《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》4話 バカ1名、イズにて。重たい2名、トウキョウにて
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TIPS€ バベルの大、"まんなか"から地上へ移中……
TIPS€ Verのアップデートを確認。現保有技能の一部が、"Ver2.0レベルアップ"の影響により、"特"と"実績(トロフィー)"へ変換。
TIPS€ 隠し技能、"ニホン"人、"日本人"は"特へと変換。
TIPS€技能"大いなる罪よ、神を嗤え"は"実績(トロフィー)"へと変換。特別な"報酬"への接続権を手にれた
TIPS€技能"腑分けされた部位・耳"は特へと変換された。
TIPS€味山只人”固定技能・耳男"に長ツリーが追加された。神種、または危険な怪種のを喰らうことにより、"耳男"の力をさらに増大させる事が出來る
TIPS€ お前の壽命は殘り1(・)2(・)時(・)間(・)だ(・)
TIPS€ 現出地區確定……北緯45度31分22秒 現出時刻確定、まんなかにて三日を過ごしたことにより、地上での経過時間は3年がたっている。
TIPS€ 現出時刻確定……2(・)0(・)3(・)1(・)年(・)1(・)2(・)月(・)……????????????????
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現出時刻変更。
202――。
TIPS€ ――では、良き探索を。
寒い。
◇◇◇◇
〜そして、現在、2032年3月、地上、ニホン、イズ王國にて〜
「……あ〜海の音が気持ちい〜」
味山が夜の海に耳を傾ける。もうそろそろ回想に疲れてきた。考えてみるとバカみたいな出來事だ。
こじらせた英雄バカを連れ帰るために世界に喧嘩を売り、神様みたいな化けと化した英雄をぶん毆り元に戻し、ようやく全員集合と思えば、これだ。
どうしろと?
「いや〜やべえな。どうやって戻るかなあ〜オイ」
あの後、アレフチームと別れた後は激の時間だった。
気付けば広いアスファルトの上に寢転がっていて、たまたまそこを通りかかったイズ王國の民、白川に拾われる。
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イズ王國ってなんやねんという疑念も程々に、そのまま飯をご馳走になり、そのお禮に毎日行われるというイズ王國の労働者による怪種の間引きに協力。
これがまあ、味山から見たら危なかっしいことこの上ない。
「ほぼ、パンピーがガラクタ擔いで怪種に突撃してるだけなんだよな……自殺志願者の方がまだマシな死に方考えるぞ」
159人。
今日の労働でなくとも怪に喰われて死んだイズ王國の労働者の數らしい。
幸い、味山のいる労働班では死人は出なかった。今日遭遇した怪の殆どを味山本人が処理したからだ。
まあ、その結果、労働英雄というその日のうちで1番よく働いたで賞を授與されることになったのだが、今はもうどうでもいい。
「おかしい……この集団は何かがおかしい……」
フジ山お面を被ったり、どこか言がおかしかったり。
「いや、本當イズ王國ってなんだよ、イズはイズだろ……」
味山のまっとうな呟きは海の後に溶けていく。
さて、これからどうするか。そろそろノリにを任せるだけではなく考え始めないといけない所だろう。
「何はともあれ、アレフチームとの合流だ。これが今の目標として、考えないといけないことが……多すぎる……めんどくせぇ」
頭を抱える。何故か。
実は、味山只人には今、イズ王國のことや、自分の覚とは時間が3年もズレていることと同じくらい大きな疑問があった。それはーー
TIPS€ お前の壽命は殘りーー
あの時。あの場所。
管理人、熾天使との戦いで使いまくった忌の力、耳男。
馴染めば馴染むほど、使えば使うほどに壽命を消費していくこの力の用で、確か、殘りの壽命は12時間と宣告されていた筈だ。
なのに。
TIPS€ お前の壽命は殘り4364年だ
「なんでやねん」
「なんでやねん」
思わず、2回呟く。
何故か、壽命が増えている。ここに來てから味山はまだ怪種を食べたりしていないのに。
「なんでだ……?」
あの時、バベルの大でヒントやバベル君に伝えられた事実。怪種を食べることにより、壽命を貯めることが出來る、らしい。
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いや、食べてなくね? ていうか、桁、桁桁桁。4364年ってなんだ? え、なに? 壽命を貯めることが出來るってそんなのもありなのか? ファミコンのバグ技か?
味山が思いがけず手にれてしまった長壽に思考を取られていた、その時だった。
TIPS€――箱庭がお前に、……っチ
味山只人にだけ聞こえる囁き聲。攻略のヒント。時に突然に、時に呼びかけに応えて聞こえるそれが、舌打ちを。舌打ち?
