ゴキゴキゴキ、ゴキンッ！！！　‥‥‥メキメキ！！　バギン！！！

異様な音だ。その轟音が鳴り響く中で、僕はその吐息のようなつぶやきを聞き逃さない。

「‥‥ずっとあなたを診てたから」

「隊長！？　骨格(スケルトス)が！」

「大骨格が折れてる！　バカなぁ！！」

「これは、世界で、わたしとあなただけに起こった奇跡」

「ぐうう！　隔壁縦席(ヒステリコス)がひしゃげていく！？　そんな！」

「立ち上がれません！　継戦不能！　うあ！　助けて！　隊長！」

「75億分の1を超えていく、奇跡」

今まで靜かだった敵の部下の人達が、一斉に悲鳴を上げて。

重力だよ。

座標特異的重力攻撃。

依が仮にこう名付けた。海軍式の橫文字の名前は、まだ無い。

候補はあるけどね。依が考えた「日沒(ディーシ)」、とか。

「暖斗くんの能力で、無理やり敵を地平線の下に沈めてしまうから」

だって。

UO-001のエンジンの重力子回路が、任意の空間、その1點に超重力を浴びせている。僕のマジカルカレントで増幅をしたものを。

堅牢な人型兵の骨格をへし折るくらいの力で。

重力子エンジンの面に張り付けてある重力子回路。電気を流すと回路の前の空間に重力を発生させる不思議な基盤だ。それで目の前の羽を右回りに「落として」回したり、戦艦やドローンを「浮かせたり」する。

――でも、その効果範囲が回路の目の前の空間だけじゃ無かったら？　マジカルカレントで出力(パワー)だけじゃなくて、程(メジャーリング)まで作できたら？

半徑100メートルとかで、任意の特定の場所「座標」に対してだけ、えげつない超重力を浴びせる事ができたら？

ほら、敵が。みるみる、プレス機にかけられたように変な角度でひしゃげていくよ。

そう。地球上の「質量を持つ」が僕の武になるんだ。大きな構造のDMTならなおさらだ。元々英雄さん戦でもそうだった様に、DMTは転んだら自重で壊れる。最新技で軽く作られてるって言っても、それでもかなりの重量だしね。フローターとかで垂直方向にだけは浮かせられるけど。

その巨大な「質量」を全部僕の武にさせてもらう。膨れ上がった自重で潰れろ！！

「‥‥‥‥コイツはやべえな！　重力兵じゃあねえか！」

「アギー。手を貸せ」

「わかってるよエラーダぁ！」

アギオスマレーノス機が発砲した。エラーダ機に向かって。ビームが曲がり、足元に著弾する。

「曲した！？」

グラリ。

足場を無くし、外側に倒れかかったエラーダがフルブーストで出する。同時に隣のアギオスマレーノス機を外側に引きずり出した。2機は僕の攻撃範囲の円を逃れていく。

「暖斗くん。UO—001に乗れ」

小型DMTの背中がしゃべった。紅葉ヶ丘さんだ。

「でもコイツはもう？」

敵の攻撃をかなりけているハズだ！

「私が再構築・再起しといた。付屬中(ふぞく)の引きこもり舐めんなよ！　部機のエンジニアリングなら、私は岸尾さんの上位互換だ！」

崩れ落ちる4機のDMTと、離して距離を取った2機のDMT。確かに敵は取って返してくるはずだ。

「ホントだ。再起してある。何とか戦える」

僕と依はUO—001の手に乗って、隔壁縦席(エンケパロス)へと乗り込む。そうだ。依を地面に置くためにプロテシス浮遊をしていたから、地面にぶつかってはいない。擱座していないんだ。

「暖斗くん？」

「ごめん依。奧に醫療キットとかあるから、それをイスに」

「いや駄目だ。逢初史は暖斗くんの背中にるんだ。バイクで二人乗りする要領で。それが一番安全だ！」

しを起こしてから、ハッチを閉める。石を噛んでるのか閉じる裝甲版からバキバキ音がする。

「依？　大丈夫？」

「待ってコッチ見ちゃダメ。まだスカート直してないの」

僕の背中はずっともぞもぞしていた。依がを割ってすべり込むのに躊躇してたからだけど。

僕の、DMTを地面に沈める重力攻撃は、自機のエンジン周囲でしか発現しない。程距離から逃れれば、影響は無くなってしまう。敵がそこまで知っていたとは考えにくいけど、百戦錬磨のヤツラはとっさに「ヤバい狀況」から逃げる事を選択したんだ。

中央パネルがって、敵機の接近を知らせる。――あのアギオスマレーノス機だ。一旦病院駐車場まで後退して、安全を確認してから戻ってきたんだ。

ゴゴゴゴゴ‥‥‥‥！！

僕の機、「パラクセノ・エリュトロン」がゆっくりと立ち上がっていく。重力子エンジンの高鳴りと共に。

正面モニターで、近づく敵影を目視する。盾を左腕部のハードポイントに付け直し、回転槍を左手に短く持って、右手はフリー。

病院は狹い。ここでは戦えない。

「依。ちょっと揺れるけど大丈夫だからね」「うん」

依はやっと姿勢と制服を落ち著かせると、僕のに手を回した。

本當にバイクのふたり乗りをしてるみたいだ。

「信じるよ暖斗くん。それに今は『回春(アナネアゼイン)』の効果時間、これはわたししか知らない、特別な時間なのよ」

「じゃあ、行くよ。大丈夫だからね」

僕らは目を合わせ、うなずきあった。

メインモニターの正面に、敵機を捉える。マジカルカレントを発させて。

回転數の上がったエンジンが、縦席に振を伝えてくる。

「突撃(アサルト)！」

「きゃあ！」

飛び込んでからの、劔(つるぎ)での居合の一撃！

全力で切りかかるが、アギオスマレーノス機に躱される。――が、機用のエンジンにもマジカルカレントを振り分けて、難なく食らいついていく。

「もう一撃！」

「きゃっ！」

次は當てた。敵は思わず後ずさる。

「‥‥‥‥あの、依さん？　突撃(アサルト)の時に変な聲出さないでくれると‥‥」

背中越しの返事。‥‥多分を尖らせている。

「だって。突撃するとお腹が『ふわっ』ってして聲出ちゃうんだもん」