《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》889 と『天空都市』

「王宮では隨分と前から反勢力に対して徹底的な弾圧を行うべきだとする主張一辺倒になっていてね。そんな中で対話と和平を訴えていた僕は『日和見の第二王子』と呼ばれるようになっていたよ」

「……よく生きてこられましたね」

危険分子としてサクッと殺されてしまうのが定番のやつではないですか!?

「擔ごうとする者どころか同調する者すらいなかったからね。殺すまでもないと思われていたのだろうさ。反が激化していく中で王となった兄に、婚約者がいなかったことも影響していたんだろう。何せ分の釣り合う相手はことごとく敵対していたから」

地水火風の四卿のうち、三卿が反勢力側についていたんだものねえ。唯一殘っていた風卿とは後ろ盾以前に縁関係だったようだし、もしも萬が一に備えてを繋いでいくためのスペアとして排除できなかった、というところかな。

意見を封殺されてずっと飼い殺しにされていたなら、無意識に終幕をむようになっても仕方がないか。

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そして、あの二人の存在はスラットさんを現実につなぎ留めておくためのかすがいだったのかもしれない。だからこそ彼らが罠に捕らわれているのを放置したまま、死ぬような真似はできなかったのだろう。件のけたのも、それが理由な気がする。

……ああ、そうか。この人はもう、ここにあるだけで生きてはいないのだ。二人が解放された時點で、彼が生きていく意味はなくなってしまったのだから。

「終わりをんでいるのは理解したよ。そのためにはどうしたらいい?」

「僕のみをかなえようと?そんなことをしても君たちに何の得もないだろう?」

「あのね、誰からもかしずかれるのが當然な王族とは違って、平民のボクたちは「人から親切にされたらお禮をしましょう」って教わって育つの。スラットさんは何も知らないボクたちに當時のことや々なことを教えてくれた。それに対するお禮がしたいだけよ」

スラットさんと會っていなければ、良くて『天空都市』で死霊の大群と鬼ごっこ、悪ければ『神々の塔』のが分からず右往左往することになっていただろう。まかり間違って部に侵して「その後、彼たちを見た者は誰もいない……」的な行方不明バッドエンドに直行していたかもしれない。

まだまだ不十分ではあるけれど、ゴールへのかすかな筋道が見えてきたのは彼のおかげだと言っても過言ではないのだ。

「さすがにこの世界に未曽有の危機が生じるようなのは拒否させてもらうけどね」

何よりも今の世界の平和が大事なのだ。優先順位を間違えてはいけない。とはいえ、これまでの流れ的に相反することなく両立できる気はしているのだけれどね。

「いやいや。そんな無茶を言うつもりはないよ。というか君の中で僕はどんなイメージになっているのかな!?」

大袈裟に肩をすくめながら苦笑するスラットさん。しは調子が戻ってきたかな。ちなみに、今の彼の印象は拗らせたひねくれ者かしらね。

「話を戻すと、僕のみは終焉だ。そしてそのためにはを解除しなくちゃいけない」

というと『天空都市』の連中が死霊化したりスラットさんが不老不死になっている原因のやつだよね。発した時點で役目を終えたと思っていたのだけれど、持続タイプだったのか。

仕様の方はともかく、それがなくなるということは死霊が居なくなるということでもあるよね。

つまり誰に憚(はばか)ることなく空き家漁りが、ゴフンゲフン!ではなく『天空都市』の観、でもなく現在のボクたちにとって危険な代がないかをじっくり探索することが可能になるということだ。おおう!これは願ったりかなったりの展開ですよ!

「殘念だけど、そう上手くはいかないんだ」

「あれ?そうなの?」

「あののポイントは二つ。一つは言わずと知れたを捨ててとなるというもの。これが不完全だったために自我を失い死霊化してしまったのだろう。ここで重要なのはもう一つの方だ。共に朽ちることがないように永続化させているのさ」

「ほうほう。をストップさせれば永続化も斷ち切られるから、死霊をやっつけられるという寸法だね」

シンプルな設定だから目標も分かり易くていいね。……でも、の方まで永続化させた理由はなぜなのだろう?

手困難になっていた燃料の代わりに自分たちのを『天空都市』の力源にしたという話は覚えているかな?」

もちろん覚えている。緋晶玉の産地の迷宮や加工所を反勢力に押さえられてしまったのだよね。

……まさか!?

「今でも彼らのを燃料にして浮かんでいるの!?」

「人が持つ自然から魔力を吸収する力を利用しているそうだよ」

ゲーム的に言うなら、MPの自然回復力とか自回復力というやつだ。人を電池か何かのように扱うなんて、もしも世に知られてしまえばどんな災禍が起きるか分かったものじゃないよ。

犯罪者の刑罰として利用されるならまだマシな方で、暴利な借金のかたに奴隷化して人売買が盛んになったり、権威主義で階級主義な貴族が稅金代わりに民衆を徴収したりと悪事が橫行する未來しか見えない、絶対に知られてはいけない技だわ。

「悪用される危険があることも知ってほしかったことではあるけど、本題はここからさ。を解けば燃料になっているの永続化も消える」

「……『天空都市』が落ちる?ど、どれくらいで!?」

「分からない。を組み上げた者たちは解かれた時のことなど考えてもいなかったからね。その瞬間にともどもすべてが消えうせてしまうのか、それともしばらくの間だけは殘り続けるのか、見當もつかないよ」

最悪の場合、死霊をやっつけた直後に墜落することもあり得る訳か……。

だけど、確か『OAW』のイベントは死に戻り前提でクリアできるようにはしていなかったはずだ。つまり攻略法は絶対にあるはず。とはいえ、これってプレイヤーだけの話なのだよね。

あの二人が死ぬことによって閉鎖空間の罠を解除できたように、NPCが犠牲になるというケースは存在しているのだ。

避難ルートや出方法なども加味しながら慎重に作戦を練っておかないと、ミルファやネイト、もしかしたらうちの子たちが永久退場することになりかねないぞ。

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