TIPS "בָּבֶ֔ל" あ、あー、あー、てす、てすてす。あー、あれ? もしかしてこれ、聞こえるじですか? 味山さーん、オイラです。バベルの大です
「……あ?」
呑気な聲が耳に響く。
アイツだ、バベルの大から響き、そしてあの熾天使とやらを味山たちに差し向けたアイツ。
TIPS "בָּבֶ֔ל" あ、すごいっすね。本當に聞こえてるんだ。あー、そっか、そっか。耳さんの力ですもんね、世界の底にある聲も拾うとは流石のオイラも帽です。
バベルくんの聲が聞こえた。
「てめえ、この野郎」
TIPS "בָּבֶ֔ל" あ、もしかして、怒ってますか、味山さん。そんなに怒らないで下さい。オイラも別に悪気があったわけじゃありません。ただ、今の味山さんをこの新しい世界に放り出したらきっと面白いだろうなーと思っただけです
「悪気しかねえよ。……はあ、もういいよ、別に。お前が本當にバベルの大なら、人間様の倫理観でまともに話すのも面倒臭え」
TIPS "בָּבֶ֔ל" お、らしくないほどに分かりがいいじゃないですか、味山さん。どうしたんですか、悪いものでも拾って食べたんですか?
「うるせえよ。なあ、一つ聞かせてくれ。お前と會うにはどうしたらいいんだ?」
TIPS "בָּבֶ֔ל" え? オイラに會いたいんですか? であるならば、バベルの大を、降って下さい。底まで降りてきてくれればお話出來ますよ
し、ウキウキした聲が響く。
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味山も、し笑って、それから。
「お前、覚悟しとけよ」
TIPS "בָּבֶ֔ל" え?
真顔のまま、暗い海を見つめたままに、味山只人がぼそりとつぶやいた。
「舐めた真似の代償は必ず払わせる。お前の態度が非常に気にらない。だから、お前は俺がぶちのめす」
この男が、そう決めたのならきっとそうなるのだろう。
理由なんて一つだ、味山只人はこの聲がしでかしたことに、心底ムカついていた。
TIPS "בָּבֶ֔ל" ああ、いいですね。それ。楽しみです。じゃあ、そんな味山さんにオイラからいくつかヒントをあげますね
「信用できるか、バカ。さっさと俺をアレフチームのとこに……いや、待て。オイ、アイツらは無事なんだよな?」
TIPS "בָּבֶ֔ל" あ、大丈夫ですよ。味山さんよりはアレフチームの皆さんの方がある意味安全な場所にいます。それに、"まんなか"と地上の時間はズレていますから、多分味山さんが戻った時にれ違いになることもないと思いますけど。
「時間がズレてる?」
TIPS "בָּבֶ֔ל" はい、えーと味山さん達がアレタ・アシュフィールドさんを連れ戻してから、セラフさんと戦うまで、"まんなか"で3日が経過してますよね。なんで今こっちは多分3年たってるんで2(・)0(・)3(・)1(・)年(・)の(・)1(・)2(・)月(・)ですよね。だいたい1日で一年経つくらいズレてるんで、こっちで々過ごした所で、深層というか"まんなか"とかの特別な場所では時間はたいして経ってないんで安心してください、はい
「……今、2032年の3月らしいけど」
TIPS "בָּבֶ֔ל" え? あれ? ほんとですね? おかしいですね、3ヶ月ズレてる? まあいいや、それで味山さん、えっと、あなた、バベルの大に戻りたいですよね? はいか、いいえで答えて下さい
「はい」
TIPS "בָּבֶ֔ל"ですよね。すみません、せっかくアレフチームが揃ったのにバラバラにさせてしまって。でも、オイラも悪気があった訳ではありません、なのであまり怒らないでください
「いやです」
TIPS "בָּבֶ֔ל"もー、なんでですか。わかりましたよー、お詫びにアレフチームの皆さんとの合流方法を教えてあげます
「お前の言うことなんか信用できるか、バカ。と、言いたい所だが、聞く。話してみろ」
今は手がかりがない、とにかく報を集めるのが先決だろう。
TIPS "בָּבֶ֔ל"あ、思ったより冷靜ですね、良かったです、オイラも心があるのであまり邪見にされ続けると傷ついてしまう所でした。えっと、とりあえず味山さんにはトウキョウを目指してもらいたいっすね。そこまでたどり著くことが出來れば、オイラから報酬を渡しますんで、それでバベルの大に戻ることが出來ますよ
