゃ怖!?

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