《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第105話 右手Ⅶ

「8月1日退院。回復まで、18時間」

「8月3日退院。回復まで、21時間」

「8月4日退院。回復まで、16時間」

「8月6日退院。回復まで、15.5時間」

依の、呪文の詠唱のような聲は続いていく。

「8月8日退院。回復まで、19.5時間」

「8月10日退院。回復まで、22時間」

「8月13日退院。回復まで、40時間」

「8月16日退院。回復まで、21時間」

「‥‥‥‥何だ? なんの話だ」

「邪魔すんなエラーダ。泳がせろ。旗を取り除いたんだ。後は確保するだけだ」

「8月17日退院。回復まで、6時間」

「8月20日退院。回復まで、6.5時間」

*****

「コルチゾールですか?」

「ええ。それが第一候補です」

病院地下の備品倉庫。そこに病院に殘ったオリシャ母子と醫療チームがいた。

「揮発のフェロモン様質です。『アイゾメ・ラクトン』と仮名を付けました」

「ほう? ラクトンですか」

話しているのは、依の師匠、桜木醫師と、オリシャをオペした初老の男醫師。

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「ええ。若い特有の分、彼、逢初依のモノは特別で、ν(ニュー)-デカラクトンとν(ニュー)-ウンデカラクトンに、マジカルカレント後癥候群の寛解を早める効果があったそうです。そしてその効能は、本人が強いストレスをけた時に出る、副腎皮質ホルモンとのブレンドよって劇的に高まる、と」

「それがコルチゾール。あの娘さんにそんなが」

「そうなんですが――――」

*****

エラーダという人のDMTが、牽制撃をしてきた。びっくりしたけど対人散弾は、あさっての方向に撃たれていた。僕は當然、首から下がけない。どうにもできない。

「これだけのマジカルカレント能力。敵になったら厄介だが?」

「うるせえ。てめえは聞いてねえのか? マジでやべえのはあの戦艦の方だ。パイロットひとりくらいで戦局はかねえ」

「8月19日退院。回復まで、6時間」

「8月22日退院。回復まで、4.5時間」

依は、呪文の詠唱を止めない。

「こいつッ! いい加減にしやがれッ!」

DMTのスピーカーから、野太い聲が聞こえた。

*****

「どうもですね。実験室で不思議な事が起きまして」

「不思議な事? 我々は醫學の徒。必ず理(ことわり)があるはず。はて、不思議とは?」

「先ほどの『アイゾメ・ラクトン』には確かに、紘國軍パイロットのマジカルカレント後癥の治癒を早める効果がありました。あくまで依から取ったサンプルを被験者に嗅がせた程度でしたけれど。3~5%の改善です」

「3%。それは『著効あり』ですよ? 桜木先生」

「いえ。依のコルチゾールとアイゾメ・ラクトンが適正比率で混合されると効果が數百倍に跳ね上がると判ったのです。ただ、それが観測されるのは結局、あるひとりの男。そのひとりに対してのみ、になのです」

「ほう?」

「――――これは、あのウルツサハリ・オッチギンが出航後に判った事。そう。すべて偶然の産だったんです。偶然、いえ。『75億分の1を超える奇跡』とでもいいましょうか? それを見屆けに來たのです」

*****

「8月26日退院。回復まで、5.5時間」

「8月27日退院。回復まで、6.5時間」

「8月30日退院。回復まで、7時間」

ここで依は、大きく深呼吸をした。

「本日、8月31日。回復まで、‥‥‥‥36秒」

36秒。わかるよ。その時間は、僕が永遠にも一瞬にも思った時間。――依がここで、僕をぎゅってしていた時間だ。

「やはり処分する」

エラーダという人が、僕らに銃口を向けてきた。

「メガマス!」

る立方が弾けて、の粒子になる。僕が、DMT、UO-001の背後から出してきて、依と僕の周囲に浮かせた立方狀のバリアキューブだ。

「なんだと‥‥‥‥?」

敵兵が驚く中、依が両手を上げた。ビーム砲撃されたのにまったく怯んでない。

「――――これで、実証されるの。わたしの仮説。わたしが極度のストレスにさらされた時、ある人との間にだけ起こること。そして、わたしがその人に救われた時、起こること!」

依は、僕の方に振り向いた。の粒子がただよう中、本當に天使のようだった。

「次は実弾をぶち込む」「いい加減にしろ!」

そんな聲が聞こえる剎那、DMTが持つ銃から、ガゴン! って音が聞こえた。まずい。DMT乗りならわかる。実弾が裝填を終えた音。

「逢初史には借りがあるんだよッ!!」

病院の建に反する、ものすごい撃音!

だけど、その後聞こえてきたのは、重力子エンジンの駆音だった。紘國製の。

僕らを救ったのは、盾を構えたDMTだった。

全高7m。小型機(ミクロス)だ。

「紅葉ヶ丘さん!?」

依がんだ。

「私は逢初史に『命の借り』がある。それを今返す!」

ああそうか。紅葉ヶ丘さんが電脳戦闘室(エンケパロス)からハシリュー村に行ったり、々移手段が謎だったけど、これが種明かしだったのか。

「付屬中(ふぞく)舐めんな! 私達3人はDMTも扱えるっちゅうの!」

小型ならではの軽快なきで、敵の実弾から確実に僕らを護っていく。――確かに、DMTの縦は上手い。そしてエラーダ機の暴走は、アギオスマレーノス機が止めた。

けどさすがに小型機だ。大型機6機相手に、相手になるハズも無く。僕の中型機が英雄さんの大型機にパワーや骨格で敵わなかったように、小型機は中型機にもまったく敵わない。

撃破はされなかったけど、紅葉ヶ丘機は防以外何もできない狀態だった。狀況を打開した訳じゃあない。

「暖斗くん‥‥‥‥」

依が僕に駆け寄る。

「‥‥‥‥これ以上増援が來ても面倒だ。ハナシは母艦に行ってからだ。諦めな。中學生ども」

業を煮やしたアギオスマレーノスが、DMTを近づけてきた。僕らを拿捕しに來たんだ。エラーダ機も近い。

「‥‥‥‥もう、流が全に循環し終わっているはずよ‥‥。心臓は1分間に6リットルのを循環させるから」

そんな醫療知識を僕に囁く。

「‥‥‥‥‥‥‥‥今よ。暖斗くん」

僕はゆっくり立ち上がった。自分の足で。自分の力で。

「‥‥‥‥今こそ。今こそ75億分の1なんかに負けない、『奇跡』を見せて」

「うん」

「わたしたちの絆を。その奇跡を!」

敵兵が驚く聲の中、僕は「右手」を前に突き出す。

軽く握り、親指を立てる。「いいね」のポーズだ。

そしてこう言う。

「‥‥‥‥サムズ」

6機の大型DMTに囲まれた、丸腰の僕ら。そして。

くるっと半回転。立てた親指を地面に向けて。

「‥‥‥‥ダウンっ!」

その瞬間、6機のDMTの巨大な影が、津波に飲まれたかのように崩れ去っていった。

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