「トウキョウ? どういうことだ、バベル島じゃないのか、目指すべき所は」
TIPS "בָּבֶ֔ל"あ、そうっすね。バベル島は今、人類の勢力範囲ではないので味山さんだけだと厳しいと思います。あのバカげた力を使っても、多分、無理じゃないかなと。
「……何があったんだよ」
TIPS "בָּבֶ֔ל"もー、その辺は探索者なんですから自分で調べてくださ――TIPS€バベル島は現在、多數の神種による縄張り爭いの場となっている。今の主な爭いは神種”バアル・ゼブル”と神種”ベルゼブブ”による神格の主導権爭いが行われている。
「マジかよ」
TIPS "בָּבֶ֔ל"――い。あれ、今なんか混線してましたかね。味山さん、聞こえてますか、味山さん、オイラを無視しないでください、かなしくなります
「……」
妙だ。味山はあることに気付いた。バベルくんはTIPSの聲が聞こえないのだろうか。
TIPS "בָּבֶ֔ל"まあいいや、とにかく早めにこのイズ王國とか言う神様もどきのおままごと會場から抜け出すことをお勧めします。あ、でも味山さん、イズを出る前にそのお面を外す方法を捜した方がいいっすよ
「ああ、この趣味の悪いお面ね」
TIPS "בָּבֶ֔ל"はい、その趣味の悪いお面です。それって要はアサマが人間の眷屬化を進めるためのアンテナみたいなものなんですよ。早めに外すことをお勧めします。
「え、これ、外せねえの? うわ、ほんとだ、張り付いてる……」
お面を引っ張ってもピクリともしない。接著剤か何かでくっつけられているような。
TIPS "בָּבֶ֔ל"まあ、正直味山さんならあの右腕の火で燃やして無理やり外すのも出來るかもしれませんが、あまりお勧めはしません。イズ王國ってすでにアサマの異界になりつつあります。そして、アサマと味山さんは相がよろしくありません。何が起きるか、オイラには責任が取れないすね
「アサマ……? さっき白川さんがそんな名前言ってたな……」
TIPS "בָּבֶ֔ל"まあ、そういう事で、上手いことアサマと敵対せずにお面を外してイズ王國を抜け出しちゃってください。あ、そうだ、セラフさんを斃した分の報酬ですけど、今、オイラ頑張って用意しています。準備が出來たらまた教えますんで楽しみにしててください。あ、じゃあオイラ、スワヒリ語の勉強あるんでこれで失禮します
「あ、おい、待っ……くそ、これもう返答ないパターンだな」
ぐびり。
とりあえず殘りのビールを飲みながら味山只人は考える。
やる事が多すぎるのと、今の狀況がぐちゃぐちゃすぎて何からしていいのかが、わからない。
だから、味山只人は考える。
アサマ、イズ王國、お面、トウキョウ、アレフチーム……
「あ、もういいや、めんどくせえ」
その辺でもう嫌になってきた。
「俺の目的は一つ。アレフチームとの合流、よし、もうそれだけ考えよう」
ぱしっと割り切る。考えても仕方ないことは考えないでおこう。シンプルに、簡単に、最短最速で。
「クソ耳」
味山只人が、耳を澄ます。それはこの世界においてある意味最も無法な力。
數多の策略、數多の謎。本來ならさまざまなイベントをへてようやくたどり著く筈のものに、なんの慨もなくたどり著く力。
「聞かせろ」
TIPS€ーー
聲が聞こえる。バベル君のあの呑気な聲ではない。男か、か、子供か若者か老人か、いやその全てがり混じったかのような囁き聲。
どこかで聞いたことのあるような気がする、その聲。世界の底から響く、味山只人にだけ聞こえるヒント。
「クソゲー攻略のヒントを」
TIPS€ お前がイズ王國を出する為には、"アサマの呪い"の解呪が必要だ。
TIPS€ フジ山のお面にはアサマの呪詛が込められている。それは人間の神を犯し、洗脳する為のものだ。
警告・アサマの呪詛により、お前の心に彼の記憶が染み込んでいく。
「……」
瞼の裏がチカチカる。
見えるのは、雲、空、そして、遙か頂き、空を衝く巨大な嶺。
そしてそれを見上げるナニカ。水の音、泣き聲、こども、泣き聲、迷子、ひとりぼっちーー。
