《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》13
ジークとカミラは、ハディスが帝都を追われた際に、隠れ家で暮らしたことがある。一ヶ月ほどだったが、そのときの経験があるため、皇帝と食卓を囲むことにも抵抗がない。
「やーん、久しぶり陛下のあったかいスープ、おいしい~!」
廚房の卓に並べられたスープをひとくち口にれるなり、カミラが頬をゆるめた。隣のジークは無言で噛みしめるようにパンを食べている。
「廚房、使えたからね。あっためられてよかった。食材も付け足せたし……でも、足りなくない? 元はピクニック用だから」
「ぜんぜん、おいしいです! ノイトラールを思い出します」
「あーわかる、懐かしい~。竜妃宮って結構広いわよね、狩りとかできない?」
「裏の奧のほう、滝から川になってたから魚、いるかもな」
盛り上がるジークとカミラは、ノイトラールでの自活を楽しんでいた。懐かしく思い出しながら、ジルはたしなめる。
「一応、後宮なんですよ。狩猟暮らしを始めちゃだめです」
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「えーでもなんにもないし、どうせなら畑とか作っちゃわない?」
「壊れかけのなんかを々、再利用すりゃいい。かまどとかどうだ?」
「ピザが作れるね」
「作りましょう、かまど!」
即決したジルに、ハディスが笑う。
「竜妃殿下のお許しが出たよ。竜妃宮って竜も直接行き來してたみたいで、敷地が広いんだよねえ。竜妃の騎士が常駐できるよう、宿舎もあったみたい。ラーヴェが言ってた」
「ラーヴェ様が? そういえばどこにいるんですか」
「懐かしいって周囲を見て回ってるよ。久しぶりにきたみたいだから」
相づちを返したジルはスープの中からを見つけ出し、口の中に放りこんだ。
「そういえばラーヴェ様って、あんまり昔の話もしませんね」
「記憶が曖昧っていうのもあるけど……あまり僕に影響しないようにって昔、言ってたよ。だからって自分と同じ存在を作ろうとするのは、理に反するみたい。時間を巻き戻しちゃいけないのと一緒だって言ってた」
どきりとして、パンをちぎろうとしていた手が止まる。
ジルは自分の意思ではないが、おそらく時間を巻き戻っている。今まで神がやったことだからできるのだと流してきたが、理に反するという視點はなかった。
「必要なことは教えてくれるけどね。ここ、昔は砦みたいな造りだったとも言ってたよ」
「砦……ですか。竜妃と、竜妃の騎士たちの?」
「そう。竜妃の騎士団の駐屯所、みたいな?」
「え、じゃあひょっとしてアタシたちここに住めちゃう?」
うん、とハディスはあっさり頷いた。カミラが指を鳴らし、ジークは口笛を鳴らす。
「いいな。どうせかまども作るんだ、いっそ住み込むか」
「さんせー、今日から住んじゃいましょ」
「帝都に家を借りてるじゃないか、ふたりとも」
「……ジルちゃん。こんなことは言いたくないんだけどね」
カミラが珍しく低い聲で、真顔になった。
「竜妃の騎士って名譽職なのよ。……お給料、低いの……」
「えっそうなんですか!?」
「見習い騎士のちょっと上くらいだな。やってけなくはないが」
ハディスを見ると、苦笑された。
「三百年前はたぶん、ここで食住も提供されてたから……あっでも族年金高いよ!」
「嬉しくねーよ」
「大事だけどねえ。その前に妻子養えるかぎりぎりだって」
からからカミラたちは笑っているが、ジルとしては笑えない。
「そ、そういうことなら……あの管理人の好きにさせるわけにもいかないしな」
「それなら外で會ったぞ。逃げられたが」
ジークの申告に、橫でパンを噛みちぎったカミラが笑う。
「あー、やられてたわね。に落とされてやんの」
「うるせー背後をつかれたんだよ。気配もねーし……何モンだ、あのじいさん」
「レールザッツ公の縁者らしいよ。名前、えーっとなんだっけな……もしジルが気にらないようなら、クビにできるけど」
「いいえ、それはしなくていいです」
予想外だったらしい。ハディスたちがそろってこちらを見る。
「現時點でここに一番詳しいひとですよ。味方にすべきです。あの罠、あのおじいさんが作ったんだと思うんですよ。昔、騎士団の駐屯所みたいに使われたここに、こんな罠があったはずないですし……あ、でもサーヴェル家にはあるから、意外とある……?」
「ないよ。君の実家の話は置いておこうね」
「だとしたら、やっぱりただ者じゃないです。あれだけの罠を作って、配置して、使って、わたしから逃げたんですよ」
冷靜に考えると自分の油斷以上に、相手が上手だったのではないだろうか。
「魔力はそんなにじなかったですけど、自分の気配を消すとか、だましに特化させて使ってるんだと思います」
「なら苦労しそうねーつかまえるの」
「でもやる価値はあります。第一皇妃の會の件も、何か見てるかもしれません」
「異論はない。あのジジイ、絶対つかまえてやる」
ジークが好敵手を見つけたときのように笑う。カミラは食を置いて、に手を當てる。
「アタシも了解よ、我らが竜妃殿下。ジルちゃんがここに頻繁に出りするのも、面倒な噂を呼びそうだしね。竜葬の花畑にり浸ってるって思われちゃう」
「え、何かだめなの?」
きょとんとしたハディスに、ジルたちは顔を見合わせた。
(そうか、三百年前の竜妃がきっかけだから、ラーヴェ様も知らないんだ)
そして後宮に足を運ばなかったハディスも、そういう話を耳にしなかったのだろう。竜神を侮辱するような噂を皆が耳にれたがらなかった可能もある。
気の利くカミラが、ナターリエから聞いた話を軽い口調で伝える。ハディスは大きく目を見開き、それから笑顔で言った。
「燃やそう、あの花畑全部」
「駄目ですよ! 第一皇妃の會も全部臺無しになっちゃうじゃないですか! できれば花冠にも使いたいのに」
「だってジルが浮気しただなんて、そんな話が噂でも流れたら、僕は生きていけない……!」
「噂だけで死なないでください。竜にまつわる花を竜帝が燃やすなんて許されませんよ!」
「そうじゃ、ありゃラーヴェで唯一無二の、魔力で咲く花じゃぞ」
橫から聞こえた聲に、ジルはそのまま固まった。
「神から大地への恩恵を拒んだラーヴェで唯一、魔力で咲くことが許された花。理に反した花じゃ。存在ひとつとってもこれ以上なく貴重なのに、それをこんなちんちくりんの評判を気にして焼く? 罰當たりな」
ハディスもカミラもジークも目を點にしてかない。ゆっくりゆっくり、ジルは慎重に振り向く。
その人は、堂々と食卓のあいた席に腰かけていた。取り分け用の籠にったパンをつかみ、殘っていた鍋からすくったシチューを口に運んでいる。
「やりようなどいくらでもあるだろうに、はーこれだから……うまいな、これ」
「……つ」
「そもそも儂の進退なんぞ、他人に決められる筋合いはない。よくもまあ、自分にすべての決定権があるような顔をして話し合えるな。む、スープに浸すとなかなか」
「つかまえろーーーーーーー!」
ジルの號令に、ジークとカミラが飛び出す。
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