「いや、もうそういうのいい。興味ない」
味山が目を強く瞑って首を振る。それだけで、もうその奇妙なイメージは霧散した。
TIPS€ーー技能"完された自我"発。乾き切ったお前の自我は他者に同することはない。
アサマの同化洗脳の初期段階"同"を無條件で無力化した。
淡々と続くヒントに、味山は黙って耳を澄まし続ける。まだ必要な事が聞けていない。
TIPS€ アサマの呪いを解呪しないまま、イズ王國を出た場合、お前のは一歩歩くたびに発四散するだろう。"天邪鬼"のれ知恵により、アサマの呪いは不死の存在への対策も加味されている
「殺意高すぎてワロタ」
なるほど、確かに耳男の再生があったとしても一歩歩くたびに破裂するのはまずい。
味山はその呪いの出來の良さにはえーっとなりつつも、ワロてる場合じゃないなと真顔になった。
「呪いの解呪方法は?」
TIPS€ 複數ある。一つは"神種・アサマ"の打倒。しかしこれは"奇跡が起きなければ不可能だろう"。アサマには現在、"神・ニホン神話?"が付與されている。この神がある限り、お前はアサマの神の影響を強くけ、絶対優位権を施行されるだろう
「あの熾天使とかいうやつの神はなんとかなったぞ」
TIPS€ 神には種類がある。お前がニホン人である以上、"神・ニホン神話"の前に、お前は無力だ
「新しい環境が追加されたカードゲームみたいな相の話だな……」
TIPS€ 2つ目の解呪方法は、"神話攻略"によりアサマを陳腐化させる方法だ
「説明しろ」
TIPS€ 神とはされてこそ、その価値を保つ。星の支配者である"人間"は神種を陳腐化させ、その定命の者に対する絶対優位権を剝すことが出來る
「どうやって」
TIPS€ 方法は複數ある。1.その神種の正を暴く、2.その神種の神話を否定する、3.その神種からの攻撃を防ぐ、4.その神種からの絶対優位権に対抗する、5.その神種の神話的弱點を用意する。6.その神種に殺されない。などが挙げられる。神種は人類の天敵であるが、お前たち人類もまた神種の天敵でもある。
「あー、なるほど。幽霊の正見たり柳かな、って奴か」
TIPS€ その通りだ。謎やこそが神話を神話たらしめる。殺せないのなら殺せる存在に貶めて仕舞えばいい。野蠻な人間にぴったりの業、探索者にはうってつけの仕事だろう?
「……ダンジョンで出會った熾天使、あれの羽もいでる時も似たようなこと言ってたな」
TIPS€ 熾天使、天使の神話には人に墮ちる概念も多い。お前の技能"汝、只の人なりて"により、"天使を人に墮とす"という神話の再現に繋がり、結果的には神話の弱點を突くことで攻略につながった。
「アサマ、とやらにその技能は?」
TIPS€ 効かない。 アサマは現在、その正が人類から匿されている。まずは奴の神を陳腐化させる必要がある。そしてお前の技能は全ての神種に刺さる訳でもない
「的な方法を言え」
TIPS€ 神種の匿を暴け。夜にイズ王國のが集められている建を探索するといい
「……探索パートか」
味山が言いながら立ち上がる、最短最速でこのふざけた事態をなんとかする為に。
振り返り、背後にある建を見上げる。
使われなくなった海沿いのホテル、この黃金崎と呼ばれる地區のイズ王國の人々がを寄せ合っている集落。
「よし、どんと來い、化け現象」
味山只人が、一歩、前へ進んだ。
◇◇◇◇
「凜ちゃん。お疲れ様。もう今日は上がりかな?」
ふいに掛けられた聲。貴崎凜は飲みかけの玄米茶をそっとベンチの脇に置いて視線を向ける。
「あ、お疲れ様です。はい、候補生のみんなが全員ダウンしちゃったので今日の演習は終わりです」
「あー、ふふ。あいかわらず凄いね……候補生の子たちを10人以上相手にして、そんな風に余裕な教って、凜ちゃんと熊ちゃんくらいだよ」
だった。
黒いロングヘアにぱっつんと揃えられた前髪。大きな目の涙袋はぷっくりと膨らんでいる。丸い目の中には黒曜石のような真っ黒な瞳。
灰のサマーセーターとフレアスカートにブーツ姿はお出かけの際に著るような気安さで。
「いえいえ、彼ら彼らがまだまだ甘いだけです。と言ってもまだ、ほんとなら學生のである子どもたちにこんなことさせてる狀況を恥じるべきかもしれませんけど」
貴崎が、彼に向けて笑う。貴崎にしては珍しい想笑いではない本の笑みだ。
「それを言うなら貴も。凜ちゃん、ほんとなら大學生とかでしょ? あ、ここ、座ってもいい?」
からの問いかけに、貴崎がうなずく。學園の中に造られた庭園、今は夜。緑地にあしらわれたライトが夜の闇を照らす。
「隨分、暖かくなってきたね。まあ風が吹くと寒いけど」
「そうですね。もう、3月ですから。そういえば先輩は今日の當番でしたよね、貴こそもう終わったんですか?」
「うん、オクタマとチチブのね。やっぱりあれだね。怪種も自然かな所の方が好きなのかな。スタンピードで撃ちらした子たち、基本的にはああいう山奧とか、人の気配がない所にいくもんね。もう、數が多くて數が多くて」
おしとやかで清楚で上品。黙ってたらまさに深窓の令嬢という見た目の彼が肩をぐるぐる回す様子は何か不思議なものを眺めているような気分になる。
「自然か、ですか。言われてみれば……西表教授も似たようなこと言ってたような」
「あ、そうなんだ。あの教授がそう言うんなら本當にそうなのかな。今日の怪種は強かったよー、初めて見るタイプだったけど、ムカデの怪だったけどなんか顔が怖かった」
「顔、ですか?」
「うん、顔。背中にびっしり人間の顔がついててさ。新種だよ、新種。今回の怪種の命名は確か、防衛大臣の番だったからね。多分まら中二病臭い名前つけるんじゃないの?」
「ああ、怪種の命名。あれ、各省庁の大臣のちょっとした、マウントって言うかなんか妙な爭いの場でもありますよね。みんな余裕があるんだか、ないんだかです」
「にっひっひっひ、言うねえ、凜ちゃん後輩。みんなキミみたいに心が強い子だったらいいんだけどねえ。……一緒に間引きに出てた上級探索者の子、2人くらい腰抜かしてけなくなっちゃったんだ。心が弱い子はダメだね、視てて気の毒だよ」
彼が笑う。こともなげに笑っているが、探索中に足手纏いを2人以上だしつつも、彼は帰還しているのだ。
貴崎は改めて彼の探索者としての完度を認識する。
「ご無事で何よりです。それで、その腰を抜かした上級探索者の人たちは?」
「あ、もちろん無事だよー。5満足できちんと連れて帰りました……でも、あの子達はサキモリの指定探索者にはなれないかな……」
「というと?」
「弱すぎ。実力とか戦闘力じゃなくて、ここの話、ハートの話ね」
言いながら彼が自分のを指差す。
著痩せするだろうそのスタイル、サマーセーターの元へむにり、むにりと指を沈みこませるしぐさ。同の貴崎をして、思わず目を逸らさせてしまう背徳の絵で。
「えっとー、防衛大學校出で、アスリートの家系の子と、警察の訓練出だったかな? 3年前に探索者資格を取ってるけど……うん、やっぱあれだねー、エリート層はほんと2つに1つ、使える子と使えない子の差がはっきり出るよ」
「しかし、かといって今までなんの後ろ盾もない人にいきなり探索者としての資質を求めるのも殘酷では?」
「んー、それはそうなんだけど。なんか、私の知ってる中で一番探索者に向いてた人は民間出だったからさ、どうしてもなんか印象に殘ってるんだよね」
「民間出で、先輩にそこまで言わせる人……今、サキモリに所屬している人なんですか?」
「ううん、もうここにはいないよ。世界がこんなになる前にバベルの大で、ね。逝っちゃった」
が空を見上げる。その黒い瞳が見ているのはきっと夜空ではない、それだけは貴崎にも分かった。
「……そういえば先輩。明日のサキモリ會議は出席されるんですか? あのイズ王國、いえ、イズ半島の件」
貴崎がさりげなく話題を変える。はその意を察したのかすぐにまた涙袋の目立つ整った顔をふにゃりと破顔させた。
「にっひっひ。あーあれね。イズ王國のアサマ征伐作戦。いやー、參ったよね、ほんと。2032年にもなってまさか、ニホンに獨立國が出來ちゃうとはさーなんだかんだ古代、短い間だけど新皇を名乗った將門公以來の快挙だよ」
「笑い事じゃないですよ、先輩」
「にっひ。ほんとだねー。神(・)(・)種(・)に(・)よ(・)る(・)國(・)土(・)の(・)支(・)配(・)、(・)及(・)び(・)異(・)界(・)化(・)。一つの生きが國家存亡の危機を招くとは……數年前じゃ考えられないよ」
「神種アサマによる、イズ半島の占有。呪いとしか言えない力によるイズの住民の洗脳。そして、権能サ(・)カ(・)サ(・)フ(・)ジ(・)によるニホンへの脅威……この國は今、たった一の怪に追い詰められてるんです。あの、先輩、イズ王國に潛したサキモリの人員は……」
「だめだねー。熊ちゃんや桜野くん、ver2.0前からニホン指定探索者を張っていた実力者の安否は不明。総理……たぬきのお爺ちゃんには珍しい失策だね。……あの2人を欠いたことで防人による國土防衛、スタンピードを防ぐ為の怪種の間引きも全部狂ったし」
うーんと彼がベンチの背もたれに大きくを預けてびをする。靜かな夜の空気の中にぽき、ぽきと関節の鳴る音がし、心地よい。
「……難しい話ですね。今の私達にははっきり戦力が足りません。やはりしでも可能がある人間は長い目で鍛え、とにかく怪種と戦える人間を増やさないと」
貴崎凜はこの3年、戦い続けた。
目の前に迫る怪を斬って、斬って斬って斬って斬って斬り続けた。
あの夜のことを忘れるために、あの夜、自分の前からいなくなってしまったある男のことを考えすぎないために。
「凜ちゃん、キミはやっぱり可いね」
「先輩に可いとか言われると嫌味に聞こえちゃいますけど」
「ふふ、もーむくれないでよ、ほんとだってば。……ほんとはぜんぜんマジメじゃないのに、マジメであろうとしてる。ほんとは全然真人間じゃないのに、真人間であろうとしてる。本當の自分じゃない自分を上手に演じて、本當の自分の気持ちをどこかにしまい込もうとしている。凜ちゃんはほんとは、別に國を守ったり、人を守ったり、そういうのが好きな子じゃないでしょ」
彼の黒い瞳が貴崎を映している。闇を溶かして作った鏡が目の前にある気分だ。
貴崎はしかし、どうもこの顔が良くて、飄々として、でもきっとロクな奴ではない先輩のことが嫌いになれなかった。
「だから、そういう子がそうやって他人のために頑張ってるの凄いと思うよ。凜ちゃん、君がそうやって獨りで進む姿はとても綺麗で、私、好きよ」
彼は貴崎の孤獨を理解している。
そのうえで近づきすぎず、遠ざけすぎず、尊重してくれる。貴崎にはそれがありがたかった。今、自分が抱えているこの孤獨は、自分だけのものにしておきたかったから。
「先輩、今まで何人をそうやってたぶらかしてきたんですか?」
「。……私はね、凜ちゃん。君にシンパシーをじているのかも」
彼が首を傾げ、流し目で貴崎を見る。先程までクリクリしていた丸い目は鋭く。ニホン刀の鋒を思わせるほどに。
「先輩がシンパシー? 何に?」
「私たちは似た同士ってこと。ほら、私たちってさ、見た目も良いし、モテるし、強いし。お金も名聲も異も、その気になればしいものって大抵全て手にるでしょ?」
「先輩、格悪いですよね」
「そこも凜ちゃんと似てる部分だよ。私もあなたも本的に、ほら、他人を見下したり、他人のことうっすら嫌いでしょ?」
「先輩のこと苦手です」
「あ、可い後輩に塩対応されちゃった。よよよ。……私が貴にシンパシーをじるのはね、それだけお互い恵まれた才能や環境を得ていながら、本當にしいものは手にらなかった、て所かな」
「……」
ちくり、心臓が痛むのを無視して貴崎はじっと彼を視た。彼もまた貴崎を見ていた。
「私たちは置いて行かれたもの同士だよ。顔を見ればわかる。さて凜ちゃん、貴はどこで、誰に置いて行かれたのかな?」
――武運を。私の…… 憧れでした。あなたは。
あの言葉は彼に屆いたのだろうか。いつのまにか刻まれた傷はまだ消えていない。
あの夜、きっと彼は進んだ。あの夜、私は彼を見送った。もう彼はどこにもいない。
「……おっと、ごめんね、し踏み込みすぎたかな。凜ちゃんって大人に見えるからつい言いすぎたかも。ごめんね、私達大人の弱さを、あなたみたいな子にカバーさせて」
「……大丈夫ですよ。私、早く大人になりたかったタイプのですので」
「……おや。くんくん。匂いますなあ。それは、のお話の香りがするぞおう……嗅ぎまーす」
言いながら、彼が貴崎ににじり寄る。肩を寄せ、抱き寄せるようにをくっつけて。
「キャッ! もう、やめてくださいよ。そんなんじゃありませんから」
「いーやー! 違うね、私の目は誤魔化せませーん!
「も、もう、ほんとですって! そんな、好きとかじゃないし、きっと、あの人は、私になんか、興味ないだろうし」
あの日、あの時。見送ったあの人は結局3年以上の月日が経った今も帰ってこなかった。
もしかしたら、もう2度と會えないのかも知れない。
「も、もう、先輩こそ、どうなんですか! 私と一緒、シンパシーとかいうんなら、先輩だって好きな人くらいーー」
はっと。
貴崎が息を呑んだ。彼の顔に見惚れた。
穏やかで、でも、し泣いているようにも見える微笑み。
「私はいるよ、好きな人」
でも、その微笑みはとても幸せそうでもあって。
「えっ」
「殘酷で殘忍で、どこまでも獨りで進む姿がとても、とても好きだったの」
「……」
「綺麗だったな〜あれは。……本當に綺麗だった。本當に、しかったんだ……」
彼をしてここまで言わせる存在に、貴崎が純粋な興味を持つ。
「……なんていう人なんですか?」
貴崎の問いに彼が視線を向ける、春の日差しにうっかり開いてしまった花のように、ふわりと微笑んで。
「っ」
しーっと、人差し指を口に立てる彼の姿。
貴崎は小さくため息をついた。この人には、勝てそうにない。
「……はあ、わかりましたよ、先輩。言う気なしですね」
「ふふ、怒らないでよ、凜ちゃん。あ、ほら、夕飯またでしょ? カフェテリア行こうよ、今日は確か、アオヤマのパンケーキ屋さんがデザート擔當の日だし」
そう言って彼が立ち上がる。先程までの神的な顔はもうなく、ただ無邪気なのようにコロコロ笑う顔に。
この人は底が知れない。この人はきっといくつも顔(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。
だが、きっと彼の言うとおりなのだろう。貴崎もまた彼にシンパシーをじている。
自分と同じ、決定的に人として大切な何かが欠けていて、それを埋めることが出來る何かと出會って、それで、その何かを失った人間。
貴崎が、その彼を、指定探索者の先輩の名前を呼ぶーー。
「ええ、わかりました。名(・)瀬(・)先(・)輩(・)」
「にっひっひ、よろしー! さあ、カフェテリアに突撃しましょう! 凜ちゃん後輩!」
くるりと、彼が振り向いた。
ニホン閣府直轄外局・中央怪種指定即応対策本部”サキモリ”所屬。
指定探索者”鬼剣”貴崎凜。
指定探索者”黒矛”名瀬瀬奈。
2人は、仲が良い。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
これから凡人探索者の発売近づくたびに更新ペース増やします、ぜひご覧下さい。
あとたくさん予約頂いてます、ほんといつもありがとうございます。
過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか
夢を見た。どこか懐かしい夢だった。 元スーパー高スペックだった高校二年生 町直斗(まちなおと)はどこか懐かしい夢を見た。初めて見た夢なのに。その夢を見た日を境に直斗の日常は少しずつ変わりはじめていく。 大きく変わったことが二つ。 一つ目は、學校でNo. 1の美少女の先輩が家出を理由に俺の家に泊まることになったこと。 二つ目は、過去に戻った。 この物語はあることをキッカケに自分をガラリと変えてしまった高校2年生とその周りの人間関係を描いたものです。 本當の自分って何なのだろう。 人生とは何か。 過去に囚われながも抗う。 まだ未熟者ですが自分の“書きたい小説を書く”というのをモットーに勵んでいきたいと思います。応援よろしくお願いします。 そして數多ある作品の中でこの作品を見つけ目を通していただいた方に心より感謝いたします。 この作品のイラストは、ひのまるさんのをお借りしています。 https://twitter.com/hinomaru00 プロフィールは 霜山シモンさんのをお借りしています。 ありがとうございます。
8 132〜雷撃爆伝〜祝福で決まる世界で大冒険
神々からの祝福《ギフト》が人々を助けている〔アルギニオン〕 ここは人間、魔族、エルフ、獣人がいる世界。 人間と魔族が対立している中、『レオ・アルン』が生まれる。そこから數年が経ち、レオがなぜ平和じゃないのだろうという疑問を持ち始める。 「人間と魔族が共に支えながら生きられるようにしたい」と心の奧底に秘めながら仲間達と共に共存を目指す冒険が今始まる! 基本的にレオ目線で話を進めます! プロローグを少し変更しました。 コメントでリクエストを送ってもらえるとそれができるかもしれません。是非いいねとお気に入り登録宜しくお願いします!
8 148ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
派遣社員プログラマー・各務比呂(カカミ・ヒロ)、二十六歳。天涯孤獨なヒロは、気がつくと見たこともない白い部屋に居た。其処に現れた汎世界の管理人。管理人はヒロの世界は管轄外だから帰してやれないと告げる。転移できるのは管理人が管轄している世界のみ。だが無事に転移できる確率はたった十パーセント! ロシアンルーレットと化した異世界転移に賭けたヒロは、機転を利かせて見事転移に成功する。転移した先は剣と魔法が支配する世界。ヒロは人々と出會い、様々な経験を重ね、次々と襲い掛かる困難を機転とハッタリと頭脳で切り抜けていく。気がつくと頭脳派の魔法使いになっていたヒロは、元の世界へと帰る方法を探しながら、異世界の秘密に挑んでいく。冷靜沈著な主人公が無盡蔵の魔力を手に知略と魔法で異世界を無雙する物語! ◆3月12日 第三部開始しました。109話からです。週1~2話程度のゆっくり更新になります。 ◆5月18日 タイトル変更しました。舊タイトルは[ロシアンルーレットで異世界に行ったら最強の魔法使いになってしまった件]です。 ◆7月22日三部作完結しました。 第四部は未定です。 中世ヨーロッパ風異世界のファンタジーです。 本作品の八千年前の物語 「絶対無敵の聖剣使いが三千世界を救います」(舊題:覚醒した俺は世界最強の聖剣使いになったようです)連載始めました。 URLはこちらhttp://ncode.syosetu.com/n2085ed/ どうぞよろしくお願いいたします。 以下の要素があります。 SF、ファンタジー、パラレルワールド、群、ドラゴン、振動數、共鳴、エレベータ、ボタン、たがみ、ロシアンルーレット、三千世界、結界、神、祝福、剣、モンスター、ファーストコンタクト、精霊、団子、金貨、銀貨、銅貨、商人、交渉、タフネゴシエーター、契約、古語、禁則事項、餞別、葡萄酒、エール、ギャンブル、賭け、サイコロ、ナイフ、魔法、盜賊、宿、道具屋、胡椒、酒場、マネージャー、代理人、ギルド、杜、干渉、指輪、茶、王、神官、鎖帷子、チェーンメイル、クエスト、ゴブリン、焼、炎、図書館、虹、神殿、耳飾り、闘技場、マナ、オド、復活、墓、アンダーグラウンド、眼、迷宮、地図、パーティ、ミサンガ、バリア、異世界、チート、俺TUEEE、ハーレム、謎とき、ミステリー 以下の要素はありません。 ス/テータス要素
8 167貴族冒険者〜貰ったスキルが最強でした!?〜
10歳になると、教會で神様からスキルを貰える世界エリシオス。エリシオスの南に位置するリウラス王國の辺境伯マテリア家に1人の男の子が誕生する。後に最強の貴族として歴史に名を殘す男の話。
8 198異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~
川に落ちた俺は、どういう訳か異世界に來てしまった。 元の世界に戻るため、俺は自分の手で『魔王』を倒さねばならない……という話だったのだが…… いつの間にか、俺は魔王の息子を育てる事になっていた。 いや、なんでだよとも思うけど、こうなった以上はもう仕方無い。 元の世界に帰る術を探すための冒険の準備、+育児。 俺の異世界奮闘記が始まる。 コメディ要素強めです。 心躍る大冒険は期待せず、ハートフルな展開とかは絶対に無い事を覚悟して、暖かく見守ってください。 それと34~45話にかけて少し真面目な雰囲気が漂います。 結局元に戻りますが。 ※★のついている話には挿絵が挿入してあります。 イラスト制作・ロゴ制作:トマトヘッド様 トマトヘッド様のホームページ(Twitter):https://twitter.com/starfullfull ※「小説家になろう」外部サイトのURLです。
8 181最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地、彼はこの地で數千年に渡り統治を続けてきたが、 圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。 殘すは魔王ソフィのみとなり、勇者たちは勝利を確信するが、魔王ソフィに全く歯が立たず 片手で勇者たちはやられてしまう。 しかし、そんな中勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出した味方全員の魔力を吸い取り 一度だけ奇跡を起こすと言われる【根源の玉】を使われて、魔王ソフィは異世界へ飛ばされてしまう。 最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所屬する。 そして、最強の魔王はこの新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。 その願いとは、ソフィ自身に敗北を與えられる程の強さを持つ至高の存在と出會い、 そして全力で戦い可能であればその至高の相手に自らを破り去って欲しいという願いである。 人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤獨を感じる。 彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出來るのだろうか。 ノベルバ様にて、掲載させて頂いた日。(2022.1.11) 下記のサイト様でも同時掲載させていただいております。 小説家になろう→ https://ncode.syosetu.com/n4450fx/ カクヨム→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796 アルファポリス→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/60773526/537366203 ノベルアッププラス→ https://novelup.plus/story/998963655
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